医俳同源〜より良い緩和ケアを求めて〜

七年間の米国臨床留学を終え、日本で緩和ケアをしています。

査読ガイドライン

ここ1ヶ月で国内・国外の論文の査読を一本ずつ担当しました。
ElsevierのReviewer guidelineには査読者としてのマナーや責務について分かりやすく書かれてあります。詳細な査読には5時間はかかること、時間が十分に取れなさそうな時や自分の専門分野が論文のテーマと異なり十分な査読ができなさそうな時は速やかに断るようにという心得もあります。また査読のポイントとして、Originality, Structure, Previous Research, Ethical Issuesの検討が大切であることが述べられています。 

個々の論文の評価には、独自性、方法論、重要性、記述の明快さ、該当雑誌に載せることの適切さなども問われます。査読にはやはり、細切れの時間を寄せ集めて5時間以上はかかりますが、将来の執筆者としても勉強になります。

「腫瘍内科が日本のがん医療にどう貢献するか」

日本内科学会学術集会の期間中に開かれた第4回腫瘍内科医会に招きいただき、「米国における内科サブスペシャリティとしての腫瘍内科教育」という題で基調講演を行いました。腫瘍内科を内科の一専門分野にしたいというのが腫瘍内科医会の大きな目標とのことで、毎年内科学会集会会期中に開催されています。私は主に米国の血液・腫瘍内科教育をご紹介しました。

フォーラムでの話題提供やパネルディスカッション、がん医療に携わられる多くの先生方との出会いから様々なことを学びました。

・日本内科学会年次講演会における500以上の演題のうち「腫瘍」領域分野ではここ3年で毎年50題近くあること、そのうち20%を越す演題が緩和・支持治療領域に関すること。

・専門分野としての確立と教育カリキュラムの作成が必要。

・専門医の要件を提示するには中身を担保する必要がある。その一環として各施設の教育カリキュラム・プログラムは理想的にはACGMEのような第三機関からの評価を受けるべき。時代がそれを求め始めている。自施設がどの段階にあるのかを社会に公開し、透明性を確保して成長していく。

・しかし実際はそこまでのシステムを作るのは短期間ではできない。学会からサーベイヤーを派遣して質の評価を行うのが現実的か。しかしそれでは客観性が損なわれうる。また、ただでさえ多忙な日本の臨床医に、相互レビューのシステムを持ち込むとさらに疲弊を来さないかという懸念もある。

・血液内科医は診断から治療、サバイバーシップから終末期ケアまで幅広く診られる。同様のことが原発不明癌を含む固形がん患者さんのケアにも必要ではないか。Totalに、全身横断的にがん患者さんのケアに当たるためには、基本的な内科全般の臨床力、薬物治療や支持療法の知識が必要。腫瘍内科医はその役割を担いうるが、そのためにはそれを可能にする教育プログラムの確立が必要。

・2004年にASCOとESMOが共同で「Medical oncologyにおけるGlobal Core Curriculum」を提唱し、それに基づいて日本臨床腫瘍学会でも研修プログラムが作成された。認定機構に認定されうる研修プログラムは少ない(福原正博先生 特集 腫瘍内科の現状と展開 『がん医療における腫瘍内科』 日本内科学会雑誌 第98巻、第8号、平成21年8月10日参照)。

この論文でも挙げられているが、腫瘍内科が広がらない一因として、日本内科学会のSubspecialtyに「腫瘍」が含まれていないことが挙げられる。

緩和ケアサイドから特筆すべきは、これらは臓器横断型の科の発展段階に共通する課題ということです。緩和ケアでも同様のことが言えます。分野として今後必要なことは

・専門科としての認定や確立。

・教育カリキュラムの確立。

・専門医の要件は提唱されているが、それを満たすために各施設がどのようなプログラムを用意したらよいのか。教育プログラムの標準化とモデル施設の明確化。

・ACGMEのような第三の研修プログラム評価機構があるとして、それが評価すべき項目の明示。時間はかかるが、国際的に質の担保を保証するためには、ACGMEのようなシステムがいずれ必要ではないか。臨床現場ではJCI認定を取得する施設がアジア圏にも増えてきている。その時は大変で必要悪としての書類作成などの業務が増えるが、それを枠組みとして質の向上を図り、質の高い緩和ケア医を輩出できれば、ロールモデルプログラムになれる。評価機構ができるのをただ待つのではなく、各プログラムが提供する内容を吟味し公開する必要があろう。

・研修プログラムの質を保証する現場責任者であるプログラムディレクターの時間的、経済的サポート。

・Faculty developmentの機会。

パネルからもフロアからも日本の腫瘍内科を率いてこられた先生方による、非常に内容の濃い議論が会場で行われていました。ただ気になったことは、今回のセッションに若手医師が少なかったことです。腫瘍内科の今後を担う若手医師にもっとこのようなセッションが開かれれば、問題提起を当事者感を以て受け止め行動に移す人が増えるのではないかと思われました。他国の完成例は一つの参考に過ぎません。日本の臨床現場が何を求めているか、腫瘍内科や緩和医療を問わず今後がん医療に関わりたいと思っている日本の若手医師がどんな教育を求めているか、がん医療の第一線に立つ医師たちがどんな自己研鑽の機会を求めているか、そして学会側が大局観に立ちどのような教育・研修機会を提供したいと思っているか。それぞれの十分な議論とAdvocacyが必要そうです。まず臨床現場に立つ一人一人にできることは、自分には何が求められていて何が足りていないのか、それを習得するためにはどのような自己研鑽を積みどのような研修・研鑽機会を利用したらいいのかを考え行動に移すことかもしれません。緩和医療が感染症、腫瘍内科など臓器横断型の分野から学ぶことはまだまだたくさんありそうです。

