裁判員らは迷うことなく「初犯で1人殺害」の被告に極刑を選択した。岡山市内で平成23年9月、派遣社員の女性=当時(27)=を殺害したとして強盗殺人や強盗強姦、死体損壊・遺棄などの罪に問われた元同僚の大阪市住吉区、無職、住田紘一被告(30)に対する裁判員裁判で、岡山地裁は14日、求刑通り死刑判決を言い渡した。性欲を満たすため犯行に及んだという被告。その身勝手さに加え、命乞いする被害者を躊躇(ちゅうちょ)なく殺害し、遺体をバラバラにして遺棄した残虐性、「殺人は是認される」といった公判での異常な言動も考慮し、「被害者複数で死刑」という過去の判例にとらわれることなく判決は下された。


「好みの女性を選んだ」

 今月5日から集中審理された公判では、犯行の残虐ぶりが改めてクローズアップされた。

 検察側の冒頭陳述や論告によると、住田被告は岡山市の元勤務先の倉庫に女性を誘い込み、現金2万4000円入りのバッグなどを奪い、性的暴行を加えた上、ナイフで胸などを10回以上刺して殺害。遺体は大阪市内のガレージで5つに切断し、一部はゴミ袋に詰めてゴミステーションに捨て、残りは大和大橋の上から大和川に捨てた。交際していた女性とうまくいかず性的欲求を募らせたことが犯行の動機だった。

 起訴事実をすべて認めた住田被告だが、法廷では表情を変えず、反省の態度も示さないまま、遺族らが耳を疑うような異常な発言を繰り返した。

最初から「強姦した後、口封じで殺す計画で3女性を選んだ」
同僚から被害女性を含む好みの女性3人を選んだ」。被告人質問では、性的欲求を満たすため被害女性を選び、最初から強姦して口封じのため殺害する計画的犯行だったことも認めた。

 また殺害の際、女性が「誰にも言わないから助けて」と懇願したにもかかわらず、「殺害を止めようとは思わなかった。心が揺らがなかった」と供述。「被害者や遺族がかわいそうだと思わない」「殺人は是認される」とも語った。

なんとしても死刑を…

 結審直前には、「謝らせてください」と涙を流しながら遺族に頭を下げる場面もあったが、遺族らは真摯に反省しているとは到底受け取れなかった。

 被害者参加制度で検察側に座っていた女性の父(60)は被告の突然の謝罪について「あれは作戦だ。裁判員の心情に訴えるため、最初から発言を覆すつもりでいたのだろう。どこが一番効果的なのかを考えていた」と逆に態度を硬化、「被告は人間の皮をかぶった悪魔。最高の刑を下してほしい」と述べた。

 女性の弟も証人尋問で「もし無期懲役なら、いずれ元犯罪者として社会に戻ってくるかもしれない。でも私たちは一生遺族として生きてゆく。元遺族になることなどできないのに…」と死刑を強く訴えた。

永山基準に照らして

 裁判では事実関係は争われず、「情状」の有無、死刑か否かという点のみが焦点になった。
ここで参考にされたのは、最高裁が昭和58年の判決で示した「永山基準」。死刑適用にあたり、(1)犯罪の罪質(2)動機(3)態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性(4)結果の重大性、ことに殺害された被害者の数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状-の9項目を検討対象としたもの。その後の死刑判決はこれを踏まえて下され、「1人殺害」では死刑を回避する流れができた。

 今回の公判でも永山基準に言及する場面が見られた。死刑を求刑した検察側は「被害者が1人であり、被告に前科がなく、犯行を自白しているとはいえ、酌量すべき事情ではない」「無期懲役受刑者は平均35年で仮釈放になっている。35年後に被告は65歳。まだ犯罪は十分に可能である」と理由を説明。

 一方、弁護側はこの基準に照らし「計画性があったとしても内容は稚拙で前科もない。被害者の数という点でも死刑はふさわしくない」と反論した。

残虐で自己中心的 酌量の余地なし

 注目の判決は求刑通り死刑。裁判員裁判の死刑判決は16人目で、1人殺害のケースでは3人目。被告に前科がなく、1人殺害で初犯のケースは初とみられる。

 「被害者が一人であっても結果は重大。性的欲求不満を解消するためという動機は極めて自己中心的で、犯行は残虐。公判途中での謝罪は被害者心情を思ってのものと認められない」
異例の判決となったが、森岡孝介裁判長は判決理由をこう語った。前科がない点にも「(被告は)凶悪かつ非常の犯行を計画し、次々と実行しえたことから犯罪的傾向を有する。更正可能性は高いといえない」との判断を示した。
 

