2015年05月

中国「一帯一路」構想の重要拠点ギリシャ・ピレウス港の現状

2015527

【相次ぐ首脳訪問】

・李克強首相は2014619日、ギリシャを訪問。サマラス首相と会談し、海運やエネルギ-など約20分野の経済協力で一致し、総額46億ドルの貿易投資協議に調印。620日午前、同国のサマラス首相とピレウス港の中国遠洋運輸集団(コスコ)が運営するコンテナ埠頭を視察した。その後「中国・ギリシャ海洋フォ-ラム」にサマラス首相と揃って出席し、講演を行っている。ギリシャが今夏から再発行を予定している国債を、購入する予定があることを明言。

・李克強首相がギリシャを訪問した僅か1カ月後の2014713日、習近平国家主席は、第6BRICS首脳会議出席のためブラジルなど南米4カ国訪問の途中、急遽ギリシャの有名な観光地・ロドス島を訪問する。中国の外交史上、初めての異例な行動の背景には、地中海と欧州南部の関門であるギリシャのピレウス港の運営権の協議ためである。ルロス・パプリアス大統領、サマウス首相と会談、特に「ピレウス港開発など両国合作プロジェクトを推進して両国互恵協力の模範をつくろう」と強調する。

【ピレウス港への触手】

・アテネ近郊のピレウス港は欧州の入り口に位置する海上物流の要衝である。同港の第2、第3コンテナ埠頭を、コンテナ取扱量で世界6位のコスコ・グル-プ(COSCO/中国遠洋集団)2008年に49億ユ-ロを投資し、35年の運営権を獲得する。この背景には欧州へのゲ-トウエ(玄関)として、中国製品を陸揚げし、ピレウス港から貨物列車でマケドニア、セルビア、ハンガリ-、オ-ストリア、チェコなど中欧や東欧に輸送する考えである。

2015219日、ピレウス港に停泊中の中国海軍最大大型揚陸艦「長白山」の甲板上に就任したばかりのチプラス・ギリシャ首相の姿があった。アデン湾での海賊対処活動を終えた中国海軍第18護衛艦隊が英、独、和蘭、仏を訪問後、ピレウス港を訪れた。入港時期が中国の春節と重なり、チプラス首相を「長白山」艦艇上で催された新年会に招待された。同首相は中国語で挨拶後、「ギリシャは、中国と協力して海洋協力年を執り行い、コスコのピレウス港の投資事業を積極的に支持し,中国のギリシャへの投資拡大を歓迎する。ギリシャは、21世紀海上シルクロ-ド及び中欧ヨ-ロッパにおける陸上・海上高速輸送建設に積極的に参加したい」と述べる。

GRI_0527(ビジュアル大辞典 世界の国々/昭文社/p70)

【一帯一路の拠点】

・「一帯一路」構想を推進するためにピレウス港は中国の最重要拠点である。本年215日、李克強首相は新任のチプラス首相と電話会談し、「ピレウス港の投資事業についての約束を守るように」と念を押したのは、211日、ギリシャ政府の報道官は、「ピレウス港とテッサロ二キ港の民営化をもはや検討していない」と明らかにしたためである。コスコの子会社ピレウス・コンテナ・タ-ミナル(PCT)2つのコンテナ埠頭を運営し、約100人がターミナルで働くが、中国人はCEO(最高経営責任者)ら7人だけ。従業員の一部には日給58ユ-ロ(7800)が支給されており、現在のギリシャでは厚遇である。中国人幹部とギリシャ人社員の会話も和やかである。

・中国のコンテナ埠頭の拡張工事により、コンテナ取扱量は480万個(TEU=20フィ-トコンテナ換算)へと飛躍的に増え、将来は620万個まで増やす予定である。ピレウス港とチェコなど中欧を結ぶコンテナ列車は、現在は週に34本しか運行していないがが、毎日走らせるようにしたい」と広報責任者は意気込んでいる。

