2022年12月3日


〖プロローグ〗

2022年2月24日、ドイツはロシアのウクライナへの侵攻を機にEUやG7と共にロシア非難を強めたロシアは、「ノルドストリ-ム1」によるガス供給大幅に削減し、保守点検を理由として同年8月に停止した。加えて、「ノルドストリ-ム2」に関して、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、ロシアが「ドネック人民共和国」と「ルガンス人民共和国」を承認したことを受け、同パイプラインを停止すると表明し、2本のガスパイプラインは完全に停止した。

ドイツのエネルギ-政策は大きな転換を余儀なくされた。ショルツ首相は10月17日、国内の既存の原子力発電所(原発)の全3基を2023年4月まで稼働可能な状態にする方針を固めた。従来、2基だけを対象とし、残る1基は年内に運転を停止する予定だったが、原発の運転延長を求める世論が高まる中、電力の安定供給へ方針を修正した。以下、今後のドイツのエネルギ-政策の行方を推測した。

ベルリン


















ベルリン
出典:「写真AC

 

〖ドイツ概況〗

(国土/政体)

・国名:ドイツ連邦共和国(Federal Republic of Germany

・面積:35万7588平方キロメ-トル(日本の約95%)

・人口:8322万人(2021年9月末)(推定値)、「出所:ドイツ連邦統計局)」

・首都:ベルリン(16ある連邦州のうちの一つで、都市州である。人口は約370万人

・首相:オラフ・ショルツ(Olaf SCHOLZ/SPD(ドイツ社会民主党)/財政相クリスティアン・リントナ(Christian LINDNER)FDP(自由民主党)/外務相アンナレ-・ベアボック(Annalena BAERBOCK)緑の党/経済・気候保護相(副首相)ロベルト・ハ-べック(Robert HABECK)緑の党。

 

〖エネルギ-概況〗

(依存度)

石油と中東への依存からの脱却は、結果的に国家的プロジェクトを通じたロシア依存という新たなリスクを生んだ。2021年のロシアへの資源依存度は石炭が50%、石油35%、ガスが55%で、3つの全ての輸入が停止すると、ドイツ社会は混乱を誘引するレベルまでに達する。

(自給率)

ドイツの2021年現在、エネルギ-自給率は29%。1990年の41.8%から大きく低下した。要因として、過去30年間で一次エネルギ-生産量(参照1)のうち、再エネルギ-は増えたが、それ以上に石炭や褐炭が減少したことが考えられる。国内で消費するエネルギ-の約7割を輸入に頼るドイツだが、輸入に頼らない国内生産のエネルギ源(一次エネルギ-)は主として褐炭と再エネルギ-である。

他の主な化石燃料の輸入依存度は、2021年時点で原油95%以上、石炭については100%である-これらの資源をロシアからの輸入に頼る割合が大きい。2021年のエネルギ-輸入量は1万2500ペタジュ-ル(エネルギ-量の単位/1ジュ-ルは≒0.239カロリ-)である。内訳として天然ガスは44%(うちロシア産が55%)、原油が27%(同34%)、石炭が9%(同50%)である。

 

〖エネルギ-政策〗
(財務相発言)

ドイツのリントナ-財務省FDP党首)は日本経済新聞(2022年10月27日付)とのインタビュ-での発言要旨は-①ロシアからのエネルギ-輸入(ガス)全廃を目指す。②エネルギ-源の多様化を急ぎ、「できるだけ早く完全に」ロシア産ガスから自立すると語った。現今の燃料高などのリスクを抱えても、対ロシアで厳しい姿勢を貫くことを鮮明にした。同相の発言は以下のとおり。

液化天然ガス(LNG)を貯めるために浮体式タ-ミナル)(浮体式LNG貯蔵)や再生可能エネルギ-や、欧州でのガス採掘など代替策を例示した。様々なエネルギ-源の調達に動くことで「ロシアからの圧力に屈しないことを明確にする」と強調した。冬場のエネルギ-需要の高まり備えるため、ドイツ政府は年末の予定した脱原発の先送りを決定済みである。リントナ-氏は“危機だから長く使用する”と説明。ただし、“新増設は議会の理解が得られない”として、脱原発方針は堅持する。
リントナー財務大臣







リントナー財務大臣
出典:「ドイツニュースダイジェスト

(エネ政策転換)

同財務相は、従前のドイツのエネルギ-政策(ガス輸入)について、ドイツは1970年代からパイプラインでロシア(ソ連)のガスを輸入、外交対話を重んじるロシア融和策をとり、天然ガスの過半数を依存してきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻で強硬姿勢に転じた。

「通商政策」でもロシアとの断絶も視野に入れる。ロシアは主要パイプライン「ノルドストリ-ム」(参照1)を通じたドイツのへのガス供給8月末から完全に停止。ドイツは代替として欧州各国からガス調達を始めた。10月にはパイプライン経由でフランスからも調達を開始始めた。

