Count Down News Paper(旧歌篇Blog)

40歳からの短歌と現代詩の再トレーニング(旧歌篇Blog)。空気のような軽量な短歌づくりからはじめます。飯田伸一といえばCount Down News Paper。もう一度、ブログで作りなおします。

リハビリ短歌08


08)もういちど戻ってくるよそのために今しばらくは荷物を降ろす

-------------------------------------------------------------------------------------

廃棄されたのだとしても諦める理由が見つからない。まだやり残した仕事があるから。誰にもそれを奪いあげる正統な理由はないはずだ。

小さな船に乗り換えてはじめる冒険だとしても、自分の中の理由に従って航海をはじめるしかない。

素描

風が強い日だったから
浜草を踏みつけてまで水際に降りようと言った
もう何も言わずともよかった聴こえはしないのだから
季節
繰り言のような記憶の撹拌
ゆっくりと静かに読み違えるように
砂は払われて
草の香りの強い紅茶が好きだったから
カナリアは必ずつがいを飼った
シナモンだけは苦手で
フラナリー・オコナーが好きだった
余白そして断片
書き遺すことは残酷だ
切実なほど遠ざかる
必ず遠ざかる
はにかむのに唇は不自然に噛む
笑うのに声は洩さない
ひどく抑制のきいた文面
右に傾いだ文字
信じることは薄い光の塊を壊さぬように
水際
遠ざかり果てた語尾の遺産
息を
息を吸い
何もかも迎えようと思う
私が遺った朝に

法皇

私は何も話せない。なぜならあなたの話しているのは私の知っている言葉ではないから。私は何も聞き取れない。なぜなら私の話しているのも私の知っている言葉ではないから。灰暗い言葉が駆け寄ってくる。私は懐かしい見知らぬ言葉に踏みしめられていく。沈むだけの歳月に侵されてあなたの話す知らない言葉が歪な円を広げている。

 ティタン、ティタン。それは足音。
 ティタン、ティタン。それは呪言。

法皇の季節は青。朱い記憶に何の贖罪も要るまい。ティタン、ティタンと舌打ちする少年が殺されるもっとも緑に噎せる朝、光に解けた娘もまた河を憎むと。秘蹟に接吻けて。
……私は十本には足らない指で数える。一つきり足らない希望を求めて。詩葬。これきりと言い定めても輪郭には届かない。あなたは口では話さないから。私の手を借りてとめどなくはじまりから遠ざかろうとするから。あなたは墓地にいたから。私はあなたを捜しきれなかったから。書き損ねたから。もう書かなくていい理由を。もうここにいなくていい理由を。私は決して訪れない十番目を想うから。痩せ細って眠るから。

水とシラブル

手に孕まれた疼きのあること
曳航の沖に定められて
斜度の緩やかな円錐は寒く
水楊の枝に穿たれた骸を拾い
胸郭の潤いを刎ねてまで
踏み出すという畏れに晒されて
満ち欠けのない風に
今一度は
これきりの緑を瓶に集めて
矩形の丘をたおやかに歩もう

はじまりという過ちの自治区
青い哀しみが降りしきる眩しさ
お前の髪は残らない
水底の彎曲した記憶のように立つ
艀けき煙草の一つ二つも
書き写す輪郭に追いつかない

言葉では追いつかないもののあること
希有な朝
真直ぐに突き刺さる
明晰な寂しさは透明なジャスミンの
駆け寄ってくる言葉
川は流れつく場所しか持たず
記憶は溯る場所さえ持たない

1970年4月
私を待たなかった詩人の朝がどのようなものだったか知る由もない
許されるのはそうでなどなかった叙述でしかなく
しかもただ一つの誠実はいつも答えを持たない
間に合わなかった一つの粒子がやがて追い求めるものもまた言葉であった
あらかじめを捨てる灰の瞳に映ったセーヌの川の流れ
そこに生まれた書き残されなかった想念のシラブル
水に抱かれて

それを手に持ちたかった私の数年は堅く
どのような緑よりも青い
救われえぬこと
なお歩み出す日々の
しかし手を削ぐ筆の走りにも逆らい
迫り出してくる
真直ぐに降り積もるざわめきの水とシラブルよ

水齢期

水齢を重ね灰夢に抱かれた君と私の交接は硝子のように脆すぎて重なりあうことから遠ざかり 白濁とした壊疽の患部を切り開くには細すぎる絹の糸が必要だから散文のような時間を連ねて 生きて結実するプリズムの光輝が等速の運動を続けて迫るにしてもレプリカントだった記憶は混じりけのない泪を流し続ける 青い硝子に闇は重なり 今日もまた一つの用語を削って意味を躰感する衰弱した循環の作用へと足を踏み外し 背にはないものの過去 胸に訪れていない未来が膨れて 君は窮屈に乾いた嗚咽を洩らす 硝子だった器官の記憶が軋むの 君は甲高い音の傾斜に歪む 私は一つ二つの装置を知っている 私たちの知覚を裏切り続ける もう一方の逆流のたえずあること それこそが臓腑を隔てて音を生み歌うことを余儀なくする沈下に傾く痛みの根拠であり それがついに東と西に背きあい続けるがために球形でない私たちは苛まれる 水齢は地上から生まれて空へと立ちのぼっていく 私たちはその白さに惑わされて降下という言葉に魅きつけられ 白色の壁のない密室で蔦に絡まれる苦しみから逃れられない 重みのあるものは兆しを窒息させて宙へと差し出される 私たちの交接は痛ましいほどの喪失の否をくぐり抜けて誤ちの前に晒され続けていて 指先の振動を受けてさえ崩れ去るだろう華奢な安堵に招かれて行為に捉えられたまま どのようにも解析できない痩せ細った想念へと収斂していき 貧るというにはあまりに脆弱な白いシラブルで私たちが伝え合うのは水は流れているのではなく 不確かな後ずさる現在を幾重にも重ねているということで 揺らいだ重なりの投影こそが私と君をどうにか分かち隔てているのだ 幾らかの種子は降りしきるだろう 実を結ぶことのない方角の港への停泊を探して 排斥される君の月齢に沿って溯る連なりの残骸は 私を希求するが灰を孕む水の青から生まれて 私たちを急き立てる冷たいきらめきを追い 損なわれるだろうことのための手と手を取り求める息を継ぎ足し

----------------------------------------------

水齢というのは造語です。いま、水齢と検索すると南アルプスの天然水関係のものがヒットしますね。

当時は完全に言葉を代替可能な二文字程度にしか考えていませんでした。
  • ライブドアブログ

ブログの中にあるおいしそうなパンをクリック!すると、空からパンが振ってくる! パン好きな人のためのブログパーツ。
Powered by KAYAC