防災道路の整備再開への意見(要旨)

「小笠原村民だより」No.647(2015/7/1)掲載記事「防災道路(都道行文線未整備区間)の整備再開に向けて](p11-12)に基づき、小笠原村に申し立てた意見。(2015年7月31日)

Kiyosetoju20141124









 写真は清瀬都営住宅


1,主たる意見
1-1 計画路線1(都住周回路線)に反対。
1-2  計画路線2(清瀬奥村間)は、現時点では意見を保留、防災上「防災道路整備」が問題点をクリ
    アしても津波・台風・豪雨等の重複自然災害に対処できる安全な避難所確保が最優先課題。

2, 理由
2-1,  計画路線1(都住周回路線)
2-1-1 経緯                                                                
     当初示された計画路線は、現在狭い幅員で整備された終点(清瀬都住*西)から清瀬都住の西
   側を囲み、村道釣浜線を都道化し、電信山中腹(二見湾側)に新たな路線を整備するものであっ
   た。この案では、当時建設予定だった兄島飛行場への橋による都道延伸(後に父島・兄島ロープ
   ウェイ建設計画に変更)、(仮称)ロープウェイ父島駅へのアクセス道路の意味もあった。ここでは
   都住周回路線と呼ぶ。
       * 都住[とじゅう]=都営住宅 小笠原現代日本語事典本文
  
http://homepage1.nifty.com/Bonin-Islands/dialect_bn.htm
    
2-1-2 自然の状態                                                          
    都住の西側から村道釣浜線の稜線部までは、一部旧林業試験場起源と思われる外来種の野
  生化もあるが、自然状態の乾性低木林が続き、絶滅危惧種ムニンビャクダンの群落地も多く散在
   している。国立公園区域外であるから貴重ではないというものではなく保全対象地域である*。
2-1-3 都住の孤立化                                                       
      都道行文線計画は、村議会で故佐々木卯之助議員が清瀬都住の外部への交通が一箇所の
    みで、事故・災害が起こったとき孤立化することへの対策を一般質問したことから始まった。現在
    都道行文線終点(清瀬都住西)と都住入口(通称「三角公園」)までは村道が整備利用され村営バ
    スも運行されている。現状で、既に都住の孤立化は解消している。
2-1-4 都住西側から村道釣浜線整備                                       
      自然環境の破壊と都住、職住の集まる清瀬住宅地の乾燥化など生活環境の悪化をもたらすも
    のであり、又「孤立集落の解消」は実現されており、兄島空港建設案は無くなったので必要が無い。
    * 「小笠原国立公園の公園区域及び公園計画の変更に関する意見(パブコメ)」(2009年4月28日)で
        同主旨の意見を述べている。 
      
http://homepage1.nifty.com/Bonin-Islands/SekaiisanBK6Pb.html

2-2, 計画路線2(清瀬奥村間)
2-2-1  災害被災想定の有無                         
    村は「小笠原村地域防災計画」をつくり、その中で「災害予防計画」で「防災道路の整備を進め
    る」としている。しかし、想定している「南海トラフ等地震」により、津波の浸水想定図は示されてい
    るものの、その結果どのような被害が想定されるのかは示されていない。現在、村は災害被災想
    定と総合的対策を作っていないようである。

2-2-2  当該都道計画是非の判断基準                      
     行文線未整備区間の都道清瀬~奥村間だけに限るとしても、「人名救助、物資の輸送、孤立集
     落の解消」で済むのであろうか?災害被災想定と総合的対策が示されなければ、当該都道計画
     の必要性、又必要性があるとした場合の優先度について判断できない。

2-2-3,  都道清瀬~奥村間での災害被災想定の前提条件                   
     災害被災は「想定外」では済まないことを3.11東日本大震災は教えてくれた。常に最悪の事態
  を前提条件にすべきである。最悪の事態の一は、自然災害の重複である。2014年11/11豪雨に
    より開設された 「台風避難所兼土砂災害時避難所」である「地域福祉センター」(奥村)付近都道
    が冠水し通行に支障が生じたことは記憶に新しく、「台風」と「豪雨・土砂災害」の重複は小笠原諸
    島返還後(1968年~)何度もある。
        「南海トラフ等地震」、「台風」、「豪雨・土砂災害」の同時被災を想定しなければならない。

