私が小中学校の頃、つまり今から40年くらい前のことだが、運動部の練習中、「水を飲むとバテる」とか言われて、水を飲むのを禁止されていた。あれはいったい何だったのか。

「口を漱ぐのはいい」と言われて、漱ぐふりをして、ガブガブ飲んでいた。ほかのみんなも多分そうしていたと思う。そうでなければみんな熱中症でバタバタ倒れていたはずだ。教師の言うことなんか聞いてはいけないというのは、案外重要なことだった。そういうところで、自分で判断する力が養われたのかもしれない。

しかし考えてみるに、それに類することというのは、案外まだまだ転がっていて、傷の消毒とか、「乾かせ」なんてのも今や逆で、「消毒するな」「乾かすな」である。「熱がある時は風呂に入るな」というのも、今やどうでもいいことになりつつある。

こういうことで、今もって傷を消毒したり、乾かしているのは多少笑われても仕方がない。「未だに熱がある時は風呂に入れてはいけない」と言っている人もそういう面がある。ただ、みんなそうやっていたかつての時代を笑うことはできない。そこはかなり重要なとことではないか。

昔の人はほんとにバカで、水を飲むのを禁止していた、っていうんだけど、今私たちが当然のようにやっていることだって、今から何十年もすれば、同じように「あの時代はこんなバカなことを一生懸命やっていた」と言われているかもしれない。むしろ、それが当然のことで、進歩というのはまさにそういうことだ。だから、こういうことを笑ってはいけないのである。

かぜ薬なんてもの、「そんなの飲んでた時代があったな。バカみたい」と言われる時代がもうすぐ来るような気もする。しかし、それを「バカ」と言うのはやめよう。われわれはそういうバカなのだ。だからできるだけよく疑って、よく勉強して、より良い方法を求めていかなければいけない

だから、ディオバンをやたら処方していた人のことも、やはり笑ってはいけないのである。