2018年11月13日
〖プロロ-グ〗
・米中間選挙最中の11月5日、中国の習近平国家主席が上海で開催された「第1回中国国際輸入博覧会(CIIE2018)」(会場:中国国家コンベンションセンタ-/会期:18年11月5日〈月〉~10日<土>)の開幕式で、今後15年で物品とサ-ビス合計40兆ドル超(約4500兆円)輸入する見通しであると表明した。
習近平国家主席
出所:ウィキペディア
・18年は中国が改革開放政策を開始してから40年の節目に当たり、習近平指導部は輸入博を最重要の外交行事の一つに位置づけている。また、習近平氏は-➀中国の開放の門を閉じることはない。より大きく開いていくだけだ」。②「各国は旗幟(きし)鮮明に保護主義、一国主義に反対すべき」とも呼びかけ保護主義に邁進する米国を牽制。このように膨大な輸入額を掲げて対外開放を訴え世界での発言権拡大を狙う思惑が読取れる。
〖政 策〗
(40兆ドル)
・習国家主席は国民の収入増につながる政策として-①消費を刺激し、関税を引き下げて輸入を増やす、②自動車や金融業界では緩和が進む外資の持ち株比率制限の緩和、③高齢化が進む中国で需要増が見込まれる医療や教育業界にも広げると表明-高齢化先進国の日本の企業にビジネスチャンスとなりそうである。
・輸入見通しの内訳は、部品が30兆ドルでサ-ビスが10兆ドル。2017年は今後15年で24兆ドルの部品を輸入する見通しとしていた。同年の物品の輸入実績は1兆8410億ドルで多少購入を増やせれば、新たな見通しに達するが、サ-ビスの実績は4676億ドルと大幅増が必要で、実現は不透明(注1)。
(識者見解)
・路虹艶氏(商務部国際貿易経済協力研究院研究員)は「40兆ドル以上の輸入は消費構造を改善し、消費財の種類を豊富にし、ミドル・ハイエンド消費を促進し、国民の振興消費へのニ-ズをよりしっかりと満たしやすくする。また品質の優れた商品を大量に輸入することで、国内の体制・メカニズムの改革も推し進め、関連産業のモデルチェンジとアップグレ-ドを促進し、さらには中国の優れた商品の供給増加を促し、消費の成長を促進すると語る。
・中国人民大学の重陽金融学院の賈晋京氏は「数年連続で中国の世界経済成長への貢献率は30%を超えている。40兆ドルの以上の輸入は引き続き世界の商品とサ-ビス市場の力を引き出し、中国の巨大な消費能力で世界経済を成長促進させる」。
・南開大学国際経済貿易学部主任の彭支偉氏は次のように指摘-「大規模な輸入は世界の自由貿易が発展する上での支えとなる。現在、中国の輸入は世界の自由貿易が発展する上での支えとなる。現在、中国の輸入は世界の輸入の10%を占め、今後もその比重は大きくなり続けるだろう。中国は先進的な工作機械、工業ロボット、薬品・医療器械、生活日用品などの多くの分野において輸入増加の余地が大きく、外国企業にとって大きなチャンスになる」。
・中国国際経済交流センタ-首席研究員の張燕生氏は「40兆ドル以上の輸入を発表したことで、中国は輸入を重要なポジションに置き、さらに輸入だけなく輸出にも力を入れるというシグナルを世界に伝えた。最も最要なのは、中国が開放型の中国経済および世界経済を推進する決意を示したことである」(注2)。
〖博覧会の概況〗
(参加国など)
・博覧会に約172ヶ国・地域・国際機関が参加し、展示面積は30万平方メ-トル、国内外のバイヤ-40万人以上が商談のため訪れる。出展企業は3600社以上で、5000点以上の展示品が中国市場初公開となる。うち日本企業は最多の約450社-トヨタやホンダなどの自動車メ-カ-の他に、三菱重工業、パナソニックなどの日本の有力企業も出展している。
・展示製品カテゴリは-①貨物貿易部門:インテリジェント・ハイエンド設備、消費者向け電子製品、家電、医療機器、自動車、服飾・日用品、食品・農産品など。②サ-ビス貿易部門:エマ-ジングテクノロジ-、アウトソーシング、イノベーションデザイン、文化教育、観光サ-ビスなど。
(国別ランク)
・出展企業数トップ3は日本、韓国、米国である。1位は日本である-企業数は食品、日用消耗品、スマ-ト設備エリアに最も多く、展示面積はスマート設備と自動車エリアが最大である。2位は韓国であり、企業数は日用品と食品エリアに最も多く、展示面積は日用品、食品、電化製品エリアが最大である。3位は米国である。企業数はスマ-ト設備と医療エリアに最も多く、展示面積はスマ-ト設備と電化製品が最大である。
(成 果)
・中国国際輸入博覧局の孫成海副局長は11月11日、今回の博覧会による成果として、①簡易的な統計によれば、中国大陸、あるいは世界で初登場となった新商品、新技術、新サ-ビスなどは570件を超えた。年間単位で計算すれば、輸入博での成約額は計578億3000万ドルとなる。『一帯一路』沿線国家との成約額は47億2000万ドルに達した」(注3)。
(関係者)
・日本代表団の磯崎仁彦団長はメディアの取材に答える中で、「日本の各界は13億人もの人口を有する中国という大きな市場を非常に重視している。日本企業は中国市場でより多くとのチャンスをつかまえるだろう」と述べた。
・日本のJETRO(日本貿易振興機構)上海事務所・小栗道明首席代表は、中国のマスコミ(中国網)のインタビュ-に応じ、以下のような見解を表明した。①中国政府自身が最近、まさに改革開放の推進に注力していることを中国上海にて非常に強く感じる。②午前中の習主席のメッセージでも「その改革の扉を閉ざすことはなくより大きく開いていく」というような力強い発言がありそれが着実に推進されることを期待している。
・トヨタ自動車(中国)投資有限公司の小林一弘会長兼社長は、「これほど力を入れたわけは、トヨタが今回の博覧会を通じて、電動化、スマ-ト化、相互接続化などの分野で積み上げてきた技術と製品、未来のモバイル社会への具体的な提案を中国の消費者に示したかったからであり、中国社会に寄与して、中国社会と共に発展したいと考えたからである」と述べた(注4)。
〖エピロ-グ〗
・米中貿易摩擦は双方の指導者が歩み寄ることなく状況は厳しさを増している折、「第1回中国国際輸入博覧会」が上海で開催され、習近平国家主席は“自由貿易の旗手”のように保護主義に走る米国を牽制し、膨大な輸入額を掲げて対外開放を訴え、月末にも予定される米中首脳会談(アルゼンチン)を前に戦術転換を図った。
・今回の博覧会の開催は、中国が世界の「工場」から「市場」に変容したことをPRする機会となった。その表れは172の国・地域・国際組織が参加。特に熱心であった日本はトヨタ自動車など約450社・団体など最大規模で出展した。この現状は中国の経済力が習近平氏の強いリダ-シップの下に実行されていることを物語る。
(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹
(注)
(1)「朝日新聞」2018年11月6日。
(2)「北京週報日本語版」2018年11月8日。
(3)「中国国際放送局日本語版」2018年11月11日。
(4)「人民網日本語版」2018年11月9日。
(資 料)
・日本貿易振興機構(ジェトロ)資料など。