(※過感受性精神病患者へのブロナンセリンの効果の有効性を示した論文があり要約を後半に追記しました)

過感受性精神病とは、長期的な抗精神病薬の服用などによってドパミンD2受容体に構造変化や受容体数の増加が起こり(D2受容体の上方制御)、生理的ドーパミンによる刺激が未治療時の数倍に増加、また抗精神病薬によるドパミン阻害作用が数倍に増加してしまうという現象のことを言う。

supersensitivity
(抗精神病薬誘発性ドーパミン過敏症:薬理学・基準・療法)
https://www.karger.com/Article/FullText/477313

家族に発達障害と診断されているものがおり、軽度の統合失調症に似た症状も併発している(脳の興奮から来る全身倦怠感や頭重感、機械音などの幻聴など)。さらに元々の薬剤耐性の低さに加えて過感受性精神病ではないかという症状も現れており、十分な治療薬を服用できないことからドパミンを適正量に保つことが難しくなっている参照)。

<現在の処方薬>

  • セレニカR顆粒(バルプロ酸Na)(就寝前:0.12g)
  • ルーラン(就寝前:2mg、昼:1mg)
  • ジェイゾロフト(就寝前:50mg)
  • メイラックス(就寝前:1mg)
(※その他サプリメント(カルノシン(就寝前:1,000mg、昼:1,000mg)、クエン酸マグネシウム(夕食後:300mg)、L-カルニチン(1,600mg/日)、葉酸(400mcg/日))

現在は、バルプロ酸の調整とルーランの追加、認知行動療法でストレスを減らすことで毎日数時間の就労の復帰が可能となった。以前は、数時間の仕事をした後は興奮が治まらず、帰宅後から翌日まで何もできずぐったりした状態になっていたが、現在もう1時間くらいは勤務時間を延ばせるかもしれないと言っている。ただ、現在の新たな問題としてバルプロ酸で認知機能が落ち、瞬間的に話を理解できない不安感が強いため、職種を変えたほうが良いかも知れないという話まで発展してきた。

抗精神病薬のロナセン(ブロナンセリン)の少量はD3受容体拮抗作用によって前頭葉の認知・陰性症状を改善するとある。実際、統合失調症と発達障害を併発され、薬剤耐性が極端に低いという女性患者の方のブログを拝見させて頂いたところ、ロナセンは認知を上げたと書かれている(その他にもEPS発症以外は自然でマイルドな鎮静効果を感じ、ジプレキサの次にフィットしたのでEPSが出なければ継続したかったと書かれていた)。抗精神病薬に中でもSDAはD3受容体を遮断する作用を持つが、その方の実感としてはリスパダールは認知を落とし、ルーランは変化がなかったと書かれていた。

(統合失調症の薬(定型・SDA・MARTA・DPA他/管理薬剤師.com)

ただ過感受性精神病の問題があり、例えばセレニカR顆粒0.05g増減させただけで体調が一気に崩れるので、置換には物凄く気を遣わなくてはいけない。

kyupin先生のブログにおいて、ロナセン少量は発達障害や高齢者などの薬剤耐性が低い症例でも中止することなく維持できていると書かれた。ただ、D2受容体の親和性の高さからEPSの発現率は非定型薬の中では高めだとも言われている。各受容体占拠率の割合を見ると、D2受容体への結合率が全体の6-7割を占めているようだった。

blonanserin

また、ロナセンのインタビューフォームによれば、D2受容体への親和性はルーランの4倍(ただルーランは受容体からすぐ解離しやすい性質がある)、リスパダールの20倍程度とされている。

affinity2

(新規抗精神病薬ブロナンセリン(ロナセン® )の 薬理作用と臨床効果)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/132/6/132_6_351/_pdf

