2019年2月9日


〖プロロ-グ〗

・1978年12月、第11期三中全会で“改革・開放路線”が採択された。これにより1979年3月、香港に近接する宝安県が深圳市に改名された-以前は小さな漁村であり、また、中国の若い人々が命がけで遠泳して、ネオンサインが輝く自由香港を目指す脱出の地でもあった。その後「世界の工場」へ、そして昨今は「イノべ-ション都市・深圳」へと変貌した。2018年は中国が改革開放政策に転換して40周年の節目にあたる。

・李克強首相は2017年3月、第12期全国人民代表大会(全人代)第5回会議の政府活動報告で、「広東・香港・マカオビッグベイエリア」構想(以下、「ビッグベイエリア構想」)の発展計画策定の検討に入ったと表明。また、広東省発展改革委員会主任が全人代開催期間中、ビッグベイエリア構想は我が国の改革開放の最前線であると同時に経済成長の重要な牽引役で、中国はビッグベイエリア構想の発展を極めて重視し支援している」と発言している。以下、同構想の基本戦略と近況である。
図1






〖構想の背景〗

(経   緯)

・改革開放40周年の経緯をたどると-➀1980年代から1990年代にかけての「前店後廠」と呼ばれる広東省への生産拠点設置を主体とした第1段階、②2000年以降のサ-ビス業主体の連携となった第2段階、③2014年の広東自由貿易試験区(広東自貿区)設立以降、香港と広東省という異なる制度の刷新を図りつつ地域間協力を進める第3段階-広東省、香港、そしてマカオが一体となって中国の対外開放における重要な戦略的役割を担う時代に入った。

・香港返還20周年に当たる2017年7月1日、中国政府及び香港・マカオ・広東省の各政府が、『広東・マカオ協力深化によるビッグベイエリア構想の建設推進枠組み協定』を締結し、ビッグベイエリア構想(中国語:粤港澳大湾区)が国家戦略として動き始めた。ビッグベイエリア構想は、広東省(粤)及び香港(港)、マカオ(澳)の経済協力強化を通じて一大経済圏を目指すもので香港にとっては、中国本土の長期的な発展計画に初めて組入れられた(注1)。

(構   成)

・ビッグベイエリア構想は、広東省珠江デルタ9都市(広州/深圳/東莞/恵州/仏山/江門/中山/珠海/肇東と香港・マカオ)の一体化を推進する中国の地域発展計画で、広東・香港・マカオの相互協力によって、世界の3大ベイエリアであるサンフランシスコ、ニュ-ヨ-ク、東京に匹敵する地域経済圏の構想を狙いとしている。

・2016年現在の総人口は約6700万人、域内総生産<GDP>は約1兆3000億米ドルに上り、同年のロシアの総生産(約1兆2800億米ドル、世界12位)に相当する規模である。総人口が中国全体の5%程度、GDPは約12%に達し、その中でも、香港、広州、深圳がいずれも20%強を占め、ビッグベイエリアはGDPの60%強を占める。珠江デルタは全中国に占める面積はわずか0.6%に過ぎないが、中国全体のGDPの13%を創出(約9兆元)しており、香港・マカオとの一体化を進めることで、更なる飛躍が期待されている。

〖目   標〗

(重点分野)

・今後、ビッグベイエリア構想は国家レベルの協力調整システムによって中央政府から権限移譲と政策支援を受け、資本取引での人民元の越境使用、外為管理改革などを先行実施、各地金融市場の双方向拡大による「金融核心圏」化を目指すほか、域内の基礎インフラ強化と、広東省を中国の科学技術産業を中心に引き上げることを狙いとしている(注2)。ビッグベイエリアの具体的な発展計画はなお公表されていないが、中国メディアによると、2030年までにGDP規模を4兆6000億ドルに拡大させ、東京(3兆4200億ドル)、ニュ-ヨ-ク(2兆1800億ドル)を上回る世界最大のビッグベイエリアを目指すとされている。

・ビッグベイエリア計画策定における重点6分野として(注3)-➀インフラの相互連携の強化、②世界の新たなイノベーション-センタ-としての地位強化、③「一帯一路」沿線国・地域とのインフラ連携や通商協力の深化、④製造業の高度化や新興産業の育成による産業バリュ-チェンの高度化、⑤広東や香港・マカオの金融市場相互開放連携推進による香港を筆頭としたビッグベイエリア金融核心圏の共同構築、⑥教育や環境を含めた質の高い生活圏の創出などが挙げられる。

(特   徴)

・ビッグエリアは、1つの国家(中国)、2つの制度(社会主義と資本主義)、3つの関税区(中国本土・香港・マカオ)、4つの核心となる都市(広州・深圳・香港・マカオ)、8つの著名な港(香港・マカオ・深圳・広州・中山・珠海・東莞・江門〉を擁し、南は東南アジアと南アジア、東は海峡西岸経済区と台湾、北は長江経済ベルト、西は北部湾経済区に繋がり、「21世紀海上シルクロ-ド」沿線国家と中国本土を結ぶ重要な橋梁としての役割を担っている(注4)。

〖一帯一路〗

・「一帯一路」構想におけるビッグベイエリア構想の役割については、2014年11月10日、習近平総書記が提唱した(APEC・北京)「一帯一路」構想の基本方針である『シルクロ-ド経済ベルトと21世紀の海上シルクロ-ド共同建設促進のビジョンとアクション』の中で既に言及され、「『一帯一路』建設推進にあたり、国内各地域の優位性を充分に発揮させる」との前提の下、沿海部及び香港、マカオ地域に関して「深圳前海、広州南沙、珠海横琴などの開放協力エリアの役割を充分に発揮させ香港やマカオとの協力を深め広東・香港・マカオビッグベイエリアを形成する」との方針を明示した。

・香港と広東省との経済協力関係は、生産拠点を広東省、金融や貿易サ-ビスなどのその他のオペレーションを香港が担うという分業体制の時代から、互いに一体となって中国の対外開放における重要な戦略役割を担う時代に移ったといえる。今後は広東、香港、マカオがそれぞれの得意分野を活かしつつ手を組んで、中国の外交・対外経済戦略である「一帯一路」構想への参画が進むことが想定される(注5)。

〖エピローグ〗

・中国の面積は日本の約27倍である。この広大な面積は中国経済の成長にとって多くの影響を及ぼす。現在、習近平氏の「一帯一路」構想や「ビッグベイエリア」構想は、将来に向けての中国の対外国家戦略の支柱となっている。この両構想の成否は中国経済、国際経済にとっても重要である。

・この構想の具体的な動きとして、2018年9月23日広深港高速鉄道(香港-広州間)、同10月23日、港珠澳大橋(香港-珠江-マカオ)が開通し、人・物流が活発化し、大きな経済効果が期待される。すでに外国から観光客が増えており、JTBも新しい商品を開発し、旅行者を募集している。

(グロ-バリゼ―ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「香港発SMBC Business  Focus」-マカオビッグベイエリア構想(1)~提出経緯と構成地域、2017年7月31日。

(2)《特別寄稿》「一帯一路」と「大湾区」構想からみる香港の最新動向と果たす役割、伊東正裕(香港貿易発展局東京事務所長)、「香港ポスト」2018年8月3日号。

(3)「香港特別行政区投資環境資料」、みずほ銀行・国際戦略情報部、2018年9月。

(4)(注2)と同じ。

(5)「香港発SMBC Business  Focus」-マカオビッグベイエリア構想(2)~枠組み協定の主な内容~、2017年7月31日。