ドクターナゴーの「EBM Diary」

  • ブログの紹介
    「求められることに対してお役に立てることが医師としてのやりがい」をモットーに、Evidence-based medicineのあれこれなどを綴っていきます。 2011年6月に東京・西国分寺で開業。開業してから今まさに進行していることも紹介できればと考えています。
  • 著者プロフィール
    名郷直樹(なごう なおき) 1961年名古屋生まれ。86年自治医科大学卒。95年、作手村国保診療所所長、2003年地域医療振興協会地域医療研究所地域医療研修センター長、東京北社会保険病院臨床研修センター長を経て、11年武蔵国分寺公園クリニックを開院。著書に『EBM実践ワークブック よりよい治療をめざして』、『人は死ぬ それでも医師にできること』、『治療をためらうあなたは案外正しい』など。

PubMedのClinical Queries

PubMed検索が無料化された今、この無料のデータベースを使わない手はない。
使わない手はないどころか、使うのは臨床医としての義務であるかもしれない
そう思います。
PubMedを使いこなせない医者は臨床医として問題がある、
そこまで言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが。
 
私自身はどうかというと、PubMed検索は数少ない趣味の1つです。PubMed検索が趣味です、なんていうとたいていはギャグだと思われますが、本当のところ、PubMed検索は楽しい。いくらやっても飽きないというところがあります。
そう思わせてくれた最大の武器がPubMedのClinical Queriesです。

PubMedのClinical Queriesを簡単に説明すると、
「臨床医の日々の疑問について、妥当性が検証された優れた検索式が自動的に入力され、PubMed検索が誰でも短時間で行えるようにした検索システム
ということになるでしょうか。言葉で説明しても分かりにくいですが、画面を見れば一目瞭然です。

例えば、以下のような疑問でPubMedを検索する場合をお示ししましょう。

コレステロールを下げると死亡率が増加するのか?


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/clinical
の検索ボックスに‘cholesterol mortality’と入力し、Searchボタンを押す。
さらに、Categoryを‘therapy’で、Scopeを‘narrow’にして、リターンを押すだけです。
検索結果は、一番左の列に原著論文、真ん中の列にシステマティックレビュー、右の列に遺伝子関連論文が表示されます。

このシステムはEBM3巨頭の1人、Haynesによって作られました。ここで使われている検索式がどのようなもので、どのように妥当性が検討されたかが、以下の論文で示されています。

http://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/jf04/cq_info.html


MEDLINE検索の歴史

1997年にPubMedhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/検索が無料化されました。これは20世紀の医療界の大事件の一つだと思います。

2001年のBMJのクリスマス特集号には「20世紀のアメリカからの贈り物、MEDLINEとJazz」と紹介されています(http://www.bmj.com/content/323/7327/1437)。Jazzと並んで賞賛されるというのはちょっと冗談半分かもしれませんが。


私が初めてMEDLINEを検索したのは、1990年頃だったと思います。パソコン通信からTelnet経由で検索するというものでした。

と言っても何だか分からないと思いますが、今で言えば、DOSプロンプトのような画面で、コマンドを打ち込みながら検索する仕組みです。
と説明しても、相変わらず訳が分からないかもしれません。簡単に言えば、検索が大変だったということです。
料金も、基本料+従量制で、月数回の検索でも数万円のコストがかかっていたのではないかと思います。
検索もマニュアル片手に適当な検索をしていたのですが、たいていは全然絞り込めずに数百の論文をサーベイする能力もなく困り果てるか、逆に絞り込めると、十数論文の中に必要な論文は含まれていないというような状況でした。
それでも、何だかその大変な検索が楽しくて、苦痛だったという記憶はありません。
パソコン通信を経由して、世界最大の医学データベースとつながっているという実感は、へき地の診療所で最新の医学から遠ざかってしまったという自分自身に何か大きな希望をもたらしていたのかもしれません。


その後1992年に大学へ異動してからは、CD-ROMでの検索でした。
MEDLINEの1年分が1枚のCDに収められており、そのCDを交換しながら10年分を1時間かけて検索するというようなものでした。
これはある意味、へき地でのパソコン通信を介した検索よりも大変でした。情報検索の環境は、当時すでに大学は後れを取っていたと思います。

へき地医療の現場は案外いけている。
電話回線さえあれば、大学とへき地診療所の情報格差は乗り越えられる、そんな手ごたえを最初に感じた瞬間だったかもしれません。


そんな中、PaperChasehttp://www.paperchase.com/による100ドル使い放題のサービス提供PubMed無料化と、時代は一気に流れていきました。


 コレステロールの話題が途中で放置されていますが、しばらくは情報検索環境の変遷について書いていきたいと思います。


へき地診療所の情報環境 (自慢話)

卒後10年目の1995年、2度目のへき地診療所赴任でした。
 EBMを武器にへき地診療所で頑張ろうと、義務というよりも、ある意味、大きな希望をもって赴任しました。

 へき地医療の話をすると、未だに「へき地では最新の医療から遅れてしまうのではないか」というような質問をよく受けます。もちろんそういう面はあります。
 しかし、逆に、へき地の診療所でこそ最新の医療についていける面があったというのが正直な気持ちです。



 1995年、インターネットが普及し始める頃でした。電話回線さえあれば、へき地診療所と世界をつなぐことはそれほど困難なことではなくなっていました。

 MEDLINEはTelnet経由で PaperChasehttp://www.paperchase.com/)を利用して年間100ドルで検索できましたし、
 ACP Journal Clubhttp://acpjc.acponline.org/)を購読すれば、日本のへき地までちゃんと配達され、最新の論文をA4判1ページの要約で読むことだってわけはありません。

 コクランライブラリhttp://www.thecochranelibrary.com/view/0/index.html)もCD-ROMで購入できました。
 UpToDatehttp://www.uptodate.com/contents/search)はちょっと値段が高かったのですが、
これは自分への投資であると考えて、ちょっと無理して買っていました。




 こう書いていて、1つの事件を思い出しました。

 へき地診療所でACP Journal Clubを購入してへき地診療所でEBMを実践してもらおうと、ある雑誌にその申込みフォーマットをそのまま使えるように1ページで載せてもらうべく活動報告を投稿した時のことでした。

 編集委員の1人から直々に電話があり、「これを1ページで載せる余裕はないし、1ページで載せる意味があるかな(誰も買わないだろう、というような意味でしょう)」と言われたことです。

 その時にどんな回答をしたのか今では記憶にありませんが、結果的には、ページの一部に単なる図表として掲載されたことからして、単に「わかりました」という短い返事をしただけかもしれません。


 それはさておき、
 1995年当時、上記のような情報源を備えていた大学図書館はほとんどなかったのではないかと思います。
 未だにUpToDateが検索できない大学もあります。コクランライブラリが導入されている大学はまだ少ないでしょう。

 それに対して、ある程度自分の裁量で勝手できるへき地診療所では、今から15年以上も前にこれらの情報源が整備されていたのです。




 しかし、へき地診療所のメリットは、何と言っても“勉強する時間がある”ということでした。当時の最新のデータベースを揃え、6時頃に仕事が終われば、後は勉強時間になります。

 2度目のへき地診療所のスタートは、何か希望に満ちたものでした。今、そう振り返っています。