2019年4月10日


〖プロローグ〗

・最近、新聞紙上で「5G」(第5次世代移動通信システム)という文字が毎日のように目に入る。目下、「5G」が、米中のハイテク戦争の核心的問題であり、「5Gを制すは世界を制す」という。米国が目の敵にするファ-ウエイ(華為)は「5G」の最先端企業で、米国は政府機関のファ-ウエイ製品の調達禁止をした。その理由は国家機関の安全保障にとって重大な問題があるという。米国はファ-ウエイ製品の排除を同盟国に呼びかけているが、各国の思惑もあり、なかなか米国の思うようにはいっていない。反面、ファ-ウエイは「6G」をめがけて、取り組みを加速しているという。

・中国の「5G」に代表される技術発展は西側が想像するように革新的で、他国の追従を許さないのが現状である。ファ-ウエイの本社があるのは深圳である。1978年に鄧小平主導により深圳経済特区が発足してから40年になる。当初、労働集約的産業が中心であったが、現在は中国の「ハ-ドウェアのシリコンバレ-」と呼ばれている。以下、現在の深圳に焦点を当て、最近の状況を紹介する。
しんせん






〖深圳市概況〗

(4大都市)

・深圳は経済特区になってから40年、人口3万人の漁村から1253万人(2017年)の大都市となった(参照1)。北京市、上海市、広州市と共に中国本土の4大都市といわれる「北上広深」の一つであり、「一線都市」に分類されている。かっては、経済成長のスピ-ドを表す標語として、“深圳速度”と言われた突貫工事の建設ラッシュも今は昔となった。現在、中国の屈指の世界都市となった。米国のシンクタンクが2017年に発表した総合的な世界都市ランキングで世界80位の都市と評価された。中国本土では北京市、上海市に次ぐ3位である。

(ハイテク都市)

・2010年に習近平政権が誕生した以降、中国政府は供給面の改革を打ち出し、鉄鋼や石炭など深刻な過剰生産を抱える従来型産業の生産能力の縮小を促進するとともに余剰労働力の受け皿としての創業支援を強化し、「大衆による操業、万人によるイノベーション」戦略を発表した。「中国製造2025年」に代表される新興産業の促進策を相次いで打ち出し、「製造強国」に変貌を遂げようとしている(注1)。

・深圳は生産拠点から研究開発拠点(R&D)へシフトした。『深圳経済統計年鑑』によると、深圳市のR&D費は2009年に279億人民元(4631億円)から2016年には842億元(1兆3977億円)に拡大。2016年の資金源内訳をみると、94%を企業が占め、企業主導で研究開発が進められている。また、一定規模以上の工業企業数は2009年の8412社から2016年には6629社に減少したが、そのうちR&Dに従事している企業、R&D機関を有する企業はそれぞれ同1018社から2117社、同630社から2147社へと大幅に増えている。

・深圳市は現在、産業の高度化を促進する一環として、①ハイテク企業への優遇税制、②バイオテクノロジー・インタ-ネット・新エネルギ-の3大新興産業への助成策の制定、③海外から優秀な人材を雇用した企業・団体に助成金を支給する条例、④経済成長モデル転換条例の可決など、矢継ぎ早に新政策を出している。また、原子力や風力・太陽発電など新エネルギ-車産業基地の計画を発表するなど、ハイテク企業が深圳に進出しやすい環境を整えている(注2)。

(特  徴)

・住民構成の特徴として、改革開放経済のプロセスで外部より労働人口が流入して都市が形成され、“広東省でありながら広東語が使われない比率が極めた低い地域”となっている。また、深圳市には政府主導で新興事業発展のためのインフラ製品を生産する工場が数多く存在し、「シリコンバレ-」や「ハ-ドウェアのシリコンバレ-」などとも呼ばれている。

〖国際的視点〗

(研究開発費)

・中国の先端研究の核心である「中国製造2025」、先端研究が5-20年先の産業競争力につながると見込んでいる。力を入れる研究テ-マはハイテク産業育成策「中国2025」に重なる。中国が様々な研究分野で市場を独占する可能性がある。その中核都市は深圳である。

