2017年07月

明治時代の世相(9)-お妾さん-

2017年7月26日

〖プロロ-グ〗

(極貧生活)
・幕藩体制は士農工商という身分制度で人々に箍(タガ)をはめ、世の中の秩序を守っていました。1868年を機に、士農工商がなくなり、人々は明治維新という大海に放り出され、悲嘆の渦に巻き込まれ、苦しい生活を明治後期まで余儀なくされました。その人々の中に極貧でも、逞しく生活をする樋口一葉(1872年5月〈明治5年〉~1896年11月〈明治29年〉)の姿がありました。

(占い師へ)

・当時一葉は21歳、下谷区下谷龍泉寺町(現:台東区竜泉)で荒物屋を営んでいました。しかし、商売の不振、体調不調による焦燥感に駆られていました。1894年(明治27年)2月21日付「東京朝日新聞」の六面に久佐賀義孝(1864〈元治元年〉~1923年〈大正12年〉)が主宰する天啓顕真術(占い)の全面広告の記事を見て、一葉は、一攫千金を夢見て、真砂町(現:本郷4丁目)に住んでいた久佐賀を「秋月」という偽名で訪れます。

(妾の話)

・相場師になりたいと相談しますが、貴女は向かないと、諫められます。久佐賀は一葉の生活の困窮状態を知り、歌道のために目的を達成するまで生活を保障するが、交換条件として“妾”になるならと告げられます。一葉は「痴れ者」(しれもの)と憤怒しながらも、その実、伏字を使っての思わせぶりな手紙で翻弄し、ついには「千円」(今日の一千万円)の借金を申し込むが、結局、紆余曲折を経て、身を引きます(注1)。
kusaka(出典:『樋口一葉』塩田良平著、吉川弘文館)

〖明治の時代〗

・一葉の時代は、史上、女性の地位が一番低かった時代と言われています。典型的な“男尊女卑”の時代でした。明治の男性は、西洋列強の手前“一夫一婦制”がとられていたようですが、実際、“一夫多妻制”だったという説があります。そのため、お妾さんは何の保障もありませんでした。

・明治政府は1870年12月(明治3年)に制定された明治国家の最初の刑法典「新律綱領」(布告第九四四)では、妾を妻と同等の二等親と定められました。妻と妾が同等の権利をもったと、いうことではないが、「妾」の存在を公認します。

・1880年7月(明治13年)、刑法(太政官第三六号布告/明治15年1月施行)で妾に関する条項は消え、1898年(明治31年)、「戸籍法」によって戸籍面から妾の字が消えます。

・近頃、“お妾さん”という言葉を耳にすることはありません。お妾さんの別称を「囲い女、日陰者、二号、てかけ(上方)など」と言います。今では文学作品の専売特許のような存在ですが、明治の中頃から戦前にかけて長い間、政治家や金持ちなどがお妾さんを囲っていましたので、市民の間では、格好の興味の対象で、日常会話の話題となっていました。

〖キャンペ-ン〗

(スタッフ)

・お妾さんの問題に真正面から取り組んだ明治時代の新聞が「万長報」(よろずちょうほう/1900年11月〈明治33年〉~1940年10月〈昭和15年〉)です。紙名は「よろず重宝」のシャレから来ています。新聞は「ゴッシプ報道」の先駆者として知られ、権力者のスキャンダルについて執拗なまで追求しました。

・「都新聞」を辞した黒岩涙香の手により、東京で創刊されます(1900年11月)。内村鑑三、幸徳秋水、堺利彦などの明治時代を代表する論客を迎え、進歩的色彩の強い言論新聞となります。1899年(明治32年)に発行部数が東京の新聞中第一位となります。これはゴッシップ報道に興味をもった購読者が増えたことによるものです。

(畜   妾)

・「万朝報」は、明治31年7月7日~同9月11日まで490例にわたって“畜妾”キャンペ-ンを張ります。現在も知られる歴史上の人物や各界の著名人が新聞に掲載されました。“道徳的正義”(出 張)を振りかざして暴露攻撃を続けたため、黒岩は宮武外骨(明治・大正期のジャ-ナリスト)に“蝮(まむし)の周六”と、綽名されます。以下、〖事例〗ついては、原資料における登場人物の詳細な記述は避け、名前と経歴などを記した。