他の論文では、ハロペリドールとラットD2受容体への影響を比較した実験結果が示されていた。結論としては、ハロペリドール慢性投与は自発運動活性およびD2受容体密度を有意に増加させたのに対し、ブロナンセリン(ロナセン)慢性投与は運動活性およびD2密度両方に影響しなかったと述べられていた。最後のConclusionの項目においても、ハロペリドールに比較し、ブロナンセリン長期投与はドパミン過敏症(DSP)を引き起こす可能性が低いことを示唆していると締められている。

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(PM429. 慢性治療後のハロペリドールとブロナンセリンにおけるドーパミン過敏症の発症に関する比較)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5616364/

背景:
統合失調症患者における抗精神病薬の長期治療は、抗精神病薬の中止、抗精神病薬の治療効果に対する耐性および遅発性ジスキネジアの存在による精神症状の急性増悪を特徴とするドパミン過敏症(DSP)を時折引き起こす。多くの研究は、抗精神病薬によるD2Rの慢性および過剰の遮断の結果として、DSPがドパミンD2受容体(D2R)密度の補償的アップレギュレーションに起因することを示している(Iyoら 2013)。

目的:
ブロナンセリン(BNS)は、ドパミンD2, D3受容体(D2R, D3R)、5-HT2A受容体に対する高い親和性を有し、一方他の受容体に対しては弱いか非常に低い親和性を有する非定型抗精神病薬である。本研究は、BNSによる慢性治療がDSPを引き起こすかどうかを調べた。

方法:
ハロペリドール(HPD)、BNS、またはプラセボをそれぞれ1.1μg/ kgまたは0.78μg/ kgの用量で1日2回、28日間雄Wistarラット(6週齢)に経口投与した。これらの用量は、ラットのメタンフェタミン( METH)誘発自発運動亢進テストにおけるHPDとBNSの50%有効用量の2倍に相当した。薬物中止の7日後、ドパミンD2刺激薬であるキンピロール(0.5μg/ kg、sc)誘発自発運動亢進テストまたは線条体D2Rに対する3H-ラクロプリドを用いた放射性リガンド結合アッセイを行った。我々はまた、5つの脳領域におけるD2RおよびD3R mRNAレベルに対するHPDおよびBNSによる慢性治療の効果を調べた。

結果:
HPDによる慢性処置は、コントロール群と比較して、自発運動活性およびD2R密度(Bmax)を有意に増加させた。対照的に、慢性BNS処置は、運動活性およびD2R密度の両方に影響しなかった。D2RおよびD3R mRNAレベルについては、慢性HPDとBNS処置群において変化はなかった。

結論:
現在の結果は、BNSによる長期治療が典型的な抗精神病薬HPDによる治療と比較して、DSPを引き起こす可能性が低いことを示唆している。

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(追記)

また、星和書店の『過感受性精神病』で監修を務められている千葉大学の金原先生・伊豫先生による、過感受性精神病に対するブロナンセリン(ロナセン)の有効性を示した論文があった。最後のDiscussionの項目において、次のように述べられている。

用語
(TRS(Treatment-Resistant Schizophrenia):治療抵抗性統合失調症患者、DSP(Dopamine Supersensitivity Psychosis):ドパミン過感受性精神病、BPS(Brief Psychiatric Rating Scale):簡易精神症状評価尺度、GAF(Global Assessment of Functioning):機能の全体的評定尺度)

この研究の結果は、TRSおよびDSP患者に対するブロナンセリンの有望な有効性を示した。特に、患者のBPRSスコアとGAFスコアの合計スコアは、遅くとも3カ月までに大きく改善された。 BPRSおよびCGI-Sスコアの患者の肯定的スコアも遅くとも6ヶ月までに改善した。さらに、総CP値は、良好な安全性および許容性プロフィールを有する、12ヶ月のブロナンセリン治療後に大幅に減少した。

