ごめんね、ヒヨちゃん


mizuabi
水浴びの後。ヒヨドリの場合、頭から水に突っ込み、1秒も浴びることなく水からあがる。
行水は、カラスのそれよりも速い


初夏のある日、庭のイロハモミジの茂みに、ヒヨドリが入っていくのが見えた。何か食べ物でも探しているのだろうと思っていたが、何度もやって来てはゴソゴソしている。ある時は、その茂みからヒョロリと飛び出した何かのツルの茎が、上に下にヒョコヒョコ動いていた。どうやらヒヨドリは、ここで巣作りを始めたようだ。

運のいいことに、巣はリビングの透明の窓越しに見える位置にあり、暗い室内の様子は外からはよく見えないらしい。薄手のカーテンをかけているので、派手に動かなければ彼らに気付かれることはない。ひとつ、どんな風に建築を進めているのか見ることにした。

ヒヨドリはとても器用だ。横にツルを編んではビニールロープを縦に渡す、といった具合に、くちばしと脚だけで、コロンとしたお椀型の巣をきれいにこしらえていくのだ。そしてときどき、丸いお腹を巣の内側に当てて、くるくるとまわりながら形を整える。かつての大工は、自らの腕の長さで尺を測ったそうだが、ヒヨドリも自分の体を大工道具に、丸く美しい巣を完成させた。名大工である。

大工のいないすきに、ちょっと内側をのぞかせてもらった。穴が空いた箇所には枯れ葉がそっと当てられており、ビニールロープは適度に毛羽立っている。居心地がよさそうだ。この大工はその辺にあるものだけで、こんな立派な巣を“建築”してしまうのだから、たいした腕前だ。

巣が完成してしばらくすると4個の卵が産み落とされ、2週間ほどすると、4羽のヒナが孵った。親鳥は、食欲旺盛なヒナの世話で大忙しだ。朝は明るいうちから、夕方は薄暗くなるまで、チョウやガ、ガガンボといった柔らかい虫を探して飛びまわっては、ヒナに与える。

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お腹すいたー!


柔らかい虫が尽きてしまうと、モミジの根元から這い出てきたカナブンを与えようとしたこともあった。ヒナは食べざかりとはいえ、カナブンはあまりにも硬すぎる。ヒナは口を大きく開けたまま、「食べれません!」とそっぽを向いて、ピーピー鳴いた。

親鳥は子育てに難しさを感じることもあったようだが、毎日、エサを探してはヒナに与え、ヒナがお尻を突き出して繭玉のような糞をひり出せば、それくわえて巣の外に出す、といった世話もした。人間で言えば、さしずめオムツ交換といったところだろうか。

そんなかいがいしい世話のおかげで、4羽のヒナはみな、平等にスクスクと育った。ヒヨドリのヒナは2週間ほどで巣立つ。「あと2〜3日かな」と楽しみにしていたある日、事件は起きた。

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ヒナは、日に日に大きくなっていく


夕方、帰宅すると、親鳥がいつになく「キエー!キエー!」と激しく鳴いていたのだ。庭を見ると、ノラ猫がうろついているのが見えた。巣に気付いたに違いない。何か策を講じなければ、ヒナは巣立ち前にノラにやられてしまう。そこで、ちょうど庭の中に生えていたアザミを巣のある木の根元に敷き詰めた。これでノラもトゲを嫌がって、巣に近づかないだろうと思ったのである。

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親鳥が去ると、とたんにおとなしくなる。
あまりに鳴くと危険であることを本能的に知っているのだろう


しかし翌朝、巣はバラバラに壊され、辺りにはロープや枯れ葉が散乱していた。ヒナの姿はどこにも見当たらない。そこへ、別の場所で夜を明かした親鳥がやってきた。壊れた巣を見て事態を察した彼らは「キエー!キエー!」と取り乱して鳴いた。いつになく、長く激しく鳴いた。しかし、ひとしきり鳴くと、納得したように黙りこみ、きびすを返して林の方へ飛んで行った。

