2014年10月

最近の香港情勢について

 

20141030

【返還後の民主化】

(「一国二制度」)

・1997年7月1日、香港はアヘン戦争から155年振りに中国へ復帰します。同年2月に香港返還を見ずに亡くなった鄧小平氏が提起した「今後50年間、資本主義体制を保障する「一国二制度」を施行します-外交と防衛を除く、社会主義の中国に資本主義を併存させる制度で、「高度な自治」を認めるものです。返還当日、街には返還を祝うネオンと人で賑わい、タクシ-には特別区旗をアンテナの先に掲げて走り、政府機関が掲げる旗もユニオンジャックから五星紅旗に、街中は赤一色に塗りかわったのです(注1)

(学生デモの始動)

・返還当初から香港の自由度を計るバロメ-タ-として香港人自身が「行政長官」を選ぶことができる選挙のことで、当初、香港市民は誰でも自由に立候補できると考えていました。ところが、返還から17年後の本年8月31日、中国は全国人民代表大会(全人代)常務委員会で選挙制度の改革案を公表します-2017年の次回選挙から18歳以上の住民に選挙権を与える一方、指名委員会(1200人)が候補者(2~3人)を選別するなど立候補の要件を制限する方針決定したのです。明らかに民主派の立候補者を封じる仕組みです。

・これを機に、10月初めに学生団体の大学生連合会(学連)などの民主派は香港中心部のセントラル(中環)を占拠(占中)し始めます。官庁街のある金鐘(アドミラリティ)は香港の中枢機能が集中している所です。また、九龍地域の旧市街にある旺角(モンコック)は官庁街と違って中小の店や食堂が多く、毎日の生活がかかっている人達です-学生の占拠に反発する人々の間で、小競り合いが頻発するようになり、10月17日夜から18日未明にかけて警察隊がデモ隊26人を逮捕します。一方、香港政府ナンバ-2の林鄭月娥政務官は18日、学生代表らとの対話を21日午後に行うと発表します。

(対話の困難)

・香港行政長官の選挙の民主化を求める大学生連合会(学連)と香港政府の初めての対話が実現します。学連は住民署名による「住民指名」方式の選挙導入を求めましたが、政府側は「住民指名は香港基本法にそぐわない」との見解を述べ、基本法の解釈権を持つ中国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が決めたものであると。

・香港島南部の医学専門学校で開かれた対話に双方5人が参加、学連側は周永康事務局長を代表に、全員が胸元に英語で“今こそ自由を„と書いた黒いTシャツで対話にのぞみます。政府側はナンバ-2の林鄭月娥政務官(閣僚)が代表を務めます。政務官は「全人代の決定は“永遠に適用„されるものでなく、前向きに発展する」と述べたが、周氏は「全人代決定は民主への道を骨抜きにするものだ」と反発します。周氏は、香港政府が全人代に対し、選挙制度改革について補充意見書を出すよう要求しますが、政務官は要求を拒否します。

・学連のリダ-周永康氏は政府との対話について、「全人代常務委員会の普通選挙案を撤回することが最低ラインでその案の枠組みの下では議論できない」と強硬な姿勢を示します。  

(市民の動き)

・初の対話が不調に終わり、民主学生らは「占拠」を継続し拡大する姿勢を鮮明にします。反面、社会の混乱で疲弊した市民からは占拠の悪影響を批判する声が強まり、香港社会の亀裂が広がります。長引く占拠に悲鳴を上げるタクシ-・バス業界の訴えを受け、香港高等法院(高裁)は、九龍地区の旺角(モンコック)で抗議するデモ隊に占拠禁止命令を出します。しかし、「占拠」は解消されません。

・市民の動きをみますと、旺角では10月22日、中国の国旗を持った親中派市民やタクシ-運転手が「占拠に憤怒」「道路を返せ」などのプラカ-ドを掲げてデモ隊に抗議します。商店経営の鐘志明さんは、民主化を求める学生の訴えには反対しないが、商店街は甚大な被害を受けた。今は香港政府を支持する。中央政府が安定を取り戻してくれると言い切ります。「高度の自治」が保障されているはずの香港で、中国政府の介入に期待する声すら出始めています。

・香港の民主派団体は10月26日、10月末にデモ参加者の意見集約を目的に行う予定であった「市民投票」を棚上げすると発表します。投票は設問自体が、事実上、中国に対して決定撤回を求める強硬な内容で、実施されれば、香港政府側と民主派の対話継続が困難になる恐れがあると。

(米国政府などの動き)