ドイツの方針転換でEU(欧州連合)の対ロシア強硬姿勢はさらに鮮明になる。リントナ-氏はガス禁輸をEU域内に強いるのには消去的だが、「欧州のだれもがロシア産ガスをやめるべきである」と語り、自主的に脱ロシアに進むのが望ましいと訴えた。ウクライナに対しては財政・軍事面で支える。

CNNの情報によると、ドイツはロシア産エネルギ-への依存から脱却しようとしており、現在はオランダやベルギ-、ノルウェ-からパイプラインを通じて天然ガスを得ている。ハベック経済相は、ドイツはロシア産の天然ガスがなくとも冬を乗り越えることができるとしながらも、春以降の供給水準については懸念を表明した(2022年9月21日)。

 

〖エネ政策の推移〗

(再生エネ)

ドイツは2011年以降、法律によって具体的な目標を定めて、脱原発と脱石炭を進める一方で、再生可能エネルギ-の向上に重点を置いた「エネルギ-転換」の推進策を始動した。その結果、電力消費は減少し、発電に占める化石燃料の割合が低下し、再生可能エネルギ-による電力が全体のほぼ40%にまで拡大した。

エネ輸出)

このような変化の中でドイツは強い電力供給と価格競争力を維持し、エネルギ-転換以降は周辺国との電力取引においても輸出が輸入を大きく上回るようになった。この結果、出超幅は脱原発の推進や風力・太陽光発電の拡大テンポの低下などを背景に2018年あたりから縮小トレンドに転じた。

(エネストック)

通常、ドイツの夏はしのぎやすく、また、同国の家庭は冷房を使用しないために、夏の間は電力需要が低下する。このため、需要が増加する冬季に備えて、夏の間に点検整備に入る原電が多く、基本的な電力供給が低下するとから周辺国からの電力輸入は増加する。

電力の需要が増加する冬は発電所の基本的な電力供給が高められるが、暖房は天然ガスや暖房油(灯油)が中心で、夜間や休日には余力が生じるため、輸出が増加すする傾向がある。フランスでは原子力を推進する過程で暖房に電力が多く用いられるようになった。

しかし、近年は輸出入ともに季節による変動が少なくなり、年間を通じて出超の状態にある。再生可能エネルギ-の拡大で、とくに夏場は太陽光、冬場は風力による発電が増加することが背景にある。

(原発稼働)

しかし、冬季の需要拡大やフランスの電力不足に備えて、年末に閉鎖を予定されていた3基の原子力発電所の稼働について、ドイツのショルツ首相は10月17日にベルリンで国内にある原電は、これまで2基だけを対象とし、残る1基は年内に運転を追える予定であった。しかし、原発運転延長を求める世論が高まるなか電力の安定供給へ方針を修正した。

ショルツ首相







ショルツ首相
出典:「ドイツニュースダイジェスト


 
〖電源構成〗

(概  況)

地球温暖化抑止に向けたエネルギ-戦略でフロントランナ-であったドイツが苦境に直面しているべ-スロ-ド電源(参照2)の燃料として期待された天然ガスの調達(露:ノルドストリ-ム)に支障が生じている上、再生可能エネルギ-が伸び悩んでいるためである。電力価格の高騰受け、ショルツ政権は石炭の活用を検討せざる得なくなった。この情勢は日本のエネ-ルギ-戦略にも大きな影響をもたらすと思われる。

(再生エネ低下)

ドイツの2021年の電源構成の概況は再生エネルギ-の比率が18年ぶりに低下した。2020年の44.9%から一気に4.0%ポイント下落した。主因は欧州全体を襲った異常気象により、主力の風力が陸上、洋上合計で3.6%ポイント落ち込んだことに起因している。また、太陽光、バイオマス(可燃性廃棄物<木クズなど>)が、それぞれ前年を0.1%ポイント下回り、同国の再エネルギ-は全般に停滞の兆しをみた。

(各エネシェア)

2021年のドイツの電源別の発電量のシェアは再生エネルギ-が39.7%を占める。-陸上風力15.2%、洋上風力4.1%、太陽光8.5%、バイオマス7.6%。加えて、化石燃料の発電量は全体の44.1%、原子力は11.7%であった。なお、ロシアからのガス供給の主要パイプラインの「ノルドストリ-ム1」からの供給量が最大供給可能量の40%まで減少した。

7月11日から21日までは定期検査のため供給が止まり再開後は20%にとどまる状況が続いた。8月31日から9月2日まで再検査のために再び止まり、9月2日以降も供給はとまったままである。一方、ドイツの国内のガス貯蔵率は多くなった。9月6日時点で86%超えた。11月1日までに95%の貯蔵率の目標達成が義務づけられている。

(価格上昇)

ロシアからの天然ガスの供給量が大幅に減ったことで、ドイツの電気・ガスの値上がりが顕著となっている。事例として、電気・ガス料金はわずか2カ月余りで2倍に上昇した。欧州の指標である1年先の電力価格は、2年前は1MWhで、40ユ-ロ(約5700円)現在は540ユ-ロ(約7万8000円)を超えた。ドイツのエネ関連ニュースの専門サイト「Clean Energy Wire」によると、本年のドイツの一般家庭の電気・ガス代は昨年と比べると6割も上昇しているという