県薬剤師会での講演とE-learningあれこれ

久しぶりの更新です。
今週末は静岡県薬剤師会にて『がん疼痛へのアプローチ〜薬剤師に必要な医療用麻薬の知識』という演題でお話をさせていただきました。年に1回医療用麻薬の講習を受ける必要があるとのことで、140人の薬剤師の方々が参加されました。,ん疼痛評価の基礎知識、△ん疼痛治療の基礎知識、がん疼痛治療の実践の共有から患者さんへの説明や病院・地域との連携に役立てて頂きたいこと、の3本立てで、日本緩和医療学会の『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2010年版』に沿った流れにしました。

独自のアルゴリズムを打ち出しているNCCN GuidelinesRのAdult Cancer Painが65頁、最低限の基礎知識をまとめたESMO Guidelinesが9頁であることを考えると、日本緩和医療学会の266頁にわたるガイドラインは、初心者にも分かりやすい非常に教科書的な価値も高いものだと思います。II章の「背景知識」で基礎を、III章の「推奨」で実践的な部分を実際のエビデンスに沿って読むと、一通りの知識が得られるとともに、臨床疑問に沿ったエビデンスがあまりに不足していることに改めて気付かされます。EAPCの”Use of opioid analgesics in the treatment of cancer pain: evidence-based recommendations from the EAPC”(Lancet Oncology, 2012)と合わせて読むと更に理解が深まります。

実践的な部分をレクチャーから勉強したい場合は、Palliative Care Network CommunityによりInternational Palliative Care Network Conference 2012が無料で多数のレクチャーを提供しています(登録してユーザーネームとパスワードを作る必要はあります)。SpeakersはGlobalな顔ぶれですが、厳しいPeer reviewを経たレクチャーではないので、手作り感に溢れており、それはそれで楽しめます。

疼痛緩和のトピックは、”Basics of opioids”, “Opioid dosing strategies”, “Case scenarios in opioid rotation”, “Do opioids hasten death?”, “Neuropathic pain”, “Side effects of opioids and their treatment”, “Interactions between opioids and other medications”, “Influence of goals of care on suffering”, “NCCN, ESMO, and Japanese guidelines for management of cancer pain”を始め、Psychiatry and Pain、Advocacy、Spiritual pain、Interventional pain managementなど多岐にわたります。

緩和ケアに関する日本語のE-learningの機会としては、CANCER e-LEARNING「がん医療を専門とする医師の学習プログラムeラーニング」の「緩和ケア分野」が充実しているでしょうか。まだ全部受講できていませんが、勉強していければと思っています。

AAHPMを含め様々な学会が有料でE-learningの機会を提供していますが、受講したいと思えるテーマでも1回100ドル近くもすると、二の足を踏む人も国際的には少なくないはず。もちろん質の高いサイトのメンテナンスにはそれなりの費用がかかると思いますが、こうした中で無料の教育サイトを創ろうとする試みには頭が下がります。

緩和ケアの抄読会

最近当院緩和ケアチームでも週1回で抄読会を始めました。系統的レビューや調査研究、RCTなど、医師、看護師、薬剤師それぞれの領域から最新の文献や少し前でも日常診療の助けになりそうなものを読んでいます。できるだけ、〃覯未和電か、結果は何か、F常臨床に適応できるか、ということを念頭に30分〜1時間話し合います。昨年までいたバーモントの研修プログラムでは批判的吟味が主なJournal Clubでしたが、ひとまずは日常診療にすぐに使えるものを読むことで 櫚のプロセスを踏む練習になりそうです。

 先月のACP日本支部会では、Young Physicians Committee (YPC)の一員として”EBM style Journal Club”の寸劇にレジデント役で参加する機会をいただきました。米国では多くの研修施設である程度形式的な文献の読み方を教わることを実感しました。当院の初期研修プログラムにもEBMを学ぶ機会はあるとのことですが、研修が修了した後や、特に緩和ケア領域では全般的に「エビデンス」に馴染みが薄い印象を受けます。エビデンスを作る側も意識的に使用する側も絶対数がまだまだ不足しているため、このようなチーム内での自己研鑚の機会を共有できるのがありがたく思います。一読者としてではなく、一査読者として抄読会に関われば、査読の力も向上するかもしれません。

査読について

久々に英文誌の論文の査読を行いました。「査読」の一般的な方法論は昨年のMASCCのセミナーやバーモント大学の研究セミナーで学ぶ機会がありました。

量的研究、質的研究を問わず、しっかりとしたMethodologyに基づいた研究には頭が下がる思いを持ちつつ、批判的・建設的になるよう心がけます。一字一句じっくり吟味し、自分のできる限りの査読をしていても、本当に筆者の方々のためになるような質の高いレビューができているかどうかは毎回の査読に対するフィードバックがないため不明です。自分が過去に提出した論文に対する査読の中から、質の高いと思われる査読の構成や内容を参考にする、まさに”Trial and error”です。また、なかなか英語自体に言及するのは難しいですが、”Minimum length, maximum impact”になるような英文には惹かれます。「優れた論文は一篇の詩のようなものだ。一語たりとも加えられず、また削れない」と以前指導医に教えられたことがありますが、これは一流誌を意識的に読みこむことである程度身に付くのかもしれません。緩和ケアの論文の査読をしていただいたり、自分で査読をさせていただいたりしていると、世界の緩和ケア医療者がこの領域の向上を目指して相互扶助をしているんだという気持ちにさせられます。
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