野鳥に限らず、野生の動物は、いつも死と隣り合わせだ。わが子の死も決して珍しいことではない。そのたびに、このヒヨドリのように、少し熱い飲み物のように受け入れるのだ。

その夜、庭でノラが「ナーオ、ナーオ」と鳴く声がした。「お前か!お前がヒナを食べたのか!」といまいましく思い、窓を勢いよく開けて「しっ!」と追っ払うと、ノラは「ナァ〜オ!!」と厭世的に鳴いた。驚かされたことが気に食わなかったのだろう。その腹いせか、翌朝、庭にはノラの臭い糞が、ボテッと残されていた。

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冬、みかんの一房を丸飲みしようとして、涙目になるヒヨちゃん






フリーマントルのB&B


2017年11月25日

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フリーマントルの港、B-shedにあるカフェ


夕方、フェリーでフリーマントルへ。予約していたB&Bは、フリーマントルの港、B-shedから歩いて5分程度。石畳の上をゴロゴロとキャリーを引っ張っているうちに、築100年以上といわれる石造りの建物の宿に到着した。

B&B
滞在したB&B。宿になる前は、バーとして使われていた


扉を開けると気のいい夫婦が満面の笑みで「ウェルカム!」と迎えてくれる。そう思い込んでいた。しかし、扉はかたく閉じられており、室内に人の気配はない。
重厚な木造りの扉には、無機質なテンキーが「場違いですみません」と遠慮がちに設置されている。番号を入力すれば重い扉は開くのだろうが、予約票には何も記されていない。
試しに予約番号を入れてみるも、ピピーと神経質な音で拒絶された。仕方なく電話をしてみるが、応答はない。

途方に暮れた。

すでに、インフォメーションセンターは閉まっている。自力で別のホテルを探すか。港で野宿をするのも悪くはない。そんな考えがよぎったが、通りで話しこんでいた男性2人に助けを求めることにした。

あの宿を予約しているのですが、扉が開かないんです、電話も通じません。

それは大変だ、オレが電話してやるよ。

このナイスガイは、アジアからやって来た旅行者にとても親切だった。

電話は通じた。オーナーは、暗証番号を言うから私にかわれ、と言っているらしい。携帯電話を借りて、オーナーに暗証番号を教えてもらった。

サンキュー!

宿の扉の前に戻り、番号を入力。今度は機嫌のよいピーッという音とともに、ロックが解除された。

サンキュー!

ナイスガイに手を振って宿に入った。重い荷物を抱えて、階段を上がる。部屋は3階だ。

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個人手配の旅行でスムーズにいったことなど、一度もない。部屋で旅装を解くと、どっと疲れが出た。手の込んだステンドグラスや、中世の古城のような石造りの設えは、遠くへ来たことを実感させた。
そりゃ、南半球だもの、近いわけがない。

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外はまだ明るかったので、鳥を見に出かけた。
町中でありながら、界隈には背の高い街路樹が多く植えられている。
頭上で鳥のさえずりが聞こえた。

「お、珍しい日本人だ」「西海岸まで来るなんて、モノ好きだな!」

そんな風に、人間観察をしているのだろう。
愉快な気分になってきた。

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巣作りの真っ最中のツチスドリ。いい巣材を見つけて、勝ち誇ったような顔してる


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なんか、カッコいい建物なので撮ってみた。もう、何の建物か調べる気力すらない


いつもココロにクオッカを


2017年11月24日〜25日

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島に上陸すると、出迎えてくれた(というか、その辺でうろついていた)クオッカワラビー


心理学者のガイ・ウィンチは言った。
「感情にも応急処置が必要だ」

例えば、受注した仕事内容に不明瞭な点があり、質問すると「そもそもそんな情報、必要ないでしょう」と言われた時。待ち合わせ時間を間違えて伝えられた時。打ち合わせにはなかった仕事を当日その場で無茶ぶりをされ、対応できないと逆ギレされた時。