2-2-3-1  都道清瀬~奥村間での災害被災想定1 -人的被害想定無し?              
        津波注意報が解除される前に、学校が児童・生徒を下校させたことがあった。津波による死
      亡者、行方不明者をできるだけ出さないことがまず第一であるが、住民だけでなく、観光客来島
      中の場合、季節、時間帯(昼夜)も考慮し、専門家による冷徹な人的被害想定が必要である。

2-2-3-2  都道清瀬~奥村間での災害被災想定2 -電気喪失、復旧見込み無し       
      ライフライン(電気、水道、ガス等)の被害想定と復旧見込みを明らかにしなければならない。東
    電発電所は低地にあり被害は避けられないが高台移転計画は無く、被災後の対応も応急用非常
    電源車のみで対応し内地からの救援を待つと村役場から説明されている。
        このことを前提に被災しなかった地域でも電気が無く水道も出ない(理由は次項で。)生活を被
    災者を受け入れながら、どの様に行うのか明確でなければ防災道路の役割が不明である。

2-2-3-3  都道清瀬~奥村間での災害被災想定3 - 水道、全域断水のまま        
      浄水場は扇浦から津波に安全な二子に移転した。しかし、問題は幾つかある。浄水場は電気
    供給無しで稼働し続けられないことは明らかである。また、ダム原水の供給は電気に頼っている
    ので原水無しでは水道水は出来ない。
       さらに、水道管は平成橋、奥村橋、清瀬橋の脇で露出して川を渡っているので津波で容易に
    破壊されることが想定される。その上、清瀬配水池(パン屋さんの上)にポンプアップしている清
    瀬増圧ポンプ所(東電事務所脇)も水没故障が想定される。都道清瀬~奥村間だけでなく、父島
    全域で長期の断水が十分予想される。

2-2-3-4  都道清瀬~奥村間での災害被災想定4 - ガス、大爆発・火災         
      プロパンガスのボンベ庫は奥村にあり、大量の50kgボンベが津波で流されるだけで無く、流
    出したオイル・ガソリンなどで引火爆発、民家へ延焼することは、奥尻島地震(北海道南西沖地
    震)(1993年)の被災例でも明らかである。

2-2-3-5  都道清瀬~奥村間での災害被災想定5 - 下水、機能マヒ            
      下水処理場は、大根山自衛隊基地海岸端にあり、かつ地下構造で、巨大でない津波でも直
    ぐに機能マヒ状態になる。しかも、奥村、清瀬、大村の3箇所に「中継ポンプ所」があり、各地区
    の自然流下で集めた下水をポンプアップして奥村→清瀬→大村→下水処理場とリレーして送っ
    ている。
        電気喪失、中継ポンプ所水没故障で機能マヒし、住宅・店舗等から流された汚物は下水管
    に詰まり、マンホールや低地の住宅・店舗等風呂排水口やトイレ便器から噴出する。衛生状態
    は最悪になると想定される。

2-2-4,  都道清瀬~奥村間での想定災害被災対策             
    村役場は従来「3日間の食料飲料備蓄」を村民に呼びかけていたが、現在は「7日間の食料飲
    料備蓄」としている。7日間で災害復旧(仮復旧も含む。)され、内地からの生活物資も通常のよう
    に届き、日常生活に復帰出来るのであろうか?根拠は薄く希望的観測であろう。
2-2-4-1  対策1 -避難所の確保                     
      小笠原村総務課(発行年月日不明)父島津波浸水ハザードマップ基本図では、奥村交流セン
    ターと小笠原高等学校が避難所とされている。しかし、小笠原村総務課(平成26年9月)防災だよ
    り~土砂災害危険箇所マップ~では地域福祉センターとされている。これまでも、台風による高潮
    が予想される時は、避難場所を小笠原高等学校や奥村交流センターとしてきた。
        最悪の事態を前提条件とした避難所が今は無い。あらゆる災害の重複発生に対応できる避難
    所の確保が何よりも急がれる課題である。

