20129月26

・山梨県の県境に近い静岡県富士宮市猪之頭の地に「陣馬の滝」という名勝がある。国道139号線の朝霧高原から旧道(県道414号線・朝霧富士宮線)に入った所にある。むかし源頼朝が行った富士の“巻狩”の際、滝の近くに一夜の陣を敷いたことから名づけられたという。この滝は五斗目木川の上りつめたころにある高さ20メートル程の小さな滝である。その両脇から無数の水の流れている所がある。この水こそ富士山から数十年かけて地表に出てくる“伏流水”である。

・筆者も5年前頃から車にポリタンクを乗せ、かあちゃんと一緒に滝に出かけるのを常とし、毎回約100リッターを汲んでくる。当初、駐車場はわずか3台であったが、水の効用を聞いた多くの老若男女が水汲みに来るようになり、富士宮市は新たに20台が入れる駐車場を増設した。駐車場のナンバ-プレ-トを見ると、地元の「沼津」が圧倒的に多く、その他に「山梨」、「静岡」、「多摩」、「練馬」、「横浜」、「相模」、「湘南」などである。

・水汲みの人たちは駐車場に着くと、直ちに戦闘モ-ドに入り、競争相手を意識して、一刻も猶予ならんと、水汲み場(主に2か所)に行き、持参の容器に入れる。水汲みもご多分にもれず競争社会、このため水汲み諸氏は輸送方法には色々な工夫を凝らしており、台車、一輪車など様々である。水汲み場は、当初竹を半分に切り使用していたが、耐久性に問題があるため、最近では塩ビのパイプを使用しており、容器に早く入れられるようになった。

・年齢層をみると、比較的高齢者の夫婦づれが多く“水汲みの道行”となる。若い頃は子作りに、高齢者になったら水汲みにエネルギ-を費やす人達、近所同士、サークル活動仲間、実業の人達(喫茶店経営など)など様々で、水汲み競争に勝つため、良きチームづくりに執念を燃やしている。水汲み諸公に伏流水の効用を尋ねると、バナジュウム入りの水は糖尿病によく効き、血糖値が下がったと。ある人は長い間、寝込んでいたが、今では歩けるようになったとか・・・。大方の人は自慢げに話す人が多い。まさに医者いらずということになるが、この種の話は諸説紛紛あり、俄かには信じがたい。

・富士山の伏流水の水温は年間を通じて11℃である。自宅に持ち帰り、3カ月経っても水が腐らないのは摩訶不思議である。水は柔らかく実に飲みやすい。味噌汁、コーヒー、ウィスキーの水割りなど様々に使用されている。富士山の伏流水を分布別にみると、まず最も高い地点から湧き出す湧水として確認されている例は1670m(富士宮二合目付近)とされ、その他山麓を帯状に分布している。富士山麓における湧水の総湧出量は1968年で1日あたり154万立方メートル以上だという。しかし、近年湧出量の減少が確認されている例もある。(伏流水の地として有名なのは柿田川、忍野八海など。) 

・富士山の眺望は素晴らしく、稀代の天才絵師葛飾北斎の富士図の連作錦絵『冨嶽三十六景』中で最も有名な作品のひとつ「凱風快晴(赤富士)」は歴史の証人として、富士山の素晴らしさを後世に伝えている。この富士山を自然遺産への登録が検討されていたが地元の調整がつかず環境管理(特にごみ問題)が困難なため国は推薦を見送った。現在は文化的景観という視点から世界遺産への登録手続きが推進されており、2007年に暫定リストへ登録されている。ごみ問題は日本人の公徳心の欠如からきたものであり、残念である。この現状を葛飾北斎は天国でどのような印象をもっているのか。まさか“想定外„などとは言わせたくない!

・最後に数年前の8月、陣馬の滝近くで大分県から観光で陣馬の滝を見にきた初老の夫婦は筆者に富士山は何処でしょうかと聞かれたので、あれですよと言ったら、冠雪してないですかと反問された。富士は1年中冠雪していると思われていたようで、われわれは大笑いをした。富士山は常日頃から国民に崇められている。水汲みの人々も富士山からの天の恵みに感謝している。霊峰富士、ここにあり。

                                   <グロ-バリゼ-ション研究所>代表 五十嵐正樹