2021年1月27日


〖プロローグ〗

新型コロナウイルスの感染が燎原の火の如く世界中に拡がっています。日本の労働厚生省が新型コロナウイルスを初確認したのは、昨年1月16日、中国・武漢市から帰国した神奈川県在住の中国人男性です。1年後、2021年1月15日の日本の感染者数は31万8409人、死者数は4433人となっています。その後も感染者数は着実に増えています。1月8日、政府が発表した「感染症緊急事態宣言」(21年1月8日~2月7日)の行方が注目されています。

世界の感染者数を見ると、同日午後4時現在(注1)、世界では9310万5607人(75万3924人)-①米国2330万7461人(23万5567人)、②インド1052万7683人(1万5590人)、③ブラジル832万4294人(6万7758人)、④ロシア345万9237(2万4303人)、⑤英国326万9757(4万8804人)です。欧米諸国を中心に新型コロナウイルスの感染者数は激増しています。特に米国の感染者数の行方を注視しなければなりません-1月26日現在、2529万3295人(42万0976人)です。()は死者数。

 

〖ワクチン接種〗

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ワクチン接種
出典:「unsplash


(世界の動き)

新型コロナウイルスのワクチン接種が世界的に本格化するなか、国・地域ごとの対応差が浮き彫りなっています。最速ペ-スで進めるイスラエルでは、開始から約3週間で人口の2割超が接種しています。反面、日本はまだワクチンの承認に至っていないのが現状です。その背景には、日本人の“注意深い国民性”があるためと、思われます。

英オックスフォ-ドの研究者が運営する「アワ-・ワ-ルド・イン・デ-タ」の1月13日時点の集計によりますと、人口100人あたりの接種件数は、イスラエルが23件と群を抜く首位です-4位の英国(5件)、5位の米国(3件)を大きく引き離しています。国民皆保険とデジタル医療を背景に個人情報を活用した接種の呼びかけが奏功しています。

2位はアラブ首長国連邦(UAE=14件)、3位はバ-レ-ン(6件)で、ともに中東の産油国です。労働力の大半を出稼ぎ外国人に頼っており、経済社会の維持へワクチンの承認、確保を急いだと見られます。UAEは世界で初めて中国製ワクチンを承認した国です(注2)。

(日本の現状)

G7(主要7ヵ国)の中で新型コロナウイルスのワクチンが承認すらされていないのは日本だけです。ワクチンの副作用リスクを注視しなくてはなりませんが、欧米諸国はワクチンのメリットが大きいと判断して迅速な承認につなげました-有力な米国ファイザ-社が、自社のワクチンが95%の有効性を確認したのは2020年11月中旬です。

日本の厚生労働省も海外での使用などを条件に審査期間を短縮できる「特例承認」という制度を使用し、早期の実用化を目指す方針をとっていますが、ただし、国内での治験を重視する方針は崩していません。人類や民族が異なると効果に違いがでる可能性が否定できないからで、治験デ-タがないと「承認手続きには入れない」(労働厚生省)といいます。

(国際的枠組み)

21年1月22日、WHOは、新型コロナウイルスのワクチンを共同購入する国際的な枠組み「COVAX」(コバックス)で、米国のファイザ-社からワクチン4000万回分の調達で合意したと発表しました(注3)。低中所得の国への接種を2月末までに始められる見通しになっています。WHOが主導するコバックスは新興国などにも平等にワクチンが行き渡ることを目的とした枠組みです。現時点で接種は始まっていません。

このような動きの背景には、先進国が直接交渉してワクチンを確保しているのが一因で、新興国が置き去りにされているなどとの批判が出ているためです。WHOによると、英国の製薬会社大手アストラゼネカと英国オックスフォード大学が開発したワクチンなども受け取る予定で、2021年中20億回の接種の用意が整う見通しです。うち、13億回分が低所得国に配分されるといいます(注3)。

 

〖中国製ワクチン〗

(シノファ-ム)

中国の国家薬品監督管理局は2020年12月31日、中国医薬集団(シノファ-ム)が開発する新型コロナウイルス向けワクチンの販売を条件付きで承認したと発表します。中国政府は緊急投与向けとして医療従事者らに供給してきましたが、一般市民向けの承認は初めてです。中国は新興国などにワクチンを供給する計画を推進中で、製品の安全性をアピールする狙いもあるようです。

