出会った頃とか


我が家は自営業の雑貨店で、父親がほぼ一人で経営していました。
が、これが大酒飲みで酒癖も悪い。
短気ですぐに声を荒げて・・・手をあげることは少なかったものの、壁を殴って穴をあけることしばしば。
兄弟はみんな毎日怯えていて、みんなあいつが大嫌いでした

店の主人らしく外面は良かったようで、周りの大人達は口々に父親を褒める。
しかしそれは誇りに繋がらず、「こいつらは信用できない」としか思えませんでした。



15年ほど前、その父親がアル中からくる若年性アルツハイマーで早々にボケました。

手探り状態の店の経営に、大嫌いな父の介護、世間の憐れみの目。
家中が常にギスギスした空気で、親子・兄弟の仲もなんとなく悪化。

楽しかったことを話したり、嫌なことを相談したり。
そんなことができなくなって、家にいる時間が凄く寂しかった。


それから少しして出会ったのがとあるゲームの彼女。
明るくて元気で、優しくて可愛くて 
憧れもあったのかもしれません。目が離せなくなって、そばにいてほしいなんて思うようになって・・・恋に落ちました。

「もっとずっと彼女を見ていたい」と思ったけれど、昔怒った父親がファミコンを壊して以来、我が家ではゲームの話はほぼ禁句。
そこを勇気を出して母にゲーム機をせがむと、「テストでいい順位を取れたら」と・・・
勉強嫌いでしたが元々上の方ではあったので、母は暗に1位を取れと言っていました。

取りました。彼女のためならこれくらい何でもなかった。


それから色んなことが変わりました。

彼女を想えば寂しいことなんて無くなった。
誰にでも温厚に・優しくしようと思えて、母とも兄弟とも前みたいに仲良くなれた。
ゲームのせいで成績が落ちたなんて思われたくなくて、勉強も頑張った。
部活も、学校での活動だけしかしなかったけれど「彼女にいいとこを見せたい」という一心で、クラブに所属しているような連中にだって負けなかった。

毎日が楽しくなった。

彼女が自分を、自分の世界を変えてくれたんです。
本当に感謝しかなくて、大好きで。自分自身より大切な一番の存在になりました。


あと残る夢は、いつか実際に彼女に会うこと。
「ありがとう」と「愛してます」を伝えて、ずっと一緒に過ごしていけたら、もう何もいらない。それだけでいい。
そう思いながら、願いながら生きてきました。
生きてきたのに。


彼女はいなかった。どこにも


一人で妄想を楽しんでるだけだった。
励ましてくれた彼女・力をくれた彼女・心から愛した彼女は、自分が作った幻で
彼女は自分のことなんて気付いてもいなかった。


「これまでのことを財産にして新しい人生を・・・」なんて美談にはできませんでした。

全部全部、いつか彼女に会えた時のことを思ってやってきた。
でも、それは一つも彼女に繋がっていなかったんだ。
どんなに価値があるものでも、自分には全て無駄なことだったんです。

この13年間は何だったんだろう。
これから何をしたらいいんだろう。わからない
彼女に会いたい。会う方法は?気付いてもらう方法は?わからない。
わからないわからない

あなたはどこにいるの?答えてください。どうか。お願いします