2020年2月25日
〖プロロ-グ〗
・先日、自宅で古い新聞を見つけた。1971年5月2日付「日本経済新聞」(昭和46年)である。紙面に興味ある記事-“億万長者”千人越す“-。当時、筆者30歳、未婚、49年前である。他の記事を見ると、交通死5千を突破―安全運動最終日、連休本番-東京脱出も楽じゃない-など。
・昭和45年度の申告所得(収入から経費を引いた金額)が1000万円を越えた高額所得者の番付が5月1日、全国の497の税務所で一斉に公開された「高額所得者公示制度」(単年度)、俗称、長者番付である。1億円以上の“億万長者”が全国で1029人を数え、前年同様、土地成金の上位進出が目立った。
・同制度は、個人情報の保護や名簿を利用した犯罪の防止などの理由により、平成18年(2006年)に廃止された。従って、2019年の長者番付は、米国経済誌フォ-ブスの「日本版」<日本長者番付>を使用した。
松下幸之助
〖50年前〗
(概 況)
・所得が1億円を越える長者は44年度は664人だったが、45年度は急増し、はじめて1000人の大台を突破1029人となった。これは44年の土地税制の改正で、大口に手放す地主に対して優遇措置がとられているため「税金の安いうちに売ろう」という地主続出、譲渡所得が異常に膨れ上がったのが原因と国税庁はみている。昭和25年に公示制度がスタートして以来、外国人が20位以内にはいったのはこれがはじめて。
・“億万長者”を地域別にみると、東京都が594人で圧倒的に多く、以下大阪239人、名古屋62人、関東甲信越60人が続いている。なお、45年中に土地を手放した地主は66万8000人である。これらの人のフトコロにに転がり込んだ譲渡所得は、“前年比37%増の1兆3929億円”。
・作家、芸能人、スポ-ツ関係を見ると、①草月流家元の勅使河原蒼風が4億7500万円で3年連続トップ、歌舞伎俳優の中村歌右衛門3億40678万円が2位に食い込んだが、これは不動産を売却したため。このほか演劇女優の細川ちか子1億7464万円、映画女優の水戸光子1億3289万円、山本富士子1億83万円らも顔を出しているが、いずれも“譲渡所得組”。作家松本清張7825万円、司馬遼太郎7565万円、歌手北島三郎7901万円、三波春夫7727万円、美空ひばり6215万円。
(長者の横顔)
・長者番付(4億円以上)の名を見ると、当時の思い出が蘇る。筆者は中年の入り口に立っていた頃である。将来の夢の対象の面々。特に、上原正吉・大正製薬会長、松下幸之助・松下電器社長、鹿島守之助・鹿島建設会長、大日本製紙社長・斎藤英了など、4人の名前は著者の頭脳に刻み込まれている。
・トップは昭和電極社長大谷竹次郎氏で、西宮市内の宅地、山林9万8000平方メートルを西宮市に売却して得た15億3600万円である。同氏は1937年に昭和電極取締役に就任した。ホテルニュ-オ-タニの創業者大谷米太郎の実弟で、米太郎の経営するいくつかの企業を任された。米太郎は「再建屋」として有名で、その経営手腕を買われて数多くの倒産企業を再建したが、昭和電極もその一つである。松竹の創業者白井松次郎、大谷竹次郎兄弟が有名であるが、同姓同名の他人である。
・常連組は上原正吉氏(11億4820万円/大正製薬社長)、松下幸之助氏(8億5143万円/松下電器産業会長)、斎藤了英(7億9276億円/大昭和製紙会長)である。異色長者は11位のユダヤ人、サス-ン・D・ガブリエル氏(7億4976万円)である。神戸で駐車場を経営。同市内の宅地3250平方メートルを7億円余で売り払いで上位に名を連ねた。
(ランキング)
1大谷竹次郎(西宮)・昭和電極社長(15億3639万円/前年度順位)
2村山長挙(神戸)・朝日新聞社長(12億1007万円)/-
3上原正吉(東京)・大正製薬社長(11億4820万円)/7位
4森 兵五(横浜)・さんぼく取締役(10億1040万円)/10位
5谷口豊三郎(神戸)・東洋紡績会長(9億2830万円)/-
6松下幸之助(門真)・松下電器産業会長(8億5143万円)/8位
7馬場耕五郎(吹田)・不動産業(7億9832億円)/-
8斎藤了英(富士)・大昭和製紙社長(7億2760万円)/-
9小田直司(東京)・五番館社長(7億6518万円)/76位
10久米 晴(東京)・無職(7億6136万円)/-
11サス-ン・D・ガブリエル氏(7億4976万円)-
〖2019年〗
(概 況)
・日経平均株価がここ1年間で5%上昇した一方、長者弁付けが50人にうち31人が、前年より資産を減らした。リストに名前が挙がった50人が保有する資産総額は、3月22日時点で総額は1780億ドル(約19兆7800億円)。前年の合計額1860億ドルより減少した。
・ランキングは個人から入手した情報に加え、証券取引所やアナリストから政府機関の公開情報その他を基づき算出。非公開会社の創業者などの場合、類似した公開会社の財務比率その他との比較から推計した。なお、各氏の保有資産には家族の資産を含む場合もある。
<柳井 正>
