2016年10月12日

〖キューバ概況〗

・カリブ地域で最大の国土(約10万9898平方キロ/本州の約半分)と人口(1126万人〈2014年:世銀〉)を有するキューバ(キューバ共和国)は、1959年のキューバ革命でラウル・カストロは政権を樹立した。爾来、今日まで続く社会主義国家で、2011年4月、13年半ぶりに開催された第6回共産党大会で、今後、社会主義体制の原則を維持しつつも、経済・社会に関する改革を進めていくことを明らかにした。

・2015年7月、米国とキューバは交渉の結果、54年ぶりに国交を回復した。オバマ大統領は2016年3月、現職大統領として88年ぶりにキューバを訪問し、1959年のキューバ革命以来続いた対立の歴史は大きな転換を迎えた。以降、クルールズ船の運航も始まるなど米国からの渡航者が急増し、8月31日、50数年ぶりに定期航空便は再開した。しかし、米国の経済制裁は未だに解消されていない。

・キューバの首都ハバナの人口は213万人。民族別にみると、混血50%、白人25%、黒人25%である。宗教人口は53%がカトッリク、ほかにプロテスタント、ユダヤ教など。言語はスペイン語。資源の賦存状況をみると、コバルト・ニッケル/鉄鉱石/石油などで、“リチウムイオン電池”の原料となるニッケルやコバルトは世界有数の埋蔵量(世界第2位)を誇る資源国である。

・キューバは数字上、日本を上回る世界トップの識字率を誇り、平均寿命は約80歳という途上国らしからぬ長寿国。医療、教育費の無料化は1959年のキューバ革命以来、革命家のチェ・ゲバラ氏、フィデル・カストロ氏の率いる革命政権の目玉策で、今日まで引き継がれている。キューバは国の宝である医師5万3000人を近隣のベネズエラやアンゴラなど世界66カ国に派遣し、有力な外貨獲得源となっている。
12 (出典:Joytrip)
 

〖首脳訪問〗

・2016年9月19日、イラン大統領がキューバを訪問(参照1)。その後に日中首脳が第71回国連総会終了後、日本・安倍晋三首相(22日)、中国・李克強首相相(24日)が相次いで訪問、その端緒を開いたのは現職のオバマ米大統領の88年ぶりの訪問である。日本の首相は54年ぶり、中国の首相は56年ぶりの訪問である。2014年7月、習近平国家主席が訪問。

・今回の日中首脳のキューバ訪問の目的は、オバマ大統領訪問後の米国の対キューバ略強化に対する両国の戦略の一環である。この背景には、キューバがカリブ地域で最大の国土と人口を持つ国で、対米戦略、対中南米戦略に極めて重要な地点に位置(北米と欧州をつなぐハブ)している。

〖首脳の動き〗

「安倍首相」

(長い歴史)

・安倍首相のキューバ訪問は、2016年9月22~23日。ラウル・カストロ国家評議会議長との会談(22日)で、安倍首相は「キューバは魅力的な投資先として可能性持つ国である。官民挙げての発展に協力したい。支倉常長(はせくらつねなが)の慶長遣欧使節団の当地訪問以来(参照2)、400年続く友好の歴史に新たなぺージを開きたい」と述べ、関係強化への意気込みを示した。首脳会談は夕食を含め、3時間30分に及んだ。

(日本の提案)

・安倍首相は首脳会談の際、13項目の経済協力案を同議長に提案-①長期債務の一部である1200億円の免除、②農業分野の支援、③投資環境整備に向けた「国際協力機構事務所」(JICA)の開設、④米国の長い経済制裁によるインフラの老朽化や医療機器不足への支援、⑤低い食料自給率への支援などを挙げている。

(キューバの反応)

・キューバは経済改革を推進する上で日本政府のアクセスは渡りに船である。キューバの共産党機関紙「グランマ」(電子版)は22日、「日本の首相の歴史的な訪問」と、安倍首相の到着を伝えた。当日の紙面では首相へのインタビューを大きく掲載。他国の首相の訪問前のインタビューを紹介するのは稀で、キューバが日本に寄せる期待の表れとみられる。

・同日夜の国営ニュースは、安倍首相とキューバ革命のカリマス的指導者フィデル・カストロとの会談(約70分間)を報じた。フィデル氏は、「世界が直面する脅威や核兵器廃絶のための努力の必要性ついて」語る。

