2020年8月9日


〖プロローグ〗

中国の国土は巨大です-自然現象も人間の考えを越えた影響を人間社会に及ぼします。世界最大級の三峡ダム(重力式コンクリ-トダム)は、長江流域の中国湖北省宜昌市三斗坪にあります。1993年に着工し、2009年に完成した-洪水抑制・電力供給・水運改善を主な目的としています。三峡ダムの水力発電所は出力が2250KWと世界最大です-中国の年間消費エネルギ-の10%をカバ-します(参照1)。

工事の完工までの動きを見ますと-①1993年に準備工事が開始され、1994年に本工事が始まります。②1997年11月8日に長江本流が堰き止められ、第2期工事がスタ-トします。③2003年に一部貯水(水位135m)と発電が開始され、同時に第3期工事が始まります。④2009年には発電所を含めた全プロジェクトが完工し、2012年7月4日、発電所が全面稼働をします。反面、建設過程において-①住民110万人の強制移住、②三峡各地に残る名所旧跡の水没、③水質汚染や生態系への悪影響などの諸問題が指摘されています。

日本と規模を比較しますと-①日本最大の奥只見発電所560万KWの約4倍、②総貯水量393億立法メ-トルは、黒部ダムの約200倍、③湖水面積は、琵琶湖の約1.7倍の1084平方キロメ-トルです。同ダムの構想は1919年に『建国方略』の中で、孫文(1866年11月12日~1925年3月12日)が言及しています(参照2)。以下、本年6月以来、長江流域の3回の洪水と三峡ダムの満水に伴う諸問題について報告します。

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三峡ダム
出典:FNNプライムオンライン

 

〖ダムの現状〗

(水位上昇)

三峡ダムは、2020年6月から断続的に続く大雨で、水位が上昇します。長江流域のの大雨により、433本の河川で洪水が発生し、うち、109本は保証水位を超え、33本が“観測史上最高水位”となりました。現在、長江(チベット高原が水源地/全長6300キロメ-トル/世界第3位)と太湖流域(浙江省北部/蘇州河・黄浦江<上海が河口>などの河川が発する)の情勢は依然と厳しい状況下にあります。

新華社通信によると、7月18日午前8時(日本時間同9時)、三峡ダムへの流入量は毎秒当たり6万1000立法メ-トルに達し、制限水域を15メ-トル超え、貯水量は6月以降、最大を更新します。同22日午後4時時点でダムの水位は“162.22メ-トル”となります。水利省担当者は、中国のメディアに対し、「長江全域の3万か所で水位を定点観測している。ダムの放水量は三峡ダムをはじめ常に状況に応じて適切に調節しており、長江全てのダムは安全に管理されている」と強調します(注1)。

7月21日午前8時の中国の報道によると、①三峡ダムへの流入量は毎秒3万立方メ-トルまで減り、「長江第2号洪水」のピ-クは無事、三峡ダムを通過しました。今回の洪水において、三峡ダムは計107億立方メ-トルもの水を堰き止め、洪水ピ-ク流入量からの低減率は最大で46.7%にも達しました(注2)。なお、「第1号洪水」は7月2日、同17日「長江第2号洪水」、同26日「長江第3号洪水」が発生しています。

 

(被害概況)

水利部・長江水利委員会は、7月以降、長江流域は計6回の大雨に見舞われ、長江流域上流では、立て続けに洪水が3回発生した。この大雨に関して、国家減災委員会秘書長・応急管理部副部長の鄭国光氏は-①6月以来、長江流域の平均降雨量は1961年以来最高となっている。②西南などの地域では何度も山津波や土砂災害が発生している。③現時点で、累計で延べ224万6000人が緊急避難した。27省(自治区・直轄市)で、延べ3873万人が被災し、倒壊家屋は2万9000棟と述べています(注3)。出水期に入った後、国家水害・干ばつ対策総指揮部と国家減災委員会は14回にわたって緊急対策を取り、計25の作業グル-プを派遣し、財政部と協議の上、計11億5500万元(1元は約15.3円)の中央災害援助資金を拠出しました。

