「神子…少し相談があるのですが、よろしいですか?」
「どうしたんですか?泉水さん」

いつも穏やかな顔をしている泉水が珍しく深刻そうな顔で、花梨に尋ねる。

「実は泰継殿のことで相談が…」
「泰継さんがどうかしました?」
「はい…それが…」

聞けば泉水は、同じ八葉であるだけでなく、泰継と自分は玄武の加護を受ける者同士であるのだから二人が互いに協力し、歩み寄らなければならないと考えているとのことだった。
しかし、泰継は見ての通り無表情で、冷静…悪く言えば他人に対して少し冷たいところがある。

花梨を守る八葉としては十分な力を持つが、やはり泉水としては二人が心を通わせ、力を合わせる必要があると考えていて、何度か彼に歩み寄ろうと頑張っていたそうだ…が、泰継はことごとくそれを無視というより、やはり他人に無関心なのか鈍感なのか泉水が近付いても二人の心の距離が近付くことはなかった。
泰継の見えない壁に幾度となく怯み、泣いたこともあったそうな…

優しく、穏やかな泉水は同時に繊細な心の持ち主故に、この実らない友情に挫折しかけていた。
それでも諦めたくないと思い、今回花梨に救いを求め、相談に訪れたのだ。

花梨は明るい性格で、八葉全員ととても上手く接している。
泰継も花梨に対しては少し優しく接しているように見える。自分もあんな風に仲良くしたい。そんな思いが泉水の心を深く締め付けていた。

「うーん…泰継さんと仲良くかぁ…」

泰継殿と仲良くなれる方法を教えてください!どうかお願いします!と、涙ながらに頼む泉水を見て花梨は少し考えた。

「…そうだ!良い考えがあるよ、泉水さん!」
突然何かを思い付いた花梨は目を輝かせる

「本当ですかっ!?神子!」
花梨の輝いた瞳に少し希望が見えた泉水は涙目から一転笑顔になる。

「うん、仲良くなるにはまず相手を知らなくちゃ!相手になりきるんだよ!!」

「相手に…なり、きる…?」
「そう!じゃあ、早速着替えましょう泉水さん!」
「えぇっ?着替えるって…神子ぉおおっ!?」

泉水の手をぐいっと引っ張り、大急ぎでどこかへと連れていった花梨。
向かったのは紫姫のところだった。


「…み、神子?この格好は…まさか…」
「そうです!泰継さんの服です」
「えぇと…これは一体…というか、この服どうしたんです…?」
泉水は戸惑っていた。なにせ、自分が今身に纏っているのは正しく自分が仲良くなりたい泰継の服そのままなのだから。そして、花梨が何を考えているのか理解出来ていないからだ。

「こんなこともあろうかと、紫姫に頼んでおいたの。さぁ、泉水さん!仲良くなるには相手を知らなくちゃだよ!」
「このようなことで泰継殿を知ることは出来ないのでは…?」
「大丈夫ですから、私に任せてください!それにこうやってコスプレするとなんだか相手の事が分かるような感じがするでしょう?それになんだか、泉水さんも私も泰継さんみたいなキリッとした冷静さを身に纏ってるみたいです!
さ、泰継さんのところへ行きましょう」

自信満々に言ってみせる花梨をよそに、泉水は心配で堪らなかった。

「こす、ぷれ…?神子…私にはよく分かりません……御仏よ、これもあなたのお導きなのでしょうか…」




不安ながらも花梨に着いていくと、そこは船岡山だった。
「ここは…船岡山ですね。どうしてここへ?」
「泰継さんの好きな場所の一つです。よくここに来ると前に話していましたか。もしかしたらいるかもっ「そこの者、何をしている」

「「あ!」」

突然声がした方へ振り向くと、目的の人物が早速表れた。

「「泰継さん(殿)…!」」
「なんだ、お前たちか…ん…?」
泰継は二人を見て、怪訝そうな顔をしている。

「え、えへへ…」
「あ、あの…えぇと…」
「…なんだ、その格好は…なんの真似だ?」
威圧感のある低い声で泰継は二人に問いかける。

「ひぃっ!!やや泰継殿っ…こここ、これはそのぉ…」
泰継から漂う不快感を示す空気が辺りを覆い、泉水は怯んでしまった。
そんな泉水の様子に気付いた花梨は小声で泉水に話し掛けた。

「泉水さん、落ち着いて…こんな時は"あの言葉"ですよ」
「あ、あああの言葉…えぇと…?」

泉水は混乱と恐怖に怯えながらも、自分を落ち着かせるために、一度深呼吸をした。
そして、"あの言葉"とは何か考えた。

「あっ…!そうでした!私としたことが…けれど、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。さぁ行きますよ、凛々しくビシッと!!」
「は、はいぃ!」

一呼吸置いて、目を合わせ、二人は同時に口を開いた。
そして、泰継をキッと見据え(花梨のみ)、こう言った。

「「問題ない。(です…)」」


「…………」
「「…………」」

沈黙がしばらく続いた。
両者見つめあったままだ。

「神子…泉水…」
「問題ない。」
「ふむ…」
「問題ない!」
「そうか…」
「……」
「…」

花梨がひたすら「問題ない。」と繰返し、なぜか泰継はそれに真剣に応答していた。両者見つめ合ったまま、目を離すことはなかった。泉水は自分だけ状況が
掴めず、置いてきぼりを喰らっていた。
ただ二人のやりとりを黙って、緊張しながら見守っていた。

花梨と泰継の意味不明な応酬がしばらく続くと険しかった泰継の表情は少し、ほんの少し和らいだ気がしたのを泉水は感じた。


「承知した」
成る程納得といった顔で、泰継は突然そう言い放つ。

「えっ…!?」
「分かってくれたんですね、ありがとう!泰継さん」
「そうだ、問題ない。」
「えっ!?どうしたんですか!?」

先程のやり取りでどうしてこんな結果になるのか全く理解出来ない泉水はキョロキョロと二人を見比べる。
そんな泉水を気にすることなく、二人は何やら晴れやかな様子でいた。

フ、と少し笑った泰継は目を伏せ、そして、まだ状況が分からず戸惑う泉水に向き合った。

「…泉水、神子から一通り聞いた。私は人間ではないので、人の心というものがよく分からないのだ…だが、お前と協力し、神子を守るというのは私なりにこれから努力しよう。約束する。お前は強い霊力を持つ…きっと私と共に神子を守れるだろう。もっと自信を持て、泉水」

「(さっきのよく分からないやり取りでそんなことを話していたなんて…神子と泰継殿は一体……)」
何が何やら分からず、考え込んでしまう泉水。

「…どうした、泉水」
ぼーとしていた泉水に声を掛ける泰継。

「あ、はい…!ありがとうございます、泰継殿。この泉水、及ばずながら精一杯泰継殿と神子に協力致します…!京を守るため、頑張りましょう」

よく分からないけれど、泰継が少し心を開いてくれたことが嬉しくなった泉水は笑った。泰継も表情が乏しい故に分かりづらいがなんとなく笑っているようだった。

「めでたし、めでたしだね!」
そんな二人を見て、花梨も微笑んだ。




↑この絵を描きながら考えた話。拙くてすみません。
玄武は泰継が無口なので、意志疎通が難しくて、悩む泉水が可愛いと思う。

泰継の格好をした二人を描きたくて、書きたくてやった反省も後悔もしてない。
泰明は木とかと話すことができたから、泰継も「問題ない。」だけで伝わるのでは?というめちゃくちゃ展開。

今後もなんかコスプレ物描きたいな(笑)