患者は以前、病気の第一段階でD2ブロッカーに反応していたが、最終的には、抗精神病効果に対する耐性のためにこれらの薬剤の投与量が増加しなければならず、これはDSPの重要な特徴である(Chouinard, 1991)。患者の症状は非常に重度になり、TRSの定義を満たす高用量の抗精神病薬またはDRD2アンタゴニストでさえ、それ以上の改善はなく、日常および社会機能が大きく損なわれていた。

しかしながら、複数の他の抗精神病薬によってもはや改善されなかった患者の症状および機能は、抗精神病薬の一部をDRD2アンタゴニストの1つであるブロナンセリンで部分的に置換することによって劇的に改善された。これらの結果は、高い親和性およびDRD2への安定な結合を有する抗精神病薬が、おそらくは脳における血漿薬物レベルおよび内因性ドーパミンレベルの変化によって影響されるDRD2占有の変動を減少させるという理論 (Iyo et al., 2013) およびその抗精神病薬DSPを有する患者に有効であり得る。私たちは以前、経口リスペリドンと比較して血漿レベルのピークトラフ比が低い長期作用型の注射可能なリスペリドンが、DSPおよびTRS患者の症状を有意に改善したことを報告した(Kimura et al., 2013, 2014)。本研究では、ブロナンセリンは非常に高い親和性でDRD2に結合し、安定したDRD2占有率をもたらすため、我々はブロナンセリンを使用した (Inoue et al., 2012)。

長時間作用型の注射可能なリスペリドンの以前の研究では、治療期間の前後で投与量は変化しなかった (Kimura et al., 2013, 2014)。これは、患者のDSP症状を改善するDRD2占有率の変動における減少を示唆している。対照的に、本研究では、治療期間終了時の抗精神病薬の投与量は、治療前の投与量に比べて有意に減少した。ブロナンセリンの最終消失半減期は、 単回投与による約16時間から反復投与による約70時間まで延長した、これは抗精神病薬用量の減少を可能にするDRD2に対するブロナンセリンの高親和性に加え、DRD2占有率の変動をさらに減少させる可能性がある

我々の現在および以前の知見(Kimura et al., 2013, 2014)は、特定の特徴を有する抗精神病薬が、より多くのDRD2アンタゴニストに応答しないと考えられているDSPの精神症状を改善し得ることを示した。一般に、クロザピンは、TRS患者において、他の第1世代(FGA)または第2世代(SGA)抗精神病薬 (Bruijnzeel et al., 2014; McIlwain et al., 2011) よりも効果的であり、 TRSを有する患者の治療に推奨される (Buchanan et al., 2010; Kane and Correll, 2016)。 TRS患者の50-70%がDSPの発症に対して脆弱であると考えられており(Suzuki et al., 2015)、TRSとDSPの患者にはクロザピンが有効である可能性があります。しかし、重篤な副作用および/または複数の副作用のためにクロザピン治療が中止された患者はかなりの数になる可能性がある。 DRD2拮抗薬が薬物の薬力学に基づいて症状を改善することができるのであれば、TRSおよびDSPを有する個人には明らかに有益であろう。

ブロナンセリンはTRSおよびDSPに対する有効性の根底にあるメカニズムは、この薬物の親和性および薬物動態に基づいていると推測されるが、 D3受容体および5-HT2A受容体に対する拮抗作用および5-HT1A受容体に対するその部分的作動作用(Huang et al., 2014).が含まれる。 5-HT2A拮抗作用および5-HT1A部分アゴニズムに起因する非定型作用に加えて、ブロンナンセリンのD3拮抗作用、皮質ドーパミンおよびアセチルコリン流出および認知改善(Huangら、2015)の誘導は、TRSおよびDSPに対する治療効果に寄与し得る。さらに、現在の分析は遡及的な症例シリーズの研究であり、大規模な患者サンプルを用いた無作為化無作為化試験を含む、結論を導き出す前に、さらなる研究が明らかに必要である。