2-2-4-2  対策2 -診療所の機能回復                         
      診療所が被災しないことは重要である。現在地選定は「南海トラフ等地震」以前のものであり、
    避難対象地域に含まれている。1階への浸水が想定され、防潮、防水対策及び被災後の迅速な
    機能回復が必要であろう。

2-2-4-3  対策3 -プロパンボンベ庫移転                 
    プロパンガスボンベ庫の高台移転は比較的容易であり、これにより爆発・火災という大災害を
    回避でき、かつ被災後のガス供給も当面維持できる。

2-2-4-4  対策4 -燃料の備蓄                                
      電気の再開が見込めない状況では、ガソリン等の燃料で可能な仮復旧工事が優先されるであ
    ろう。津波に安全な場所での燃料の備蓄保管が急がれる。

2-2-4-5  対策5 -衛生材料ストックと対策チームの編成                      
     下水道の機能マヒで衛生状態は最悪になり、O157や伝染病流行などの二次被害への対策に
    清水、消毒液など大量に必要になる。衛生材料のストックと対策チームの編成・訓練が必要であ
    ろう。

2-2-4-6  対策6 -災害復旧工事用資材の備蓄                  
     災害復旧工事用資材は安全な場所に備蓄されているのであろうか?奥村の水道資材置場は
    被災し役立たない。20m高以上の場所での備蓄、保管が必要である。


Densinyama20141124
写真は道路縦断計画の尾根

2-3,  「防災道路整備再開に向けた配慮事項調査概要」についての意見
2-3-1  対象地域の規制等                        
   保安林指定地域であることを記述していない。小笠原村は対象地域内において、保育園児ら
    の避難路を電信山遊歩道と繋がる新ルートとして開設、その際、保安林指定解除手続きを行っ
    てるにも係わらず、保安林指定地域ではないと解釈される説明は理解に苦しむ。

2-3-2,  自然環境2水文                          
   現状は「2水系以外にも、複数の沢が存在するが、平常時に維持水量があるのは清瀬川と奥
    村川のみである。」が、平常時に維持水量が無い「複数の沢が存在」することに注目しなければ
    ならない。非降雨時に水量が無いのは小笠原諸島の河川の特徴であり、水量が無いから価値
    が無いというものではない。地形的に谷斜面で日当たりを遮る樹木がありやや湿性な場所で、
    乾性低木林内における生物多様性を構成しているものであり、又海との生態系の繋がりも無視
    できない。
       又、水量が無い涸沢にも水源地帯(原流域)に相当する地域があり、この一帯の道路建設によ
    る乾燥化、道路・トンネルによる水系の分断破壊は潜在保持水分を失わせ、道路付近のみなら
    ず、谷地形付近の乾燥化を招き、生態系に与える影響は大きい。水文調査は行われていないよ
    うだが、必要な調査である。

2-3-2-1 注目すべき一は「陛下道」と称される沢で、もう一は「奥村川支流」とされることが多い(仮
    称)赤間ホテル川である。

2-3-2-2  (仮称)陛下道沢                         
   小笠原諸島返還後(1968~)都道整備の際、沢水を道路側溝で受け、奥村運動場東端まで
    300m程伸ばし海に排水している。豪雨時は、道路面の雨水だけでも側溝では飲みきれず、一帯
    の道路は冠水し通行に支障を来している(2-2-3記述)。都道整備以前は沢水の利用もあり、砂州
    と海に注ぐ淡水が枝サンゴの拡大を妨げ、長靴状の短いが細長い形をした珍しい小水路*があり 
    One Leg Beach 又は「片足海岸」と呼ばれていた*2。沢水の海面排水路を復活させ漁港内に排
    水し、豪雨時の道路通行安全確保及び自然環境を復活させることが望ましい。          
    * 津山 尚・浅海重夫編著(1970)小笠原の自然・原色写真編p2   
      *2 延島冬生(1998)小笠原諸島・父島における先住移民関係の地名(1) 太平洋学会誌80・81 p54