とかく下請け業者は、立場が弱い。弱い立場の人間は何を言われても耐えられるようにできている、と思われているようだから、どんどん風当たりも強くなる。

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ローアングルで撮影すると微笑んでいるような表情に


「ツライ体験を重ねて人は強くなるものよ」なんて言ったのは誰だ。自分の場合は強くなるどころか、弱くなる一方だ。そこで、ガイ・ウィンチのメソッドを取り入れてみる。

「傷ついたら、気分を変える」

たとえ2分でもいいから、別のことを考える。夕飯のデザートのことでもいいし、毎日やって来るスズメのことでもいい。できれば、「ふっ」と笑えることや、気分が晴れるようなことがいいようだ。

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島内には人が入れない、クオッカだけのサンクチュアリもある


人は心が傷ついた時、自分自身で傷口に塩をすり込む生き物らしい。だから、傷口からいったん目をそらすことが、心の傷を応急処置する秘けつなのだそうだ。

そこで心の手当て用に、スマートフォンの待ち受け画面に、クルミを頬張り過ぎて顔が変形しているリスの写真を採用し、「世界一幸せな動物」と言われるクオッカワラビーの写真も保存した。
クオッカは口角が上がっているせいで、いつも微笑んでいるような表情がかわいく、見るだけで「ふふっ」と笑ってしまうのだ。

人はかわいい生き物を見ると、なぜか笑うようにできているらしい。この写真を2分見続けると、あら不思議。傷ついていたことを忘れて、笑っている自分がいた。

そのクオッカワラビーに会いたいと思い、オーストラリアのロットネスト島へ渡った。
この、世にもかわいい生き物は、野生ではこの島だけにしかいないのだ。しかも、数は3000頭ほどしかおらず、絶滅危惧種に指定されている。

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しかし、当然ながら、クオッカ本人に「ボクたちワタシたちは、絶滅危惧種です!」という危機感はまったくない。
いたってマイペースで、人に媚びることもなく人を恐れることもない。
オープンカフェやホテルの中庭をウロウロし、分厚い葉っぱや花をおちょぼ口で、ムシャ、ムシャ、と上品に食べる。

そして、陽が高く昇ると木陰にうずくまり、スヤスヤと眠りに就く。
「もう、食べれないよぅ、ムニャムニャ」なんて、寝言を言いながら。

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quakkapan1

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クオッカはよく働きます。
パン屋でパン職人として、あるいは買い物客のフリをすることも。
レストランではジミヘンのようなことをしていました


swallow
巣立ったばかりのオーストラリアツバメとその親(多分)


ウルル、カタ・ジュタ


2017年11月20日〜22日

ウルルサンセット2
夕景の中のウルル。サンセットツアーはBBQ付きやディナー付きもあります。
日本で言えば、那智の大滝を眺めながら、
お酒を飲み肉を食べるようなものなので、おかしな感じがしました。


「邦人2名、砂漠で行方不明」の危機を乗り越え、ようやく、エアーズロック・リゾートに到着した。ここは、ウルルやカタ・ジュタを見に来た人たちのためのリゾートで、砂漠のど真ん中に突如として存在する。
数軒のホテルとコンドミニアムがあり、中心部にはスーパーマーケットをはじめレストランやお土産店、郵便局、ガソリンスタンドなどが集まるモールもある。モールへはどのホテルからも歩ける距離だが、昼間はとても暑いので、車がなければ無料で利用できる巡回バスを使うという手もある。

カタジュタ¥3
展望台から見るカタ・ジュタ。世界にはこんなに大きくて広い場所があるのですね。


夜はスーパーでサラダやパンを買って、部屋で食べた。食べながら、というか、部屋に入った途端に思ったのだが、とにかくここは、オサムシ(っぽい)虫が多い! 油断すると靴やスーツケースの中にまで入り込んで、まったりしている。

カタジュタ1

カタジュタ2
別の角度から見たカタ・ジュタ。


数も多いが、種類も多い。サイズは大小さまざまで、大きいものでは体長3cmぐらいはあったように思う。オサムシかどうかはいまだ不明だが、飛ぶ姿は見ていないので、やはりオサムシだろうと思う。

