ドクターナゴーの「EBM Diary」

  • ブログの紹介
    「求められることに対してお役に立てることが医師としてのやりがい」をモットーに、Evidence-based medicineのあれこれなどを綴っていきます。 2011年6月に東京・西国分寺で開業。開業してから今まさに進行していることも紹介できればと考えています。
  • 著者プロフィール
    名郷直樹(なごう なおき) 1961年名古屋生まれ。86年自治医科大学卒。95年、作手村国保診療所所長、2003年地域医療振興協会地域医療研究所地域医療研修センター長、東京北社会保険病院臨床研修センター長を経て、11年武蔵国分寺公園クリニックを開院。著書に『EBM実践ワークブック よりよい治療をめざして』、『人は死ぬ それでも医師にできること』、『治療をためらうあなたは案外正しい』など。

2011年12月

へき地診療所の情報環境 (自慢話)

卒後10年目の1995年、2度目のへき地診療所赴任でした。
 EBMを武器にへき地診療所で頑張ろうと、義務というよりも、ある意味、大きな希望をもって赴任しました。

 へき地医療の話をすると、未だに「へき地では最新の医療から遅れてしまうのではないか」というような質問をよく受けます。もちろんそういう面はあります。
 しかし、逆に、へき地の診療所でこそ最新の医療についていける面があったというのが正直な気持ちです。



 1995年、インターネットが普及し始める頃でした。電話回線さえあれば、へき地診療所と世界をつなぐことはそれほど困難なことではなくなっていました。

 MEDLINEはTelnet経由で PaperChasehttp://www.paperchase.com/)を利用して年間100ドルで検索できましたし、
 ACP Journal Clubhttp://acpjc.acponline.org/)を購読すれば、日本のへき地までちゃんと配達され、最新の論文をA4判1ページの要約で読むことだってわけはありません。

 コクランライブラリhttp://www.thecochranelibrary.com/view/0/index.html)もCD-ROMで購入できました。
 UpToDatehttp://www.uptodate.com/contents/search)はちょっと値段が高かったのですが、
これは自分への投資であると考えて、ちょっと無理して買っていました。




 こう書いていて、1つの事件を思い出しました。

 へき地診療所でACP Journal Clubを購入してへき地診療所でEBMを実践してもらおうと、ある雑誌にその申込みフォーマットをそのまま使えるように1ページで載せてもらうべく活動報告を投稿した時のことでした。

 編集委員の1人から直々に電話があり、「これを1ページで載せる余裕はないし、1ページで載せる意味があるかな(誰も買わないだろう、というような意味でしょう)」と言われたことです。

 その時にどんな回答をしたのか今では記憶にありませんが、結果的には、ページの一部に単なる図表として掲載されたことからして、単に「わかりました」という短い返事をしただけかもしれません。


 それはさておき、
 1995年当時、上記のような情報源を備えていた大学図書館はほとんどなかったのではないかと思います。
 未だにUpToDateが検索できない大学もあります。コクランライブラリが導入されている大学はまだ少ないでしょう。

 それに対して、ある程度自分の裁量で勝手できるへき地診療所では、今から15年以上も前にこれらの情報源が整備されていたのです。




 しかし、へき地診療所のメリットは、何と言っても“勉強する時間がある”ということでした。当時の最新のデータベースを揃え、6時頃に仕事が終われば、後は勉強時間になります。

 2度目のへき地診療所のスタートは、何か希望に満ちたものでした。今、そう振り返っています。


コレステロールについての意外なエビデンス

EBM Working Groupの教え
 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=%208230645)に沿って、
高コレステロール血症治療に関する薬物治療のエビデンスを検索しました。

 その頃は、まだUpToDateDynaMedもなく、MEDILINEも有料の時代でした。


 1年分のMEDLINEデータベースがCD1枚になっているものを1年ごとに検索するのです。

 それでも治療に関する論文の検索は、
 「真のアウトカムを評価したランダム化比較試験とそのメタ分析に限定する
という明確な検索戦略を勉強した私は、それを利用して、疑問があるごとに1時間でも2時間でもMEDLINEを検索していました。