2-3-2-3  (仮称)赤間ホテル川                                                
      「奥村川支流」とされることが多いが、奥村川は現平成橋で海に注ぎ、戦前国道建設で隧道か
    らでた土砂を海に捨て埋立地ができ、海軍特別根拠地隊の施設が建設された。返還後は奥村都
    住が一番陸よりに建てられ又、二見桟橋建設のため浚渫した海底のサンゴ・石砂類を仮置きして
    いた一帯を護岸工事により運動場として整備し、潮路橋以北は運河となった。その運河に以前か
    ら流入していた河川は、父島村民会館建設時、道路沿いを暗渠としたが、下流は潮間帯となる川
    で、奥村川とは別の水系である。
        ここでは(仮称)赤間ホテル川と呼ぶ。道路端で沢は二手に分かれ、西側は村が新設した保育
    園児らの難路(2-3-1)側に続く。東側は岩石地を狭く削り、傾斜も比較的緩やかで電信山遊歩道
    最低鞍部に達する。  
        最下流の価値は「有識者ヒアリング」 で述べられているが、この沢全体にかかる水文調査が必
    要である。

2-3-3  文化財・史跡等                        
   「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録されることが、最近決まったように近代遺
    産(戦跡を含む。)の保全は重要である。調査は小笠原村教育委員会(2002)小笠原村戦跡調査
    報告書のみに依存し 「最新で詳細」と高い評価をしているが、この報告書は主な戦跡のみを扱っ
    ており、調査対象区域には未調査の多くの戦跡が存在する。最近公開された「戦時下の父島絵
    日記」*にも当該区域が描かれており、又「有識者ヒアリング」もされていないようだ。
        戦跡ガイドさんへのヒアリング、調査対象区域の詳細調査と評価が必要である。
    * 小笠原ブログ 「戦時下の父島描いた絵日記発見」その後2015年6月29日
  
http://blog.vill.ogasawara.tokyo.jp/2015/06/29/%e3%80%8c%e6%88%a6%e6%99%82%e4%b8%8b%e3%81%ae%e7%88%b6%e5%b3%b6%e6%8f%8f%e3%81%84%e3%81%9f%e7%b5%b5%e6%97%a5%e8%a8%98%e7%99%ba%e8%a6%8b%e3%80%8d%e3%81%9d%e3%81%ae%e5%be%8c/

2-4  景観配慮検討資料                          
   国立公園区域外であっても湾内の景観は重要で、人工物は周囲の自然景観を損なうことのな
    いようにする必要がある。特に入港する船舶からどう見えるかは、小笠原諸島の第一印象となる
    ものである。
       小笠原諸島返還直後の旧小笠原高校、5階建ての奥村都住は大変不評で、以後都住、職住は
    定期船から見えない清瀬谷に建設された。又、赤間ホテルや塗装替え前の電信山職住は異様に
    目立ち、来島者に不審がられた。定期船おがさわら丸船上からどう見えるかの提も必要である。


2-5,  調査を要する事項                        
  上記に示した事業の是非、問題点を把握するための調査・提示を要する事項を以下に抽出する。
2-5-1  都道清瀬~奥村間での災害被災想定調査
2-5-2  都道清瀬~奥村間での災害被災想定に対応した対策(案)調査
2-5-3  自然環境(地理・地形・水文)調査
2-5-4  戦跡詳細調査(戦跡ガイドさんへのヒアリングを含む。)
2-5-5  景観配慮検討資料追加調査(定期船上から)


2-6,  まとめ
2-6-1 当該都道計画是非を判断する前提となるべき津波災害被災想定が示されておらず、又「防
    災道路整備再開に向けた配慮事項調査」等では検討する上で重要な項目が不足しており、現段
    階では意見を保留。
2-6-2  しかし、示された資料等と示されなかった事柄から防災上「防災道路整備」よりも喫緊の課題
    が多くあることが見えてくる。中でも豪雨を伴う台風来襲は今年もあり得る気象災害であり、津波・
    台風・豪雨等の重複自然災害に対処できる安全な避難所確保が最優先課題と考えられる。

  以上。(延島冬生)