(主   張)

・「あわれむべきは我が国の婦人の境遇よりはなはなだしきはなし。古来の習慣とはいえ、今もって男子の玩弄(もてあそぶ)たるがごときは地位にあり。この地位を脱せんと欲して種々運動する者あるも、同情をもってこれを助けんとする者なく、滔々(とうとう)たる世間の男子なお、かえって婦人を玩弄の地に置くを快とし、人倫の根本を破壊して顧みざる者多し」。

・「日本の今日の社会は、いかなる地位、いかなる思想の男子まで一夫多妻の事を実行しつつあるや。すなわち事実において婦人に対する倫常の破壊を行いつつあるや。吾人は吾人の知れる範囲においてその実例数百を摘記し、これを社会の羞恥心に問わんと欲する」(注2)

〖事   例〗   

・曽祢荒助

〈1849年2月(嘉永2年1月)~1910年9月(明治43年1月)〉、長州閥の1人として歴代内閣で大臣を歴任。明治期の官僚、政治家、法相、子爵、韓国統監、衆院副議長、貴族院議員(勅撰)(注3)。 妾(2人) 

・小手川豊次郎、米国文学博士(注4)妾(1人)
・犬養毅

〈1855年(安政2年6月)~1932年(昭和7年5月)〉、内閣総理大臣、外務大臣、内務大臣、衆議院議員、5.15事件で暗殺される(注5)。妾(1人)

・大江卓

〈1847年(弘化4年)~1921年(大正10年)〉、土佐、政治家、実業家(注6)。妾(2人)

・森鴎外

〈1862年2月(文久2年1月)~1922年7月(大正11年7月)〉、日本の明治・大正期の小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医(注7)。妾(1人)

・鳩山和夫

〈1856年5月(安政3年4月)~1911年10月(明治44年年10月)〉、政治家、法律家(注8)。妾(1人)

・北里柴三郎

〈1853年1月(嘉永5年12月)~1931年6月(昭和6年6月)〉、日本の細菌学者(1人注9)。妾(1人)

・西園寺公望

〈1849年12月(嘉永2年10月)~1940年11月(昭和15年11月)〉、日本の公家、政治家、教育者、侯爵(注10)。妾(2人)

・古河市兵衛

〈1832年4月(天保3年3月)~1903年4月(明治36年4月)〉、古河財閥の創業者、鉱毒大尽(足尾)(注11)。妾(6人)

furukawa(出典:古河市兵衛、Wikipedia)


・井上馨

〈1836年1月(天保6年11月)~1915年(大正4年9月)〉、伯爵、政治家、実業家、(注12)。妾(1人)

・榎本武揚

〈1836年10月(天保7年8月)~1908年(明治41年10月)〉、幕臣、化学者、外交官(注13)。妾(2人)

(廃   刊)

「万朝報」はその後、日露戦争開戦の折、最初は非戦論を唱えていたものの、世間の流れが開戦に傾くにつれ、社論は主戦論に転じ、黒岩自体も主戦論者となった。このため非戦を固持した幸徳秋水、堺利彦、内村鑑三が退社、これを機に次第に社業は傾き、黒岩の死後は凋落の一途を辿り、1940年10月1日(昭和15年)、「東京毎夕新聞」に吸収され、廃刊となります。

〖エピロ-グ〗   

・戊辰戦争が終わったことで、内戦は終了し、明治維新となります。明治政府は、欧米列強に対応するため富国強兵策をとります。反面、平時となり、緊張感が緩み、男社会は、江戸時代から悪しき習慣であった男子の跡取りを生むという名目で側室制度の再来とも言えるお妾さんを多くの階層(政治家、財界人、商人、学者、官吏、小説家、僧侶)が囲いました。