・第1位 積極的に事業を展開する衣料大手ファ-ストリティリングの株式のうち、44%を保有する柳井正と家族の資産は、およそ、249億ドル。この1年ドルで建て資産を最も増やしたのは柳井だった。2018年193億ドルから29%に当たる56億ドル増やしている。柳井の積極的な事業拡大により、同社は現在、衣料小売りで世界第3位。
<孫正義>
・第2位 ソフトバンクの孫正義は、2018年の首位から2位となった。ただ、ソフトバンクの株価は上昇しており、孫の保有資産は前年から21億ドル増やし240億ドルになった。孫が設立した1000億ドル規模のビジョンファンド(SVF)は多額の投資で注目された。
<滝崎武光>
・第3位 キ-エンスの創業者である滝崎武光の保有資産は10億ドル増えて186ドルになり、前回の4位から1ランク順位を上げた。東証1部上場のキ-エンスは、FAセンサ-など検出・計測制御機器大手。中国の需要で安定的な成長を続けている。
<佐治信忠>
・第4位 酒類大手のサントリ-の持ち株は、佐治信忠と家族が所有。保有資産は2018年から減少、およそ108億ドルであった。推定資産が減少した背景には、これまで佐治家の保有とされたサントリ-株の1部が、慈善団体の所有であることが確認されたためである。世界的なビ-ルの販売の低迷も、資産の減少につながった。
<三木谷浩史>
・第5位 楽天の創業者、三木谷浩史は資産を昨年の54ド億ドルから6億ドル増やした。三木谷は55億ドルをかけて日本国内に新たな通信ネットワ-クを構築することで、業界を「破壊」しようとしている。楽天モバイルの新サービスは、より安価で高速で、信頼性の高いネットワ-クを提供しており、それにより約1000万人のユ-ザ-を獲得することを目指している。
<重田康光>
・第6位 光通信の重田康光である。資産総額は54億ドルである。
<高原豪久>
・第7位 保有資産52億ドルの高原豪久が入った。2001年からユニ・チャ-ム代表取締役社長を務める高原は、同社の創業者である父の高原慶一朗が2018年に死去したことを受け、その保有していた同社株を2人の兄弟共に引き継いだ。
<森 章>
・8位、東京都港区に本社を構えるディベロッパ-、不動産の所有と賃貸・管理など主な事業内容として展開している企業。いわゆる、“森ビル”のオナ-である。
<永守重信>
・9位、代表取締兼社長、京都府に本社を構えている日本電産株式会社。精密小型モ-タ-の開発、製造において世界一のシェアを維持している。「THE 日本」と呼ばれる会社である。通信機器向け冷却装置の開発強化。
<毒島秀行>
・10位、東京渋谷区に本社がある。株式会社三共・SANKYOのCEO。パチンコ機の業界で最大手である、アアミューズメントにおいて先陣を切って革命を起こしている。
(ランキング)
・米国誌「フォ-ブス2019年」(日本版)は、以下の通り。
1柳井 正(70歳/山口県) ファ-ストリティリング (2兆7870億円)<249億ドル>
2孫 正義(61歳/佐賀県) ソフトバンク (2兆6670億円)<240億ドル>
3滝崎武光(73歳/兵庫県) キ-エンス (2兆670億円)<186億ドル>
4佐治信忠(73歳/兵庫県) サントリ-ホ-ルディング(1兆2000億円)<108億ドル>
5三木谷浩史(54歳/兵庫県)楽天 (6670億円)<60億ドル>
6重田康光(54歳/東京都) 光通信 (6000億円)<54億ドル>
7高原豪久(57歳/愛媛県) ユニ・チャーム (5700億円)<52億ドル>
8森 章(82歳/東京都) 森 トラスト (5220億円)<47億ドル>
9永守重信(74歳/京都府) 日本電産 (5000億円)<45億ドル>
10毒島秀行(66歳/群馬県)SANKYO(パチンコ) (4950億円)<44.5億ドル>
柳井 正
〖エピローグ〗
・2019年と50年前の長者番付の違いを見ると、一目瞭然である。まず、長者番付の“業種と資産額”に大きな違いを見せている。背景には日本経済の発展による業種の変革があったことが挙げられる。ベストテン入りした経営者多くは創業者(起業)である-1位柳井 正、2位孫 正義、5位三木谷浩史、7位高原慶一朗、9位永守重信。
・50年前の代表的な資産家は常連の松下幸之助(松下電器/現パナソニック)、上原正吉(大正製薬社長)、斎藤了英(大昭和製紙/現大昭和紙工産業)である。松下幸之助は1954年度~1968年度まで長者番付首位であった。
・因みに、世界の長者番付は、1位ジェフ・べゾスCEO・アマゾン創業者1310億ドル(14兆5410億円)、2位ビル・ゲイツマイクロソフトの共同創業者・CEO、965億ドル(10兆7115億円)-「長者番付」は、世界経済、日本経済の現状の“未来を映す鏡”であり、国民に多くの示唆を与えている。
(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹
<引用資料>
・菊池浩之著「日本の長者番付」、2015年2月15日、初版第1刷
・会社「会社四季報」、新春号 2020年第1集
・リンクタイズ資料など
・邦字各紙など