市民感覚を反映

 裁判員も閉廷後の記者会見で「残虐以外の何ものでもなく、酌量の余地はなかった」「本当に反省しているなら、初公判から素直に謝罪すべきだった」などと口々に被告を批判し、量刑理由を語った。

 会見に応じたのは裁判員6人、補充裁判員2人のうち5人。会社員の男性は住田被告は永山基準を参考にしたと述べる一方、「私たち一般市民が今の時代の流れに沿った意見を判決に入れてもいいのではないかと思った」と、市民感覚を生かした判決であったと振り返った。

 住田被告は即日控訴した。女性の父は「死刑を受け入れて本当の意味の反省をしてほしい」と語ったが、事件はプロの裁判官による2審の判断にゆだねられることになった。


まだ幼さの残る少女が、性暴力救援センター大阪「SACHICO」(大阪府松原市)に相談に訪れた。見れば、おなかが小さく膨らんでいる。妊娠7カ月。腹痛で近所の医院を受診したときに妊娠を指摘され、初めて気付いた。原因は数カ月前に受けた強姦(ごうかん)被害。少女はまだ中学生だった。

 SACHICOには平成22年4月の開所以来、2年間で強姦被害に遭った女性144人が治療や相談に訪れている。そしてその15・3%にあたる22人が望まない妊娠をしていた。多くは中絶を選ぶが、十代の少女は妊娠という体の変化に気付きにくく、判明時には、母体保護法で中絶が可能な妊娠21週6日を超えていることもあるという。

 こうした女性と向き合ってきたSACHICO代表の加藤治子医師(64)は「出産となれば、生まれるまでの数カ月は精神的にも過酷な日々になる」と打ち明ける。生まれてくる子供を自分の手で育てられるのか。「子供も本人も、とても大きなものを背負って生きていかなければならない」。
被害者にとって、ある重要なタイムリミットがある。それが「72時間」だ。

 妊娠を防ぐ緊急避妊薬は、72時間以内に服用しなければ効果が得られない。また、被害者の体内に残っている加害者のDNAも72時間程度で体外に自然排出される例が多いという。だが、被害直後の被害者が冷静に状況を判断し、72時間以内に病院や警察に駆け込むことは極めて難しい。

 兵庫県の女性(45)は高校1年の夏、突然路上で拉致され、加害者の家で集団強姦の被害に遭った。「今からやることはゲームだ」と男は言い放ち、複数の男たちに次から次へと暴行を受けた。やっとの思いで逃げ出したが、すぐに家に引きこもり、病院に行ったのは何日も過ぎた後。「思い詰めるばかりで1人で行動に移そうという気すら起きなかった。警察に届ける証拠もなく、時効が過ぎてしまった」。悔やんだのは随分たってからだ。

妊娠こそなかったが、病院で証拠採取をしていれば、結果は違ったかもしれない。「もっと早く親や友人が『何があったの』って聞いてくれて、警察やカウンセラーにつながれていれば…」。あの日から30年がたとうとする今も常に物音におびえ、睡眠薬なしでは眠ることができない。

DNA採取は7%

 大阪府警によると、今年上半期(1~6月)の強姦認知件数は85件で、前年(56件)の1・5倍以上に増えている。だが、性犯罪の中でも特に強姦は、被害を届けない被害者が半数以上とされる。府警幹部は「警察に届け出るのは1割程度というのが現場の捜査員の感覚だ」と明かす。

 強姦は被害者本人が警察に届け出て初めて事件化される「親告罪」だ。「被害を第三者に話したくない」「加害者の報復が怖い」と、泣き寝入りしてしまう被害者があまりにも多い。その結果、被害者の救済が遅れ、犯人逮捕の機も逸してしまう。

せっかく届け出ても、立件に必要な「証拠」が失われているケースが少なくない。府警によると、加害者のDNA型が分かる唾液や体液を実際に採取できたのは今年上半期はわずか6件(7%)に止まる。

 その理由を加藤医師は「加害者の証しを1分1秒でも体に残しておくのは耐えられない苦痛」と話す。とにかく着ていた服を捨て、何度もシャワーを浴びる被害者がほとんどだ。

 府警幹部はいう。「加害者の唾液や体液の付いた衣服やシーツを袋にいれて保管してくれるだけでいい。被害者には辛く、酷なことだと分かっているが、加害者を罰せられるのは摘発しかない。そして、それが新たな被害者を生まないことにつながるということも理解してほしい」



