2018年10月

本庶佑特別教授のノ-ベル賞受賞と中国の現状

2018年10月24日


〖プロロ-グ〗

・1945年以降(昭和20年)、日本は1949年に湯川秀樹氏がノ-ベル物理学賞を受賞してから2018年の京都大学本庶佑特別教授(生理学・医学賞)が受賞するまでに自然科学系で23人が受賞している。米国、英国、ドイツ、フランスに続いて世界5番目に多い数である。特に21世紀に入り、18人が受賞しており、その数は米国に次ぐ世界第2位。

・本年のノ-ブル賞は10月1~3日、自然科学系3賞が発表され、生理学・医学賞に京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授らが選ばれた。物理学賞はレ-ザ-技術を発展させる欧米の3氏に、化学賞は薬やバイオ燃料などの新たな作成法に道を開いた米英の3氏に贈られる。本庶氏の受賞の理由は、がん免疫治療法への道を切り開いたことが評価された。

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本庶佑氏
(出所:ウィキペディア)

〖基礎研究〗

・毎年のように日本人がノ-ベル賞を受賞しているのは、日本人が基礎研究を長期にわたって安定してサポ-トし、危機感を抱き、若い科学者の育成を重視してきたことと切っても切れない関係があることが分かる。日本文部科学省が発表している統計によると、1940年以降、世界のノ-ベル賞受賞者が受賞の根拠となる研究成果を得た平均年齢が37.1歳、実際に受賞した時の平均年齢が59歳で、研究成果を得てから受賞まで平均22年かかっている。

・本庶氏は、ノ-ベル賞受賞会見で、「今回の基礎的な研究から臨床につながるような発展できたことにとって、基礎医学分野の発展が一層加速し、基礎研究に関わる多くの研究者を勇気づけるということになれば、私としてはまさに望外の喜びだ。基礎研究は非常に重要だが、成果が社会に還元されるまでにかなりの時間がかかる。社会にはもっと寛容な気持ちで基礎研究を見てもらいたい」との見解を示している(注1)。

〖中国の人材〗

(科学の星)

・英国の有名学術誌「ネイチャ-」(2016年6月22日)は、コラムの中で、同誌の記者と編集者が選んだ優秀な中国人科学者10人を紹介した。彼らは神経科学、宇宙科学、構造生物学などの分野で重要な影響力を持ち、同時に世界科学分野における中国の地位向上という面でも重要な力を発揮していると科学日報が伝えている。

・同リストには4人の女性科学者が含まれる。小麦と米にCRISPR-as9ゲノム編集技術を使用した中国科学院遺伝性物研究所研究員の高彩霞氏、タンパク質が原子層でどのような働きをするかを観察した清華大学構造生物学者の顔寧氏、基礎神経生物学と大脳健康転化に寄与した香港科技大学理学院長の葉玉如氏、古代DNAを使い現代人の起源の謎を解いた中国科学院古脊推動物・古人類研究所博士の付巧梅氏などである(注2)。

(人的資源)

・「中国科学院人的資源発展研究報告書」(2014)-科学技術人的資源と政策の変遷」が、中国科学技術出版社から正式に出版された。同報告書によると、中国は依然として世界一の科学技術人的資源国の地位を占めている。中国の2014年末時点の科学技術人的資源総量は約8114万人。うち「資格」の定義に合致するのは約7621万人である。

・中国の2014年科学技術人的資源の年齢構成を見ると、「29歳以下」が中心となっている。学科別に見ると、2012-14年に理学・工学・農業・医学を専攻した大卒者は、同期に増加した科学技術人的資源の93%を占め、院卒者は59%を占めた。うち工学部卒が最多である。学歴別に見ると、博士課程修了者の2014年の比率は0.8%、修士課程修了者は4.7%、大卒者は37%、専門学校は57.5%である(注3)。

〖科学技術〗

(研究開発)

・米国立科学財団が2016年1月に発表した「科学工学指標」によると、中国の科学技術の世界的な地位は日増しに高まっている。研究開発費、科学技術系論文の産出、ハイテク産業の付加価値額などで世界2位を占め、理工系人材の育成、風力発電能力で世界一となっている。中国は今や正真正銘の世界第2位の研究開発大国になっている。以下はそれを裏付けるものである。

△研究開発費の対GDP比、10年で2倍に上昇

・同指標によると、世界の研究開発費は全体的に上昇傾向を示す。北米・欧州・東アジア・東南アジアに集中している。米国は依然として世界-の研究開発大国であり、中国は2位につけている。中国の研究開発費は、EUの合計に近づいている。

・東アジア・東南アジア諸国の研究開発費はこの10年間で急増し、うち中国が最も顕著だった。中国は2003-2013年に、世界の研究開発費の増額分の約3分の1を占めた。欧米が占める比率が低下し、うち米国は35%から27%、欧州は27%から22%に低下した。東アジア・東南アジア諸国は25%から37%に上昇した。研究開発費の対GDP比を見ると中国と韓国は10年間で約2倍に上昇している。

