2009年12月24日

観劇メモ、天辺塔「Shelter 梨の家」

19日、天辺塔「Shelter 梨の家」を観劇
天辺塔
 だいぶ時間が経ってしまいましたが、19日(土)に観た天辺塔「Shelter 梨の家」の感想をメモしておこうと思います。
 アステールプラザ芸術劇場シリーズ[レジデンスコレクション]天辺塔本公演「Shelter 梨の家」原案/W.シェイクスピア作品集より 構成・演出/中村房絵 アステールプラザ多目的スタジオ 公演は19〜20日の3公演
 フラットな床に黒のリノリウムで演技スペースを四角く区切り、三方から階段式の客席が囲む。演技スペースのバックにスクリーン。

 この芝居はシェークスピアのいくつかの作品を材料にした、いわば“コラージュ(切り貼り)演劇”だそうです。チラシに中村房絵さんが書いている言葉を借りるなら「戯曲を切り刻み並べ替え違う世界を創る」もの、「戯曲という構造をぶち壊すという試み」ということになるのでしょう。
 登場するのは「マクベス」「タイタス・アンドロニカス」「ロミオとジュリエット」「アントニーとクレオパトラ」「リア王」「ハムレット」から飛び出してきた人物たち。それぞれの戯曲の中のセリフを交差させながら、別の世界を“コラージュ”していきます。
 スクリーン(単なるクラフト紙だったそうですが)を使った影絵のような始まりかたは洒落ていて、洗練された世界の広がりを感じさせてくれました。芝居全体に見られる、よく訓練された役者たちの動きやスタイリッシュな感覚は他にはない美的な世界だと思います。
 こうしてコラージュの世界を創り上げることで、なるほど「物語から解放された言葉たちがまるで音楽のように自由に飛び回」り、それを見たときに「初めてその言葉の真実に出逢える気がする」(チラシより)のかもしれません。しかし一方では、コラージュされた世界は中村さん自らの「創世記」であり、中村さんが「消化」し、自分の「胃袋に」入れ、「自分の内側に」つくり出した世界(パンフレット“演出のことば。”より)として変化を遂げたものでもあるのでしょう。
 パンフレットには“作品かいせつ。”として芝居の中の各場面がどんな要素や流れから出来上がっていったものかが説明してありました。これを読むこと自体は興味深く、天辺塔が得意とする、ワークショップから芝居を立ち上げる過程がよく分かって面白かったのですが、説明があることが逆説的に「芝居そのものは無理にわかってもらわなくてもいい」という意味にも受け取れました。(もちろん「嫌な人は読まなくてオッケー!」と書かれていて、読むことを強制されているわけではありません。)
 今回は演出家自身が舞台の隅の高い脚立に、戯曲を手にした指揮官よろしく陣取っていて、この位置付けは、玩具箱からオモチャたちを出して自由に操り、最後に片付けたというスタンスに見えました。この点でも「自分の内側にしか世界をつくれない。」という“演出のことば。”どおりだったように思います。

 聞き覚えのあるセリフがうまく散りばめられていたのは楽しめたし、分からなかったとか、分かるようにしてほしいとか、無粋なことを言うつもりはないのですが、コラージュはコラージュのまま終わってしまったいう気もしました。1枚のパッチワークの布として成立していない、オモチャたちはオモチャのままで片づけられてしまったのではないかと…。
 国文科の学生のころ、浄瑠璃が「語り物」からドラマへと変貌を遂げていく歴史を学んだことがあります。浄瑠璃作家が登場人物を自由に操っているあいだは「語り物」、登場人物たちがそれぞれの意志を持って動き出す様子が見え始めると、それは近世的なドラマへの変化の兆しであるというような論旨です。
 それをふと思い出したのは、この芝居の登場人物たちがまだ操られていて、それぞれが人間的な姿を持って自立していないように思われたからです。「自立」するために必要なものの1つは、やはり声であり、言葉であり、それらを含めたセリフ術であろうという気がします。操られている糸を切って動き出すほどの声と言葉。古典劇のセリフは計り知れないほどの力を役者に要求します。声と意味と感情と。「物語から解放された言葉たちがまるで音楽のように自由に飛び回る」のを、もう一度、役者の力で制しなければならないのではないか―。音楽でも、作曲家が書き示したさまざまな意味合い(ピアニッシモだの、クレッシェンドだの、リタルダンドだの…)を演奏家自身の手で制し、表現し直さなければならないのと同じように。

 天辺塔独自の新鮮な演出、生き生きしたチームワークは魅力的でしたが、波や道として使われた「紙」の音やバックに流れる音楽が、時として言葉を消してしまいそうになるのは気になりました。
 コラージュが1本のドラマとして成立し、オモチャたちが自分自身の言葉で語り始める時が来るのを楽しみにしたいと思います。











Posted by hyo_gensya2005 at 23:58│Comments(0)TrackBack(0) 演劇 

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