2018年02月

マクロン仏大統領の訪中

18年2月21日

〖プロロ-グ〗

・中国外交部の陸慷(りくこう)は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が習近平国家主席の招待で、中国を公式訪問(18年1月8日~10日)すると発表した。1月8日、大統領は陝西省西安市に到着し、就任後初となる中国への公式訪問をスタ-ト。古都西安の世界文化遺産「兵馬俑」やシルクロ-ドの一部として同遺産に登録された仏塔「大雁塔」(だいがんとう)を見学し、「一帯一路」を推進する中国側を喜ばせた(注1)。

・マクロン大統領は、フランス共和国親衛隊から8歳の軍馬(Vesuvius)を選んで空輸し、習氏に贈るサプライズを計画していた。同報道官は8日の記者会見で、「フランス側の友好的な行為に感謝と称賛の意」表した。この背景には習主席が2014年、フランスを訪問した際、警護にあった104人の騎馬隊に心を惹かれたと語ったのを受けたソウフト外交で、フランス大統領府は「前例のない外交ジェスチャ-」としている(注2)


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エマニュエル・マクロン
出所:ウィキペディア


〖首脳会談〗

(一帯一路)

・習近平国家主席とマクロン大統領は1月9日、北京の人民大会堂(魚釣島迎賓館)で会談した。習主席が推進する巨大経済圏構想(一帯一路)に対してマクロン氏がフランスの参加を表明。首脳会談にあわせて欧州航空最大手エアバスが中国工場(天津)の組み立て能力を増強し、核燃料サイクルなど原子力分野の協力で合意した。

(中国重視)

・トランプ米大統領が2017年6月1日、「パリ協定」(地球温暖化対策)から脱退を表明したことをふまえ、マクロン氏は中国の役割を重視する姿勢を示し、温暖化対策を共同で推進することで一致した。航空・宇宙、原子力、金融、農業、教育、商業などの面で連携強化する。原子力分野では、中国原発大手の中国広核集団と仏側が次世代技術や核燃料サイクル分野の連携強化で合意した(注3)。

〖経済問題〗

(仏の思惑)

・今回の訪中でマクロン氏はフランスの企業経営者50人余りを連れて訪中、貿易赤字削減のため、中国企業がエアバスの航空機を購入するとの見方も出たが、エアバスの中国工場(天津)の能力拡大にとどまった。中国ネット通販大手のアリババに次いで第2位の「京東集団」は2年間で20億ユ-ロ(約2700億円)の仏製品を購入する計画を公表した。

(市場開放)

・マクロン氏は習主席に対して、中国による外国企業への規制に触れ、規制を続ければ共倒れになると述べ、市場開放を迫った。中国政府の発表によると、李克強首相は「フランスによる投資、輸出の拡大を歓迎する」と大統領に伝えた。マクロン氏の発言に対して、中国の電子取引最大手アリババグル-プの馬雲会長は北京で、マクロン大統領の発言に理解を示した上で「互いにより市場開放を図るべきだ」と記者団に語った。

〖歴代大統領〗

・これまでのフランス大統領の訪中の特徴を見ると、➀サルコジ大統領は、2007年11月25日、陝西省西安市に到着し、3日間の中国訪問が始まった。サルコジ氏はシラク前大統領の訪中時と同様に、仏企業のトップ40人以上を同行し、世界最大の原発企業アレバ(AREVA)が中国最大の原発大手、広東核電集団向けに欧州加圧水型軽水炉2基を80億ユ-ロ(約1兆3000億円)で納入する契約を結んでいる(注4)。②オランド大統領は2013年4月以来、2度目の訪中。仏電力公社のアレバなど約40社のトップ企業幹部を同行。首脳会談(習氏・オランド氏)で合意した主な案件は経済再建中のアレバに対して、中国核工業集団が出資することを決定した。

〖市場争奪〗

(現  状)

・中国市場をめぐる米仏の航空機の受注合戦は熾烈である。中国は、仏のエアバス(欧州)と米ボ-イングのメ-カ大手2強を“篭絡”した。ボ-イングは主力の短・中距離機737型機の一部生産の最終工程を中国に移転することを決定。すでに天津で最終組み立て工場を保有するエアバスも、緊密な関係を深めている。

・ボ-イングは、技術流出の懸念から中国移転に難色を示していたが、中国の巨大市場を背景にした中国の現地生産要請に屈した格好である。ボ-イングは現在、737MAXを含め全ての737を米国・ワシントン州レントン市の工場で生産しているが、2018年末、上海の南にある浙江省舟山工場(年間約100機)が操業を開始する(注5)。ただ、中国は国産初の中距離機(C919)の開発の遅れを取り戻そうと懸命で、中国市場を取り込もうという両社の思惑が想定通り進むか怪しくなっている。