△理工学系人材の育成は世界一

・科学・工学人材は、1国の革新力と経済競争力にとって極めて重要である。同指標によると、中国が2012年に授与した大学の学位の半数弱が、科学・工学系となった。米国の同比率は33%、世界の科学・工学系の大学学位授与件数は640万件で、うち中国が23.4%、インドが23%、EUが12%を占める。米国は9%(注4)。

・2018年6月3日全米科学財団が、世界の科学技術の動向をまとめた報告書によると、2016年の論文数世界ランキングで、中国1位、2位米国、3位インド、4位ドイツ、5位英国、6位日本、7位フランス、8位イタリア、9位韓国、10位ロシア、11位カナダ、12位ブラジルの順である。

〖エピロ-グ〗

・日本人のノ-ベル賞受賞は中国にとって、羨望の的である。他方、中国国籍を有しているノ-ベル賞受賞者はこれまでに自然科学系では、2015年に屠呦呦氏が寄生虫感染症のマラリアの治療に関する発見で生理学・医学賞を受賞、2010年に劉暁波がノ-ベル平和賞、2012年に莫言氏がノ-ベル文学賞を受賞している。

・2016年6月21日、英国の有名な学術誌「ネイチャ-」は、同誌の記者と編集者が選出した優秀な中国人科学者10人を紹介している。彼らは神経科学、構造生物学などの分野で影響力を持ち、同時に世界科学分野における中国の地位向上という面でも重要な力を発揮している。同リストには4人の女性科学者が含まれる(注5)。

・小麦と米にCRISPR-Cas9ゲノム編集技術をしようした中国科学院遺伝性研究所研究員高彩霞氏、タンパク質が原子層でどのような働きかけを観察した清華大学構造生物学の顔寧氏、基礎神経生物学と大脳健康転化に寄与した香港科技大学理学院長の葉玉如氏、古代DNAを使い現代人の起源の謎を解いた中国科学院古脊椎動物・古人類研究所博士の付巧梅などである。以上の諸点を考えると、将来、自然科学系で中国人が受賞する可能性は十分ありえる。

(グローバリゼーション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「中国網日本語版(チャイナネット)」2018年10月12日。

(2)「人民網日本語版」2016年6月22日。

(3)「人民網日本語版」2016年4月22日。

(4)「人民網日本版」2016年2月24日。

(5)「人民網日本版」2016年6月22日。

(資 料)

(1)「朝日新聞」。

(2)ウイキペディア。   

(3)全米科学財団資料。


中露国境の町に見る最近の動き

2018年10月06日


〖プロロ-グ〗

・ロシア極東・ウラジオストクで開かれていた「東方経済フォーラム」は9月13日、3日間の日程を終了し閉幕した。フォ-ラムには、ロシアのプ-チン大統領、中国の習近平国家主席、日本の安倍首相などが出席した。注目されていた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、韓国の文在寅大統領は欠席。同会議の狙いは、ロシア極東部への海外からの投資を促すのが狙いで、今年で4回目。

・ウラジオストクは中露国境に近い-中国側の国境の町、満州里や黒河は昔から中露国民が双方の都市を主に商用で相互訪問する機会が多く、現在も活発な動きをしており、両国の重要な拠点となっている。以下、中国側の資料から最近の中露関係の一端を見た。

〖満州里〗

(位 置)

・人口17万人の満州里市は北京から1000キロ以上離れた内モンゴル自治区にある。中国、ロシア、モンゴル3カ国の国境付近に位置する-➀中国と欧州を結ぶ現代版シルクロ-ド経済圏構想「一帯一路」の主要な中継都市である。②満州里はシベリア鉄道経由で北京とモスクワを結ぶ国際列車などが停車する。③2011年8月、ホ-ムに滑り込んだ北朝鮮の特別列車からロシア訪問を終えた金正日総書記も降り立った。鉄路、陸路共にロシア・ザバイカリスク(中国名:外貝加尓斯克)へ接続する。

・満州里という地名は、ロシア帝国が19世紀末~20世紀にかけて東清鉄道(参考)を建設した際の「マンジュ-リヤ」(ロシア語で満州)である。満州国時代の1938年から数年にわたり、ナチス・ドイツに追われたユダヤ人たちが満州里を通って満州国に入国、ホロコ-ストの難を逃れることができた。現在、中欧を結ぶ国際列車(中欧列)だけで毎年計1300本以上が通過する。

<参考>東清鉄道はロシア帝国が建設した。シベリア鉄道のチタから分岐し、満州里からハルピンを経て綏芬河(すいふんが)へと続く本線と、ハルピンから大連を経て旅順へと続く支線からなる。

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満州里市(出所:ウィキペディア)

(繁 盛)

・最近、夜になると、ロシア人の踊り子たちのショ-が大人気である-土曜日の午後6時過ぎ、満州里市内のロシア料理店の前に黒山の人だかりができる。その理由は席が空くのを待っている中国人である。両国の人々は和やかな雰囲気をつくっていた。この親交は今後も変わらない。

(拠 点)