・文部科学省の科学技術・学術政策研究所によると、中国の研究開発への投資総額は2016年に約45兆円で、米国の約51兆円に肉薄する。学術誌に投稿された論文数もエルゼビアの調査では、中国は2017年で51万件と5年前よりも27%増えた。米国は56万件だが、同期間で5%増とほぼ横ばいである。

・中国は産業政策の「中国製造2025」で、次世代情報技術や新エネルギ-車など10の重点分野を設定する。研究力を強化して、2025年に世界の製造強国の仲間入りをし、2049年(建国100年)に世界のトップ級になることを目標にしている。今回の調査で明確になったのは中国が独占する研究テ-マをみると、「中国製造2025」で掲げた

重点分野を見込んでいるようである(注3)。

〖最近の動き〗

(知的財産)

・深圳市はスタ-トアップ企業が多く集まる。その象徴的な動きとして、知的財産の蓄積が加速している。世界知的所有権(WIPO)が2019年3月にまとめた2018年の特許の国際出願件数をもとに日本経済新聞が集計したところ、中国の出願件数の52%を深圳が占めていたことが分かった。2位の北京市(13%)を大幅に上回った。深圳は補助金など国策により「5G」や新素材といった先端技術の開発で支援を受け、それを裏付ける結果となった。以下、その内容である(注4)。

(1)中国全体の2018年の出願件数は5万3345件で世界の21%を占め、22%で首位の米国に迫った。特に深圳は、米国が各国に排除を働きかける通信機器の華為技術(ファ-ウエイ/1987年)中興通訊(ZTE/1985年)のほか、騰訊控股(テンセント/1998年)、ドロ-ン(小型無人機)世界最大手のDJIが本社を置く。各社はこの数年、特許出願に力を入れ、年間で数百から数千件数規模で出願を続けている。特にファ-ウエイやZTEは最近、「5G」関連の特許出願申請が増加。

⑵中国政府が先端技術の集積を後押しする広東省深圳市で、産業の高度化が進んでいる。最先端の炭素素材であるカ-ボンナノチューブや半導体など、製造業の上流に当たる高性能な素材・部品を手がけるスタ-トアップ企業が相次いで誕生。政府の育成策に応じ、海外留学組(海亀族)が創業している(参照2)。組み建てが主流だった「世界の工場」の深圳の進化により、世界のモノづくりの流れが変わる可能性が出てきた。なお、《主要工業品》から見る深圳市の変遷-①2000年(レ-ザディスク/カラ-テレビ/集積回路)、②2010年(ディスプレイ/カラ-ブラン管/金属コンテナ) ③2016年(ノ-トpc/デジタルカメラ/集積回路/液晶ディスプレイ) ④(携帯電話/半導体ディバイス/集積回路)-。

〖エピロ-グ〗

・深圳市のロケーションは-①広東省の省都からほぼ南南東に位置し、珠江デルタ地域に含まれる。②九龍半島の西側付部分に位置し、塩田港など巨大なコンテナ港を有する。③北は広東省東莞市と恵州市、南は国際金融都市香港と接する。④大湾区(港珠澳大湾区)には「港珠澳大橋」(2018年10月23日開通)があり、香港・珠江・マカオと繋ぎ、更に「広深港鉄道」(2018年9月23日開通)で、香港からわずか30分で結ぶ-この環境は世界に類例をみない。現在、「5G」のヘゲモニ-をめぐって、米中は熾烈な対立を展開している-「シリコンバレ-」や「ハ-ドウェアのシリコンバレ-」と呼ばれる深圳の存在は世界で、ますます大きくなる。

(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「香港発 SMBC Business  Focus

(2)「深圳スタイル」日本貿易振興機構(ジェトロ)広州代表処など。

(3)「日本経済新聞」2019年12月31日。

(4)「日本経済新聞」2019年4月2日。

(参照)

(1)東京都23区の人口(約948万人)を上回る規模である。

(2)海外に留学し、現地の有名大学に学んだ後、中国に帰国する優秀な人材を指す。2017年には中国から海外に出た留学生は過去最高の60万人を突破し、日本の大学を1年間に卒業(50万人)するなど、中国人留学生には最近、神経をとがらしている。