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(古い文章です)

ち絵さんが石川啄木の歌ではないかと訊く。

「故郷は遠くにありて思うもの
いどのかたいとなるとても」

「いどのかたい」とは異土の乞食(かたゐ)と書く。
つまり、「異郷の地で乞食をしようとも、郷里には帰らんぞ」と言う意味だ。

いかにも啄木らしい雰囲気があるが、実は違っていた。

室生犀星 抒情小曲集

故郷は遠きにありて 思ふもの
そして悲しく うたふもの
よしやうらぶれて
異土の乞食(かたゐ)と なるとても
帰るところに 
あるまじや

ち絵さんがこの歌をいつ覚えたのか訊いたところ、中学生のころだったとのこと。
学校で教わったのではなく、本を読んで知ったのだそうだ。
「なんかロマンチックでしょ」

はは、ち絵さんは文学少女だったようだ。

ところでこの歌、「どんなに落ちぶれても田舎には帰らんぞ」という気持ちは判らんでもないが、
有り金を使い果たした末に食べる物にも困り、父親の使用人にしてもらおうと郷里へ帰った「放蕩息子」の話を聞かせてやりたくなる。

父親は帰ってきた息子を「死んでいたのに生き返った」と喜び祝宴を挙げた。

もっとも室生犀星の歌の2番には、「帰りましょう」とも歌われている。
──なんかはっきりしないな 

付記
かたゐはわたしの国語辞書(三省堂)には記載がなく、ち絵さんの(小学館)にはあった。それにはただ古語とのみ期されていた。
室生犀星の歌は「乞食」という字でいいのかな