ノルドストリーム 






ノルドストリ-ム
出典:「Reuters


〖展     望〗

最エネの優等生とされてきたドイツの脱炭素政策が大きな転換点を迎えようとしている。ドイツ連邦統計局(Destatis)が22年9月7日に発表したプレスリリースによると、ドイツで生産され電力の3分の1が石炭火力発電所の電力である。2021年上半期の石炭火力の割合は27.1%であったが、2022年上半期は前年同期比17.1%増の31.4%である。

石油と中東への依存からの脱却は結果的には国家プロジェクトを通したロシア依存(21年露依存度石炭50%、石油35%、ガス55%)という新たなリスクを生んだ。再び、ドイツへのエネル-ギ政策の転換の動きの兆しがショルツ首相の動きに見られる-2022年9月24日、同首相は中東歴訪の一環としてサウジアラビアを訪問し、ムハンド皇太子と会談。サウジが注力する水素などのエネルギ-分野を中心に協議する見通し。UAEではLNG(天然ガス)の安定調達に向け契約を協議する模様。ドイツのエネルギ-政策はロシアから中東に舵をきったように思える。

(グローバリゼ-ション研究所)所長 五十嵐正樹
(参  照)

(1)<一次エネルギ->

・電力などの利用できる形に変換する前の石炭や再エネ、ウランのような自然界に存在するエネルギ-

(2)<ガスパイプライン>

(ノルドストリ-ム)

・ノルドストリ-ム(独語NordSream)は、欧州のバルト海の下をロシアからドイツまで走る海底天然ガスパイプのシステムである。名称に関しては、ノルドには「北」、ストリ-ムには「流れ」という意味がある。

ノルドストリ-ム:ロシア国営企業ガスプロムを大株主とするノルドストリ-ムAGが所有・運営し、ノルドストリ-ム2はガスプロムの100%子会社ノルドストリ-ム2AG所有・運営。ノルドストリ-ム1はロシア北西部ウィボルグからドイツ北東部の4グライフスウァルト近郊のルブミンまでの2本のパイプライインにより形成されている(全長1222km/2011年11月8日開通)

・ノルドストリ-ム2:ロシア北西部のウスチ・ル-ガからルブミンまで2本のパイプラインはノルドストリ-ム2と呼ばれている(全長1230km/2012年10月8日開通)

。ドイツ・ノルドストリ-ムは1998-2005年にドイツの首相を務めたシュレ-ダ-氏が、プ-チン氏の求めに応じ、パイプライン事業を推進しが天然ガスの「ロシア依存」を強める契機となった。シュレ-ダ-氏は首相退任後も、同パイプライン運営会社の株主委員会会長や石油大手ロスフチ取締役会会長など、数々のロシア企業の役員を務め、ロビ活動に協力してきた。ショルツ首相らによる返上の求めにもシュレ-ダ-氏は応じていない(図参照)

(3)<ロシア産ガス>

・英BPによるロシアの天然ガス生産量は2021年に世界全体の17%を占めた。米国に次いで世界第2位の規模。原油生産でも世界第2位である。ロシア産ガスの最大の買い手が欧州である。21年にはEU(欧州連合)が輸入する天然ガス約4割をロシア産が占めた。BPによると、パイプライイン経由での欧州へのガス輸出は年間で1670億立方メ-トル「日本経済新聞」(きょうのことば)2022年10月27日。

(4)<べ-スロ-ド電源>

・コストが安く、昼夜問わず安定的に発電できる動力源。原子力/石炭火力/水力/地熱発電などである。べ-スロ-ド発電を高めれば、停電のリスクは減り、電気料金も抑制できる。

(5)3基の原子力発電所(図参照)

★「エムンド」原電

・出力1406MW/発電量11,357GW/事業者RWE/原子炉タイプ加圧水型(PWR)

★ネッカ-ベストハイム2」原電

・出力1400MW/発電量11,151GW/事業者EnBw/原子炉タイプ加圧水型(PWR)

★「ィ-ザル2」原電

・出力1485MW/発電量12068GWh/事業者旧E.ON(注1)/原子炉タイプ加圧水型(PWR

(注1)2016年1月プロイセン・エレクトラ

(注2)発電量はいずれも2020年

 

(引用資料)

・『中央公論』、「勝者なきエネルギ-戦争」、2022年11月、50-57頁

・「天然ガスなどロシア産エネルギ-への依存症が喫緊の課題」(ドイツ)/2022年9月27日、ジェトロ・デュッセルドルフ事務所でデュッセルドルフ事務所ディレクタ-作山直樹論文

・「JETRO」(ドイツ)-概況・統計-、2022年08月9日

・各「ドレスデン情報ファイル」

・市川真一リポ-ト「苦境に直面するドイツのエネルギ-戦略」2022年7月8日