 またそれが非常に楽しい作業でもありました。


 その中で検索された論文の一つが、1993年に発表されたSmithらのメタ分析です。
 (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=8518602

 その結果は論文中の図に示されているような衝撃的なものでした。
 心筋梗塞の低リスク者を対象にコレステロールを下げると、総死亡が20%以上増加するというのです。

 このメタ分析から20年近くを経た今、スタチン以外の治療薬については、この論文と同様な結果が発表され続けています。

 今年になって、脂質栄養学会のガイドラインをきっかけに、低コレステロールと死亡の関連という話題が一部で議論されていますが、「その関係は観察研究の結果に過ぎず、因果関係と考える必要はない」という反論が寄せられます。

 しかし、Smithらのメタ分析はランダム化比較試験のメタ分析です。

 介入研究の結果でもコレステロールを下げたグループで死亡率が高くなっており、これを因果の逆転などということこそ逆に不可能です。

 こうした部分が議論されないのはまったく不可解です。

 今後も、この領域でのエビデンスに注目していきたいと思います。



 Smithらのメタ分析の結果は、
CMEC-TVhttp://www.cmec.jp/cmec-tv/products/detail.php?product_id=15)で
数分の解説を聞くことができます。一度アクセスしてみてください。



 開業医としてやりたいこと

EBMの実践 

 開業してまずやりたいことの1つに、
EBMの実践ということがあります。

 開業医として幅広い健康問題に対応するためには、EBMを道具として使いこなす必要があり、使いこなすためには、忙しい日々の臨床の中で、短時間で能率的な、現場に根付いた方法としてEBMを立ち上げなければいけません。

 そうした日々の実践の記録として、日本医事新報での「その場の1分、その日の5分」の連載があります。

 今回のブログでは、私自身がEBMへと引き込まれるきっかけとなった、
アメリカ医師会雑誌(JAMA)の論文の使い方シリーズを紹介したいと思います。


 これはJAMAに不定期で連載されたシリーズで、患者シナリオをベースに、その患者の臨床上の問題を、EBMの手法で解決するというものでした。

Nago02EBM




 このシリーズに先立つ連載が、1980年代にカナダ医師会雑誌(CMAJ)に論文の読み方シリーズとして発表されているのですが(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7471000)、その連載との違いは明確で、
 「論文を読むだけではだめだ、読んだ論文を実際の患者に生かすことが重要である。だから今回の連載は、読み方シリーズではなくて、使い方シリーズなのだ」
 というのがこの連載のコンセプトでした。

 臨床現場でのEBMの実践こそが重要、現場で使ってこそEBMだ、というEBMの最も重要な部分が、この読み方ガイドから使い方ガイドへの変化に象徴されていると思います。

 この連載は「Evidence-Based Medicine Working Group」というグループによって始められましたが、このグループの手による論文の記念すべき第1回は、現在ではエビデンスにも基づく病歴診察についての総説論文の連載として名高く、書籍化され、日本語訳まである「Rational Clinical Examination」の第1回です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1404801)。

 今回紹介する論文の使い方シリーズは、それに引き続き、1993年に発表されました。

 「治療の論文をいかに使うか」と題して、EBMの実践例が示されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8411577

 ぜひ皆さんも一度読んでみてください。英語が苦手だという人は、中山書店より日本語訳が発行されています。
http://www.amazon.co.jp/JAMA%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E6%96%87%E7%8C%AE%E3%81%AE%E8%AA%AD%E3%81%BF%E6%96%B9-EBM%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC-%E9%96%8B%E5%8E%9F-%E6%88%90%E5%85%81/dp/4521650112/ref=sr_1_fkmr1_1?ie=UTF8&qid=1320901408&sr=8-1-fkmr1)。