(接    種)

初認されたのはシノファ-ム傘下の「北京生物製品研究所」のワクチンです。最終の臨床試験(治験)の中間結果として有効性が79.34%となり、WHO(世界保健機関)や中国の基準を満たしたといいます。中国衛生当局の曽益新副主任は12月31日の会見で「高齢者や基礎疾患のある人に接種した後、普通の人にも接種する」と述べています。無料で提供します。

(輸    出)

中国外国部(外務省)の華春瑩(かしゅんか)報道官は2021年1月20日の定例記者会見で、「概算によると、現時点ですでに40数ヵ国が中国製ワクチンの輸入を求めています」と述べた。その内容を要約すると、以下のとおり(注4)。

⒈中国はワクチン開発において世界の先陣を切っており、すでに条件付きで販売を承認されたワクチン1種類、各臨床試験段階のワクチンが数種類あります。現在、中国は優先グル-プへのワクチン接種を始めており、国内ワクチンの需要は大きい。

⒉中国は国内需要を満たすと同時に、国難を克服する。併せて発展途上国を初めとする外の国々と様々なワクチンに関する国際協力を実施する。相手国の需要に基づき、可能な限りの支援を実施しています。

⒊現在、中国企業は10数ヵ国の協力パ-トナ-と、臨床試験や生産協力を含むワクチンの共同研究・開発を実施しています。協力の一部として、中国企業は協力パ-トナ-国にワクチンを提供しています。

⒋中国がワクチンを供給している国-UAE(アラブ首長国連邦)、エジプト、ヨルダン、トルコ、インドネシア、ブラジルは、中国製新型コロナウイルスワクチンの使用を承認しています。

⒌中国はWHOの「COVAX」(コバックス)ファシリティ-」に参加し、G20によるワクチン国際協力の推進を支持し、多国間協力によるワクチンの世界への公平な分配の促進を支持しています。

 

〖ワクチン外交〗
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王毅外相
出典:「日経新聞


(東南アジア)

世界中の指導者は、蔓延する新型コロナウイルスに対処するためのワクチンの確保は、“喫緊の課題”となっています。中国の王毅国務院兼外相は年頭恒例のアフリカを訪問、加えて、1月中旬の東南アジア4カ国訪問で、各国にワクチンの供与を含む連携を強く呼びかけます。欧米諸国がワクチン供給で自国と先進国を優先する中、「ワクチン外交」で中国の“存在感”が増しているのも事実です。

習近平指導部にとって、中国製ワクチンは国力を内外に示し、「パンデミック(世界的大流行)震源地」という負のイメ-ジを、払拭する絶好の材料です。一方、途上国は、各国が共同出資する国際的な「COVAX」ファシリティ」などを通じてワクチンを入手する方針ですが、供給量が限られ、時期も未定です。そのため、人口の多い東南アジアを中心に、多くの国が中国製ワクチンの導入に動いています(注5)。

(中国の狙い)

中国の戦略は、財政基盤の弱いミヤンマ-やカンボジア、ラオスに対し、ワクチンの無償提供を打ち出します。1月11日、王毅外相は、ミヤンマ-でアウンサンス-チ-氏と会談し、「感染対策を通じて両国の友情はさらに高まった」と強調、30万回分のワクチンを提供すると述べています。また、当初、カンボジアの政府関係者はWHOが承認したワクチンを購入する予定でしたが、高額のため中国製ワクチンに切り替えます。

人口2億6000万の人口大国インドンシアの新型コロナウイルスの累計感染者は90万人を超えるASEAN最多で、感染拡大が持続しています。政府が各方面から確保予定のワクチン約3億3000万回分のうち、3分の一以上の1億2500万回分は中国の製薬大手「科興控股生物技術」(シノパック・バイオテック)製で、300万回分をすでに輸入済みです。ジョコ・ウィドド大統領は1月13日、「国民第1号」として、シノパック社製のワクチンを接種します。フィリピンはシノパック社から2500万回分を購入することを決めます。また、マレ-シアの製薬会社は、シノパック製のワクチンをライセンス生産する契約を結んでいます(注6)。

