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【治水の神様・水の神様】成富兵庫茂安（なりどみ・ひょうごしげやす）・佐賀の偉人
成富兵庫茂安（なりどみ・ひょうごしげやす）・佐賀の偉人
肥前国佐嘉郡新庄郷増田（佐賀市鍋島町大字鍋島）生まれ。
永禄3年（1560）−寛永11年（1634）9月18日 75歳
肥前国佐嘉の武将。
治水・利水工事の権威、佐賀農業の礎を築いた大恩人で「治水の神様」「水の神様」と崇められている。
龍造寺隆信の家臣で成富甲斐守信種の第ニ子として生まれる。
字は千代法師丸、初名は新九郎信安。
はじめ龍造寺隆信の家臣として筑後川崎氏や蒲池氏との戦いに参加し、隆信の戦死後は鍋島勝茂に仕え、文禄・慶長の役で武功をあげた。
水土を拓いた人びと―北海道から沖縄までわがふるさとの先達
若いときの兵庫は、当時の農民の生活にあまりに親しみすぎたきらいがある。一八歳になっても行儀の悪さは収まらず、ばくちを好み、村里を遊行し、とうとう父信種が苦労して蓄えていた籾蔵二つの兵糧をすべて失ってしまった。親族らは怒って、これでは武家奉公の軍役がつとまらぬ、茂安を殺してしまえ、ということになったが、信種が二、三年ようすをみようといって救ってくれた。
親族一同から当然殺されるべきところを、父信種によって「彼者少シ見所有リ。仮令バ土中ノ金ノアルガ如シ」として助けられた兵庫は、自らを土中の金に鍛えあげただけでなく、彼の周囲に有能の士を育てることに努めた。
兵庫の水利事業の真髄は、人を育て、農民を生かすことにあった。水利事業を行ない田を開くことは農民をつくることであり、農民、つまりは農民の共同の暮らしの場である村を育てなくては田ができなかった。このような彼の領国経営の思想の裏打ちなしに、単なる土木技術の運営として、樋管統制と時間配分の時割による用配水秩序を樹立することは不可能であった。また、村々の水の利害の調整どころか、工事現場での人夫の統制さえ不可能であったろう。
大坂の陣の後、藩主勝茂に藩費の膨張に対処するには水旱の損失防除と新田開発の必要があると進言、これがいれられると、領内の水利工事に全力を傾注した。
緩流河川の改修に優れた技術をもち、多くの河川の改修、溜池の設置や三方潟の開発など、多くの新田開発・治水工事にたずさわり成功を収めている。
兵庫の関わった工事は100ヵ所以上あるといわれるが、なかでも、
・川上川の上流から巨勢川まで市ノ江水路を引き、荒野を開田したこと、
・嘉瀬川から城内の多布施川に分水するための石井樋（いしいび）を築造したこと、
・12キロに及ぶ筑後川岸の土堤を完成させ、領内を洪水から守ったことなど、
佐賀平野の水利はことごとく彼の名前と結びついており、多くの業績が今なお佐賀県民に敬慕されている。
水土を拓いた人びと―北海道から沖縄までわがふるさとの先達
一七世紀はじめ（慶長、元和）のころ、筑後川沿いの肥沃な農地は絶えず洪水の脅威にさらされ、農民の悩みの種であった。それを救うため、川の右岸の千栗から坂口まで十二キロメートルにわたって、兵庫が築いた大堤防が千栗の土居である。土居の高さはおよそ七・三メートル、敷（堤防基底部の幅）が五四・六メートル。土居には杉を植え、流れに面しては竹を植えて根固めを施し、内土居と外土居の間には遊水池を設けて決壊を防いだ。完成までに一二年の歳月を要したが、これは、農民の耕作の都合や課役に対する配慮から、あえて工事を急がなかったためといわれている。
主な業績（水土の礎・国土を創造した人々）
�〇團旅祥竸紂丙寛貉圈�
��横落水路（神埼町・佐賀市）
�Ｈ鎖縅�（吉野ヶ里町）
�っ羝郷綟察粍譽寮ケ瓠諭覆澆笋�町）
�ケ�佐間水道（多久市・江北町）
��三法潟の大日堰（武雄市）
��淡水と河川灌漑の結合（佐賀江と多布施川、中地江と城原川など）
�┣論遒伐論遏�水路と水路の結合（寒水川と切通川、横落水路・市ノ江水路により嘉瀬川と城原川の結合）
��佐賀江の蛇行（佐賀市）
��新川の開削（佐賀市）
��永池堤（武雄市）