・安倍首相は冒頭で、過去2回、フィデル氏の広島訪問について触れ、「二国間関係は大きく進展した」と述べたのに加え、北朝鮮の核・ミサイル開発や日本人拉致被害者の帰国実現に向け、協力を要請する。

・最近の情報(10月7日)によると、キューバ外国貿易・投資省アジア・オセアニア政治商業局のリゴベルト・エノア局長は、9月の安倍首相のキューバ訪問よって、日本企業の投資環境などが整ったと強調。将来的な日本からの円借款や新幹線導入などに期待を寄せた。

「李克強首相」

(共通課題)

・安倍首相がキューバ訪問を終えた翌日の24日、李克強首相は中国首相として1960年の国交樹立以来、初めてのキューバ訪問。同日、ラウル・カストロ国家評議会議長と会談し、李首相は以下の諸点に言及する。

・中国とキューバは共に経済発展民生改善という差し迫った課題に直面。

・中国はキューバと同国の工業化、インフラ整備などに協力。

・再生エネルギー、医療、工業などの30プロジェクト協定に調印。

・人的、文化的交流を実施し、青年の人材育成の強化。

・両国の発展の中で世々代々受け継がれるようにしたい。

(キューバの反応)

・カストロ議長は、李克強首相の提案について中国側の提案に賛同する。

・発展の中で中国の経験を学び中国側と緊密なハイレベル交流を行なう。

・実務協力を強化し、教育交流を拡大する。

・国際問題で交流や協力を強化し数多くの発展途上国の共通の利益を守りたい。

〖経済諸問題〗

「日   本」

(企業進出)

・2015年7月、キューバは米国との国交回復をしたが、経済制裁は続いている。ハバナ市内は、スペイン統治時代からの街並みやビーチなどの観光資源を持ちながら、地域をつなげる交通網は貧弱。インフラは未整備であることから開発需要が高い。

・この実情をビジネスチャンスととらえ、日本の大手商社、電機メーカーは事業拡大に動き出した。三菱商事は今年6月、35年ぶりにハバナに事務所を開設した。日立グループはハバナ事務所に日本人駐在員派遣し、火力発電所設備入れ替え、増設案件の受注を目指す。

(ODA絡み)

・資金回収のリスクは残る。当面は政府開発援助(ODA)案件を中心とするビジネスとの見方がある(大手商社)。同国は社会主義経済のため、外資に自国民の直接雇用認めず、事務所開設にも過去3年間で年間平均50万ドル以上の取引額実績が必要など、外国企業への規制が多く、問題である。

・こうした状況を踏まえ、日本政府は投資案件などを詰める官民インフラ会議を来年2月に開く予定。キューバの対日債務の大幅な免除の合意で、円借款を伴う大型のODA案件に道筋を付けた。医療や農業など日本企業が技術力を有する分野でもODA案件提案し、ビジネスチャンスを創出する。

日本政府のキューバへのODAプロジェクトをみると-⑴「主要病院における医療サービス向上のための医療機材整備計画」(平成28年度/供与限度額12.73億円)、⑵「ハバナ市歴史事務所文化館視聴機材整備計画」(一般文化無償/平成26年度/供与限度額0.75億円)、⑶「国立交響楽団に対する文化無償」(平成15年度/供与限度額0.33億円)などである。

「中   国」

(港湾整備)

・米国から経済制裁を受けるキューバにとって、中国は第2の貿易相手国で重要である。新華社通信によると、2015年の貿易額は22億ドル(約200億円)で前年比約60%も増えた。

・中南米には鉱物資源があり、また、キューバなど米国とは一定の距離を置く国も多い。中国の国益にとり、中南米諸国との関係強化は、米国主導の世界秩序に対する牽制でもある。

・北米と中南米の中間に位置し、パナマ運河に近いキューバは、コンテナ輸送の中継地である。中国は港湾整備に協力し、ハバナ郊外のマリエル港の周辺で工業団地の造成が進む。キュ-バは米国に歩み寄りつつ、中国も利用し、双方から利益を引き出す外交に長けた国である。

(進出企業)

