ドクターナゴーの「EBM Diary」

  • ブログの紹介
    「求められることに対してお役に立てることが医師としてのやりがい」をモットーに、Evidence-based medicineのあれこれなどを綴っていきます。 2011年6月に東京・西国分寺で開業。開業してから今まさに進行していることも紹介できればと考えています。
  • 著者プロフィール
    名郷直樹(なごう なおき) 1961年名古屋生まれ。86年自治医科大学卒。95年、作手村国保診療所所長、2003年地域医療振興協会地域医療研究所地域医療研修センター長、東京北社会保険病院臨床研修センター長を経て、11年武蔵国分寺公園クリニックを開院。著書に『EBM実践ワークブック よりよい治療をめざして』、『人は死ぬ それでも医師にできること』、『治療をためらうあなたは案外正しい』など。

2013年10月

何もしない時間

今年の秋は講演依頼が多く、それも遠くが大部分で、週末は電車や飛行機で大移動という日々が続いています。

先週は長崎、先々週は大分、今週は金沢、その次は北海道、そして徳島みたいな感じ。だいたいはとんぼ返り。行って、しゃべって、寝て、帰る、そんな状況。観光するひまもないスケジュールですが、別に観光したいとも思わなくなってしまいました。いったいどういうことなのか、自分でもよくわかりません。講演で疲れ果てて、観光につぎ込むエネルギーが残っていないというのが、一番もっともらしい説明でしょうか。

 

しかし、自分としてはそうでもないのです。疲れ果てて観光しないわけじゃない。ちょっとは疲れてますが、疲れてなくても、観光しないという気がします。

そうでないとすると、疲れている以上のことで、自分の疲れも自覚できず、いろいろなことについての興味も減退し、うつ病ではないかと、そういう意見があるかもしれません。それについてはそうかもしれないという気はします。

あるいはいつも1人というのがよくないのかもしれません。誰かと一緒なら、ちょっと観光でも、という気になるかもしれません。

そういう中で、以前と違う自分というのに気が付きました。

 

私はもともとせっかちなほうで、電車を待ったり、飛行機の出発を待ったりということがとても苦手で、予定より早く着きすぎたりすると、出発までの空いた時間にいらいらすることが多かったのですが、最近はそういうことがほとんどなくなりました。

きのうも空港で出発2時間前に着いてしまったのですが、この2時間がとても心地よい。ああ出発まで2時間もある。そんな感じ。ゆっくり食事をし、土産を選び、あとは搭乗口の椅子で1時間。

これも疲れているというのが最も妥当な解説でしょう。
ただそうだとしても、疲れている中で何かを得たような気もします。1時間椅子に座っていて幸せ。以前の私には考えられないことですから。



歌を聴かなくなって

最近はほとんど音楽を聴かない。街でも聴かないし、家でも聴かない。カラオケに行くこともなくなり、かろうじてテレビで流れているものを聴いているような、聴いていないような、そんな感じ。何でかわからないけど。外から入ってくるものに対する拒絶があるのかもしれない。いろいろ情報が多すぎてもうたくさん、そういうことか。


それでも何かの時に、ある歌のあるフレーズが口を突いて出てくる。だいたい何十年も前の歌だけど。

しばしば出てくるのが、中島みゆきの「怜子」。

「他人の不幸を祈るようにだけはなりたくないと願っていたけれども」、みたいなフレーズだが、これがいまだに何かにつけて蘇ってくる。たぶんまだ自分自身が他人の不幸を祈っているからなのだろう。ひどいことだ。
 
そのほかにもいろいろ蘇ってくるフレーズがあるのだが、「生きていてもいいですか」というのもある。これもまた中島みゆきであるが。「生きていてもいいですか」という問いに対して、「まあいいんじゃないか」と思って生きているわけだが、本当にそうかと突っ込まれると、怪しい感じもある。まったくひどいことだ。

 
また、「飾りじゃないのよ涙は」というのも、しばしば蘇る。まあ、現実は「飾りなのよ涙は」というわけだ。これまたひどい話。
 
こうして蘇ってくるフレーズというものには、何か抗いがたいものがある。感動というよりはむしろ不快なもので、この不快とちゃんと向き合え、と言われているようで、むしろ蘇ってきてほしくないフレーズだったりする。

 
最近は、歌の中からそういう抗いがたい不快なものを感じなくなっているような気がする。自分の感受性が枯渇したのか、あるいはよく聴くことがなくなったということか。それとも、そういう歌自体がなくなっているのか。

 
で、そんなことを書いていたら、なぜだが浮かんできたのは、ノーベル賞をもらうつもりで頑張っているのでは、という井上陽水の歌である。何でかわからんが。



参考アルバム
 
『愛していると云ってくれ』 (中島みゆき) : 「怜子」
『生きていてもいいですか』 (中島みゆき) : 「エレーン」
『9.5カラット』 (井上陽水) : 「飾りじゃないのよ涙は」