・挙句の果てに、万朝報に、「俺の妾をなぜ載せない」かと、苦情を呈する者まで現れる始末。お妾さんは、世間の片隅に追いやられた存在でしたが、その多くは、生活のための苦渋の選択であったに違いありません。加えて、当時の女性の仕事として-富岡製糸場のような女工さん、借金のカタに、幼い娘が子守や洗濯、食事の用意のための「奉公」、農作業の手伝い、女性しかできない「産婆」、「女郎」など、女性の仕事が極めて少なかったことも起因していると思われます。

・樋口一葉は、明治の“男の世界”について、次のように評している-当時、街のいたる所(烏森・湖月/新橋・花月)にあった「待合」について、世の殿方たちの隠れ遊びの場所であろう。落下狼狽(女性に戯れ、乱暴する)の戯れなど、世の殿方たちの隠れ遊びの場所であろう。

・世間にはどうして、お金持ちで暇をもてあます人が、こんなにものどかに暮らしているのであろうか。昔、中国で孟宗は親のため竹の子を探して雪の中で、凍え、孫康は窓の雪が少なく光が暗いのを嘆いて苦しんだというのに。いま、「地租税」軽減を主張している有志の方々よ、国家予算の査定に熱中している代議士の方々よ、このような遊びに使うお金は惜しくないとおっしゃるのでしょうか。学問のない私には分からない事ですと・・・(注14)。

(グローバリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)評論「久佐賀義孝」、木村真佐幸、『国文學』~樋口一葉~1994年10月、96頁。

(2)「万朝報」明治31年7月7日。

(3)「万朝報」明治31年7月7日。

(4)「万朝報」明治31年7月8日。

(5)(注4)と同じ。

(6)(注4)と同じ。

(7)「万長報」明治31年7月9日。        

(8)(注7)と同じ。

(9)「万朝報」明治31年7月10日。

(10)(注9)と同じ。

(11)「万朝報」明治31年7月12日。 

(12)(注11)と同じ。

(13)「万朝報」明治31年7月20日。

(14)高橋和彦著「樋口一葉日記」、完全現代語訳、〖蓬生日記一〗一葉20歳、明治24年9月15日~24年11月10日、初版第一刷発行、1993年11月23日、(株)アドレエ-、58頁。

(原資料)

・ニュ-スで追う「明治日本発掘」(6)、河出書房、1995年4月25日、初版第1刷発行、63~77頁。             

・ウイキペディアなど。

米国株の時価総額について

2017年7月15日

〖プロロ-グ〗

・2007年6月29日、人々の興奮渦巻く中で、米アップル社のスマートフォン「iphone」が販売されてから、本年で10周年を迎えた。スマホは革命的な製品で、1台で-①ネット接続、②音楽プレイヤー、③携帯電話、④電子メ-ル、⑤カメラ、⑥ゲ-ム、⑦ナビゲ-ション、⑧動画視聴-などが可能で、たちまち、世界の国々を席巻した。ティム・クック最高経営責任者(CEO)はツィッタ-に初代iphoneの画像とともに「世界を変えた」と、投稿した。現在、発売当初の驚きはないが、“スマホ経済圏”を生み出し、世界に与えた影響は計り知れない。

〖世界を変革〗

・世界のインタ-ネット人口は2006年で11億人だったが、iphoneが登場し、他社製品も含めてスマホが新興国に浸透したことで、2016年現在、35億人になったと見られる。端末やアプリ、広告だけをとっても経済圏規模は70兆円に拡がった。スマホは肌身離さずに持ち歩くため、滞在位置、移動、撮影した画像などのデ-タが集まる。極限までの詳細な個人情報を土台に広告やコンテンツを狙った相手に届ける精度が飛躍的に上がった(注1)。

・米ガ-ドナ-社によると、パソコンの世界出荷は2011年に過去最高の3億6500万台を記録したが、2016年には2億6900万台まで減少した。米株式市場ではパソコン市場を牛耳った米マイクロソフトやインテルの存在感が下がった。2016年のスマホの世界出荷台数は14億7000万台(中国・4億7000万台)、2億台強がアップル製以外、米グ-グルの基本ソフト(アンドロイド)を搭載する。統一された巨大なプラットフォ-ムが新たな産業生んだ。