・李克強首相は9月25日、キューバの首都ハバナで中国の大手バス製造メーカーである鄭州宇通客車株式会社のバスに試乗し、中国系プラント製造企業の海外進出状況を視察した。同社は2005年にキュ-バ市場に進出して以来、現在90%以上の市場シェアを達成。地元の交通状況を改善し、人々の生活を満たしており、雇用チャンスを創出するなどの貢献をしている。

(留学生)

・21世紀に入ってから中国人留学生3000人以上がキューバ政府の奨学金を受けて、キューバの大学で外国語や医学を学んでいる。キューバ国立バレエ団などの中国公演も頻繁に行われ、キューバのサルサ、葉巻、軍帽が中国の若者に好まれている。

〖メディアの評価〗

・今回の日中首脳のキューバ訪問について、キューバを中心としたスペイン語メディアの見方を集約すると-①スペイン紙『EL Pais』「日本と中国がキューバで、ビジネスで戦う」、②キューバ電子紙『Marti』「キューバ外交が極東に焦点を当てる」、③ラテンアメリカのシンクタンク『infolatam』「アジアの強国がキューバに橋を架ける」など、ほぼ好意的な論調である。

・安倍首相の評価について、『Marti』紙は、①安倍首相の訪問は、日本企業がキューバで投資するための道づくり、②その投資は観光やインフラといった新しい分野での開発にも向けることが可能、③米国による経済制裁や米大統領選挙結果の不安などから日本のような強力な国がパートナーとなってくれることは、キューバ経済にとって酸素吸入するように最大の重要性を持つ。

〖中国の対日評価〗

・安倍首相のキューバ訪問について、中国共産党紙『人民日報』系の『環境時報』は、①日本が中国に対抗し、中南米での影響力拡大を図っていると指摘するとともに、②困難を共にした間柄とは比べものにならないと、キューバとの関係は長い間、強固だと強調。

〖所   見〗

・安倍首相の世界を俯瞰する外交は、中国の対外戦略と競合関係にあり、これまでにアフリカ、アジア、中央アジアなどでみられる。その背景として、2013年、中国の習近平国家主席が提唱して以来、国策として推進している「一帯一路構想」がある。今回のキューバの場合も従前のように安倍首相と李克強首相のつばぜり合いの様相。

・今回の安倍首相のキューバ訪問は、キューバと米国は国交回復したが、米国の経済制裁は解除されず、キューバ経済は困難が続き、今回の安倍首相の訪問は時宜にかなったもので、同国政府の意向にそうものである。

・中国とのキューバとの関係は1960年以来の古い歴史を有しており、2012年7月、ラウル・カストロ国家評議会議長が訪中し、胡錦濤国家主席と会談。2014年7月の習近平国家主席のキューバ訪問、今回の李克強首相である。両国の関係は日本と違って、社会主義国同士の付き合い方がある。それだけに中国の対キューバ戦略は根の張ったものである。今後、安倍首相や後継者は持続的なキューバとの友好関係を維持することが二国間の発展にとって不可欠である。

(グローバリゼーション研究所)所長 五十嵐正樹

(資  料)

・邦字紙(朝日/読売/毎日新聞/産経/東京など)

・人民網日本語版/北京周報/新華網など

・双日資料

・外務省資料(キューバ共和国/日本のODAプロジェクト)

・ハ-バ-ビネスオン・ライン(HARBOR BUSINESS ONLINE)

・Pars Today(イランのニューサイト)

(参  照)

1イランのハサン・ロウハ二大統領は2016年9月19日、キューバを訪れ、ラウル・カストロ大統領国家評議会議長や兄のフィデル・カストロ前国家評議会議長と会談した。

フィデル・カストロ前議長とはハバナの自宅で行われ、国際情勢のほか、気候変動に伴う食糧の増産の必要性などの意見を交わした。

2日本とキューバの歴史は400前にさかのぼる。1613年(慶長18年)仙台藩領内で西洋式帆船(黒船)、サン・ファン・バウティスタ号を建造。当時、フェリペ3世を国王とするスペイン帝国は、世界最大の植民地帝国であった。伊達正宗は家臣の支倉常長を中心とする一行180余人をノビスパニア(メキシコ)、イスパニア(スぺイン)およびローマへ派遣した(慶長遣欧使節団)。1614年(慶長19年)、途中、薪水調達のため、カリブ海にあるキューバに立ちよる。首都ハバナには支倉常長の銅像がある。