・この香港情勢について、10月17日、18日の両日、米東部マサチュ-セッツ州ボストンで、米国のケリ-国務長官は中国の楊潔篪国務委員と会談し、大規模なデモが続く香港情勢について、米政府の「懸念」を伝え、警官隊に自制を求めるとともに、学生代表との対話を促す。

・台湾の馬英九総統は9月29日、香港で続く行政長官選挙の制度改革をめぐる学生のデモについて、「完全に理解し支持できる」とし、中国政府に対し、香港の民衆の声を聞き、平和的で慎重な態度で処理するよう呼びかけます-中国の周近平国家主席が最近、台湾への「一国二制度」の適用に言及したこともあり、台湾では同制度の下にある香港で、中国側が統制を強めていることへの警戒感が広がっているためです。

【経済の一体化】

(白書を発表)

・中国は「“一国両性„在香港行政区的実践」とする白書を本年6月に公表します-白書は1997年から2013年至る16年間の香港の経済社会の発展を回顧(27項目)し、“経済の一体化„を強調する。特に株式市場への中国企業の上場企業総数の48.5%、時価発行総額の56.9%になっているとの見解です。香港の株式市場の現状は、明らかに中国企業によって支えているといっても過言ではありません。

(一段の中国化)

・香港の人々は“二制度„を強調し、香港の民主化を要求すしますが、中国政府は、白書において「“一国„であることを忘れてはならない」、「“愛国„が香港の繁栄をもたらす」と主張します。現状は、香港経済は中国経済の一部となり、一体化は進んでいます。このように経済の諸分野で香港は中国の掌中となり、香港の「一国二制度」は“一国一制度„になりつつあります(注2)

・同時に中国・香港の関係をめぐる政治的軋轢がより深まることは不可避です。その軋轢が香港の国際的地位を後退させ、ひいては香港経済の繁栄を損なないかねない要素であることには十分な留意する必要あります。

【所   見】

(懸念的中)

・香港から17年を経て、終に中国の対香港への姿勢は“衣の下の鎧„が見えた感じがします。香港返還時に、香港大学社会科学センタ-の調査で、中国復帰を「特に何も感じない」と答えたものが48%で最高です。そのほか「歓迎、期待、楽観」などプラス評価するものは35%、「憂慮、恐怖、悲観」などマイナス評価するものが9%です。当時、筆者の香港の友人は「香港の将来は中国の掌中にあり、何れ中国の本格的な対香港政策が出てくるとの予見をしていましたが-やはりでした。

(法治強化と効用)

・最近、中国の「4中全会」(中国共産党中央委員会4回全体会議)が開かれ、10月23日発表されたコミュニケ(5200字)の中で、周近平総書記は実に58回も「法治」を使用します。1カ月にわたる民主派のデモが続く香港については「法に基づいて、「一国二制度」を保障し、香港の長期の繁栄と安定を期待する」と強調します。

・皮肉にも、「4中全会」で確認した中国の「法治」の方針が香港の民主派を勢いづけている。香港で座り込みのデモを続ける学生団体は「法治」を逆手に取り、理詰めで全人代の決定撤回を迫ります。中国の憲法に基づき全人代常務委員会の決定は年1回開く全人代の会議で変えることができるはずだと(注3)

・中国共産党が掲げる「法治」は、党主導で決めた法やル-ルを国民に順守させることを意味します。それは事実上の一党支配を維持するためであり、立法、行政、司法の三権分立を前提とする国際社会の「法治」のイメ-ジとは大きく違います。

(二人の周永康)

・1997年以降、700万人が住む香港は中国との諸関係において難しい局面を迎える中で、現在、中国政府と香港政府の狭間にある民主派学生団体の大学生連合会(学連)事務局長の香港大4年生周永康氏(24歳)の存在が注目されています。偶然だが中国最高指導部経験者で汚職などの容疑で立件された71歳の周永康氏と同姓同名です(注4)。2人とも習近平指導部が対処に頭を痛めている存在です。学連周永康氏の指導力の評価について、同世代の香港の女子大生は、同氏の熱弁を聞いていた印象を「彼は民主社会のために身を捧げている」と。しかし、民主派主導の「市民投票」は中止となり、民主派内の足並みの乱れを印象づける結果となり、今後の周永康氏の動きが注目されますが、中国の動向も気になるところです。

(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(注1)現地で見て感じた「香港返還」丸屋 豊二郎(アジア経済研究所海外調査委員)広大フォ-ラム(広島大学)、293号、199710月1日