ネイティブ
サンセットツアーの駐車場に来られたネイティブの女性。
彼女が描いたアートを1枚買わせてもらった。


オサムシと聞いて、多くの人は手塚治虫氏を思い出すだろうが、私が思い出すのは、オサムシの遺伝子を解析し、その進化を表した系統樹である。
この研究によって、見た目がそっくりでこれまで近縁種と考えられていた種が、実はまったく違う系統の種、つまり、遠縁だったことがわかった。逆に、見た目はまったく違うのに近縁のケースもあることも解明された。

コシジロミツスイ1
リゾートやカタ・ジュタ近辺でよく見かけた、コシジロミツスイ。子育て中だった。
「フイ、フイ!」と親子ともども朝から晩まで鳴いてました。


オサムシは大昔から飛ぶことはできなかったため、移動はもっぱら徒歩だった。当然、川の向こう岸には渡れないし、地殻変動によって山が隆起すれば、それは移動の障害になる。そうした地形の変化でグループは分断され、それぞれ別の形態へと進化を遂げた。その証拠に、淀川水系のできた時期とオサムシの放散(形態の異なる種が誕生すること)の図を重ね合わせると見事に合致していて、驚いたことを思い出した。

ミミジロコバシミツスイ
ミミジロコバシミツスイという鳥のようです。こちらはカタ・ジュタの水辺で見かけました。


ウルルやカタ・ジュタの周辺では、古くからオーストラリア先住民が暮らしており、彼らは今でも芋虫のようなものを食している。そのサイズも、大小さまざまだ。これだけオサムシがたくさんいるのだから、オサムシの幼虫だろうと思っていたが、調べてみると、それは蛾の幼虫だということがわかった。
食べ慣れていないせいもあって、ちょっと見た目はアレだな、と思ったが、目を閉じて食べればとても美味しいに違いない。

キンカチョウ
キンカチョウもカタ・ジュタの水辺に。岩山の水辺にはたくさんの生き物がやってきます。


オーストラリア/ウルルへ(2)


2017年11月19日(2)

4号線の曲がり角のドライブインで昼食をとることにした。この先は、ウルルまで町もなければ店もない、不毛な砂漠地帯が200kmほど続く。

ドライブイン内には、コンビニエンスストアと軽食を提供するカフェバーがある。カフェバー入り口には「NO SHIRT NO SHOES NO ENTER」と書かれた張り紙があった。誰が靴も履かないで入るのだろう、と思っていたら、オーストラリア先住民の人たちが裸足でやってきて店内へ入っていった。昔から裸足で暮らしてきた彼らに限っては、NO SHOESでもいいようだ。

平原3
どこまでも続く、赤土の砂漠


昼食後、ドライブインの角を曲がって、ひたすら砂漠を走る。
時々、数頭の牛が、草むらにいるのが見えた。牧場でもなさそうだし、放牧されているようにも見えない。迷い牛なのか、「オレは自由に生きたいんだ」と脱走したのかもしれない。

しばらく走ると、左前方に台形の山が見えた。ウルルだ!
主人は「まだ200km手前やのに、見えるんやなぁ」と感心している。さすがウルルだ、目立つ山は、遠くからでもこんなに大きく見えるのだ。

この先、国道4号線は左へ緩やかなカーブを描いて、あの台形の山のふもとへ向かうのだろう。そう思っていた。
しかし、道はまっすぐ伸びるばかりで、台形の山は背後で小さくなり、とうとう地平線の向こうに消えてしまった。

マウントコナー2
国道4号線、左手に見えてきた偽ウルル


この道は果たして合っているのか? 
どこかで曲がらなければならなかったのではないか。

今日、ウルルのホテルに着けなかったら、砂漠で野宿だ。そうなったら、生きて帰れないかもしれない。そんな不安を抱えつつも、引き返すという選択肢はない。そこでひとまず、国道4号線の標識が出るまで走ろうということになった。