・交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックは、スマホのカメラや位置情報などを活用し利用者を拡大。月間利用者は20億人を突破した。ライドシェア(相乗り)やモバイル決済も常に携帯で可能、個人認証が可能なスマホがなければ生まれなかった。企業価値の評価額が10億ドルを上回る非上場の新興企業を「ユニコ-ン」と呼ぶ。個人間の物品売買を仲介するメルカリ(東京・港区)はアプリのダウンロ-ド数が7500万に達し、日本初の「ユニコ-ン」となった。

〖時代の寵児〗

(投資マネ-)

・米アップル社のスマホは毎年新機種を発売し、その都度、新しいアプリを付け加え、進化し、周辺IT産業も成長した。スマホ技術の進化は“新産業のゆりかご”と評価する見方がある。本年もiphoneの新しいモデルが発表される。デザインはそのままで、性能だけを強化した「S」付きのモデルiphones、デザインも性能も刷新してiphone8として、発売されるとの見方がある。

・現在、世界の投資マネ-が株式市場に流れ込んでいる。牽引役はビッグ5(アップル/アルファベット(参照1/グ-グル)/マイクロソフト/アマゾン・ドット・コム/フェイスブック)のIT企業(情報技術)、FANGFFaceBook)、AAmazon)、NNetflix)、GGoogle)などと呼ばれる高成長企業である。

(ビッグ5)

今年4月、米市場の時価総額トップ5をビッグ5が独占(ニュ-・モノポリ-〈新たな寡占〉)した。5社合計の時価総額は過去1年で約4割増え、一時2.8兆ドル(約320兆円)に膨らんだ。単純比較できないが、世界第5位の経済大国である英国の国内生産(GDP)を超えた。利益の源泉はデ-タの独占である。米調査会社の予測では、グ-グルの検索シェアは現在70%から2019年に80%に達すると推計している。2016年の米デジタル広告費の6割はグ-グルとフェィスブックが占めている(注2)。

・加えて、ビッグデ-タの活用や、あらゆるモノがネットにつながる「IOT」などを武器に新市場をつくりだすIT産業にも資金が集中している。かって、資源や銀行が中心だった時価総額上位企業の顔ぶれは一変した。以下、2017年5月末の世界株・時価総額上位10社を挙げる。カッコ内は10年前(2007年5月末時点)の企業名・時価総額である。

1位アップル7964億ドル(エクソンモ-ビル4685億ドル)

2位アルファベット(グ-グル)6751億ドル(GE3866億ドル)

3位マイクロソフト5392億ドル(マイクロソフト2936億ドル)

4位アマゾン4754億ドル(シティグル-プ2695億ドル)

5位フェイスブック4388億ドル(ペトロチャイナ2618億ドル〈中国〉)

6位バ-クシャ-・ハザウェィ4076億ドル(ATT2548億ドル)

7位ジョンソン・エンド・ジョンソン3454億ドル(ロイヤル・ダッチ・シェル2408億ドル)

8位エクソンモ-ビル3410億ドル(バンク・オブ・アメリカ2250億ドル)

9位テンセント3254億ドル〈騰訊控股/中国〉(中国工商銀行2233億ドル)

10位アリババ2975億ドル〈阿里巴巴中国〉(トヨタ自動車2163億ドル)

(時価総額)

・高株価は好循環生み、成長を加速させる。世界取引所連盟(WFE)の統計と代表的な株価指数から推計した2017年5月末の世界株時価総額は76兆6000億ドルに達し、2008年の世界金融危機後(リ-マンショック)の2015年5月末の75兆6000億ドルを上回った(注3)。

SP(参照2)世界株式指数の構成銘柄の国別分布(2017年4月14日時点)をみると、米国企業の数が圧倒的に多い-①米国494社、②日本150社、③カナダ58社、④オ-ストラリア49社、⑤フランス47社、⑥ドイツ42社、⑦スイス37社、⑧スウェ-デン26社となっている。

