2019年6月26日


〖プロロ-グ〗

▷最近、気になるのは中国が米国債の持ち高を減らしていることである。4月の保有額は1兆1130億ドル(120兆円)と2カ月連続で減らし、直近のピ-クの2017年8月に比べ、900億ドル減少した。反面、中国人民銀行(中央銀行)の金の保有額は6カ月連続増える。

▷この米国債の売りは中国当局が、米中貿易摩擦で対立を深める米国を牽制する意図があるという。同様に中国以外のロシアの中央銀行やトルコの中央銀行も積極的に金買いに走っている。何れの国も世界有数の産金国家である。以下、最近の金をめぐる中国の動きを中心にみる。

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〖米国債動向〗

▷中国の米国債保有残高は1兆1200億ドル台で推移してきたが、2015年夏、輸出低迷から脱却するため2%の“人民元切り下げ”を機に不安定になった。元を支えるため元買い・ドル売りを余儀なくされ、原資捻出のために米国債の売却に踏み切ったとみられる。外貨準備は一時3兆ドルを割り込む。

▷以後、人民元の値動きは、中国企業の海外M&A(合併・買収)の抑制や資本規制を受けて下げ止まった。1兆1000億ドルを下回った米国債の保有額は2017年1月をボトムに増加に転じ、同年8月には1兆2000億ドルまで回復した。米国債の保有減は対米貿易摩擦の激化とほぼ軌を一にしている(注1)。

▷中国当局のジレンマは、米国債以外に投資先が見当たらないことである。中国の国都証券は「無理に米国債に資金を振り向ける必要はない」と見る向きもある。しかし、米国債の保有額を減らせば過度に米国を刺激することになる。反面、中国は2018年12月に2年2カ月ぶりに金の買い増し以後、2019年5月まで6カ月連続で増加している。

〖恒常的金買い〗

▷WGC(ワ-ルド・ゴ-ルド・カウンシル<本部ロンドン>)は2001~2018年9月までに各国の中央銀行などの金購入を集計した結果-①2000年代半ばに年間500~600トンを売却していた、②過去8年は年間400~600トンの購入に転じている。第1位のロシア中央銀行は、2018年まで13年間連続で金の買い増しを実施し、その間に金準備を2000トン以上にまで積み上げた。2019年4月時点では2150トンと米独伊仏に次ぐ世界第5位の金保有国になる(注2)。

▷ロシア中央銀行は金準備を拡大せせる一方で、米国債の保有額をピ-ク(2010年)の10分のⅠ弱まで大幅に削減した。この動きに同中央銀行は“資産分散”と言っているが、市場では“米国からの経済制裁への対抗”という見方が支配的である。ロシアは年間約250トンを生産する産金大国である。

▷世界最大の産金大国である中国人民銀行も国内生産分を積み上げている。具体的には、2003年から2008年までに金準備を454トン増やし1054トンとしていたが、直近では1874トンにまで積み上げ、ロシアに次ぐ世界第6位の金保国に浮上した。この動きは、元の国際化にも役立つと考えているようである。

▷WGCによると、➀中国は年間900トン台の金輸入が続く、過去10年で1万トン近い金が国内に積み増しをしている。②中国政府は金の輸出を厳しく規制し、中央銀行の金外貨準備とは別の形でも国内保有量を増やす戦略を採っているようである(注3)。なお、香港経由で中国本土に輸出される金の量は、2012年557トン、2013年1158トン、2014年813トンである(注4)。

〖エピロ-グ〗

▷金は無国籍通貨と言われ、魔性を秘めている。歴史を紐解くと、金はスペイン、英国、米国、日本、そして中国と、経済が最盛期の国に向かうという傾向がある。バブル経済に沸いた1980年代に世界最大の需要国であった日本は、2000年代に入り金の流失国に転じる(注5)。

▷WGCによると、各国の中央銀行の2018年の金購入量は前年比74%増の651.5トンと、ドル・金の兌換制度が廃止(1971年・ニクソンショック)された以降最高となった。ドル以外の決済手段を拡大するロシアや人民元の国際化を図る中国が米国債減らし金を買い増したほか、インドやポ-ランドなども金購入を本化的に再開する(注6)。加えて、2019年の年明け以降は、中国や欧州の景気の陰りが投機筋によるニュ-ヨ-ク市場での金買いにつながっている。

(グローバリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「日本経済新聞」2019年6月19日。

(2)「経済の進路」、三菱経済研究所、2019.6.No.687.13~15頁。

(3)(注2)と同じ。

(4)「米国債売り、金を買う中国」、<豊島逸男の金のつぶやき>、2015年4月17日。

(5)(注2)と同じ。

(6)「日刊工業新聞」2019年3月2日。