(注2)「経済の進路」、三菱経済研究所、2014.10No.631

(注3)「日本経済新聞」20141025

(注4)「産経新聞」20141026

アリババ集団のニュ―ヨ―ク証券取引所への上場

2014年10月5日

【概   況】

(上場の反応)

・2014年9月19日、世界の投資家はニュ-ヨ-ク証券取引所(以下、NY株式市場)が開くのを待っていた。注目される中国の電子商取引最大手アリババ集団(以下、アリババ)の同市場への上場(IPO)である。取引開始を告げるベルが9時半に鳴るや、株価は急騰し、公募価格(68ドル)を38%上回る93.84ドルで初日の取引を終え、館内は驚きの渦に巻き込まれた。この上場でアリババの株式の時価総額は2314億ドル(約25兆円)に達した。米アップル社(約6000億ドル)には及ばないが、フェイスブック社(約2000億ドル)を上回り、ライバルのアマゾン社(約1500億ドル)より5割以上高く、日本企業トップのトヨタ自動車(約22兆円)も上回る規模。

・フロア-にはアリババの創業者馬会長(ジャック・マ-)が姿を見せると、大きな歓声が沸いた。馬氏は、すぐさま米国経済専門チャンネル「CNBC」のスタジオに座り、滑らかな英語で語る-「上場で大事なのは、お金を得ることでなく、人々の信用を得ることだ。15年後には、米マイクロソフトやIBMのように世界を変えた企業だといわれたい」と。同チャンネルのキャスタ-は「中国一富豪の次は、日本一リッチマンの登場です」と紹介した-ソフトバンク社長孫氏は「アリババは国外に事業を拡大するチャンスを得た」と語った。そして、「将来に向けて共闘していきたい」とエ-ルを送っている。

(孫正義氏の存在)

・NY株式市場内で、馬会長(50歳)と孫氏(57歳)が偶然に会ったわけではない。二人は親友で、その関係は15年前に遡る。アリババは、1999年9月に元英語教師の馬氏が操業する。当時、中国がWTO(世界貿易機関)に2001年に加盟することで、輸出が爆発的に増えるとみた同氏は、中国の中小企業と海外の買い手を結ぶ業者間通販サイトを立ち上げたが、1年後には資金難に直面した。同年の秋、ソフトバンクの社長から人づてに、馬氏は北京の某ビルに呼ばれた。起業家たちが出資を得ようと事業を説明する場であった。

・馬氏と孫氏は“運命的出会„いをする。馬氏が事業計画を説明し始めて6分後、突然孫氏が遮った。「あなたの会社に決めた。いくら欲しい?」ソフトバンクの当初の出資は2000万ドル(約20億円)であった。追加出資を含めたソフトバンクの持ち分は、直近の簿価で約1300億円。それが今回の上場で、一気に約8兆円の含む益を得る計算になる。同社の出資比率は32.4%で、筆頭株主である(注1)。

【会社の概況】

(商品開発)

・馬氏は1964年、浙江省杭州市(省都)生まれる。12歳の頃から市内のホテルに通い、欧米の観光客のガイドを引き受け、独力で英会話をマスタ-した。地元の大学(杭州師範学院)を卒業し、5年間、英語教師として勤めた後、通訳会社を設立。ここまでは平凡であったが、1995年、通訳の仕事で渡米しインタ-ネットと出会う。帰国後、自社のホ-ムぺ-ジを作り、“チャイ二-ズ・ドリ-ム„が始まる。2万元(当時約20万円)の出資金で企業向けSNSサイトを開設する。

・1999年9月、馬氏ら18人が企業間の電子取引サイト「アリババ・コム」を開設した後、2000年にはソフトバンクが約20億円出資する。2003年、個人向け通販サイト(ネットオ-クションサイト)「陶宝網」(タオパオ)、2004年、電子決済事業「支付宝」(アリペイ)を立ち上げ、2005年、米ヤフ-が10億ドルを出資する。2008年には仮想商店街サイト「陶宝商城」(現・天猫=Tモ-ル)を開設する。

・2013年6月、個人向けのファンド投資サ-ビス「余額宝」を始める。中国の銀行金利よりも利回りがよく、“余った資金が宝になる„仕組が人気を呼んだ。アリペイで購入できる手軽さもあり、1億人から5千数百億元(9兆円以上)の資金を集める(注2)。

【経営戦略】

(経営の巧みさ)

・アリババが成長した背景には、経営戦略の巧みさがある。中国の消費者向け通販サイトで米イ-ベイが先行していたが、アリババは「当初は出店手数料を受け取らない」とする低価格戦略で圧倒的なシェアを握った。大きな飛躍は代金を渡したのに品物が届かないといった不安を解消したことである。