・目を転じて日本の動きを見ると、株価上昇が目立つのは日本の新興市場である。3月末で、日経ジャスダック平均、東証マザーズ指数共に7%上昇している。時価総額が7倍強に増え、増加率首位は、スマートフォンゲ-ム開発のサイバ-ステップである。マザ-ズ、ジャスダック市場合わせた売買代金の1日平均は、2017年1~5月約1600億円だったが、6月以降は、2000億円以上に膨らんでいる(注4)。

(新興国)

・新興国の躍進も目立つ。スマホ向け対話アプリ騰訊控股(テンセント)と電子商取引のアリババの中国IT2社は、2017年年初から4割上昇。世界株・時価総額の上位10社以内に食い込んだ。時価総額が100億ドルを超す企業は世界で78社。このうちITビジネスを主力とする企業は13社と、2割弱を占める(注5)。

・テンセントが5月17日発表した2017年1~3月期決算は、純利益が前年同期比57.6%増の144億7600万元(約2360億円)と大幅に増えた。中国版LINEと言われる無料対話アプリ「微信(ウィ-チャト)」の利用者が9億人を突破。ゲ-ムをスマ-トフォンにダウンロ-ドして遊ぶ人が一段と増え、収益を押し上げた(注6)。同社は7月7日、広東省深圳市に建設中の地上248メ-トル、50階建ての新本社ビル「騰訊浜海大厦」を来年完成させるとの計画を明らかにした総工費は18億元(約300億円)である(注7)。

〖手元資金〗

(キャッシュ)

・株価上昇は、世界の上場企業の手元に膨大なキャッシュが積み上がった。総額12兆ドル(約1350兆円)に達し、人類が有史以来、採掘した金(7.5兆円)を買い占めても使いきれない金額である。リ-マン・ショック(2008年)などの荒波に翻弄されながら、IT分野を中心とした技術革新をテコに企業は利益を稼ぎ続けてきた。問題は経済の成長率が鈍化する中、巨大な手元資金を活用する有望な投資先が見当たらないことである(注8)。以下、10社の現金保有額である。()内の数字は10年前からの増加額である。

1位アップル2568億ドル〈米国〉(2414億ドル)

2位マイクロソフト1333億ドル〈米国〉(998億ドル)

3位アルファベット985億ドル〈米国〉(832億ドル)

4位トヨタ自動車1474億ドル〈日本〉(687億ドル)

5位チャイナ・モバイル843億ドル〈中国〉(585億ドル)

6位サムスン電子769億ドル〈韓国〉(561億ドル)

7位オラクル660億ドル〈米国〉(550億ドル)

8位ソニ-1087億ドル〈日本〉(500億ドル)

9位テンセント477億ドル〈中国〉(471億ドル)

10位シスコシステムズ689億ドル〈米国〉(460億ドル)

(背  景)

・有力IT企業の不断なく続くキャッシュポジション上昇の背景を見ると、①産業構造の変革の影響が大きい。インターネットやスマートフォンの技術革新で成長するIT企業は大型設備を必要としない。②主な金の使途は研究開発やMA(合併・買収)、自社株買いなどに限られる。米アップル社の手元資金は2568億ドル(約28兆円)と、10年前に“iphone”を発売した当時の17倍に増えた。時価総額約19兆円のトヨタ自動車を楽に買える金額である。

(対  応)

・手元資金の増大は財務    は安定するが、経営の効率性は低下する。そのためアップルは12年以降、2000億ドルを超える株主還元を実施し、5月にはティム・クック最高経営責任者が「2019年までに還元額を3000億ドルに引き上げると」と、明言している。

・スイスの食料品会社ネスレは手元資金245億スイスフラン(3兆円弱)を、株式還元に積極的な米ファンドのサ-ド・ポイントの要請に基づき、2020年までに最大で手元資金の8割に当たる200億スイスフランの自社株を買うと発表した。最近、日本の上場企業も自社株買いを積極的に行っており、企業価値を高めている。

