2018年12月25日


〖ハイテク覇権〗

・中国の改革開放政策の導入40年を祝賀する記念大会が12月18日、北京の人民大会堂で開かれた。習近平国家主席は演説で、世界第2位の経済大国を実現した中国共産党の統治成果を強調するとともに、更なる対外開放を継続する姿勢を内外に明確にした。また、開放型の世界経済の建設を積極的に推進するとも述べ、保護主義的なトランプ米政権を牽制した。中国の自信の背景には、習近平政権が2015年に公表した「中国製造2025」がある。

・同政策は次世代情報技術やロッボトなど10の重点分野を設定した-①官民一体の開発で2025年まで「世界の製造強国入り」、②建国100年の2049年をメドに「製造強国のトップになる」という国家目標である。同発展の次世代情報技術の要となる「5G」と呼ばれる通信規格がある。現行「4G」に比べて通信速度は100倍とされ、人工知能(AI)や自動運転などの先端産業を支える。その代表格が「ファ-ウェイ」(華為技術/以下、華為と略称)であり、最近、華為の孟晩舟CFOがカナダ当局で拘束されたニュ-スが流れ、世界を震撼させた。
孟晩秋










出所:ウィキペディア

〖孟晩舟逮捕〗

(身柄拘束)

・12月1日、米中首脳会談(於:ブエノスアイレス)が行われていた当日、ファ-ウェイの孟晩舟CFO(46歳)はカナダ・バンクバ-で飛行機を乗り換える際、米国の要請を受けたカナダ司法当局に逮捕された。容疑は不明であるが、対イラン制裁違反の疑いがあるとみられ、米国は身柄の引き渡しを求めている。この背景には安全保障やハイテク技術を巡る米中の覇権争いがあるとみられ、米中の新たな火種となりそうである(参  照)。

・12月11日、バンクバ-の裁判所は米当局の要請に応じてカナダ当局が逮捕した孟晩舟容疑者を保釈した。保釈金1000万カナダドル(約8億5千万円)、保釈条件として、複数の旅券(パスポート)の提出、24時間態勢の監視装置の装着などを命じた。12月13日、中国政府が2人のカナダ人を拘束したことを発表した。

(米加会議)

・このような動きに即応するようにワシントンで開かれた米加外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)後の記者会見で、ポンペイオ氏は、「孟氏の米国への身柄引き渡しについても「司法手続が継続中だ」と述べるにとどめ、カナダのフリ-ランド外相も一連の手続きについて「政治的な干渉は一切ない」と説明し、「我々は法治国家だ」と強調した上で、「この事件を他の問題の解決の道具としてはならない」と言明した。

〖中国の反応〗

(外務省)

・中国の外務省の耿爽(こうそう)副報道官は12月6日の記者会見で、「カナダに孟晩舟の逮捕理由の説明と即時解放を強く申し入れた」。ファ-ウェイ社は「孟氏が不正行為に関与したとは認識していない。輸出規制や制裁を含む各国の法律を順守している」とコメント。また、中国外務省の楽玉成次官は12月8日、駐中国カナダ大使を呼んで孟氏の即時釈放を要求。正当な権利が守らなければ「重大な結果を生み、すべての責任はカナダが負わなければならない」と警告した。同9日、ブランスタンド駐中国米大使を呼び出し、孟氏の逮捕をカナダに要請にしたことについて、「強烈な抗議」を申し入れた(注1)。

(新華社)

・孟晩舟CFOがカナダ当局に拘束された。中国はこれに厳正な申し入れを行い、強く抗議した。孟氏はカナダの法律に違反していない。カナダ側が米国の一方的な主張だけに耳を貸し、孟氏を一方的に拘束したことは、法に理にも情けにもかなわない。属地主義のいずれからもカナダ当局に口出しの権利はない。

・孟氏は“高血圧と睡眠”の問題を抱え、今年5月に“頸部の手術”したばかりだが、カナダ側はそれに対しても適切な人道主義的配慮を欠いている。カナダの指導者は今回の拘束について事前に知っていたと認めている。中国側にそれを知らせることなく、このような劣悪な事件の発生を許した(注2)。

(華為関係)

・華為の胡厚崑副会長兼輪番会長は日本経済新聞社などのインタビュ-に応じ、安全保障上の懸念から欧米や日本で同社製品を締め出す動きが広がっていることについて「証拠がない」と反論した。一方、次世代通信規格「5G」時代をにらみ、5年間でサイバ-セキュリティ-分野に20億ドル(約2200億円)を投じると発表した。また、イランとの不正取り引きについては、同会長は「司法のプロセスに入ったためコメントできない」と述べた(注3)。

〖反米感情〗

・8日の共産党機関紙・人民日報系の「環境時報」が主催するフォ-ラムで、楊毅・海軍少将が「米中関係は非常に危険な十字路にある」と指摘し、米国との「持久戦に備えるべきである」と訴えた。今回の逮捕を機に体制内で対米強硬論が強まっており、反米感情は民間にも広がりつつある-①1部の企業は従業員に米国製品のボイコットを求めるよう通知、②ファ-ウェイの携帯電話購入には15%の補助を出す、③米アップル社製品の購入には罰金を科す企業も出ている。中国の矛先はカナダに向いており、著名な中国の経済学者はネット上で「カナダに旅行にいくな」とも呼びかけている(注4)。