・1978年12月に始動した中国の改革・開放施策以来、「東アジアの窓」と称される内モンゴル自治区満州里市は中露貿易の急発展に伴い台頭し、中国最大の陸運都市となった。1990年代にロシアの「バックパッカ-」が満州里で貿易活動を開始し、近年になって、免税ホ-ル、輸出商品ホ-ルなどの施設が国境貿易区に新設され、様々な商品が溢れ、中露消費者に利益をもたらした。満州里は中露貿易のモデル転換とアップグレ-ド化により繁栄を享受している(注1)。

・現在の満州里は毎日9時を過ぎると、中露貿易取引エリアにはパンや化粧品、石鹸などのロシアの商品を背負ったロシア人たちが「俄羅斯人所商城」(ロシア人モ-ル)に入り、顧客を迎える準備を行う。商品販売後、中国の商品を購入して、ロシアに持ち帰る-この国境貿易が満州里の発展を促進した(注2)。

〖黒  河〗

(位 置)

・人口173万人の黒河市は黒竜江沿岸に位置し、358キロにわたる国境には下部行政区画-愛輝区、孫呉県城、遜克県城がそれぞれロシアと接する。愛輝区の対岸はロシア極東地区第3の町であるアム-ル州県のブラゴヴェシチェンスク(中国名:布拉戈維申斯克)で、その距離は750メ-トルである。

(貿 易)

・中国黒竜江出入国検査検疫局の情報によると(注3)、ル-ブルの為替レ-トが上昇に転じたことで、ロシア民衆の購買力が高まり、2017年9月30日現在、ロシアへ輸出された野菜や果物は計約5万7500トンと激増し、前年同期比4割増えた。輸出額は約2478万ドル。この動きの背景について、同局は中国農産物の価格は下がり、中国産果物や野菜の品質に対するロシア側の認知度が上がったためである。

(石 油)

・「中露天然ガスパイプライン東線」のプロジェクトマネジャ-の羅志立は-➀2018年7月5日、「中国大エネルギ-プロジェクト」ル-トの一つである北部区間油送パイプの溶接が半分に達した。②プロジェクトの最終輸送量は年間380億立方メ-トルで、中国のスマ-トパイプラインを敷設することなどを発表した。

・中露首脳が共に署名した両国の全面的・戦略的協力パ-トナ-シップを深めるためのプロジェクトである-中国国内区間は黒竜江省黒河市中露国境地帯から最終地は上海市である-中継地点は黒竜江省、吉林省、内モンゴル自治区、遼寧省、河北省、天津市、山東省、江蘇省、上海市である。その間、3170キロにパイプラインを敷設する(注4)

(婚 活)

・現在、結婚相手を探すために、外国へ行く中国人男性が増加している。特にシベリアは、中国と隣り合わせで、黒竜江省の黒河の対岸にあるブラゴヴェシチェンスクなどの都市へ中国人男性が訪れ、ロシア人女性と見合いをする(注5)。

・ロシア・シベリアの中心都市のノヴォシビルスクにあるレストランでは、最近、中国人の男性とロシア人女性の“婚活イベント”が行われた。同イベントには25~46歳の上海や北京、香港地区、深圳などから来た男性がお茶を飲みながら、ロシア人女性と通訳を介して、結婚・家庭感ついて話し合った。

・「環境時報」がロシア紙「シベリア・タイムズ」の報道を引用して報じた-ロシアのある結婚相談所の責任者によると、「中国は男女比がアンバランスで、男性のほうが多い。一方、ロシアはその逆で女性の方が多い。イベントに参加しているロシア人女性は全員35歳以下。中国人男性はロシア人女性と結婚したいと考えている。

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(出所:人民網「中国男性がロシアで婚活ツアー」)

(夫 婦)

・満州里市に住むロシア人女性、ビクトリアさんは2010年、夫となる尹訓衝(いん・くんんしょう)さんと出会い、恋に落ちた。満州里の急速な発展と国境貿易の活発化を目のあたりした2人、同市で生活することにした。

・現在、尹訓衝さんは観光業を立ち上げ、2人の娘の母となったビクトリアさんも同市の「中露互市貿易区」で、ロシア製時計の店を営む。ビクトリアさんは中国語が話せるようになり、時間があれば、家族でお茶を楽しみ、本場の中華料理を味合うなど、幸せな日々を送っているという(注6)。

〖エピロ-グ〗

・米国のトランプ政権発足後、対米戦略で中露首脳会談を頻繁に実施している。だが、これまでの両国の関係は“同床異夢”の関係にあり、今回の「東方経済フォ-ラム」もその感は否めない。

・反面、中露国境地帯の動きは国民の実質生活に根差した動きである。国境を跨いだ中露国民の商いは双方にとってメリットが大きく、必要不可欠なものとなっている。この動きは今後も変わらない。

(グローバリゼーション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「チャイナネット」2018年9月7日。

(2)「人民網日本語版」2018年5月17日。

(3)「新華網」2017年9月30日。

(4)「人民網日本語版」2018年7月6日。

(5)「人民網日本語版」2016年10月12日。

(6)「新華社日本語版」2018年9月8日。


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