2012年12月4日

・現在、中国の主力銀行として四大銀行(工商銀行、農業銀行、中国銀行、建設銀行)がある。主な業務対象として名称から分かるようにそれぞれの専門分野への投融資である。中国ではアジア金融危機(1997~98年)を機に、銀行部門の不良債権処理が本格化するのに加え、2003年以降、主に四大銀行の株式制への再編を進めた。改革の第一段階は不良債権処理で、その狙いは歴史の負の遺産を清算する。第二段階は株式制への再編であり、その目的は銀行のコ-ポレ-ト・ガバナンス(企業統治)の改善を図り、国有商業銀行を真の市場主体に変えていくことである。その政策の一環として-中国建設銀行が2005年10月に香港証券市場へ上場したのを皮切りに、中国工商銀行(2006年10月/香港、上海)、中国銀行(2006年6月/香港)、中国農業銀行(2010年7月/上海、香港)がそれぞれ上場を果たす。

・巨大な四大銀行の事例を紹介しよう。まず、行員数でみると2011年現在、総計で153万人-中国工商銀行40万人、中国建設銀行41万人、中国銀行28万人、中国農業銀行44万人である。因みに同年現在の邦銀(単体べ-ス)をみると、三菱東京UFJ銀行3.5万人、みずほ銀行1.9万人、三井住友銀行2.3万人である-いかに四大銀行の巨大さが分かる。

・英誌「ザ・バンカ-」が作成した2011年度の全世界銀行の収益ランキングのうち、中国工商銀行、中国建設銀行、中国銀行が上位3位を独占した。同誌によると、中国工商銀行の税引き前利益は432億ドル(約3兆4,560億円)で1位、中国建設銀行は348億ドル(約2兆7,840億円)で2位、中国銀行は268億ドル(約2兆1,440億円)で3位となった。次ぎにモルガン・スタンレ-(米国)は267億ドル(約2兆1,360億円)で4位、HSBC(英国)は欧州最高額の219億ドル(約1兆7,520億円)で5位である。因みに邦銀の三菱東京UFJ銀行の利益2011年現在、6,393億円である。

・役員報酬をみると、2012年6月、四大銀行の株主総会が相次いで開催され、一部上場銀行の役員報酬が公開された。各銀行の役員報酬が全体的に増加したと伝えている。四大銀行の総裁、薫事長(取締役会長)の税引き前年収は、2011年にいずれも160万元(約2000万円)を上回った。うち、農業銀行総裁・張雲氏の収入は173.55万元(約2170万円)と特に高かった「長春晩報」(2012年6月6日)

・世界おける四大銀行の今後を展望すると-会計事務所大手のプライスウォ-タ-ハウス-パ-ス(PwC)がこのほど発表した報告書によると、中国は2023年に米国を抜き、世界一の銀行大国になる見込みという。以前の予測を20年前倒しするものだ。そうなると、中国の銀行との競争がより熾烈になるため、西側の銀行の中国市場開拓はこれまでよりも大きな圧力に直面することになる。同報告書では、中国の地位がインドにとって代わられる可能性があるため、中国の世界一の銀行業大国の期間はそれほど長くないとみる。インドは2035年前後に日本を抜いて世界第3位の銀行業大国となる見込みで、以後、間もなくして、米国と中国を抜いて世界一の銀行業大国になることが予想される「人民網日本語版」2011年6月7日。

・融資面をみると-四大銀行だけで、中国の融資の82%を占めているという。殆どが国有企業に融資されたが、過大な設備投資により国有企業の半分以上が赤字で、不動産投資をしている企業が多く、不動産の売れ残りだけで60兆円分あるという。融資の焦げ付きは大変なことになっていると語るのは中国問題に詳しい評論家宮崎正弘氏。同氏はさらに「中国が抱えている潜在的な不良債権は160~240兆円」と指摘する。実に中国のGDP(国内総生産)570兆円の3~4割にあたると語る。

・米誌「ブル-ムバ-グ・ビジネスウィ-ク」(2012年11月19日号)は「中国企業の債務ブラックホ-ル」との記事を掲載-マクロ経済指標が改善しているにもかかわらず、中国企業の債務残高は国内総生産の120%に達し、その大半が国有企業分だと警戒感を示した。1990年代の過重債務問題に匹敵する深刻さだという。企業面からみると、鉄鋼産業で9億トンの生産能力のうち2億トンは過剰との例を引き、多くの中国企業が過剰生産能力の問題に直面していると指摘。「企業は設備投資より債務削減に動こうとしている」とし、格付け機関が分析した不良債権の増加予想を紹介している。中国の新しい指導者となった習近平氏の経済運営の基本方針は“安定成長„である。これに伴い金融面からの国民生活への一翼を担う四大銀行の責務は従来に増して大きくなっている。 

                                     <グロ-バリゼ-ション研究所>所長 五十嵐正樹