〖排除の動き〗

(米  国)

・政府機関や政府と取引する企業にファ-ウェイなどの機器の利用を禁じている。その裏付けとなるのが、米国が本年8月に成立した『国防権限法』である。米政府は日本など同盟国にも共同歩調を取るように要請。オ-ストラリアやニュ-ジランドは同調した。今後は独仏などの欧州大陸諸国の動向が注目される。中国製品を使えば具体的にどのようなリスクがあるのか、日本政府は米国から情報を得るとともに、自らも確認し、できるだけ情報開示して欲しい(注5)。

(日  本)

・総務省は12月14日、第5世代(5G)移動通信システムの周波数を携帯電話各社に割り当てる際の審査基準を定めた開設指針を決定した。基地局など通信設備で、中国製品の一部を事実上排除するよう求める項目を盛り込んだ。中国通信機器大手の華為と中興通訊(ZTE)の製品が念頭にあり、情報漏洩など懸念した政府方針に沿った。日本政府は世界貿易機関(WTO)のル-ルに配慮し、国名や企業名の名指しを避けた上で調達から排除した。中国側の反発が強まりそうである(注6)。

(英  国)

・中国の華為は欧米の主要顧客との取引を失いつつある。背景には華為を国家安全保障上の脅威とみなす米国が、同盟国対し同社の通信機器使用を避けるよう促しているほか、各国の政府が同社に厳しい視線を向けていることがわかる。契約者数で英通信最大手のBT(British elecom)グル-プは、中核の通信網から華為製品を排除している。同社は2年前に始まった通信網更新の一環と説明しているが、公表が今になった経緯について明らかにしていない。華為にとって英国は15年前に主要国で同社初のパ-トナ-となった重要市場で、BTの決定は大きな打撃になる。

〖華為の実力〗

・米国と中国は貿易不均衡に端を発した経済摩擦が強まり、ITの覇権争いまでに発展した。その核心は次世代通信「5G」の主導権をどこが握るかということにかかっていると言っても過言ではない。現在の通信網は「4G」で、「5G」になると、通信速度は100倍とされている。「5G」はネットワークシステムの大容量化を低コスト・低消費電力で実現することを目標にしている。「5G」の特徴は、①高速大容量、②低遅延、③低コスト・省電力、④多接続になる。これらにより車の自動運転や医療手術などの遠隔治療になると言われている。つまり、新しいIoT社会には「5G」通信が不可欠であるという。次世代ハイテク戦争を制する5Gの先端企業は華為である。米中貿易戦争の激化で、華為の技術力が習政権にとって欠かせぬパワ-になった(注7)。

〖展   望〗   

・「5G」を制するものは世界を制すると言っても過言ではない。①「5G」は安全保障面では兵器体系を革新的に変革する。②「5G」は自動運転技術の確立にとって不可欠であり、世界の自動車産業の覇権を奪取する技術である。③「5G」の先端行く「華為」の行方は、中国の生命線でもある。習近平政権にとって「華為」の技術力は欠かせぬものになっている。

・「華為」という本丸をトランプ大統領に攻められた習政権は今後どのような取引が(ディ-ル)可能か検討を重ねているという見方もある。その対応措置の一環として、最近、中国は“技術移転強制を禁止”する動きもある。しかし、現実的問題として、孟晩舟を米国の人質にならないよう中国は総力上げて対抗措置を講ずることになろう。今後、その行方は世界が注視している。

(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注) 

(1)「東京新聞」2018年12月07日。

(2)「新華社」2018年12月9日。

(3)「日本経済新聞社」2018年12月19日。

(4)「東京新聞」2018年12月11日。

(5)「日本経済新聞」2018年12月08日。

(6)「東京新聞」2018年12月15日。

(7)「産経新聞」2017年12月14日。

(参  照)

<華為技術>

(概  況)

・1987年に人民解放軍出身の任正非が操業(中国・深圳)/社員持ち株制度の民間企業(非上場)/主力製品:スマホ、クラウドサ-ビス/2017年の連結業績:売上高6036億元(約10兆円)/純利益475億元(約7800億円)/地域別売上高(2017年):中国50.5%、欧州、中東、アフリカ27.1%、アジア太平洋12.3%/米州(中南米を含む)6.5%/その他3.5%。

(対日本)

・通信機器やスマホを通信事業者などに供給/日本企業から調達額は2017年43.6億ドル(約4900億円)/日本の事業所:横浜市や千葉県船橋市に研究拠点/初任給を40万円として人材を積極採用(注8)。調査会社のMCA(東京)によると、通信基地局の国内シェアは2017度に13%。日本勢より4~5割安いとされる。低価格を武器に約18%のNECや富士通に迫る。

・ファ-ウェイの純利益はNECの17倍、研究開発は13倍に達する。国内携帯大手3社では唯一ソフトバンクがすでにファ-ウェイの基地局を使っている。ソフトバンク社員は「政府が規制すれば5G導入遅れかねない。」と警戒している。