〖エピロ-グ〗

・株価の時価総額を見ると、ベスト10の内、米国企業が圧倒的な強さを示しており、中国企業2社が健闘しており、この企業群が事実上、世界の株式市場を支配していると言っても過言ではない。しかし、この上位10社は、10年後はどのようになっているか、予測不能であるが、恐らく、情報技術を独占し、企業価値を更に高めている違いない。株価は極めて人為的なものであるが、将来の夢を買う。

・従来、企業経営者は消費者の二-ズを的確につかみ、コストと時間をかけ、モノを売ってきた。しかし、現在、Eコマ-ス市場(ネット)では、消費者に商品を展示し、瞬時に商品を売ることが可能となった。アマゾンは7月10~11日にプライムタイム(特売)を実施した結果、6割の増収であった。米国企業は先進的な技術開発とEコマ-ス市場を屈指するビジネスモデルを強化し、さらに業績アップを目指す。

(グロ-バリゼ―ション研究所)代表 五十嵐正樹

(注)

(1)「日本経済新聞」2017年7月3日

(2)「日本経済新聞」2017年7月14日

(3)「日本経済新聞」2017年6月2日

(4)「日本経済新聞」2017年7月5日

(5)(注3)と同じ

(6)「日本経済新聞」2017年5月18日

(7)「日本経済新聞」2017年7月6日

(8)「日本経済新聞」2017年7月2日

(資  料)

・「いちよし証券」セミナ-資料 2017・5

・「週刊ダイヤモンド」~中国特集~2017年7月15日

(参  照)

(1)Alphabet(アルファベット)は、2015年にGoogle inc.及びグル-プ企業の持ち株会社として設立された。アメリカの多国籍コングロマリットである。

(2)SP:スタンダード&プア-ズ/世界最大の格付け機関

最近の中独関係

2017630

〖プロロ-グ〗

・最近の中独関係は、頻繁にメルケル首相、李克強首相の相互訪問が行われている。この背景には相互の信頼に基づく、①ドイツのEU内の盟主としての存在感、②米国に次ぐ世界第2位の中国の経済力、それに基づく習近平国家主席が主導する「一帯一路」政策の推進、③トランプ大統領の「米国第一」の内向主義などが、中独関係の緊密度を深めている。

〖蜜接な中独〗

(経  緯)

・中国とドイツとの外交関係が正常化したのは19721011日である。ドイツの対中政策が本格化するのは、コ-ル政権時代(19821998年)の1990年代に始まる。その起点となったのは、194年に策定された『ドイツの対アジアコンセプト』である。その中で、「大中華圏経済は息をつく間もなく飛躍している」と分析し、中国の将来性を見込んで、対中重視策を打ち出す。以後、ドイツ社会民主党(SPD)党首・シュレ-ダ-政権(第7代連邦首相)も対中重視策を踏襲した(注1)。

(相互訪問)

200511月、アンゲラ・メルケルは最年少(51歳)で、ドイツの第8代連邦首相に就任した。これまでに9回訪中し、中国首脳との会談を行い、ドイツ企業の中国進出を応援している。20176月、李克強首相は訪独し、ベルリンでメルケル首相との共同記者会見で、トランプ政権が離脱した「パリ協定」(気候変動)について、李首相は「国際的な責任を担う」と発言し、メルケル首相も同意している。

FullSizeRender5月31日 AP通信 ベルリンにて)


(年次会談)

・李克強首相は2017531日~62日にかけてドイツとベルギ-を公式訪問し、ドイツでは中独首相年次会談、ブリュッセルでは、第19回中国EU首脳会談を行っている。中国の首相が3日間に2カ国を訪問し、2つの大きな会談を行い、30近くの活動に出席している。中国・EU間の相互交流に対し、各方面から期待が寄せられ、世界各国から注目された。

