2025年5月24日
〖プロロ-グ〗
△昭和30年代、筆者の住む武蔵境(国鉄)の北口には日本通運の支店があつた(現在:「業務スーパー」の付近)。停車している貨物車両から荷物をトラックに乗せて、目的地へ配達し、また荷主は「鉄道小荷物」(チッキ)の送付のため日本通運のカウンタ-に赴き手続きした。今から70年前の事である。当時、貨物列車を牽引していたのは、ED16形の電気機関車である。以下、日本の鉄道貨物小史を記述した。

ED16形の電気機関車
出典:「Wikipedia」
〖JR貨物の発展〗
△2023年9月15日、日本鉄道貨物輸送(JR貨物)が150年の節目を迎えた。邦字各紙は特集記事を掲載している-産経新聞の記事を紹介する(注1)。
▽1958年(昭和33年3月31日現在)、全国の貨物駅数は過去最多の3846駅があった。1959年(昭和34年11月5日)、初のコンテナ専用特急列車「たから」号の運転が始まった。1983年1月30日(昭和58年)、貨車を操車場で集散させる方式は廃止となり、1987年(昭和62年)4月1日、JR貨物が発足した。
日本貨物鉄道株式会社
(サウスゲート新宿内)
出典:「JR東日本ビルディング」
▽鉄道貨物の歴史は本年で152年になる。初年は1873年(明治6年)、新橋-横浜間で初めての貨物輸送が始まった。明治の著名な女流作家樋口一葉が生まれたのは前年の1872年(明治5年)である。1931年(昭和6年)、国産貨物専用電気機関車(ED16形)が完成した。1949年6月1日(昭和24年)、日本国有鉄道(国鉄)が発足した。
▽これ迄は大都市近郊に建設された広大な操車場(ヤ-ド)があり、各地から終結した貨車を1両ずつ切り離し、行き先別の編成を組み替える方式であった。時間を要したので速達性ではトラックに後れをとった。また、高度成長期に道路は整備されたことで、鉄道貨物は衰退の一途をたどった。
▽国鉄はコンテナ列車に切り替え、目的地まで編成を変えない直行方式に改めたが、相次ぐストライクで荷主の信頼は低下した。また、前述の「チッキ」と呼ばれた小荷物輸送もトラックの宅急便に取って代わられた。
▽国土交通省によると、国内貨物の輸送量は(トンキロべ-ス)は、自動車が約5割、内航海運が約4割を占め、鉄道貨物は5%程度という。鉄道ジャ-ナリストの枝久保達也氏は、「鉄道貨物は小回りの利くトラックにはかなわない。大量輸送という得意分野で強みを発揮するのが望ましい」との見解。
▽切り札は、環境対策と「2024年問題」だ。国土交通省やJR貨物の担当者は、鉄道貨物は営業用トラックに比べ二酸化炭素(CO²)排出量が約11分1。貨物列車1編成の輸送量は最大650トンと大型トラック65台分に匹敵する。海上輸送も深刻な人員不足に陥っており、鉄道貨物にとっては追い風となった(注2)。
〖JR貨物の現状〗
△2023年9月15日付「東京新聞」は、JR貨物の犬養新社長に「JR貨物の現状と課題について」インタビューした。以下、同社長の発言である(注3)。
▽羽田空港や大井コンテナ埠頭は、大井コンテナ埠頭に近い国内最大の貨物駅(東京都品川区)。コンテナを積んで大型トラックが行き交う入り口横に、JR貨物の大型物流施設「東京レールゲートEAST」が立つ。地上5階建て、延べ床面積17万4千平方メ-トル超。2022年7月の完成以来、ヤマト運輸など大手物流企業が配送拠点として入居し「満床」である。
▽「貨物駅構内のエキナカ施設の割に、鉄道の利用比率が小さいのが現状。数%では」と犬飼氏、「港や空港が近く、高速道路も目の前。鉄道だけでなく他の輸送手段にとっても魅力の立地条件なので、鉄道を一定以上使ってもらえば賃料を下がる。と伝えているものの、まだそこまでは至っていない」。もっとも手近な鉄道の便利さを訴えることで「今後は利用されていくと思う」と期待する。
犬飼社長
出典:「東京新聞」
▽東京貨物ターミナル駅は「海コン」と呼ばれる国際海上コンテナを運ぶ列車の始発駅。現在は東京-宇都宮-盛岡間だけだが、国は鉄道貨物需要の掘り起こしに「海陸一貫輸送」の拡大を唱える。通常のコンテナよりも背が高く、トンネルなどの通過に支障が生じるため、切り札は床を低くした低床の貨車。JR貨物は4両運用している。
「高価で、メンテナンスは通常より費用がかかる。需要も往復でなく片道になりがち。欧州のように港から駅まで線路がつながっているとか、全体のインフラが伴わなければ、港との結節は難しい。国として施策が出れば、進むと思う」。