 想像してみてください。もしあなたが、家族が強姦の被害に遭ったら…。性犯罪の中でも「魂の殺人」と言われるほど、被害者の心に深い傷を刻む強姦。

平成21年12月、強姦(ごうかん)罪で服役していた男(43)が青森刑務所(青森市)を出所した。懲役7年の獄中生活から晴れて自由の身になり、あふれる高揚感。「絶対に更生してみせる」。そう心に誓い、再スタートを切ったはずだった。

 男にとって4度目の誓いだ。21歳で面識のない女性の下着を脱がせて以降、全国各地で性犯罪を重ね、関東や東北の刑務所に4回服役していた。その期間は計10年に上る。

 だが、今回も結果は同じだった。出所からわずか2日後、東北地方で強姦未遂事件を起こし、その後流れ着いた大阪で女性を襲い続け、24年6月に大阪府警に逮捕された。送検された事件は27件。起訴罪名は強姦致傷、強盗強姦、わいせつ目的略取、強制わいせつ、窃盗と多岐にわたる。うち性犯罪の被害者の年齢は小学生から50代まで、まさに見境のない犯行だった。

 大阪府警に男が大阪へ移ってきたことを知る術(すべ)はなく、逮捕のきっかけはひったくりだったという。

 「酒を飲むと善悪の判断ができなくなる」。7月下旬、大阪拘置所(大阪市都島区)で取材に応じた男は淡々と再犯を重ねた原因を説明し、「被害者には申し訳ない」と心がこもっているとは言い難い口調で謝罪の言葉を口にした。

 そして、性犯罪に走る背景もこのように語った。

 「1歳のときに生みの母親と生き別れになり、成人してからも強烈に母性を求めるようになった…」

「一生刑務所に」と懇願

 出所後に行き場を失い、縁もゆかりもない大阪に流れ着き、性犯罪を繰り返す男はほかにもいる。

今年7月、小学校の女児を連れ去った容疑で府警に逮捕された男(60)の犯歴もすさまじいものだった。昭和50年に福岡で強姦未遂事件を起こしたのをはじめ、61年に京都、平成4年に東京都江戸川区で女児を誘拐して逮捕されるなど、40年近くの間に全国で性犯罪を繰り返した。

 男の女児に対する執着は激しく、東京で起こした事件では、誘拐した女児の殺害も決意したが、寸前で警察官に発見され、間一髪のところで逮捕されたケースもあった。そんないわく付きの男だったが、もちろん警察に居場所を把握する術はなかった。

 結局、男は大阪で女児2人を誘拐し逮捕された。府警の調べに「刑務所に入るたびに反省したが、我慢できなかった。大きな事件を起こす前に、私を一生、刑務所に入れておいてほしい」と懇願したという。

いたちごっこ

 性犯罪を繰り返す常習犯からどうやって身を守るか。過去には、宮城県が前歴者に衛星利用測位システム(GPS)を常時携帯させ、行動監視する条例案を検討したが、条例化は見送られたままだ。

 一方、大阪府は昨年10月、18歳未満の子供への性犯罪の前歴者が府内に住む場合、住所などの届け出を義務づけた「子どもを性犯罪から守る条例」を施行した。罰則もあるが、実際は届け出ない出所者も多く、効果は限定的だ。

 関西国際大の桐生正幸教授(犯罪心理学)は「人間関係や経済的な要因が絡む殺人や窃盗と異なり、生い立ちや考え方が強く影響する性犯罪を懲役や監視だけで防止していくことは困難」と指摘する。米国では前歴者の情報を一般公開するミーガン法が施行されているが、「前歴者の社会復帰の妨げにもなっている」と話す。

青森刑務所を出所し、大阪府警に逮捕された男は「GPSやミーガン法のような監視はいいことかもしれないけど、自分がされたら嫌」と身勝手に言い放った。また、前回逮捕された事件で実名が報道され、インターネット上にいつまでも名前が残っているため、「生活がしにくく、大阪では別名で生活していた」とも。

 桐生教授はいう。「再犯防止のためのプログラムを受講させたり、場合によってはホルモン剤を投与して性的な衝動を抑える薬物療法も視野に入れたり、根本的な対策が必要。そうしなければ出所しては罪を繰り返すいたちごっこが続くだけだ」。

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