2019年2月15日

 

〖プロロ-グ〗

・米中経済摩擦の現状を欧米経済に見ると、忍ぶように“景気減速”が進んでいる。日米の主力企業の2018年第3半期の決算を見ると-➀米国のアップルはスマホの主力製品「iphone」(日経1/30)の“中国販売”が想定よりも落ち込んでいる、②日本のファナック(日経2/1)は42%の減益で、その影響は枚挙にいとまがない。不断なく中国経済は成長するという成長神話が崩れたことを意味する。

・中国は基本的には西側ドル体制に不信に持っていると思われる-ドルの需給関係によりドルの乱高下が続き自国経済は大きな影響を受けてきた。中国当局は、中国経済を安定的に成長させるには“人民元の国際化”が不可欠とみている。その裏付けとして現在、中国は一貫して人民銀行(中央銀行)の外貨ポジションの金の積み増しを積極的に行っているように思える。以下、中国の国際金融情勢における金保有(中国:黄金)の意義についての近況である。
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〖外貨準備〗

(金購入増)

・中国が外貨準備の金の保有を増やしている。2019年1月末の保有量は前月末比12トン多い1864トンと2カ月連続で増えた。金保有は昨年12月末に2年2カ月ぶりに増やしたのに続く動きである。中国人民銀行が2月11日に公表した2019年1月末の外貨準備の内訳として公表した。一方、米国債の保有は昨年夏から減少を続けている。ドル離れを探る動きを見せることで、2月11日から北京で始まった貿易協議で米国を牽制するねらいもあると専門家はみている(注1)。

・台湾の「旺報」によると、米株が変動し、地政学的リスクが高まり、リスクヘッジとして金投資が世界で重要視されている。各国の中央銀行も金を積極的に購入し、NYの金先物価格は本年2月10日に6カ月の最高値を更新し1オンス(31.1グラム)1300ドルに迫った。中国人民銀行の最新デ-タによると、2018年12月末時点の金保有量は5956万オンス(1852トン)で、同11月末の5924万オンスから32万オンス(約10トン)増加し、2016年11月以来の増加となった。各国の中央銀行の金保有量は年間148.4トン増え、22%増加した(注2)。

(米国債減)

・中国が官民で保有する米国債は昨年11月末に1兆1214億ドル(約120兆円)で、2018年6月から6カ月連続で減少した。保有額は2017年5月末以来の最低の水準。外貨準備の金額はほぼ横ばいで推移しており、米国債を圧縮した分を金など他の資産に振り向けているようである。どんな通貨とも交換できる金は、“無国籍通貨”といえる資産で、すぐに換金できる利点もある。ロシアやトルコなど米国と距離を置く国々も米国債を減らし、金保有を増やしている。

・2017年のトルコは、内政が比較的安定し外貨準備や金を増やす余裕が出てきた-①トルコの金保有量は2016年比50%と大幅に増えた-②2018年、ロシアは274.3トン増と13年連続で金保有量が増え、初めて2000トンを超えた。ウクライナ問題をきっかけに西側の経済制裁を受けるロシアにとり、ドル依存度を下げるのは制裁の打撃を和らげる目的があるとみられる。③カザフスタン(50.6トン)、④インド(40.5トン)なども金を購入している(注3)。

〖中央銀行〗

(各  国)

・金に対して長年冷ややかな態度をとっていた各国の中央銀行も金購入に加わった。ワ-ルド・ゴ-ルド・カウンシル(WGC)の報告によると、2018年第3四半期に各国の中央銀行は金購入を大幅に増やし、世界の中央銀行の金保有は148.4トン増えた。金は中央銀行のポジションの重要な一部である。IMF(国際通貨基金)の統計によると、2018年上半期の時点で、各国の中央銀行の金保有が外貨準備高の占める比率は約10%である。

(人民銀行)

・中国の公的金保有量(人民銀行)について、金市場に詳しい専門家は、当局が以前公表した1842トンより倍以上の約4000トンであるとみている。また、個人や企業の金保有量は1万5500トンと推計している。目的は“人民元の国際化”であると同時に、“世界準備通貨”としての地位を確立するためとみている。

〖金の需給〗

(生  産)

・シンガポール金取引企業・BullionStarアナリストのコ-ス・ジャンセン(KoosJansen)氏は、中国当局は2000年から国内の“金採掘”や海外からの公的機関の金輸入や個人の金需要拡大を通じて金保有を増やしてきた(注4)。

・同氏によると、中国は公的金増やすために国内金鉱山の開発に力を入れている。現在中国の金鉱山は6000カ所。2015年この金鉱から490トンの金を産出している。加えて、中国は外国から金を輸入しており、2016年、中国は香港市場、スイス金市場そしてイギリスから約1300トン金を輸入している。2018年12月の中国の外貨準備のうち、金のシェアは2.40%とみている(注5)。

(需  要)

・中国黄金協会が2019年1月31日に発表したデ-タによると、2018年、中国の実質金消費量は5.73%増の1151・43トンで、“6年連続で世界首位”を維持している。中国黄金協会の宋鑫氏(そうきん)会長は同1月31日の記者会見で、「国内の金消費市場は持ち直しを続け、アクセサリ-、金地金、工業とその他の金使用は着実に伸び、金貨販売はわずかに減少した」と述べている。統計では、2018年の中国の金製アクセサリ-消費は5.71%増の736.29トン、金地金は3.19%増の285.2トン、金貨は7.69%、工業とその他は17.48%増の105.94トンであった(注6)。

〖エピローグ〗

・中国人の金選好は他国と比べると、ひときわ強い。その理由として阿片戦争(1839年~1842年)以来、国土は列国に蹂躙され艱難辛苦を経験してきた国民は、金の“無国籍通貨”として役割を熟知していた。その“歴史的教訓”は今でも生きている。著名な金アナリストであるディモシ-・グり-ンは、「金-21世紀への展望」の中で、「中国人にとって金を意味するkamは長い間、“富の象徴”であり、価値の貯えの拠り所であり、金への信頼は“中国の共産革命を経ても生きながらえた”」と述べている。1988年7月、国務院秘書長白美清氏は「中国は世界の産金大国になるとを望んでいる」と表明。

・中国当局は人民元の国際化について、中国銀行は2018年1月31日に発表された、2017年度の「人民元国際化白書」なかで、「人民元の国際的地位は米ドル、ユ-ロ、英ポンド、日本円などの国際通貨と同水準に近づく」とみている(注7)。人民元は2016年に国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成通貨となり、形式的に国際通貨の一つである。しかし、実際には貿易や国際金融取引、中央銀行の保有する外貨準備をみても、人民元が主要な国際通貨になったとは言えない(注8)。

(グローバリゼーション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「日本経済新聞」2018年2月12日。

(2)「チャイナネット」(日本語版)2019年1月14日。

(3)「日本経済新聞」2018年2月1日。

(4)「大紀元」2017年3月17日。

(5)(注4)と同じ。

(6)「新華社」2019年2月1日。

(7)「チヤイナネット」2018年2月2日。

(8)伊藤宏之論文「黄色信号の中国経済(下)」。

  日本経済新聞(経済教室)、2019年2月15日。