そして、約2時間。ようやく標識らしきものが見えてきた。そこにはこう記されていた。
「3」
「さん!」「さん!?」

イヤな汗がにじんだ。まるで狐につままれたようだ。どこかに分岐点があったのを見落としてしまったのだろうか。
どうしよう……、どうする……。引き返すか、それともこの先に町があることを信じて走り続けるか。
それでもこれといった手立てはない。道を聞きたくても、誰もいない。

「オーストラリアの砂漠で、邦人2人が行方不明」

新聞にこんな見出しが躍りやしないだろうか。1時間がとても長く感じられた。

キンカチョウ群れ
偽ウルルを臨む展望台付近にいた、キンカチョウの群れ

キンカチョウ
キンカチョウのオス。ほっぺがかわいい

キンカチョウ3


2時間ぐらい走っただろうか、ようやく見たかった標識が姿をあらわしてくれた。

「Uluru-Kata Tjuta National Park」

外国の砂漠で命拾いをした気分だ。急にお腹がすいてきた。

ちなみに、あの標識に記された「3」は、未だに謎だ。

マウントコナー
誰もがウルルと間違えるマウントコナー

オーストラリア/ウルルへ


2017年11月19日

オーストラリア旅行は、スリリングだった。

まず、最初の目的地であるウルル=カタ・ジュタ国立公園内にあるエアーズ・ロックリゾートに行くために、最寄りのアリススプリングスへ飛び、レンタカーを借りるとカーナビがついていなかったのだ。

ネットではカーナビ付きを予約していたのに、「当店は、カーナビはご用意しておりません」。そして、こう言った。「なぁに、アリススプリングスは小さな町だから、カーナビなしでも迷いやしませんよ」。

ウルルへの道のりも、空港を出て国道87号線を走って、4号線で右折すればいいだけだから迷うわけがない、と言う。

渋々、カーナビなしの車でウルルまで約450kmの道のりを走ることにした。

平原4
国道87号線から見える風景。乾いた赤い大地にも草木が生きていた


幸い、87号線はすぐに見つかった。町を抜けて数十分走ると、そこには広大な赤い砂漠が地平線まで広がっていた。

高校生の頃、ずっと地平線を見たいと思っていた。大学生になって、アメリカのサンディエゴへ行った。広大なアメリカなら地平線を見ることができると確信していたが、この町は、山あり谷ありの地形で、地平線なんてものはない。ようやく地平線に遭遇したのはそれから2年後、アイルランドで乗った長距離バスの窓からからだった。

あれから数十年、これが二度目の地平線だ。あれほど見たかった地平線が、ずっと目の前にある。何時間も見ていたら飽きそうなものだが、飽きないのが大自然というものなのだろう。
4号線の標識が見えてきた。

レインフォレストでファンテイルに会う


2016年11月18日

ウィルダネスロッジ・レイク・モエラキに滞在するのは三度目になる。ロッジ周辺は、散策路が整備されており、ニュージーランドの固有種のリムやカヒカテア、巨木と化したシダ類の森を歩くことができる。いくつかルートはあるが、何度歩いてもいつしか道なき道を歩くはめになり、引き返すことになるルートがある。少しの勇気と細い道を見つける力があれば踏破できるのだろうが、今回も途中で道を失い、引き返すはめになった。

landscape
モエラキ川の橋の上から見たロッジ


滞在中は晴天が続いたが、それでも森の中はいつもぬかるんでいる。雨がシトシト降るのは降り始めか終わりで、豪雨が常だ。ひとたび雨が降ると遊歩道は川になり、川に架かる吊り橋は水に隠れて見えなくなることもある。ロッジは川沿いにあり、川面はそれほど低くはない。海も近いので満潮時に大雨が降ると、浸水するのではないかと不安になるが、今まで一度も浸水したことはないそうだ。

forest
ニュージーランドのレインフォレストはこんな感じ


雨上がり、森の中を歩いた。急な雨で、水たまりがいくつかできていた。その水は鏡のように澄んでおり、水底に重なる落ち葉がきれいに見えた。一緒に散策していたロッジのオーナー、ジェリーは「水がきれいだろ!飲めるんだよ!」と水たまりの水をすくって、美味しそうに飲んでみせた。彼はこの美しい自然をいつも自分のことのように自慢する。