��五千間土居（白石町）
��千栗土居（みやき町）
��横堤（小城市、武雄市）
��乗越堤や野越（佐賀市他多数）
築城術にもすぐれ、名古屋城、大阪城、江戸城、熊本城などの修築にあたって、肥前の持ち場を担当して手腕をふるい、「鍋島家に成富兵庫あり」といわれた。
肥後熊本城主となった土木の天才・加藤清正は、そんな兵庫を一万石の高禄で招いたが、「肥前武士のならい、たとえ肥後一ヶ国を賜るとも応じがたく候」と謝絶した話は有名である。そんな忠義心のあつい兵庫に清正も感涙し、惚れ直したという。
佐賀―ふるさとの人と知恵 (江戸時代 人づくり風土記)
彼は生来頭の回転が早く、形勢を読み取ることに優れています。その上、努力至誠の人です。そういう人がもっとも充実した三十代から四十代のはじめにわたる十数年を、佐賀藩を代表して秀吉と家康の軍役奉公に終始したのです。
このような軍役普請に当たって、彼はそれを単なる土木事業のお手伝いとしては受け取りませんでした。一つ一つの工事を貫いている、領国経営の理想についての思想を学んだのでした。単に技術を学んだのではなく、民政としての水利事業を学んだのでした。
大正十四年（一九二五）発行『中原村の史話伝説』（松尾禎作著）の中には、水利事業に当たった成富兵庫の姿を、
「成富さんはこんなときは四千石の立派な家老の地位にありながら、工事場に小屋掛けして人夫に湯茶を用意し、雨の日も人夫と一緒にそこに泊まり込んだ。計画、順序、分業をよく考えて、一番ボラ、二番ボラのホラ貝で集合、作業開始を命じ、巡視のときは一等働いているものに菓子などを与えた。彼は老巧の士であり、人使いが上手であった。兵庫の水利事業の真髄は、人を育て、民百姓を生かすことにあった。彼は『葉隠』にいう覚の士であった。
『（覚の士とは）前方にそれぞれ仕様を吟味し置いて、その時に出会い、仕果するをいう。しかれぱ、万事前方に極め置くが覚の士なり』」
と書いています。つまり、周到な事前の準備をした上で、目算を立てて攻城、野戦、土木工事に当たり、偶然にかけるということがないということです。それぞれに仕様を吟味して、隣国のことばかりてなく、諸国の道法、海山、川の難所、天文、気象、地理に心を配りました。
成富兵庫茂安公誕生之地碑（嘉瀬川堤防・佐賀県佐賀市鍋島町大字鍋島）
さが水ものがたり館・「成富君水功之碑」（石井樋公園内・佐賀市大和町尼寺）
「佐賀平野と水」「成富兵庫茂安の生涯」「石井樋のすべて」をテーマに、ジオラマや映像で紹介されている。
人物で知る日本の国土史
戦国時代から江戸時代にかけて活躍したこの人の肖像画は、どこにも見あたらない。よって顔は知られていないが、佐賀市周辺の小学校のほとんどは、成富兵庫茂安のつくった取水施設「石井樋」へ遠足で行くほどに知られている。
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「神様がつくったものに手を加えると罰があたる」。佐賀平野の農民に伝わる言い伝えだ。治水の神様と言われる成富兵庫茂安が残しか遺言に「石井樋かけかゆるな」とある。よほどの自信と自負がうかがえる。
近世における水利の金字塔にして、茂安の代表作とも言われる石井樋とは、いったい何だろうか。
治水の神様は、洪水から人々の生活を守るだけでなく、川から飲料水や農業のための水を引く灌漑事業も多くおこなった。石で造られた井樋とは、取水施設を意昧している。一九六〇年まで、つまり三五〇年近く大切に使われていた優れものだ。
その石井樋が悠久の時を経て二〇〇五年末、佐賀市大和町尼寺に復元された。そこに妙な石積みがある。その形から象の鼻、天狗の鼻と呼ばれている。象の鼻は水の勢いを弱め、天狗の鼻で水の流れを変える。この構造物こそ、嘉瀬川の上流から運ばれてきた水を逆流させて弱め、土砂を沈めてきれいな水に変える浄化装置だ。
その水は堰で量を調節し、三つの樋門（水門）から多布施川に導き、余った水は下流に流す。これら高度な技術が集約されたシステムを総称して石井樋と呼ぶ。四百年前、ここから引かれた水が、魔法のように佐賀平野を穀倉地帯に変えていったことだろう。