・中欧への物流インフラは(鉄道、道路)十分に整備されていないが、ピレウス港からだと、オランダ・ロッテルダム港、ドイツ・ハンブルグ港などを経由するより10日間短縮できる。201211月、コスコとギリシャ運輸省傘下の国営鉄道会社のトレノセ(TORAINOSE)およびヒュ-レット・パッカ-ドとの間で、輸送に関する契約を締結すると発表。このため、ピレウスから約30Kmに建設中の貨物タ-ミナル駅へ、約17kmの貨物線が開通する見通しがたち、中欧、東欧へのアクセスが可能となり、中国はこの地域の物流を一変させることになる。中国はアテネ国際空港、鉄道、カスチリ空港(クレタ島)などの民営化計画にも関心を払っているが、チプラス首相は国有資産の売却には否定的である。

・中国とギリシャとの間には、海運用船、通信、建設、観光分野への投資に関する合意が20106月に締結している。ギリシャ外務省によると、同国最大のヘレニック・テレコムミュニケ-ションズと通信分野で中国最大の「華為技術」との間で、ギリシャへの通信インフラを提供する契約は調印済みである。

【ギリシャ政府の混迷】

・チプラス新政権は127日に発足する。211日、ギリシャ政府の報道官はこれまでの改革路線を見直す一環として、ピレウス港の管理会社の株式67%を売却する計画を取りやめたと表明したことで、放出される株式の取得で同港を手中に収めようとしていた中国は困惑し、翻意を促している。国有資産の売却を財政再建の主要命題とする前政権は、ピレウス港運営会社の株式67%の放出を計画。中国政府の強力な後押しをコスコは、買い手の有力候補の一つである。

・しかし、514日、ロイタ-通信はギリシャ政府が凍結していたピレウス港の民営化手続きを再開したと報じた。欧州連合(EU)などからの金融支援再開に向け、譲歩を示したためである。もともと入札に参加していた5社のうち3社は中国のコスコ、海運最大手のAPモラ-・マ-スク傘下のAPMタ-ミナルズ、フィリピン港湾運営インタ-ナショナル・コンテナ・タ-ミナル・サ-ビンズなどである。再開する入札手続の要点は-①売却する株式の比率を67%から57%に引き下げる。②5年以内に3億ユ-ロ(4000億円)を投資すれば、67%への買い増しを認めるというもので、売却先の決定は9月末以降の見込みである。

・直近の「News Week(2015/6/)によると、中国の外にドイツ、ロシアなどまで、ギリシャの国有資産の叩き売りに群がっているという。売却対象は空港、高速道路や電気・ガスなどの公益事業にまで及んでいる。売却プロセスを一括して担う国有資産開発基金(HRADF)のウエブサイトをみると、多くの不動産が売り出されていることが分かる。なかでも主要なものは、観光需要の高いコスやミコノス、コルフ各島の空港を含む14の地方空港をドイツの空港運営会社フラポ-トAGに売却する計画も進んでいる。

【所   見】

・世界地図を見ると、ピレウス港が地中海で艦隊を展開する際、最良の拠点となる。中国は「一帯一路」構想を推進するには軍事力の裏付けが必要であると考えており、既述の「長白山」が、ピレウス港に寄港したのも軍事力を誇示するための示威行動であった。現状の喫緊の課題はドイツ型の均衡財政と構造改革の推進が金融支援再開に向けての条件である。直近ではラトビアの首都リガで、EUとギリシャとの話し合いが行われたが(522),メルケル首相は、ギリシャに対して「なすべきことが多い」と語っている。6月にも突発的なデフォルト(債務不履行)に陥るとの懸念が広がっている。

