ドクターナゴーの「EBM Diary」

  • ブログの紹介
    「求められることに対してお役に立てることが医師としてのやりがい」をモットーに、Evidence-based medicineのあれこれなどを綴っていきます。 2011年6月に東京・西国分寺で開業。開業してから今まさに進行していることも紹介できればと考えています。
  • 著者プロフィール
    名郷直樹(なごう なおき) 1961年名古屋生まれ。86年自治医科大学卒。95年、作手村国保診療所所長、2003年地域医療振興協会地域医療研究所地域医療研修センター長、東京北社会保険病院臨床研修センター長を経て、11年武蔵国分寺公園クリニックを開院。著書に『EBM実践ワークブック よりよい治療をめざして』、『人は死ぬ それでも医師にできること』、『治療をためらうあなたは案外正しい』など。

2012年02月

HaynesがEBMを生み出すきっかけ

PubMedのClinical Queriesを作り出したHaynesの印象深いエピソードがあります。
これは、EBM実践のためのバイブルとも言える‘Evidence-Based Medicine: How to practice & teach it’
http://www.amazon.co.jp/Evidence-Based-Medicine-How-Practice-Teach/dp/0702031275/ref=dp_ob_image_bk
の序文に書かれています。それは以下のような、ある意味何でもない事件なのですが、私にとってはとても印象深いものです。


Haynesの学生時代、精神科の授業でのことです。フロイトの精神分析に関する授業を聞いて、講義を担当した教員にHaynesが質問します。
 
「フロイトの精神分析の効果について何かエビデンスがあるんですか」
 
それに教員が答えます。
「誰もそんなこと信じちゃいないよ。教授にやれと言われてやっているだけだよ」
 

Haynesはこの事件が自分自身をEBMに導いたといいます。
反面教師もまた教師というか、真実は語られた講義内容にあるわけではなくて、その背後にあるということでしょうか。
 
HaynesはPubMedのClinical Queriesを作った以外にも、EBMの領域で偉大な業績を挙げています。そのうちの1つがACP Journal Clubの発刊でしょう。

たぶん、次回はこのACP Journal Clubについて取り上げると思います。




PubMedのClinical Queries

PubMed検索が無料化された今、この無料のデータベースを使わない手はない。
使わない手はないどころか、使うのは臨床医としての義務であるかもしれない
そう思います。
PubMedを使いこなせない医者は臨床医として問題がある、
そこまで言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが。
 
私自身はどうかというと、PubMed検索は数少ない趣味の1つです。PubMed検索が趣味です、なんていうとたいていはギャグだと思われますが、本当のところ、PubMed検索は楽しい。いくらやっても飽きないというところがあります。
そう思わせてくれた最大の武器がPubMedのClinical Queriesです。

PubMedのClinical Queriesを簡単に説明すると、
「臨床医の日々の疑問について、妥当性が検証された優れた検索式が自動的に入力され、PubMed検索が誰でも短時間で行えるようにした検索システム
ということになるでしょうか。言葉で説明しても分かりにくいですが、画面を見れば一目瞭然です。

例えば、以下のような疑問でPubMedを検索する場合をお示ししましょう。

コレステロールを下げると死亡率が増加するのか?


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/clinical
の検索ボックスに‘cholesterol mortality’と入力し、Searchボタンを押す。
さらに、Categoryを‘therapy’で、Scopeを‘narrow’にして、リターンを押すだけです。
検索結果は、一番左の列に原著論文、真ん中の列にシステマティックレビュー、右の列に遺伝子関連論文が表示されます。

このシステムはEBM3巨頭の1人、Haynesによって作られました。ここで使われている検索式がどのようなもので、どのように妥当性が検討されたかが、以下の論文で示されています。

http://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/jf04/cq_info.html