先月、精神科医の先生(kyupin先生)のブログに、季節変化、特に春先に急激に精神疾患の悪化が見られるという内容の記事がアップされていた。統合失調症の場合、幻聴や被害妄想などの興奮状態の悪化で入院せざるを得なくなったり、一方で冬の間家からでられない状態が春先に少しづつ出られるようになるなど明らかな変化が見られるということだった。この現象については、「(3月頃になると)抗精神病薬によるドーパミン、ノルアドレナリン神経系の抑制が解放されて生じたように見える」と書かれている。

家族は広汎性発達障害の診断が降りているが、軽度の幻聴や脳の興奮などの症状もある。冬季は長時間話をしたり強いストレスがなければ安定状態にあったが、3月半ばになって気温が暖かくなりだすと、原因不明の疲労や脳の興奮が急激に現れた。毎休日には一日中ぐったりして家を出ることすらできない状態になってしまったので、先生のおっしゃったようにドーパミンが増加しているのではないか思いバルプロ酸(セレニカR顆粒)を追加した。過感受性精神病も持っているので、追加量としては0.05g程度だが、全体的には0.24g→0.29gへ増加で約20%の増量となっている。この僅かな量で冬季と変わらない程度に安定しはじめ、頭重感や脳の興奮症状が治まったということだった。

ただ昨年の夏、春先よりもさらに悪化し一日中体調が悪い日が初秋まで続くという状態だった。健常な人でも例えばゴルフコースを回るのに他の季節と疲労が全く違うという話も聞くので、精神疾患では体温調節で脳の負担が激しくなるなどの事情があるのかもしれないと思ったが、この春と夏の状態悪化を抑制するにはドーパミン調整だけでは不十分なのだろうか?論文がいくつか検索できたので、以下ではその詳細を見て行きたい。

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健常人における春夏・秋冬期の中枢ドーパミン取り込み量の比較

以下の研究では、18F-DOPAというL-DOPAの6位にフッ素-18(18F)で標識した放射性薬剤(トレーサ)を注射し、ドーパミン系節前終末への蓄積から放射能集積をPETによって測定することで、季節変動におけるドーパミン分泌量の変化を定量分析している。(併せて末梢のトレーサー代謝を制限してトレーサが脳に特異的に集積するためにカルビドーパ製剤(AADC活性阻害剤:200mg)の単回経口投与が注射の1時間前に行われている)86人の健康なボランティアは覚醒した安静状態で測定され、PETスキャンは注入後90秒から25回の撮影を90分にわたって行っている。

(ヒト線条体プレシナプスドパミン合成に対する季節的影響)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3010858/

春夏・秋冬期それぞれにおいて取得されたデータから、線条体におけるドーパミンの取り込み定数Kiという値が求められドーパミン取り込み量の比較が行われている。
(Kiとは、以下の参照元によると「薬剤動態の速度定数 K1 k2 k3 K1, k2, k3 から求められる値で、薬剤を能動的に取り込む組織への集積速度」とされている)

  • 仮説検定において春夏および秋冬群の線条体領域のKiは、正常分布との有意差はなかった。
  • 両側被殻における平均Kiは、春夏より秋冬期に有意に大きかった。
  • 別々に分析した場合、左右の被殻における平均Kiは同じ効果を示した。
  • 尾状核におけるKiは、有意な季節的影響を示さなかった。
  • 被殻と尾状核におけるKiは、以前の報告と一致して男性よりも女性において大きかった。

結果としては、健常人においては秋冬にドーパミン合成が促進されるということになるのかもしれない。一方、統合失調症におけるドーパミン濃度の季節変動について見てみたい。

(ヒト中枢ドーパミン活性の季節変動)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0165178184900945

1年を2期に分け(春~夏(3月21日~9月20日)、秋~冬(9月21日~3月20日))、その期間中における82人の健常人と55人の慢性統合失調症患者のまばたき回数(ドーパミン受容体数の増加から生じると仮定されている)を測定した。まばたき測定は午前1時から午後3時30分までの間に空調の効いた室内でカウントされた。

また、以前の研究に報告のある14人の健常人と20人の慢性統合失調症患者の死後脳における、ドーパミンおよびその代謝産物ホモバニリン酸(HVA)を、側坐核および視床下部で測定した結果と比較した(Kleinmanet。1982)。アッセイの方法は、ガスクロマトグラフィー/質量分析法であった。

  • まばたき速度に関しては、年齢に応じて季節的に全体的影響があった
  • 春夏期の統合失調症患者は、他の被験者群と比較して、平均まばたき率の有意な上昇を示した
  • 他の被験者群の平均まばたき率は、違いが見られなかった。
  • 死後の研究では、季節的な期間は、側坐核におけるHVA濃度のみに影響する傾向があった
  • 統合失調症患者の側坐核で測定したHVAの濃度と、正常対照の視床下部におけるドーパミン濃度において、季節間の診断群内の特定の有意差が見出された
  • ドーパミンとHVAの平均濃度は、試験した両方の脳領域における各被験者群の秋冬期間においてより高かったが、ノルエピネフリンおよびその代謝産物MHPGの平均濃度はそうではなかった。

論文のDiscussionにおいては、まばたき速度について次のように言及されている。「昼光の長さが最も関連性の高い季節変数であるようだ。熱とambient intensityは、瞬き速度に影響しないことが既に示されている」「春と夏の統合失調症患者では、まばたき率が上昇しているのに対して、脳波中のドーパミンとHVAの濃度は、同じ期間に正常対照と統合失調症患者の両方で相対的に低下する」

