私の連載記事に対する質問です。EBMについて話すと、最もよくある質問の一つです。

このブログでもはっきり答えておきましょう。


質問者は、海外データはそのまま日本人に使えない、ということを主張したいのでしょうか。
それに対し私に何の反論もありません。その通りだと思います。しかし、ことさら人種差を持ち出すというところに違和感があります。


人種差は個人差の一要素に過ぎません。男女でも違いますし、年齢でも違います。細かい病態も個人個人で違います。その一要素として人種を考慮することは重要です。

ただ、真っ先に人種差を問題にするというのはどうなんでしょうか。それはバイアスなのではないでしょうか。そう言いたいわけです。



これをもう少し一般化すると、情報の外的妥当性の吟味ということです。

そもそも研究結果は研究に参加した平均的な人たちに対するものであって、個別の患者に適応する際には、日本人のデータであろうが海外のデータであろうが、個別的な適応、つまり外的妥当性があるデータなのか検討する必要があります。

人種の問題は、そういう当たり前の問題にすぎません。
エビデンスは、しょせん目の前の患者とは異なる集団での平均値に過ぎないのです。



もう一つ別な視点から、この問題を考えてみましょう。

人種間のばらつきと人種内のばらつきのどちらが大きいかということです。太った乳房の大きい50歳の日本人と、やせた乳房の小さい30歳のアメリカ人では、欧米のデータということであっても、前者の日本人のほうがむしろ当てはまるかもしれません。

人種間のばらつきは、人種内のばらつきに比べればかなり小さいというのが普通です。人種をことさら問題にするのは、こうした視点で考えてもナンセンスです。




さらにもう少し付け加えるなら、日本だって日本人だけが住んでいるわけではないのです。これからその傾向は徐々に大きくなっていくでしょう。
そうなれば、我々の患者さんのかなりの部分が日本人ではなくなり、海外のデータが日本人に当てはまるのかというような問いは、自然と消滅するでしょう。



めんどくさくなってきたので、もっと端的に言いましょう。

こういうたぐいの質問に関して、「国なんてそんな重要なものか」、そういうことが、むしろ私の言いたいことなのです。