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庭のあちこちで見られたニュージーランドミツスイ


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そして、森の住民を紹介してくれる。おもむろに空きビンを取り出すと、ベロッと舐めて発砲スチロールをこすりつけた。キュキュキュ! 鋭い音が森の中に鳴り響いた。と、ものの数秒で、トムティットという白黒の小鳥が慌てた様子で飛んできて、近くの枝にとまった。自分の大切な縄張りに侵入したヤツは誰だ、とでもいうようだ。枝から枝へ行ったり来たりしたが、人間しかいないと知ると安心したのか、森の中へ姿を消した。

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蝶のように舞うファンテイル。都市部の公園でも見られる


今回は、もう1種のかわいい小鳥に会うことができた。ファンテイルと呼ばれる小鳥で、尾羽を扇のように広げることから、その名がついた。
その小鳥は、夕食を摂ろうとレストランへ向かう途中、ロッジの庭で蝶々のようにヒラヒラと舞っていた。3羽おり、1羽はメスで、2羽がオスのようだ。人懐っこいというのは本当で、人間がいるのを気にもせず、近くまでやってきてくれた。恋の季節なのか、オスはしばしば、パッと尾羽を広げる。その瞬間、“ドヤ顔”になる。眉がキリッとしているせいだろうか。小さいくせになかなか勇ましい顔になり、そのアンバランスさがよりこの小鳥を可愛く見せていた。

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こちらも、ファンテイル


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「ツイ」と鳴くことから「Tui」と名付けられている。蝶ネクタイがポイント


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ニュージーランドバト。こんなに羽がきれいなハトがいるなんて!


フィヨルドランド・クレステッド・ペンギン(タワキペンギン)


2016年11月17日

3度目のフィヨルドランド・クレステッド・ペンギン(タワキペンギン)観察は、いつになく暑かった。タスマン海を渡る風は冷たいだろうとタカをくくって厚着をしていったというのに、ビーチは初夏の陽気。雨も降らず雲もほとんど出ない。温帯雨林で緯度の高い地域だというのに、汗をかきながらの観察となった。

ビーチ2
タスマン海に面したシークレットビーチ


このビーチは、生物学者であり環境学者でもあるジェリーが開拓したフィールドで、ロッジの人々は「シークレットビーチ」と呼んでいる。ジェリーは約30年前にこの地に移り住みロッジを開いてからというもの、ペンギンの天敵である犬をはじめ肉食動物を遠ざけるなどし、絶滅危惧種であるタワキペンギンの保護に力を注いできた。その甲斐あってか個体数は回復しつつあるが、それでも現状はわずか2500〜3000ペアとされており、絶滅の危機にさらされていることは変わりない。

いわばにて
「今日はイカが食べたいわ」


しばし休憩
「私、今日はタコの気分なの」


いざ海へ2
ご近所を誘い合わせて漁へ出るペンギンたち


最初にカメラを構えたのは、岩がゴロゴロ転がるいつものビーチ。そこから急峻な崖が切り立っており、タワキペンギンたちは短い肢と爪を駆使して、100メートルほど上の崖の上からからどうにかこうにか滑り降りて、海へ繰り出す。

滑るんだよね2
ここ、すべるんだよね


すべったー
ほら、すべったー


もう一つのコロニーは森の中にあり、私たちが陣取った場所とは、ビーチを流れる川で隔てられている。午前中は、崖の上の住人よりも森の住人の方が多くビーチを行き来していたが、写真を撮るには遠すぎる。そこでガイドのパトリックに「向こうのビーチで観察したい」と頼んでみたが、「いやぁ、それは難しいと思うよ〜」とやんわりと断られ、仕方なくゴロゴロビーチに居座ることにした。ジェリーとの間に何か取り決めがあるのだろう。