後者のような原因と結果の不一致の理由に関しては、まばたき速度が測定された環境は、熱や湿度など季節的な変化を最小限に抑えるため空調された建物の屋内でカウントされたのに対し、死後の研究では、検体は季節的な寒暖の影響を受けているためではないかと推測されている。つまり検体では秋冬にドーパミンとHVAの平均濃度が高かった理由は、カテコールアミンが熱に安定ではないのでその影響が春夏に出たのではないかと推測されている(ただしノルエピネフリンは影響を受けていないのが興味深いとされる)。

まばたき速度の上昇のメカニズムに関しては、他の論文においてドーパミン受容体数の増加から生じると仮定されているという記述もある。著者は結論として、「D2受容体の刺激がドーパミン産生や代謝回転の減少に関連するというモデルを提案しなければならない」と述べている。 一方、正常なコントロールにおいては、視床下部のドーパミン濃度の低下は見られたが、春 - 夏期には瞬き率が上昇しなかった。この理由を説明することは依然として困難であるとされている。

これらから推測できることとしては、検体のドーパミン・HVA濃度が春夏に低下した理由はドーパミンが温度に安定ではないことによるもので、熱を除く季節そのものの影響を調べた研究としてはまばたき回数の結果が正確に反映されているということになるのかもしれない。

まばたき回数の増加はD2受容体のアップレギュレーションによるという説があり、著者の推測としてはD2受容体刺激がドーパミン産生や代謝回転を減少させるのではないかということであるように読み取れる。そのD2受容体のアップレギュレーションをもたらすかもしれない要因というのが春夏の昼光の強さによるのだろうか

他の論文を調べてみると、確かに季節性情動障害患者では強い光がドーパミン枯渇を防止したとある。
(ドーパミンと光:亜症候性季節性情動障害を有する女性の気分や動機づけに及ぼす解剖効果)
(昼光はドーパミンを決定する)

ただ検体の研究にあるように、空調の効いていない暑い部屋に長時間いればカテコラミンが減少し、強い光による影響があるならばその相互作用でより複雑化してしまうのだろうか。ただ非定型薬は脳の温度を下げるかもしれないという研究報告もある。

以下の論文では、要約すると次のように書かれている。

ドーパミン作動性伝達は適切な視床下部媒介性の中枢温度調節に必須である可能性が高く、投薬をしていない統合失調症患者では角膜温度が非常に高い(まばたき増加による温度上昇と関連する可能性がある)。角膜温度は仮説の段階だが脳の温度を示している可能性がある。

(統合失調症患者の角膜温度)
抗精神病薬による投与群・非投与群の統合失調症患者、健常人における角膜温度を比較した研究で、サーモグラフィカメラによる撮影で非投与群の男性統合失調症患者が健常人・投与群より著しく高い角膜温度を示したされている(平均値の比較で、非投与群:37℃、健常群:33℃、非定型薬投与群32℃、定型薬投与群:31℃)。
corneal temperature

Discussionにおいては次のように言及されている。

  • 大多数のデータは、ドーパミン作動性伝達が、適切な視床下部媒介性のコア温度調節に必須であることを示唆している。
  • 我々の知見は、非定型の抗精神病薬が定型薬とは角膜温度に影響を及ぼすという点で異なることを示唆している
  • 非定型薬は角膜温度を健康な被験者に匹敵する値まで低下させるが、定型薬は角膜温度を異常値に下げる。
  • 以前のデータは、角膜の温度が中核の体/脳の温度と相関する可能性があることを示唆している。
  • したがって、我々は角膜温度の上昇が、薬物を含まない統合失調症患者において、より高いコア・脳の温度を示し得るとの仮説を立てた。
  • そうであれば、シナプス伝達の変化、脳血流および代謝の変化、示差的遺伝子発現を含む、統合失調症に関連する様々な感受性病態生理学的機序を潜在的に説明することができる。
  • 非投与統合失調症患者は健康な被験者よりも頻繁にまばたきする。
  • 抗精神病薬投与の患者は通常、これらの2つの群よりもまばたきが少ない。
  • まばたき速度の増加は角膜全体にわたって温かい液体を洗い流し、その温度を上昇させ、一方でまばたき速度の低下は角膜の周囲空気への暴露を増加させ、角膜温度を低下させる。

これらを要約すると、抗精神病薬非投与の統合失調症患者において角膜温度が非常に高くなっている理由は、まばたき増加によって温かい涙液が頻回に角膜を覆い、摩擦熱で涙の温度が上がることによると推測できるが、そのまばたき回数はドーパミン受容体数の増加と脳の温度を示している可能性があるということなのかもしれない。加えて非定型薬によって角膜温度が健常人と同等に低下するということは、これらの受容体数の増加と脳の温度を適切な段階にまで下げている可能性があるということなのだろうか

ただ前回調べたように、過感受性精神病がある場合には、過剰なドーパミン受容体D2の遮断は受容体密度の増加をもたらすとあったため、この治療に推奨されている非定型薬以外を使用する場合は、バルプロ酸などの気分安定薬にいくらか切り替えたほうが良いのだろうか。

昼光の影響に関しては、私の家族は脳の興奮や幻聴などを発症する以前(発達障害のみで投薬の必要がない数年前)には、真夏日でも外で一日中歩いていても体の疲労だけで夜に睡眠をとればほぼ回復していた。また抗精神病薬を飲みだしてからも、夏に寝たきりになるまで悪化することはなかったが、過感受性精神病を発症してからは極端に季節による影響が大きくなった。

この原因はやはり、気温や光の変化が生じた際の生理的ドーパミン放出の変化に対応しきれないというのが納得のいく答えということになるのだろうか。

夏にサングラスや毎日カーテンを閉め切る、空調を一日中つけるというのも、何となく不健康だし仕事に行くため無理な話で、なにより本人があまり神経質に色々やりたくないというので、調子に応じてバルプロ酸か抗精神病薬を調整していくしか今のところ選択肢がないようにも思う。