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 9月27日、下北沢THREEで開催されたイベント『Guitar Pop Restaurant vol.28~東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃギター・ポップ~』に行ってきました。

 登場したバンドは、出演順にFriendly Spoon、ときめきエキスプレス、three-weeks-old lovesick puppy、Chromoscope、マッカチン企画(ゲスト:NU-KO)という顔ぶれ。普段、インディー・バンドのライブに行くことはないのだが、今回のテーマは僕が近年入れ込んでいるアキシブ系かつ、ほとんどのバンドの音楽を知っているという奇跡が合わさり、足を運んでみようと思い腰を上げた。

『フレスプのファースト・アルバム』が素晴らしかったFriendly Spoonは、完璧なまでのインドア・ポップぶりから、ステージに立っている姿がこれまでまったく想像できなかった人たちだ。実際のところ、ステージに登場した彼らは、立っていることすらなく、皆が椅子に座りながらの演奏であったことには面食らったが。フロントマンの石上嵩大は、椅子に座りながらでないとギターを演奏できないという、根っからの宅録派なのである。メンバーは、まるで、大学のサークル棟からそのまま抜け出てきたような出で立ち。こんな若い人たちがこのようなポップスを? と驚かされることうけあいだ。セミアコの甘い音色でかき鳴らされる高速ギター・カッティングや、トランペットの音色にネオアコをイメージするのも容易だ。個人的には、彼らの音楽を始めて聴いたときは、そのソフト・ロック的サウンドからBobbie's Rockin' Chairを真っ先に想起したのだけれど、MCにて「NHKの『みんなのうた』で使用されたかった」と語る石上の音楽は、子供時代の幻想の中にしか存在しないBGMであり、この上なくメルヘンなソフト・サウンディン・ミュージック。

 ときめきエキスプレスは、出演陣の中で唯一まったく音源を聴いたことがなかったバンド。マッカチン企画のシンゴさんのバンド、という程度の認識はあったけれど……。以前、即売会のマッカチン企画のスペースで買い物をしたとき、シンゴさんと少しだけお喋りをする機会があったのだが、「エイプリルズやcapsule、ネオ渋谷系が好き」というお話を聞いて。マッカチン企画のギター・ロック然とした音楽からは、あまりエイプリルズとイメージと結びつかず、意外でもあった。しかし、フューチャー・ポップ+ギター・ポップなときめきエキスプレスの曲を聴いてとても納得できた。ときめきエキスプレスの演奏は、リズム隊の演奏もタイトだし、シンゴさんもギター・キッズのごとくハムバッカーのギターを力強くかき鳴らしていて、バンドとしての出音が強靭である。キュートでポップな音楽をやりつつも、世間の宅録ユニットとは一線を画すタフなライブ・バンド然とした演奏とエンタメ精神に圧倒されました。

 three-weeks-old lovesick puppyは、一般的にギター・ポップにカテゴライズされていると思うのだが、何とメンバーにギタリストはおらず、トランペット担当のmugiはぴょこぴょこと可動する猫耳を装着しているという、ライブを観て初めて知る衝撃の事実にクラクラする。パンクだ。音楽は可愛いが。

 会場内に流れる日向美ビタースイーツ♪”温故知新でいこっ!”に導かれて登場したChromoscopeは、同人音楽サークル・ぬるぽっぷ楽科のバンド活動名義といった存在で、今回とても観たかったバンド。ライブハウスよりは即売会を作品発表の場にしている彼ららしく、ライブを行う頻度は1年に1回ほどらしい。近年、僕は彼らの活動をずっと追いかけている。今回のイベントチケットも、今年の夏コミでぬるぽっぷ楽科のスペースにて購入したものだ。Chromoscopeの登場は衝撃的だった。長らく、同人誌や同人音楽即売会をメインに活動しているオリジナル志向のギター・ポップ的サークルといえば、スウェディッシュ・ポップやオルタナ系のサウンドを身上とするピクセルビーが唯一気を吐いている状態が続いていた。そして、渋谷系アニメソングがかつてない活況を迎えた2013年というタイミングで、自らアキシブ系を標榜し、Cymbals的ギター・ポップと星澤美緒のヴォーカルを引っさげて登場した期待の星がChromoscope。同人界にもこんなバンドが出てきたか! と大いに興奮させられた。今やfishpond、ハッカドロップ、Citrus and Ocean Colour、中央食堂、東方アレンジ界に目を向ければフーリンキャットマークにShibayan Recordsにマッカチン企画など、VOCALOIDを使用しない渋谷系的楽曲を聴かせるサークルは多いが、その一角を担っているのがChromoscopeである……と、同人音楽を知らない層にこの説明が伝わるのかは心許ないですが。今日のステージは、立て続けに僕の大好きな楽曲がプレイされて嬉しかった。看板的サウンドの”酒涙雨”に”白黒エラーメッセージ”、ぬるぽっぷ楽科のCD『Wanted? Wanted!!』には初音ミクによるヴォーカルが収録されていた”ぽぷら”、”昼下がりがお好きでしょ?”の星澤さんヴォーカル版もレアな聴き物。後者の2曲はいつか星澤さんバージョンで再録してほしい愛らしい楽曲。

 最後に登場したのはマッカチン企画。僕はまったく知らなかったのだが、マッカチン企画とはあくまでパインさん、ケニーさん、シンゴさんのバンドであり、ときめきエキスプレスとは完全に別物なんですね。シンゴさんの渋谷系志向を具現化するのがときめきエキスプレスなら、ギター・ロック&東方志向の活動媒体がマッカチン企画といったところでしょうか。

 長々と書いてきたが、今回のイベントは、多くの渋谷系リスナーにまだ知られているとは言い難い、渋谷系同人音楽にスポットライトを当ててくれたことがとても意義深い。今日、メジャー資本の媒体で「渋谷系」という音楽スタイルが現在進行形で継承されている分野があるとすれば、それはアニメ・ソング、声優ソング、アイドル・ソングといったオタク・カルチャーの世界であり、それらの先鋭的な流れにインディー・シーンで同時呼応している人たちこそが、コミケやM3といった即売会で新譜を送り出し続けている同人音楽サークルである、と誰も言わないので、この場で言い切らせてください。
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