崖とペン3
ビーチに降りてきて、ホッとするペンギンたち


崖とペン2
ポーズをキメてみた


だから、ジェリーがやって来ると事情は変わる。午後、別のお客を連れてビーチにやって来たジェリーに森に近いビーチに行きたいと言うと、「よし、わかった」とすんなり了解してくれたのだ。そして、ビーチに大きな流木を並べると「ここに隠れて。動かないようにね」と言って、また崖の下のゴロゴロビーチへ戻って行った。

ぽんぽんです
食べ放題に行ってきました


流木は大人が身を隠せるほど大きくはなく、ペンギンからは丸見えのはずだ。「ペンギンたちは、バカにするな、と言っているに違いない」と思ったりもしたが、動かずにいればペンギンの目には人が木に同化して見えるのだろう。しばらくして数羽のペンギンが海から姿を現すと、こちらを警戒することなくヨチヨチ歩いてきた。そして、立ち止まり、体を震わせたり尻尾をブルブルッと左右に振って、羽についた水滴を飛ばし始めた。お腹は、重かろう、と言いたくなるほど、ふっくら丸くなっている。あの中にはイカやタコや小魚がたっぷり入っていて、巣で待つヒナたちのエサになる。

体ブルブル
ゴロゴロビーチで見たふくらペンギン


ペンギンは、念入りに羽づくろいをして身なりを整えると、また、ヨチヨチと歩いて薮の中へ消えた。巣で待つヒナはだいたい2羽だが、そのうち1羽は片方のヒナに巣から追い出されたり、エサを十分に与えられなかったりして、小さいうちに見捨てられ死んでしまう運命にある。

崖とペン
こちらは大人のペンギンたち


無事、生き延びたヒナは、羽が生え揃い、大人と同じぐらいの体格に成長すると、ある日突然、巣立ちを強いられる。親が帰って来なくなるのだ。お腹を空かせた少年少女は、本能のままに波の音のする方向へ歩き始め、途中、同じように巣立たざるを得なくなった少年少女とともに、ひたすら海をめざす。

泳ぐ
海の中の方が動きやすいです


お腹を空かせた彼らにとって、最初の海水浴は命をかけることになるだろう。最初の海水浴でうまく漁ができるよう、森の中の川の浅瀬で泳ぎの練習をする少年少女もいるそうだが、いつかその素晴らしい光景を見てみたい。

夜空
ロッジの庭から見た星空。これほどの星を、雨の多い西海岸で見られるのは珍しいと思う


タワキペンギンに会いに


2016年11月17日

メイン


ニュージラーンド南島では、3種類のペンギンに会うことができる。世界最小のブルーペンギン、孤独を愛するイエローアイドペンギン、そして黄色い眉毛がチャームポイントのタワキペンギン(フィヨルドランドクレステッドペンギンともいう)だ。

南島の西海岸、レインフォレストにあるウィルダネスロッジ レイクモエラキ が提供するツアーでは、シークレットビーチと呼ばれる場所でタワキペンギンを観察できる。
この周辺には3つのコロニーがある。ひとつは100メートルの崖の上にある。海へのアクセスは悪いが、住み心地がいいのだろうか、界隈最大のコロニーである。もうひとつは、ビーチからほど近い森の中、そして3つ目はビーチを横切る川をさかのぼった場所にある。
ロッジのオーナーでペンギンの保護活動家でもあるジェリーは、この周辺には約80ペアがいると見積もっている。

3人衆


7月、タワキペンギンは繁殖のためにこの界隈にやって来る。子育て中は毎朝、育ち盛りのヒナのエサを獲るために海へ繰り出す。この日、ガイドをしてくれたパトリックは言う。
「魚を獲るのがうまいペンギンは昼ごろには帰ってくる。でも、漁が下手なペンギンは夕方近くまで海で漁をしているんだ」

岩場2


森とぺん


ペンギンが海から上がり、森へ帰って行く。その様子を見られたのはラッキーだが、ペンギンたちにとっても海から無事帰ってこられたことは、この上なく幸運なことに違いない。

