2019年8月17日


〖プロロ-グ〗

▷「科創板」(かそうばん)とは、端的に言えば、上海にできた“ハイテク企業向け株式市場”である。本年7月22日、市場がスタ-ト、25社が上場した。当日、上海市トップの李強・党書記らが出席した。同氏は習主席の浙江省時代の部下である。すでに同市場は約150社が上場申請を済ませており、企業数はさらに増える見込み。

▷「科創板」は2018年11月5日に上海で開かれた「第一回中国国際輸入博覧会」において、習近平国家主席が基調演説のなかで初めて公表した。その運営規則は本年3月にすでに公表され、上海証券取引所のメインボ-ド(主板)と並行して運営される。開設式は6月13日に行われた。

▷同市場開設の背景には、2018年4月に「中興通訊」が米国の制裁を受けたのを機に、習指導部は主力技術の国産化を急ぐようになったと分析し、そのために有力なIT関連の中小企業の資金需要を充たすために設立された。英語では「Science and Technology Innovation Board」。
Shanghai_Stock_Exchange_Building

〖概   況〗

(位置づけ)

▷「科創板」の業種別企業をみると、高性能機器製造業、情報技術、新素材、新エネルギ-、省エネルギ-、バイオ医薬品などである。何れも中国にとって、戦略的に重要な新興産業、また、高成長が期待される中小企業に対して、上場機会を与えるものである。上場25社のうち、40%がIT企業、次いで、36%が産業機器、16%が素材産業、ヘルスケアが8%となっている。上場企業の有望銘柄を挙げると、半導体製造装置の「中微半導体」(上海)やリチウムイオン電池の部材を手掛ける「寧波容百新能源科術」(浙江省)などである。

▷今回の中小企業向けの株式市場は最初ではない。すでに、①深圳証券取引所の創業板(英「ChiNet」)、②北京全国中小企業株式取引システム(通称「第三板」、英語「National Eqities Exchange and Quotations<NEEQ>)、加えて、香港証券取引所のグロ-ス・エンタ-プライズ・マ-ケット(GEM、創業板)があり、国際的に開放された市場である。

(特   徴)

▷「科創板」には4つの特徴がある。分類すると、①登録制度が採用された。企業は書類を提出するだけで、3、4カ月で許可される。これは、「ChiNext」や上海、深圳のメインボ-ドで行われている中国証券監督管理委員会の個別案件の審査に3年を要するのに比べて短期である。②上場規準は、企業の規模などの一定要件を満たせば、“赤字企業でも上場”が認められており、べンチヤ-企業でも上場しやすい。③多議決権種類株式の上場が認められる。創業者が株式公開後に少数株主になっても企業の支配権を維持できることから、スタ-トアップ企業に人気がある。この方式は、本土の他の市場では認められていない。④1日の株価の値幅制限(参考1)の採用である。現在の市場(上海と深圳のメインボ-ド)では10%の値幅制限が課されているが、これに対して、「科創板」は、公開後5営業日の間は株価の変動は自由とされ、その後は上下20%の制限が適用される。この市場は米国のナスダック市場に似ている。

(参考1):株価の異常な暴騰・暴落を防ぐために、株価の1日に変動できる上下の値幅を制限するものである。

▷米中の貿易戦争の激化により中国市場ではハイテクセクタ-を中心に次世代産業関連株の軟調な推移が続いている。この中での「科創板」の成立は、“証券市場全体のテコ入れ”という思惑と、“新興産業を資本面でバックアップ”していこうという中国政府の強い意思が感じられる。

(市場展望)

▷「科創板」は始動当初、25銘柄は値上がりし、上々の滑り出しとなった。上場企業の一つである「安集微電子科技」(上海<コンピュ-タ->)は410%も上昇した。結局、全銘柄で54億米ドルの資金調達に成功した。しかし、当初の熱狂が収まった現在、投機的取引の実態や高いボラティリティ(価格変動率)に対し、懸念も生まれている。

▷深圳の「ChiNext」(チャイナネクスト)は、10年前の2009年10月30日に取引を開始した。上場第1陣の28銘柄が急騰し、あまりの過熱ぶりに一部の銘柄が一時売買を停止した。それから1年が過ぎると、相場は低迷した。2013年頃から買いが優勢となり、2015年にかけて、相場は大きく上昇した。この値動きは中国人の投資家の“熱しやすく、冷めやすい”という中国人投資家の性格を如実に表している。

▷同市場について北京大学経済学院の呂随啓教授(金融学)は、①「科創板」の市場安定で重要なのは、・明確な取引計画、・需給情報の十分な交換、・市場の価格設定の合理性だ。これが揃えば市場で急激な変動が生じることはない。②上場企業が200社に達すれば市場資金量が再び不足し、流動性が不十分という問題が生じると分析する。

▷武漢科技大学金融証券研究所の薫登新所長は、「科創板」は陣容を拡大しようとしている。①25銘柄だけでは需給バランスを失い、爆発的な高騰が形成されやすい。②上海証券取引所と証券監督管理委員会はその対応を加速し、上場企業の数は、少なくとも100-200の規模持たせるべきだ。こうすれば、投機的な売買を自ずと終了するであろう」と指摘する。

〖エピロ-グ〗

▷中国の諸分野の人材は潜在的に豊富である。米フォレスタ-・リサ-チ社が本年6月に発表した『中国技術市場調査2019-20年』報告書によると、中国の技術製品とサ-ビスの民間・政府調達は今年4%増、来年は7%増になる見通しである。これは中国のハイテク企業に国内の大きな需要を提供する。中国の大学から毎年、約400万人の理系学生が卒業する。そのためハイテク業界には人材不足の懸念がない。米シリコンバレ-のベンチャ-企業は、中国の新規プロジェクトとの競争の激化という大きな問題を迎えることになる。

▷将来の中国経済をマクロ的にみると、第13次5カ年計画(2016-2020年)と習近平国家主席が掲げる産業高度政策「中国製造2025」を念頭に政府主導で選別した企業に資金を注入し、成長を支える。加えて、上海を本格的な国際金融市場にする中長期な構想とも関わってくる。「科創板」の新設は政策的には高く評価できる。但し、今後、米中の経済戦争の行方は、世界経済、中国経済にも大きな影響をもたらす。その動向には十分注視することが肝要である。

 (グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

<引用資料>

・梅原直樹論文「中国の金融改革:上海証取に中国版ナスダック市場開設」、IMAの眼 公益財団法人国際通貨研究所、ei2019.18

・上海証券取引所の新市場「科創板」、みずほ中国ビジネス・エクスプレス(第491号)、中国アドバイザリ-部、2019年7月26日。

・上海の新たな市場「科創板」が刺激する「想像力」、niKKO am「CHINAINSIGHT」、014号、2019年4月10日。

・「中国網日本語版」(チャイナネット)2019年7月26日。

・「中国網日本語版」(チャイナネット)2019年7月31日。

・「東洋証券」、主席エコノミスト杉野レポ-ト、2019年6月27日。

・「東方財富網」。

・「日本経済新聞」2019年7月22日。