・2004年に独自の決済サ-ビス「支付宝(アリペイ)」を導入。消費者から代金をいったん預かり、品物を受け渡しされた時点で業者に支払う仕組みで信用を得た。アリペイは他のネット通販サイトでも使えるほか、“光熱費や家賃„の支払いもできる魅力のひとつである。

・アリババは現在、中国で約3億人が実名の口座を持つ。昨年には、預金に利子をつける金融商品の開発、瞬く間に10兆円規模の「預金」を集めている。ただ、盤石にみえる国内でもソ-シャルメディア最大手の騰訊(テンセント)、ネット検索最大手の百度(バイドゥ)との分野を超えた競争は続く。米国など先進国では「低価格品の販売」とのイメ-ジがある。上場で得た資金を買収を通じた“ブランド向上„への取り組みがカギとなる。

・中国電子商務研究センタ-によると、2013年の中国のネット通販市場規模は1兆8851億元(約30兆円)である-中国の小売総額の8%を占めるまでになり、アリババのシェアは8割を超える(注3)。

(金融緩和)

・この時期にアリババが上場した意図は、世界的な金融緩和による「カネ余り」も熱狂の背景にある。米ダラス地区連銀のフィッシャ-総裁は、「金融緩和がアリババ株の上昇支えているともいえる。馬氏は賢明な男である。問題はいつまで続くかである」と、米国のテレビに語っている(注4)。

(業務提携)

・アリババ集団は中国郵政集団公司と本年6月12日北京で、戦略的協力枠組み協定を締結した。双方は物流・電子商取引(EC)・金融・情報安全などの分野で全面的に協力を推進し、中国スマ-ト物流ネットワ-クを共同建設する-その主な戦略は①全国スマ-ト物流ネットワ-クの共同建設。②金融サ-ビスプラットフォ-ムの共同建設。③クロスボ-ダ-ECサイトを支援する。④利用者の情報の安全・秘密・信頼・トレ-サビリティの全面的な保障をするなどである(注5)。

(プライベ-ト)

・馬会長の趣味は、太極拳とカンフ-小説である。暮らしぶりはシンプルといわれている。反面、創業10周年のイベントでは、ロックバンドばりの奇抜な衣装とメ-クで映画「ライオンキング」の劇中歌を披露する一面もあり、多才である。興味をひくのは中国の大気汚染のなどを踏まえた“環境保護活動„にも積極的であるという。

・同会長の人柄について-富士通総研経済研究所の金堅敏主席研究員は3年前に大阪で開かれた「日中企業家交流会」で、馬会長と話をしたことがある。「故郷が同じ杭州だったので、すぐに打ち解けた。馬氏の考え方は、グロ-バル的である。海外市場を意識し、資金の調達や人材の確保を海外に求めることもいとわない。「市場・資金・人材」も中国国内だけに目を向けがちな他の企業家とは異なるとの印象」-と話す(注6)。

【問 題 点】

(情報公開)

・NY株式市場への上場は驚きをもって迎えられ、順調な滑り出しをみせたが、反面、この騒ぎに距離を置く声も目立つ。ある投資家は米国メディアに「人々の興奮こそ警戒が必要だ」と語っている。2年前に同じく歓迎を受けて上場した「フェイスブック」は上場後まもなく株価が急落したが、この要因として経営の透明性は確保されているかが問題となった。“要は情報公開„の有無である。アリババは、パ-トナ-と呼ばれる特別な役員だけが取締役の過半数を選任できる制度を取っているため、アリババの3割以上の株式を保有する筆頭株主のソフトバンクでも、アリババの取締役は1人しか選任できない。この点に関し、同社は重要な資産が上場会社ではなく、中国法人に集中しており、馬会長ら経営陣が取締役会の過半数を任命できる企業統治手法をとる。海外では「実態がつかみにくい」との指摘が多い(注7)。

・本年6月、「アリババは危険の高い投資先だ」と、米国議会の委員会で警鐘乱打する報告書を発表している。この懸念に関して、アリババ自身も事実を認めており、「多くの資産は中国にあり、投資家が介入できない事態がありうる」。同社が米国証券取引委員会(SEC)に提出した「目論見書」にも記載されている。アリババは実は「空っぽの箱」にすぎない。経営の実体や資産の多くは中国にあり、米国の規制当局が介入できない可能性があると(注8)。

(企業統治)

