2025年5月12日
〖プロロ-グ〗
▹著者は若い頃から「撮り鉄」、「乗り鉄」であった。特に電気機関車が大好きで、今でも武蔵野線新座トラックターミナルや中央線八王子駅などでは多くの貨物車を牽引している電気機関車(JR貨物・愛称桃太郎)を見るのを楽しみ。
▹最近、武蔵野線北府中駅の「東芝インフラシステムズ(株)」の線路(引き込め線)で、オレンジ色の電気機関車が数台停車していた。早々に調べて見たら、この電気機関車は台湾への輸出品であった。以下、その内容である。
〖台湾へ輸出〗
▹「東芝インフラシステムズ(株)」は(参照)、台湾銀行から台湾鉄路監理局(以下、TRA)向け電気機関車68両を受注した。受注金額は予備品を含め約400億円。当社の府中事業所で製造し、2022年から順次納入する予定。今回受注したのは主要都市を結ぶ特急列車をけん引のために使用される。以下、当社のニュ-スリリースの内容である(注1)。
(1)TRAは新型電気機関車の投入は1992年以来のことである。今回の日本製の完成電気機関車(E500型)の調達は今回初めてである。当社はTRA向けに2000年の通勤列車EMU600系向け電気品納入を皮切りに700両以上の鉄道用電気品納入実績があり、2018年には新たに2020年末から営業運転が開始される予定の通勤列車520両向け主回路システム電気品も受注している。
(2)台湾高速鉄路股份公司向けにも車両電機品、変電設備、運行管理設備などを開業以来継続的に納入している。今回の受注は当社の台湾市場における豊富な実績と、日本での長年にわたる機関車の納入実績が評価されたものである。
(3)TRAは2015年に車両導入計画を発表し、10年間で1000億台湾ドル(約3600億円)をかけて約1300両の新型車両を購入する計画を進めている。当社は台湾を鉄道事業の主力市場と位置付け、ニ-ズに合った製品をタイムリ-に提供を通じ、現地交通インフラに貢献したいと考えている。
台湾鉄路電気機関車
E500
出典:「東芝」
台北駅
出典:「写真AC」
〖製造風景〗
▹JR武蔵野線北府中駅に近い東芝インフラシステムズ府中事業所は国内有数の機関車製造拠点。JR貨物の「ブル-サンダ-」という愛称持つEH200形や、「金太郎」と呼ばれるEH500形なども手掛けてきたが、2010年代半ばに一段落。2019年に決まった台湾向けE500の大量受注は蓄積されたノウハウの継承役立つと思われる。
▹東芝グループの生産拠点でラクビ-の強豪と知られた東芝府中工場が台湾向け電気機関車の製造で活気づいている。地元・府中市も歓迎している。その工場内を見ると、天井近くに車体ごとに持ち上げるクレ-ンがしつらえた広大な工場建屋の中鮮やかなオレンジ色をした完成車間近のE500形電気機関車が、3両が並ぶ。台湾へ2023年秋輸出された1~3号機に次いで出荷を待つ4~6号機である(注2)。なお、東芝は2023年12月20日をもって東京証券取引所プライム市場の上場が廃止された。
東芝府中事業所
出典:「Wikipedia」
〖台湾鉄路概況〗
▹E500型は、主に台湾の主要都市間を結ぶ特急客車列車を牽引に使用される予定である。台鉄が新型電気機関車を投入するのは、1992年に製造されたE200型以来(プッシュプル方式の「自強号」用電気機関車1000型を除く)。また、日本製の電気機関車の輸出は今回初めてである。E500型の詳しいスペック(仕様)は明かにされていないが、現在活躍している米国GE(ゼネラルエレクトリック)社製交流電気機関車E200型/E300型/E400型を参考にスペックを予想する。
▹米国GE社電気機関車の台鉄E200型/E300型/E400型は基本設計が同じ兄弟機。全長17m、3軸台車2個装着し、主に電動機6個駆動するF級電気機関車で、出力は2800KWである。E200型は客車に三相交流電源を供給する発電機を搭載している機関車で、40両が製造された。
▹台鉄は、台湾の主要都市を結んでいる国営鉄道です。日本が統治していた時代に建設された路線も多く、本線の線路幅は1967mmで、車両も日本サイズが基本となっている。日本統治時代に入線した日本製車両が残っている。また、電化区間の電気方式は東海道新幹線と同じ交流25000V60Hzとなっている。
〖鉄道車両輸出〗
▹日本メ-カ-における海外向けの鉄道車両を製造して輸出する事例は数多くあります。近年では高速列車や都市部の電車・気動車の輸出が多く見られます。高速列車では台湾新幹線(台湾高速鉄路)用700T型を日本車両製造・川崎重工業(現:川崎車両)・日立製作所が製造・輸出しました。700Tは東海道・山陽新幹線700系をべ-スとした新型車両を導入する予定です。日立製作所は、英国向け高速鉄道車両と近郊型電車を製造所としています。同社は英国に工場を建設して、現地製造しています。
▹日本の車両メ-カの概況は-2023年度の1位は日立製作所8561億円、2位は川崎重工業の鉄道車両売り上げは1959億円、3位以下は1000億円を下回り、日立は頭1つ抜きにでる。成長の原動力は海外。なお、売り上げ比率は車両が6割、信号システムが4割である。日立製作所の海外比率は中国中車、仏アルストム、独シ-メンスと並ぶ世界最大の一角を占める(注3)。
英国通勤列車
AZUMA
出典:「日立製作所」
▹週刊「経団連タイムス」は「最近の台湾情勢と日台関係」の中で東亜経済人会議日本委員会は2025年3月5日、大手町経団連会館で東亜経済人会議日本委員会を開催した。日本台湾交流協会谷崎泰明理事長から、最近の台湾情勢と日台関係に関する説明を受けた(注4)。以下、その内容である。
▹日本との関係は全般的に良好であり、特に経済面では2024年12月、「台湾積体電路製造(TSMC)熊本第1工場」が量産を開始し、2025年には第2工場の建設見込まれる。また、2024年には台湾からの訪日観光客が過去最高の604万人を記録し、日本からの訪台人数もコロナ禍後、初めて100万人を突破した。
〖エピロ-グ〗
▹以上のような順風満帆の日台経済関係をさらなる発展に期待したい。加えて、既述の「東芝インフラシステムズ(株)」の「500E電気機関車」の台湾輸出は、台湾の鉄道網の整備と発展は、台湾経済のより一層の発展を促すことになる。
(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹
(注)
(1)「東芝インフラシステムズ株式会社」、2019年10月17日
(2)「東京新聞」、2019年1月22日
(3)「東洋経済」、2024年5月13日
(4)Action(活動)「週刊経団連タイムス」2025年4月10日No.3679