 

(決壊の懸念)

一部のメディアでは“大雨が続ければ、ダムが決壊”するのではないかとの懸念が強まっています。この点について、2019年当時、中国の国内のダムの専門家がGoogle earthで2009年に撮影したダムの基礎部分の写真と2018年には数ヶ所が湾曲している写真」を発表します。同問題は、2009年の三峡ダムの完工の頃から多くの懸念が諸外国のメディアが発表しています(注4)。

中国水利省の葉建春次官は6月11日、記者会見で「水害防止対策により今は建国以来の最大の洪水を防御できているが、想定以上の洪水が発生すれば、防御能力超えた“ブッラクスワン”の可能性もあり得る」と口にした。ブッラクスワンとは、「あり得ないことが起こり、非常に強い衝撃を与える」という意味で、予測できない金融危機や自然災害を表わすときによく使われる。

ブッラクスワンが三峡ダムにも潜んでいるというのだ-この見解は、三峡ダムの耐久性は、ほぼ、臨界点に達しているとの証左であるとの見方があります。仮にダムが決壊すれば、約30億立法メ-トルの濁流が下流域を襲い4億人の被災者が出ると試算されています。安徽省、江西省、浙江省などの穀倉地帯は水浸しなり、上海市は都市機能不全となり、市民の飲み水は枯渇する。上海市には外資系企業が2万2000社があり、経済的なダメ-ジ次第では、世界中が損害を被ると分析しています(注5)。


ダム三峡ダムの場所
(湖北省宜昌市)

出典:Open StreetMap


〖エピロ-グ〗

水を制する者は国を制する-戦国時代の武田信玄は、甲斐の国のあばれ河・釜無川(信玄堤)の治水に成功した-長江の治水を制する者は国家を制する-まさに三峡ダムはその役割を担っています。今回の長江流域の洪水で、三峡ダムの決壊に関する情報は尽きない。

日本も1941年(昭和16年)に北海道電力の管理する「幌内ダム」(高さ21.1メ-トル/重力式コンクリ-トダム/二級河川幌内川)が決壊し、その後放棄した歴史があります。規模の大小ダムにかかわらず、治水の管理は今も昔も変わりません。2020年は中国にとって、気候温暖化による洪水の頻発する中で、如何に水を抑制するかの重要な年となります。

今後、三峡ダムの治水は長江流域の洪水の行方にかかっています。一方、習近平政権は2015年に「全面的小康(ややゆとりある)社会」を2020年に実現するという目標を決定します。本年はその決定の節目の年ですが、新型コロナの発生に続いて、深刻な3回の洪水に襲われ、目標達成に懸念を示す声が上がっています(注6)。今後、その行方を注視しなければならない。

(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(注)

(1)「日本経済新聞」2020年7月22日

(2)「人民網日本語版」2020年7月22日

(3)「人民網日本語版」2020年7月14日

(4)「NeWSポストセブン」2019年11月24日

(5)「NEWSWEEK」 2020.7.14(日本語版)

(6)「産経新聞」2020年7月28日

 

(参   照)

(1)三峡ダムの概況は以下の通り。

△ダム詳細-①通常水位:175m/②右岸発電ブロック:584.2m/③放水ブロッグ長さ:483.0/左岸発電ブロックの長さ:643.6m/コンクリートの使用:量2700万㎥

△ダム湖詳細-長さ約570km/通常水位・標高175m

△発電所-年間発電量:1000億kw/発電機の数:32基/1基の発電能力:70万kwh          

(2)三峡ダムは、孫文が1919年「建国方略」の中で構想を提起した。毛沢東らの歴代指導者も実現を夢見てきたが、1992年の全国人民代表大会で建設を決定した。その状況は出席者2633名中、賛成1767名、反対177名、棄権664名、無投票25名であった。全会一致が基本である全人代において、これほどの反対・棄権がでるのは異例です。