〖エピロ-グ〗

・欧州主要国(ドイツ、フランス、イギリス)の相次ぐ首脳の北京詣の背景には、中国は世界第2位の経済大国である-豊富な外貨準備(3兆1200億ドル/2017年11月)は魅力的である。また、トランプ政権の“唯我独尊”の世界は日増しに増幅しており、「パリ協定」からの離脱は衝撃であった。この現実を考えると、中国の存在は逞しい。だが、中国の国家戦略はエアバスの如く、漁夫の利を得ることを認識しなければならない。

・英国のEUからの離脱期限は2019年3月である。ドイツのメルケル首相の信頼感は揺らいでおり、SPD(ドイツ社会民主党)との新政権誕生は難産である。このような現状は中国の国家戦略にとっても都合がよい。戦後のレジュムからの脱却は欧州諸国も同様である。米国主導の資本主義体制はトランプ政権の誕生により綻びを見せている。欧州首脳の競争的北京詣は今後も続くと見られる。

(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「産経新聞」2018年1月8日。

(2)「ロイタ-」2018年1月8日。

(3)「日本経済新聞」2018年1月9日

(4)「週刊ダイヤモンド」2007年12月5日。

(5)「TOKYO EXPRESS」2017年10月19日。

メイ英首相の訪中について

2018年2月8日

〖プロロ―グ〗

・英国のテリ-ザ・メイ首相が2018年1月31日午前、中国湖北省の武漢に到着し、地元大学生らとの交流行事に参加して3日間の中国公式訪問を始めた。メイ首相の訪中は2016年9月に杭州で開催された20ヵ国・地域(G20)首脳会議以来で、初の公式訪問である。3日間滞在中、1月31日李克強首相、2月1日習近平国家主席と会談した。

・これまでのメイ首相の対中姿勢は、国際社会における中国の影響力拡大に警戒感を示してきた。中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加をいち早く表明した前首相キャメロン氏とは異なる。反面、中国はメイ首相が『一帯一路』への明確な支持を表明せず、中国をいら立たせたが、しかし、英国の欧州連合(EU)離脱を見据え、関係強化に重い腰を上げた。
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テリーザ・メイ

出所:ウィキペディア

〖首脳会談〗

(習主席)

・習近平国家主席は2月1日、メイ首相と北京で会談(魚釣台迎賓館)した。習主席は「中英双方は時代の潮流に順応し、両国各自の発展段階と協力のニ-ズを結び付けて、中英関係に新たな時代的な内包を与えて、『黄金時代』の増強版を共に築くべきだ」強調した。加えて、「中英双方は『一帯一路』の枠組でさらに広範囲、高水準、深いレべルの互恵協力を展開できる」と強調した。

(メイ首相)

・メイ首相は、習主席の打ち出した『一帯一路』協力イニシアティブには計り知れない世界的影響がある。英中が『一帯一路』協力を繰り広げ、世界と地域の経済成長を促進することできる」と表明。英国は西側の他の大国に先駆けて『一帯一路』への支持を表明(AIIB加盟)。聡明で実務的な英国人は中国と『一帯一路』協力することで西側の模範となった(注1)

〖英中関係〗

(戦略連携)

・英国が中国のチャンスを捉え、中国もハイテク製造業、文化・クリエイティブ産業、金融サ-ビス産業の技術・標準の英国の優位性を捉え、中国経済モデルへの転換と英国の優位性を連携させれば、中国の『一帯一路』と英国の経済振興計画を連携させて、中国と西側が協力して新時代を開かねばならない。

・歴史のある金融大国である英国の『一帯一路』参加は、シルクロ-ド基金と人民元の国際化を推進することになる。英国の弁護士事務所、会計、会計監査、保険、エネルギ-などの業界のリ-ディングカンパニ-は、投資拡大を図っている。中国との関係では-①政策の意思疎通、②インフラ施設の連結、③貿易の円滑化、④資金の調達、⑤民心の通じ合い(中国/五通)を後押しする(注2)。

(公式見解)

(英政府発表)

・英首相官邸は英中首相会議の内容を明らかにした。①メイ首相は「英国がひとたびEUを離脱すれば、我々独自の貿易協定を自由に結ぶことができる」と述べるととともに、「通商・投資関係の中英間の合同見直しの実施は、将来の意欲的な貿易協定に向けた最初のステップになる」と指摘。②習主席は、中国の英国産牛肉の輸入禁止措置ついて、メイ首相は中国側が半年以内に解除することで合意したと明らかにした。③英国の牛乳、乳製品、その他農産物などは中国市場が開放される。④メイ首相は3日間の中国訪問中に少なくとも90億ポンド(120億ドル)の商談がまとまるとの見通しも明らかにした(注3)。

(同行者)

・英国メディアはメイ首相に同行する「経済代表団」(51社)のラインナップを公開した。金融、貿易、医薬品、教育、通信、交通など各業界を網羅し、その59%が中小企業である。報道によると、40以上の企業、大学、業界協会の代表者が同行する。これにはHSBC、BP,スタンダ-ド・チャ-タ-ド銀行、アスタン・マ-チン、アストラゼネカ、インマルサット、マンチェスタ-大学などの有名企業と大学が含まれる(注4)。なお、同メディアはこれほど大規模な経済代表団を“全英で引っ越し”たと形容した。

