大阪市長選で橋下徹氏が当選するか否かは「投票率次第」と言う意見がある。維新の会は、既存政党と違って組織票が弱いからである。日本の選挙は投票率が問題視されているが、上記の理由から既存政党は「投票率を上げたくないのが本音」なのだろう。

さて、投票率はどうすれば上がるかという問題だが、個人が投票権を行使するか否かで、政治学者ライカーとオードシュック(1968)による古典的なモデルがある。

R=P×B-C+D

実際の個人はここまで合理的に考えて投票するわけではないが、「何故投票率が低いのか」を考える際に有効である。まず、モデルの説明をしよう。

  • R(Reward):投票によって得られる期待報酬


  • これは、R>0なら投票、R<0なら棄権する事を意味する。基本的に合理的選択論の問題である。

  • P(Possibility):自分の一票が選挙結果に及ぼす影響の大きさ


  • いわゆる「一票の重さ」である。

  • B(Benefit):支持政党・候補者が議席を獲得することで得られる効用と不支持政党が議席を獲得することで得られる効用の差


  • 例えば、自民党の候補者と共産党の候補者の二人が同一選挙区で立候補していた場合に、それぞれが当選した場合を考えて「どう感じるか」を考慮した値である。日本の場合、「この政党だけは通って欲しくない」という消去法のよってこの値が高い人が多いかもしれない。値が低い人は「争点がよく分からない」というのも大きいだろう。

  • C(Cost):投票にかかるコスト


  • 投票の為に移動する時間とかお金の話である。不在者投票が出来なかった時代、もっと遡れば、投票権付与に納税額規定があった時代は、この値が極めて高かった事になる。

  • D(Duty):投票すること自体から得られる効用 や投票の義務感


  • 投票の義務を遂行した事による満足感や、政治に影響を与えた事による満足感などである。要するに「自己満足」である。


    要するに、P・B・Dが大きく、Cが小さい方が、個人が投票に行く確率が高くなるというわけだ。

    さて、このモデルを前提にして、現在の日本で投票率が低い理由を考えてみよう。

    まず、Pの「一票の重さ」について。個々の力が合わされば強いのが民主主義だが、実際のところ、「一票自体」はそこまで大きくないだろう。

    「一票の格差」とよく言われ、5倍が合憲で6倍が違憲みたいな判決が出た事もあったが、個人にとっては無視出来るレベルである。「一票の重さが大きい地方の投票率が高い」と言われるが、これは「高齢者の投票率が高い」だけである。もしPの値が大きいなら、投票率が低い都市部は「実質的な一票の重さ」が大きくなって投票率が上がらなくてはならない。

    Bに関しては先ほど説明したように「消去法」で投票している人は高い事になる。しかし、「どうせ私が投票しようがしまいが変わらない」と思っている人は、この値が小さい。こう思っている人は多いはずで、本質的にはPと同じである。

    以上より、P×B≒0と扱って構わないだろう。 Bは人によっては高いが、基本的にPが極めて小さいので、両者を掛けた値はゼロに近い。

    つまり、「Bが大きくても投票には余り関係無い」ということだ。一見すると変な理論にも思えるが、選挙権を棄権している人も「政治に文句を言う」ので、割と妥当な話である。選挙の結果やその後の政治に関しては人々の関心を大いに集めるが、それが投票に繋がるかはまた別問題である。

    残るはDとCである。

    Dについて。個々の投票の重さは低くても、投票に必ず行く人は多く存在する。この理論に則れば、「社会的使命感」や「義務感」が個人を投票行動に走らせる事になる。詳細に分析していないので分からないが、どちらか(或いは両方)で投票している人は多そうだ。

    Cの費用について。現在では不在者投票の期間も要件も緩和されているが、面倒臭がりという人にとっては時間価値の面で高コストなので、投票に行かない人はこの数値が高いだろう。

    となると、このモデルは実は単純な話だ。

    R≒D-C

    つまり、投票に行くことへの充足感といった個人的な側面がプラスの変数であり、投票に行かない理由は、時間的理由(多忙・面倒)に集約される。

    ここから考えれば、「Dを上げてCを下げる」のが投票率の向上に効果的である。

    Dにおいて、「使命感」というのは教育等の環境や個人の経験に依存すると考えられるので、直接上げるのは難しい。しかし、「義務感」を上げるのは簡単である。「投票を義務化すれば良い」のだ。オーストラリアを始めとして、少額の罰金でも驚くほどの効果を上げている。

    Cを下げるためには、インターネットによる投票を認めるのが手っ取り早い。ネット選挙革命でも言われているように、「日本はネット選挙後進国」であり、他の先進国(どこまでを先進国と言うかは意見が分かれるが)では基本的にインターネットで投票が可能である。(ネット投票と言えばセキュリティ面で反論が出るだろうが、本筋からは外れる。ついでに言えば、現に先進国で多く導入されているのだから、後進国は後進国なりに先例を学べば良い。)

    こうして、投票率を上げるために必要なのは、「罰則」と「ネット投票」という極めて有り触れた結論が導かれたわけだ。

    結論自体は陳腐で、政治家の本音が「投票率を上げたくない」だったとしても、政治家ではない我々の立場としては、いくら陳腐であっても訴え続けるしかあるまい。

    なんにせよ、この議論から言えるのは、よく選挙関係の団体が「日本を変えるために投票へ行こう」と運動を行っているが、こんな理由ではなかなか投票率は上がらないということだ。

    参考文献:Riker & Ordeshook(1968), "A Theory of the Calculus Voting", The American Political Science Review, 62-1


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