・巨大企業化するほどアリババには常に企業統治は大丈夫かとの懸念も絶えない-亜細亜大学アジア研究所の遊川和郎教授(現代中国学)は、アリババの企業としての不透明な点を指摘。今回、NY株式市場ではアリババのやり方を受け入れたが、統治構造は不透明である。中国国内では最近、“馬会長が政治と接近しすぎている„という批判もあり、スキャンダルでも起きれば李克強首相の捨て石になる可能性もあるとの見方がある(注9)。

・1999年9月、浙江省杭州市の高級マンション「湖岬花園」-創業まもないアリババに2人の権力者が激励に訪れた。当時の浙江省のトップで、現在は党序列3位の張徳江・全国人民代表大会常務委員会委員長と、後に杭州市党委書記になる王国平氏である。名もないベンチャ-企業に党の重鎮が訪れることなどあり得ない。関係者によると馬氏の父親は杭州の高級官僚。そのつてで党・政府とのつながりを持っていたようである。社内は党・政府の幹部の子弟を受け入れる部門もあるとされる(注10)

・これまでのアリババの“勢い„に目を付けた中国政府は、「余額宝」への投資を制限する法案を検討中だとか、当局の規制外の「余額宝」は、中国経済の崩壊させかねないシャド-バンキング(影の銀行)に当たる。それでも中国政府は「余額宝」はつぶすことはないだろう。現に中国人民銀行の周小川総裁は本年3月に、「余額宝のような金融商品を禁止することはない」と明言している(注11)。

・アリババは、庶民の意向を反映した商品開発を次から次へと手掛け、現在のアリババを築き上げた。しかし、2011年にアリペイを株主の承諾を得ないで自らの個人企業の傘下に加え、株主と対立するなど、強引な手法を指摘する声もある。2007年に「アリババ・ドット・コム」香港証券取引所に上場し、株式の時価総額は当時、2兆円を超えたが、同社は2012年、“株主の平等に反した„ことで上場廃止となった。

(成長性)

・アリババの今後の行方について-前掲の遊川和郎教授は「アリババは大手国有企業が殿様商売でやらなかったところで、新機軸を巻き起こしている」と説明している。事業は今や電子取引だけにとどまらない。昨年の同社の総取引高は2480億ドルで、「アマゾン」と「eベイ」の取引高を足しても届かない。

・アリババの巨大さを本当に理解するには、中国の電子取引の成長ぶりと、同社がこの業界の覇者であることを理解しなくてはならない。中国のネットユ-ザ-は6億3000万人以上で、米国の人口の2倍だが、中国の人口の半分だからまだ伸び代がある。アリババは市場の80%を握り、そこから80%の利益を得ている(注12)。

【所   見】

・2014年9月29日、中国の「銀行業務監督管理委員会」が、アリババが30%出資する「浙江網商業銀行」の設立を認可した。同社が運営する「陶宝網」(タオパオ)などに出店する中小・零細企業などが融資対象であるとみられる。アリババの業務は多岐にわたり、ネットユザ-の6億3000万人をベ-スに、新たな業務展開は必至である。もっとも、今の姿は創業者の馬会長が唱えてきた「スモ-ル・イズ・ビュ-ティフル」の理念とかけ離れてきたのも事実である。膨張し続ける「アリババ帝国」は上場を機にどこに向かうのか明確な航海図はまだみえていない。

・中国のネット企業への投資はチャンスなのか。それとも危険な賭けなのか。アリババのNY株式市場への上場で、米国金融市場はこれまで目をつぶってきた中国リスクに向き合わざるをえなくなっている。アリババの事業拡大の背景には、馬会長と政治の関係が不透明であるとの見方がある。本年7月21日、「ニュ-ヨ-クタイムズ紙」の長編評論「アリババ背後にある多くの「紅二代」(高級幹部の子弟)株主が米国上場の真の勝者」を掲載し、深い政治的背景を持つアリババの投資会社の状況を明らかにしている。同社の巨大化の背景には馬氏の政治力と有力な政治家との関係がある。この不透明な関係は到底払拭されるものではない-その行方を注視しなくてはならない。

         (グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「東京新聞」2014年9月23日

(2)「東京新聞」2014年9月23

(3)「日本経済新聞」2014年8月6日

(4)「朝日新聞」2014年9月21日

(5)「人民網」(日本語版)2014年6月13日

(6)「東京新聞」2014年9月23日

(7)「日本経済新聞」2014年9月20日

(8)「日本経済新聞」2014年8月7日

(9)「東京新聞」2014年9月23日

(10)「日本経済新聞」2014年8月8日

(11)「NewsWeek」September30,2014(日本語版)

(12)「NewsWeek」September23,2014(日本語版)

 


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