〖英国事情〗

(対中不信)

・英中関係はキャメロン政権で急接近し、2015年の習近平国家主席の訪英に合わせ、英国南西部の原発新設に中国による原発新設(ヒンクリ-・ポイント原発)に中国の原発企業「中国広核集団(CGN)」が資本参加すると発表し、両国の「黄金時代」の象徴となった。

・しかし、2016年、米国CGNの社員がスパイ容疑で起訴され、これにより前内相のメイ首相は中国に対し安全保障上の強い懸念を持ったとされる。同原発の契約直前に待ったをかけ、権益の売却時に政府が介入するという条件付きで承認したことで、英中関係は冷え込んだ(注5)。ヒンクリ-・ポイント原発(参照)は、中国が英国及び欧州で手懸ける最大のプロジェクトで、中英協力黄金時代を開く旗艦プロジェクトで、現在、工事は順調に進んでいる(注6)。

(参照)「ヒンクリ-・ポイント原発」は、中国広核集団(中広核)と戦略的パ-トナーであるフランス電力公社(EDF)とのジョンイントベンチャーである。

EU離脱)

一方、英国経済界は2019年3月に迫るEU離脱を見越し、対中貿易促進を求める声が強まった。キャメロン前首相は先月、『一帯一路』構想に10億ドル(約千百億円)を支援する投資ファンドの要職に就任し、黄金時代の復活を模索。メイ首相はEU離脱後、各国と自由貿易協定(FTA)締結を目指す。また、黄金時代を支えたオズボ-ン前財務相の側近は英メディアに「われわれの対中政策は立ち遅れている」とし、「今回の訪中は極めて重要である」と強調した(注7)。

〖英国事情〗

(中仏関係)

・欧州主要国のうち、フランスのマクロン大統領は本年1月初めに訪中し、『一帯一路』への支持を表明。EU離脱とともにメイ政権の弱体化に直面している英国や、連立協議が難航して外交に力を入れないドイツを尻目に、フランスは外交での存在感を高めている。中国の関心も英国からフランスに移っているとの見方も出ている(注8)。

(中独経済)

・世界的に有名なコンサルタント機関ア-ンスト・アンド・ヤングがこのほど発表した報告書によると、2017年には中国企業のドイツへの投資額が137億ドル(約7283億円)に上り、過去最高を更新した。同報告書によると、2017年に中国企業はドイツ企業54社を合弁買収(MA)し、2016年に比べると、68社減少した。

・産業は主に製造業分野に集中し、食品産業、医薬品産業などが続いた。2017年の最大の投資案件は李嘉誠氏(香港最大財閥)の財団によるエネルギ-管理総合サ-ビス企業のイスタの買収で、買収額は67億ドル(約7283億円)。中国企業の対独投資が新記録を樹立した点ついて、ドイツ商工会議所のエリック・シュバイツァー会長は、「良好な発展といえる。中国はこれにより、ドイツの福祉に貢献したことになる」との見方を示した(注9)。

〖エピロ―グ〗

・メイ首相の政権基盤は脆弱である。同首相の「最も近い盟友」の一人であるグリーン筆頭国務相が昨年の12月20日、わいせつ画像所持問題をめぐり辞任を余儀なくされた。メイ政権の閣僚辞任は過去2カ月で3人目。EUとの離脱交渉が重要な局面に差し掛かる中、事実上、副首相として首相を支えてきたグリ-ン氏の辞任はメイ首相にとって手痛い打撃である。

・中国は、英国のEU離脱決定後、割安の出てきたロンドンの不動産市場はすでに中国マネ-の草刈り場となっている。EUがあまり英国を追い詰めると、ますます中国との関係強化に前のめりにならざるを得なくなっている。英国のEU離脱は中国にとっては欧州の中に手を突っ込んで分断支配していく絶好のチャンスである。

・今後、メイ首相の対中政策は-➀外交関係を強化する。②中国市場を英国企業に開放する約束を取り付ける。③EU(欧州連合)から離脱する英国が不安定で魅力失うのでないかという懸念を払拭するということである。何れも相関関係にあり、難題である。メイ政権の内憂外患は当面続く。

(グロ-バリゼ-ション研究所)代表 五十嵐正樹

 

(注)

(1)「人民網日本語版」2018年2月2日。

(2)(注1と同じ)。

(3)「ロイタ-」2018年2月1日。

(4)「Sky News2018年1月26日。

(5)「東京新聞」2018年1月31日。

(6)「チャイナネット」2018年2月7日。

(7)(注5と同じ)。

(8)「朝日新聞」2018年2月1日。

(9)「人民網日本語版」2018年1月27日。

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