結論として、ブロナンセリンは、TRSおよびDSPの治療のための有望な抗精神病薬である可能性がある。
(薬物治療抵抗性統合失調症およびドーパミン過敏症患者に対するブロナンセリンの効果:遡及分析)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1876201816302155?via%3Dihub#bib0075

過感受性精神病の書籍の中で、DSPにはクロザピンかリスペリドン特効注射薬で治療することが提案されている。その理由は安定した受容体の遮断が維持されるためと書かれているが、ブロナンセリンは論文で、DRD2(=D2R)への高親和性に加えDRD2占有率の変動をさらに減少させる可能性があると書かれていることから、これら2剤に近い効果が期待できるのかもしれない。

書籍には治療において重要な次のポイントが指摘されている。

  • リスペリドン4mg錠を1日1回投与するとD2受容体占拠率にはっきりとした差のピークとトラフ(最低値)が生じ、ピーク時には80%を超えてしまっている。
  • 一方、パリベリドン徐放剤やリスペリドン特効注射薬ではピークとトラフの差が非常に小さい。
  • 錠剤の内服では、ピーク時前後には過剰遮断が生じてしまう可能性が高く、このときにD2受容体の数を増やしてしまう。
  • 消失半減期が短い薬剤を間歇投与しても、一時的に過剰遮断を起こせばD2受容体数が増えてくる
  • 受容体の数ではなく一つ一つの感度の増大によりドパミンの過感受性を起こしてしまうことになるかもしれない
  • 受容体の感度が上がっているように見えるのはhigh affinityの方が増えてしまっているせいである可能性もある
  • そうでなければG蛋白などのダイマリーゼーション(二量体化)のようなものが起きていて、1つのD2受容体にドパミンが結合したとしても複数の受容体に結合したときと同様に信号強度が強くなっているのかもしれない
  • 受容体1つ1つは過感受性になっていなくても、より下方の神経伝達の部分で起きている可能性も否定できない

先の論文の被験者はDSPを持つ治療抵抗性統合失調症患者と書かれていたが、D2受容体密度への言及に加えてD2受容体の感度が上がっているかどうか(D2high/low)については言及が無かった。以下の2005年の論文でも、統合失調症やその他の精神疾患においてD2highの状態が上昇しているかどうかは現時点で殆ど調査されていないと述べられている。またラットの実験ではD2受容体の約70%を占める用量のオランザピン処理を行うとD2high密度が約2倍に増加したとされている。

(ドーパミン過敏症はD2high状態と相関し、精神病への多くの経路を示唆する)
http://www.pnas.org/content/102/9/3513

他の論文でも、ラット実験の結果によりクエチアピンとクロザピンはハロペリドールとオランザピンよりもD2high上昇を誘発する可能性が低いとされている(本文は有料であるため閲覧できていない)。

ヒトの精神病は、アンフェタミン、フェンシクリジン、ステロイド、エタノール、および海馬、皮質および腸内病変などの脳病変によって引き起こされ得る。驚くべきことに、ラットのこれらの薬物および病変のすべてがドーパミン過敏症をもたらし、ドーパミンD2受容体の高親和性状態、またはD2Highを線条体において200~400%増加させる。コルチコステロンやリパーゼ、リスペリドン、ハロペリドール、オランザピン、クエチアピン、クロザピンなどの抗精神病薬で治療したラットでは、同様の過感受性およびD2highが出現するが、後者の2つはハロペリドールまたはオランザピンによって引き起こされるD2high状態よりも低い上昇を誘導する。

(精神病経路はD2highドーパミン受容体を介して収束する)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16786561

書籍でも、クロザピンはTRSやDSPに有効であったとされ、また一番最初に引用したマウス実験でもハロペリドールと比較しブロナンセリンは受容体密度増加への影響が低かったとされていることから、先の結果がヒトでも認められるならブロナンセリンはDRD2の感度が上昇している状態でも比較的安全に使うことができるということになるのだろうか?

論文を調べてもやはり分からないことが多いので、一度主治医に尋ねてみたいと思う。