最近の中国のメディアは、ワクチン外交の成果を大々的に報じています。「中国製ワクチンを購入しようと世界が列をなしている」と。インドネシアのジョコ大統領、トルコのエルドワン大統領らが中国製ワクチンを接種する映像を大きく取り上げています。中南米や中東、アフリカでも接種が始まります。

近年、中国が接近する中・東欧諸国でも、欧米のワクチン不足が背景に導入の動きがあります。セルビアのブチッチ大統領は1月16日、中国製薬大手、中国医薬集団(シノファ-ム)製ワクチン100万回分の到着を空港で自ら出迎え、「偉大な友好の証」と述べています。セルビアでは、首相が米国ファイザ-製ワクチンを接種し、別の閣僚はロシア製ワクチンを打ちました。中国と親密な関係を築くブチッチ大統領はシノファ-ムワクチンを確保のために多方面に配慮する小国の姿が浮かびあがっています(注7)。

(ブラジル)

ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は1月17日、中国の「シノパック・バイオテック」が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を承認します。これを受け、最終段階の臨床試験に協力していたサンパウロ州では、医療従事者への接種が始まります。同州の研究所によると、シノッパク社のワクッチンの有効性は、承認に必要な50%をわずかに上回る50.4%です。

(ワクチン疑義)

中国製のワクチンには、各国で臨床試験による有効性のデ-タに“バラツキ”がある点で、一部の国は使用に慎重です。タイでは、購入予定のシノパック社に情報提供を求めています。マレ-シアは臨床試験のデ-タ精査を実施する予定です。南シナ海問題を巡り中国と対立するベトナムは、英国アストラゼネカなどに加え、中国製のワクチン購入も検討していますが、具体的な話しは出ていません。

中国の王毅外相が昨年10月と今月の2回、東南アジアを歴訪しましたが、加盟10カ国中ベトナムだけ訪問していません。反中国感情が強いベトナムでは、「中国製ワクチンは使いたくない」(地元記者)という国民が多く、政府は国産ワクチンの開発に注力しています。国営メディアは、国内製薬会社が手掛けるワクチンの臨床試験が昨年12月に始まったと報じています。

 

〖エピローグ〗

(総力戦)

不断なく続く、世界中の人々は、パンディミック(世界的大流行)に脅えています。日本も緊急事態宣言の中で、感染者が着実に増えています。事例として、日本の状況を見ると(1月26日午前0時現在)、感染者数37万2971人、死者数5311人です。いつの間にか、驚く程の増加で推移しています。この数字を食い止めるにはワクチンの接種が不可欠です。入院出来ない自宅療養者は1万人に上ります。日本政府も河野規制改革相をワクチン担当大臣として、ワクチン接種の態勢整備のための総力戦で適格・正確に現状を把握するのに努めています。
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河野ワクチン大臣
出典:「文藝春秋


(千載一遇

中国のワクチン戦略は、「一帯一路」と同様に国際戦略の重要な柱として遂行しており、バイデン政権の本格的な始動の前にワクチン戦略を強力に推進するものと思われます。中国メディアは、強大な生産能力は世界のワクチン供給不足を力強く緩和しています。この貴重な「ライフライン」は、中国の一貫した信念と伝えています(注8)。

2021年1月25日からオンライン形式で、世界経済フォ-ラム(WEF)「ダボス・アジェンダ」を開き、中国の国家主席が特別講演を行った。その中で今回強調したのはワクチン外交の推進です-「ワクチンの研究開発や生産、配分を巡る連携を強化する」と述べ、また、「誰でも使える公共財にする」とも話しています(注9)。ワクチン戦略強化を目論んでいる中国にとって、未曾有のパンデミックは、千載一遇のチャンスと思われます。西側当局はこの動きを直視しなければなりません。
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習近平国家主席
出典:「新華網NEWS



(グロ-バリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹

(引用資料)

(注)

(1)「日本経済新聞」2021年1月16日、米国ジョンズ・ホプキンス大学発表。

(2)「日本経済新聞」2021年1月15日

(3)「日本経済新聞」2021年1月23日

(4)「人民網日本語版」2021年1月21日

(5)「毎日新聞」2021年1月20日

(6)「読売新聞」2021年1月19日

(7)(注5)と同じ

(8)「人民網日本語版」2021年1月18日

(9)「日本経済新聞」2021年1月26日