・この交渉の行方を注視しているのが中国である。「一帯一路」構想の前進基地のピレウス港の“民営化は必須条件”であり、この点についてはEUと同一条件である。ギリシャ人の性格は極めてSelfishで、頑固で、それを前面に出しても恥ずかしくないという“厚顔ぶり“である。この国民性を懐柔するのは難題であるが、比較的に上手にギリシャとの関係を構築してきた中国でもある。これまでにEUはギリシャ再生に多くの金を注入し、中国も国家戦略を推進する上で、多額の金を注ぎ込んできた。「一帯一路」構想は中国の国是となった。これまで以上にギリシャとの協調を図ることが重要である。

                      (グロ-バリゼ-ション研究所)代表 五十嵐正樹

 (   )

・小原凡司評論「中国(一帯一路)構想と高まる軍事プレゼンス」。ギリシャの 港に中国海軍の艦艇。WEDGEInfinity,2015313日、「フォ-サイト」2015313日。

・「ギリシャ新政権が方針転換、ピレウス港民営」「THE WALLSTREET JOURNAL2015211日。

・豊島逸夫評論「ギリシャ不安にほくそえむ中国」日本経済新聞、2015126日。

・豊島逸夫評論「欧州の入り口」日本経済新聞、201265日。

・有馬めぐみ評論「中国によるギリシャ・ピレウス港支配の行方」WEB RONZA

・邦字各紙(日本経済新聞など)

・中国ネット(チャイナネット/人民網など)

・米国各紙(NewsWeek/ウォルー・ストリト・ジャール/ブル-ムバグ-など)

アジアインフラ投資銀行について(3)

                                                                                                                              2015年5月5日

【中国の余裕】

20154月中旬、米首都ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、中国が主導して設立に動くAIIBの存在感を鮮烈に印象づける場となった。同22日、中国の習近平国家主席はジャカルタで開催されたアジア・アフリカ会議(バンド会議)60周年を記念する首脳会議で演説し、AIIBを念頭に「公平かつ公正、寛容な国際経済と金融体制の建設を推進し、発展途上国のために良好な外部環境をつくる」と表明し、先進国中心の既存金融体制に対抗し、途上国が主導する新たな体制構築を急ぐと宣言。この歴史的日から66年前、毛沢東が天安門上で中華人民共和国成立を高かに宣言した-誰が今日の中国を創造したであろうか、毛沢東さえも・・・・・。

【日米の困惑】

・習近平国家主席によるAIIB構想は、中国の存在感を改めて世界に知らしめた。反面、米国政府の対中認識の甘さを世界に露呈し、米国議会の共和党のエゴは、米国の国際金融面の存在感をより一層弱めた。安保法制の強化を謳った日米同盟の高揚の中で、日本はAIIBの加盟問題でも米政府との共同歩調をとり、国益の面で、若干の疑念を持つ。日本のAIIBへの頑な姿勢に対して、ジャカルタの会議で中国側が日中首脳会談に応じたのは、日本を懐柔する狙いがあったとの見方がある。

・安倍首相は「多くのインフラ需要がある」と、AIIBの意義を評価しつつも、不透明な運営方法や融資審査などの問題点を指摘している。オバマ米大統領はAIIBに対して、「世界でも最も成長の速いアジア太平洋でル-ル作るのは、中国でなく米国だ」と繰り返し訴え、中国への対抗心を隠そうとしない。日米首脳会談でもオバマ大統領はAIIBに関しても厳しい見方を示した。

【中国の展開】

・日米の政府関係者などからAIIB構想の問題点などへの発言に対して、中国のメディアは-①日米は参加もせずに外野からあれこれとやかましく言っているだけに過ぎない。高い基準というが、実際には絶対的な基準があるわけではない。②世界銀行やアジア開発銀行の素晴らしい経験は参考になるが、AIIBは既存の国際金融機関を100%コピ-するわけにはいかない。創設メンバ-の57カ国は平等な話し合いと協力で、ウインウインの原則を踏まえて、共通認識を最大限に追求し、国際的に高い基準を順守して創設準備を推進する。