・年次会談は中独交流の一つである。2004年に両国は首相年次会談制度の発足を発表し、現在までに政府間協議を含む70余りの二国間協議協力制度を設けた。中国の梅兆栄元駐ドイツ大使は年次会談制度について-①双方の政治的相互信頼の強化、②実務協力の深化、③中独関係の不断の前進で、積極的な役割を持つと評価する。今後、両国間の動きは、EU諸国の対中政策にも影響を与えるものと思う。

2013年、李克強首相に就任して以来、李首相はほぼ毎年メルケル首相と会談。緊密な仕事上の関係と個人的な友情を築いてきた。両首相はかって、ベルリンで共にス-パ-マ-ケットを歩き、北京の頤和園では、「散歩外交」を繰り広げた。また、李克強首相は郷里(安徽省定遠県)でメルケル首相をもてなした。今回の訪問では、両首相の新たな相互交流は世界から注目されている。

〖経済諸関係〗

(貿易現況)

・中国側の統計では、2016年の二国間貿易総額は15129000万ドルに達し、ドイツはEUにおける中国最大のパ-トナ-としての地位を保った。李克強首相の今回の訪問は、両国関係にとって「錦上花を添える」ものである。中国の王超外交副部長は「双方は訪問期間に一連の協力文書に調印し、中独協力の幅の広さと水準の高さ存分に示した」と明らかにした(注2)

(投資概況)

・ドイツ貿易・投資振興機関は先頃、「2016年海外の対独投資レポ-ト」を発表した。2016年、ドイツでは海外1944件のグリ-ンフィ-ルド投資プロジェクトが行われた。中国の投資が第1位の281件、以下米国242件、スイス191件、英国、オランダと続く。40%以上の投資プロジェクトはEU諸国からのものである。全ての投資国の中で中国が3年連続で投資プロジェクト数第1位となった(注3)。

・同機関のベンノ・ブンゼCEOは、グロ-バル化が停滞するなか「中国の投資が新たな流れを作っている。世界発展や国際協力を推進する条件を作り出している。我々は中国からの投資を歓迎する」と述べた。グリ-ンフィ-ルド投資とは、外国に投資する際に法人を新しく設立して、設備や従業員の確保、チャネル構築や顧客の確保を1から行う投資の方式である。

(投資効果)

・中国企業のドイツにおけるグリ-ンフィ-ルド投資は商業、金融サ-ビス、機械製造と設備、電子半導体、自動車に集中している。多くの中国企業が、相互の強みを生かしながらウィンウィンを実現させている。液体食品の無菌包装材料メ-カ-の粉美包装は2011年、ドイツ東部ハレに500万ユ-ロを投じて工場を建設した。2013年、さらに3800万ユ-ロを投じて第2生産ラインを建設し、年間80億袋の生産能力がある。

・ドイツ的特色を持つクラウドコンピュ-ティングサ-ビスの産業チェ-ンである「Zibo Munich Technology Park」とも言われるこの団地は、ドイツで初となる中国のIT産業パ-クである。2013年に建設されて以来、すでに16社を誘致しており、そこには国家レベルの研究センタ-がある。中国国家リニア交通工程技術研究センタ-ミュンヘン研究基地も含まれる(注4)。諸分野に広がるプロジェクトで、少なくとも3900人の雇用を創出した。

・ドイツ中国商会は、ベルリンで報告書「中国資本主義のドイツにおけるビジネス環境調査2015年」を発表した。ドイツ内の中国系企業はドイツ市場に信頼を寄せており、興味が減退することなく、また、投資環境の改善に期待していることがわかった。今回の調査では企業130社から各種デ-タを集めた。企業所属産業、企業の法的形態、雇用の創出、対ドイツ投資の理由、ドイツでの経営での難題や課題など。

・調査によると、ヘッセン州(フランクフルト地区)の銀行業、ハンブルグの貿易・物流産業、ノルトライン・ヴェストファ-レン州(デュッセルドルフ地区)の機械製造と鉱物採掘・加工産業は引き続き在ドイツ中国企業の投資・運営の3大産業である。昨年に比べ、中国企業がドイツで創出した雇用は約2万8000人で、非中国籍従業員が全体に占める割合は38.6%に達した(注5)

(企業連携)