この日、波打ち際では数頭のアザラシが顔を出し、ビーチの様子をうかがっていた。
アザラシはペンギンの天敵である。漁へ出るために連れだって崖から降りてきたペンギンたちは、岩場から動こうとせず、しばらくの間、首を伸ばして海を見、警戒していた。そして、岩の間を縫うように波打ち際へ進み、泡立つ荒波へ飛び込んだ。

岩場


波打ち際


夕方、海から帰ってきた1頭のペンギンを見つけた。森のコロニーの住人らしいが、森へ帰ろうとせず、波打ち際を行ったり来たりしていた。どうやら、一緒に漁に出たペンギンを探しているらしい。海にはアザラシがいる。もしかして……、と不安が彼の脳裏をよぎった。友人の安否を気にして、探しに行こうかどうしようかと迷っている。

ふと彼は、羽づくろいをしている2羽のオイスターキャッチャーを見つけた。ひょっとして……と、彼はよちよちと駆け寄っていき、オイスターキャッチャーにたずねた。
「僕の友だちを見かけませんでしたか」

オイスターキャッチャーは羽づくろいを止めて首をかしげたが、気の毒そうに首を振り、羽づくろいを続けた。友を見失ったペンギンは森へ向かってよちよち歩き出したが、踵を返し、再び波間に消えていった。

オイスター


メイン2
羽を泥だらけにして崖から降りてきたタワキペンギン



テカポからモエラキへ

11月16日

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テカポのロッジ。トイレとシャワー、ベッド、キッチン付き。
食事付きではないので、安く泊まれた


翌日は9時頃にテカポを発ち、モエラキロッジへ向かった。モエラキロッジへ行くのは今回で3度目だが、テカポから行くのは初めてだ。
途中、「Mount Cook」の標識を通り過ぎ、山岳リゾートといった雰囲気の高原地帯を通過した。パラグライダーが青い空を舞っていたので、きっとスカイスポーツのメッカなのだろう。私はきっとやらないけれど、モエラキロッジで合流する予定のazuさんは、今度はこの地をめざしてニュージーランドへやって来るかもしれない。

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ロッジの隣はバーベキュースペース


お馴染みのワナカを通過すると、いよいよレインフォレストエリアに突入する。ものすごい雨を期待していたが、異常気象はここにも影響を及ぼしているようで、曇天ではあるものの雨が降ることはなかった。

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ゴシキヒワ(Gold Finch)。イギリスなどヨーロッパに広く分布する。
入植者が持ち込んだのだろう


ハースト川の河口周辺に広がる、だだっ広く平坦なハーストの町を抜け、タスマン海沿いの国道6号線を走ると、モエラキロッジに到着する。
多雨林のジャングルと海と湖に囲まれたこのロッジは、まさに陸の孤島で、周囲20数km内には村も人家もない。
ただ、国道6号線をさらに北上すると、美しい氷河で知られるフォックス・グレイシャーがあるので、ロッジ前を通過する観光バスや車は多いようだ。なかには、自転車旅行をしている人もおり、フォックス・グレイシャーからこのロッジ経由で、クイーンズタウンをめざす人もいる。クイーンズタウンまでは車でも6時間ほどかかる上に、途中、山を越えなければならないので相当ハードな道のりだ。

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クイーンズタウンを見下ろす山上。本当に山のすぐそばを飛んでいくのですね


ニュージーランドはトンネルがほとんどないので、直線距離ならものの1時間程度で行ける場所も、山を迂回して行かなければならない。時間はかかるが、それで水脈が守られているのかもしれない。

airplane1
安定して飛行しているように見えるが、機内では相当な揺れを感じます


ただ一度のニュージーランド・トンネル体験は、ミルフォードサウンドへのツアーだった。トンネル内は薄暗く、バス1台がやっと通れるぐらいの狭さで、油断すると車体を擦りそうだ。つまり、ドライバーの腕の見せ所というわけだ。

トンネルは中も外もまるで鉱道を再利用したようなしつらえで、壁面も荒削り。掘りっぱなしの感が否めないが、それもニュージーランドのいいところかもしれない。

river
モエラキのロッジ周辺の川。ジャングルはアマゾンと東南アジアにしかないと思っていました


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