2015415日、AIIBの創設メンバ-が計57カ国で確定した。日米が最大の出資者で67カ国・地域が参加するアジア開発銀行(ADB)に迫る規模である。習近平指導部はAIIBをテコにアジア全域で陸と海のインフラ整備を主導する体制を整え、「シルクロ-ド構想」(一帯一路)と呼ばれる経済圏づくりに向けた一歩を踏み出す。設立スケジュ-ルはかなり急ぎ足である。中国は5月にかけて各国の出比率などを決め、6月末に設立協定を結び、年末に運営を始める段取りを描く。習近平国家主席がAIIBの創設を提唱してから、わずか2年余りで実現にこぎ着ける構えである。

AIIBの第4回首席交渉官会合が4月28日に北京市で閉幕した。創設メンバ-となる57ヵ国のリストが最終的に確定され、各国の関係者が北京に初めて集結した。中国財政部が発表した情報によると、同部副部長の史耀斌が主宰し、AIIB多国間臨時事務局秘書長の金立群氏が出席した。会合では、資本金の国別の出資比率や融資基準などについて論議された。次回は520日、21日にシンガポ-ルで開催の予定。創設メンバ-国の関係者によると、中国側は本部が置かれる予定の北京に理事を常駐させない方向で検討していることが明らかになった。中国の方針として、AIIBは各国代表による理事会を置くものの、常設せず、総裁以下の権限を強める方向である。運営コスト削減できるが、融資案件が中国の意向に左右される懸念が残る。

【日米の動き】

AIIBは多くの問題を内包し、本年末までに業務開始のための準備を進めている中、52日、日米が主導するADB年次総会がアゼルバイジャンの首都バク-で開かれた。中尾武彦総裁は記者会見で、ADBの融資能力を現在の年間約130億ドルから2017年に最大1.5倍の約200億ドル(24000億円)に拡大するとの方針を発表。中尾総裁は「AIIBとは関係ない」としたが、融資手続きの迅速化を進める方針を強調し、対抗意識をにじませた。

・この総会前、51日、中尾総裁はAIIBの設立事務局の金立群事務局長と会談し、投資案件を巡り双方が協力していくことなった。同総会に出席していた麻生太郎財務大臣は53日、日本からアジアへのインフラ投資を拡充するための包括案をつくる方針を表明。国際協力事業団(JICA)を活用してADBと協力して枠組みを創設し、新興国のインフラ事業を立案段階から支援し、官民一体で資金供給を増やす

と述べている。

【所   見】

・中国主導のAIIBの「創始メンバ-」が57カ国で確定。日米は一時、疎外感と孤立感が漂った。しかし、日米はこの現実を座視することはできない。米国の盟友英国、G7の大半のメンバ-が加入し、戦後、一貫してIMFや、世界銀行、ADBの主導権を掌握してきた米国と日本のスタンスは、①中国が主導するAIIBは、謎多き国際金融機関との認識が支配的である。②AIIBは、米国に肩を並べる形で自国の影響力の強い経済圏(一帯一路)をつくる中国の意図が透けてみえる。

・日米首脳会談後、日本主導のADBへの日本政府の動きが活発になった。麻生太郎財務大臣は良質なインフラ投資の拡充に取り込む姿勢を強調する。このように日米当局は当面、ADBへのテコ入れを強化することで、AIIBの動きをみることになる。

・日本のAIIBへの加入問題について-日本の知識人の中には参加しないと日本の存在感が弱まるとの専門家もいるが、参加したら日本の存在感はさらに弱まるものと思われる。伊藤隆俊コロンビア大学教授は、「AIIBには多くの問題点があり、拙速な参加はすべきでない。現状における日本政府の判断は.“至当”」であると。

                                     (グロ-バリゼイ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(資 料)

・邦字各紙(日本経済/朝日/読売/毎日/産経)

・外国メディア(チャイナネット/人民網)/Bloomberg.co.jp

(参 考)

・拙稿ブログ「アジアインフラ投資銀行」について2015224日。

・拙稿ブログ「アジアインフラ投資銀行」について(2)2015324日。

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