東京貨物ターミナル駅
出典:「写真AC」
▽2023年の3月期決算では、鉄道関連事業の営業損失が148億円に上った。「鉄道輸送が伸び悩む理由は、一番に大雨などの輸送障害。7月のように山陽線が2週間も止まると、荷主は不安になる」。平時から船など代替輸送手段の確保を進めるともに、顧客からわかりにくいと批判を受けた情報発信に関し「列車が遅れた場合、何時頃に着く見通しかといったお客さまの必要とする情報提供に努めている」。
▽今もJR貨物は国が株主の特殊会社。1987年の国鉄分割民営化でJR各社に求められた「完全民営化」の道筋はどうなのか。「先ずは経営自立。きちんと黒字を出せる体質にまって、その先には上場が出てくると思う」と、犬飼氏は強調。また、上場の在り方もついても「100%のIPO(新規株式公開)」が理想かもしれないか、一部を国や旅客会社に持ってもらうか、いろいろな形がある」と含みを持たせた。
▽日本貨物鉄道(JR貨物)は5月13日、国土交通省の「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」中間とりまとめ(22年7月)に基づき設定した、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)の2024年度実績と25年度の取り組みを公表した。最重要指標であるコンテナ輸送トンキロは、24年度実績は163億6000万トンキロとなり、年度目標の175億トンキロには届かなかった(達成率は93.5%)。
〖経営諸元〗 2024年4月1日現在
▽営業線区 75線区
▽営業キロ 7805.5km(うち第1種鉄道事業区間)
▽取扱駅 237駅
▽列車本数(1日)「2024年3月ダイヤ改正」399本
▽列車キロ(1日) 「2024年3月ダイヤ改正」186千キロ
▽輸送量 2652万トン(2023年度)
▽輸送トンキロ 175億トンキロ(2023年度)
▽電気機関車 403両
▽ディ-ゼル機関車122両
▽貨物列車 42両
▽コンテナ車 7049両
(資料):ブランドメッセ-ジ:challenge and change/挑戦、そして変革(日本貨物鉄
道株式会社(Japan Freight Company)
〖当面の課題〗
△2024年問題を背景とした鉄道シフトの動きから輸送トン数自体は前年比2.8%増と増加したものの、中距離輸送への注力や一部長距離輸送の他モ-ドへのシフトなどにより平均輸送距離が短縮したこと、さらに自然災害や輪軸組立作業不正行為、列車脱線に伴う運休が響いた。25年度は必達目標196億トンキロの達成に向け、グル-プ総合での輸送力拡大を掲げる(注4)。
△輸送量の推移をみると、2023年度の事例を見ると、コンテナ扱いが1810万トン(全体の68%)、車扱いが841(32%)万トンである。このウエイトは当分変わらないであろう。経営面の変化の第1は高速化をアップすれば収益面で期待ができる。その切り札は既存の新幹線を使った貨物輸送である。加えて、2024年問題の中でトラック輸送からの移行を指す「モ-ダフル」である。政府はパッケージで、鉄道船舶による輸送量を今後10年で倍増させる目標を掲げた。
△国土交通省の検討会は2022年に「新幹線の貨物輸送拡大に向けた検討会」を提言している。その動きはすでに始まっている。この動きについて、元国鉄幹部は「在来線より災害に強い」との利点を挙げている。広く理解を得るには、丁寧な情報発信が求められる(注5)。
〖エピロ-グ〗
△JR貨物は1日約400本の貨物列車が全国の鉄路を行き交い、日本のライフラインを支えている。トラックから鉄道貨物への「モ-ダルシフト」は環境保護の面だけでなく、安全保障の視点からも極めて重要である。専門家は「効率よく大量の物資を踏まえれば、強みを発揮できる未来は十分にある」とみている。 今後、JR貨物の経営戦略が功を奏することになれば、資金は益々不可欠となり、必然的にIPO(新規株式公開)となり、東京証券市場の上場となり、多くの株主が生まれる。そのような動きが来ることを期待したい。
東京株式市場
出典:「yahooニュース」
「グロ-バリゼ-ション研究所」所長 五十嵐正樹
(注)
(1)「サンケイ新聞」2023年9月15日
(2)(注1)と同じ
(3)「東京新聞」2023年9月15日
(4)「Logistics Today」2025年5月13日
(5)「東京新聞」2023年9月4日