・2016年6月13日、メルケル首相は、中国の李克強首相との会談で、約2700ユ-ロ(約3200億円)規模の商取引の調印式を見守るとともに、両国間の貿易摩擦抑制を図った。両首脳は北京での調印式後に記者会見を行い、李克強首相は「貿易戦争は望んでない」と述べた。独ダイムラ―と中国の北京汽車(BAIC)が取り決めを結んだほか、エアバス・グル-プの独ヘリコプタ部門と中国航空器材集団も合意をした。今回の訪中には20人の企業トップが同行した(注6)。

・最近の企業連携としては、①百度の人工知能(AI)とボッシュによる自動運転技術を組み合わせて、無人運転の新しいエコシステムを作り出す、②独ダイムラ-は北京汽車集団との提携分野を高級車から新エネ車に広げることで合意した。加えて、ダイムラ-は比亜迪(BYD)とのEV合弁会社の増資も決めた。17年末にもEV車を発売する予定で、製造は江淮汽車に委託する(注7)。

(人的交流)

・中独ハイレベル人的・文化的交流対話制度の初会合が2017年5月24日に北京で開かれ、習近平国家主席が書面で祝辞を寄せた。「中独ハイレベル人的・文化的交流対話制度が、両国の交流ル-トの拡充、交流分野の拡大、協力内容の深化を力強く支え、保障し、中独関係の継続的前進及び中国EU関係の発展に新たな貢献をすることを希望する」と強調した(注8)。

〖金融諸分野〗

(取引所開設)

・2015年10月29日、メルケル首相は李克強首相と人民大会堂で会談した。中独両国が合意した経済協力の主な課題は“人民元の国際化”である。元取引の拡大に向け、新市場を開設することで合意した。上海証券取引所と中国金融先物市場、ドイツ証券取引所が2億元(約38億円)を共同出資し、フランクフルトに元建て金融商品を扱う「中国欧州国際取引所」(CEINEX)を立ち上げ、11月28日から運営を開始する(注9)。

ETF

・中国市場の株価指数などに連動するETF(上場投資信託)のほか、中国企業や海外企業が発行する元建て債券など取り扱う。約200社の金融機関や機関投資家が参加する見通しである。ドイツ証券は「魅力的な中国の金融商品を効果的な方法で売買できる中国国外初の元建て取引所になる」を強調する。その他に中独が合意したのはAIIB(アジアインフラ投資銀行)への協力拡大などである。

〖エピローグ〗

・米国第一を唱えるトランプ政権、EUとの離脱交渉が難航する英メイ政権の行方、メルケル首相とマクロン大統領との「強いEU」の実現への行方などの問題山積の中、メルケル首相は5月28日、ドイツ南部の党関連会合で、「他国に全面的に頼る時代はほぼ終わった。欧州は自らの運命を切り開かねばならない」と言い放った。西側の結束が綻び始めた現在-ドイツにとって、中国との関係強化を図ることが、自らの選択肢を増やすことになる。

・ドイツと中国との関係を経済面からみると、双方にとって大きなメリットがある。ドイツにとって、強大な中国市場は今後も魅力的。中国はドイツの技術(IOT/FinTech/AI)は中国の将来にとって不可欠である。但し、ドイツの企業経営者の多くは、ドイツの最先端技術の中国への流出の懸念は払拭されていないが、米国優位の最先端技術に対抗するには中独連携は不可欠である。

(グローバリゼ-ンション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)拙稿ブログ「緊密化する中国とドイツの諸関係」2014年1月20日

(2)「人民網日本語版」2017年6月2日

(3)「人民網日本語版」2017年5月23日

(4)「人民網日本語版」(注3)と同じ

(5)「人民網日本語版」2015年10月29日

(6)「BLOOMBERG」2016年6月13日、原題:Merkel Presses China Investment Rules as Says No Trade War(抜粋)

(7)「日本経済新聞」2017年6月10日

(8)「人民網日本語版」2017年5月25日

(9)拙稿ブログ「ドイツ・メルケル首相の訪中」2015年11月9日

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