茂安は、模型をつくって水を流す実験を何度も繰り返したという。魔法ではなく科学だったのだ。
わずかな遺構と資料から茂安の神技は復元され、石井樋公園として整備された。同時に開館した「さが水ものがたり館」は、茂安が残した水物語を紡ぐ人口であり、散策路の起点でもある。「水の大切さも伝えたい」（金子館長）と願う物語も始まったばかりだ。
成富兵庫茂安記念碑（国道264号沿い・佐賀県三養基郡みやき町西島東分）
千栗土居（ちりくどい）公園（佐賀県みやき町大字白壁1074-22）
成富茂安公合祀記念碑（白石神社・佐賀県三養基郡みやき町大字白壁3955）
文政6年（1823年）白石鍋島家第6代鍋島直章公により創建、祭神は白石初代邑主鍋島直弘公・白石焼の先覚者である鍋島直�糎�・土木治水の神成富兵庫茂安公の御三体が合祀されている。
水の神様として、成富茂安公合祀記念碑が建ち、毎年10月中旬には、茂安祭が開催される。
佐賀新聞（2010/10/17）
「治水の神様」生誕祝い流鏑馬 成富茂安公まつり
江戸時代に多くの治水・利水事業を行った成富兵庫茂安をまつるみやき町の白石神社で１６、１７の両日、茂安の生誕４５０年を祝う「時代まつり」が開かれた。流鏑馬（やぶさめ）や武者大名行列、神楽の奉納に加え、ダンスや舞踊など多彩なイベントで盛り上がった。
初日の１６日は、葉隠神正流の２人が流鏑馬を実施。馬にまたがり、１５０メートルの参道を駆けながら三つの的に向かって矢を放った。馬のひづめを響かせながら、「パーン」と乾いた音とともに射抜く姿は迫力十分。的の中央に矢を当てると、見物客から大きな拍手が送られた。
まつりは成富兵庫茂安公保存会（藤永正広代表）が主催した。
成富兵庫茂安水功碑（佐賀県神崎郡吉野ヶ里町松隈）
兵庫祭り（吉野ヶ里町ウェブサイト）
江戸時代、「治水の神様」と呼ばれるほど多くの治水事業に取り組み、吉野ヶ里町においても、農業用水や飲用水を導くための利水開発である「蛤水道」を築いた成富兵庫茂安公の偉業をたたえ、行われる「兵庫まつり」は、毎年5月上旬に蛤水道起点近くにある水功碑前で行われています。
佐賀新聞（2011/5/7）
成富兵庫茂安の功績をたたえ 蛤水道で「兵庫祭」
佐賀藩の治水の神様といわれ、田手川の水源となる蛤（はまぐり）水道を築いた成富兵庫茂安の遺徳をしのぶ「兵庫祭」が６日、吉野ケ里町松隈の蛤岳山頂近くで行われた。同町の関係者ら約７０人が出席、成富兵庫茂安の功績をたたえた。
蛤水道横にある記念碑の前で神事が行われ、碑に向かって参加者全員で拝礼。江頭正則町長は蛤水道が昨年、土木学会の選奨土木遺産に認定されたことに触れ、「遺産を守っていく知恵を絞っていければ」とあいさつした。
蛤水道は、１６００年初めに、田手川の夏場の水不足解消のために築いた全長１２６０メートルの用水路。福岡県側に流れる大野川の水を、ため池と水路を使って田手川支流の石動川に流し、かんがい用水を確保した。
わたしたちの佐賀・成富兵庫茂安
水土の礎・国土を創造した人々・肥前佐賀の水土の知、成富兵庫の遺産
土地改良偉人伝・佐賀の治水の神様 成富兵庫茂安（農林水産省）
成富兵庫茂安墓所（本行寺・佐賀県佐賀市西田代1-4-6）
墓は、佐賀市西田代町の本行寺と佐賀郡大和町尼寺にある（さがの歴史・文化お宝帳）。
佐賀新聞（2008/12/3）
成富兵庫の功績たどる 田中さんが新著
佐賀市の郷土史家、田中耕作さん（７３）が新著『佐賀藩の初期を支えた男 成富兵庫茂安−戦場に、外交に、そして治水に−』を刊行した。
佐賀の武将で、治水事業などでも後世に残る大きな功績を残した成富兵庫茂安（１５６０−１６３４年）の功績をたどり、人物像を紹介している。
九州陶磁文化館長や武雄市教育長を務めた後、郷土史研究に専念している田中さん。「鍋島佐賀藩」シリーズで江戸時代の佐賀藩史をたどり、昨年出した『中野三代と鍋島宗茂』に続く７冊目の刊行となった。
基礎史料である『大蔵姓成富家譜』から成富の生涯を読み解き、さまざまなエピソードを紹介している。治水の功績については、江戸後期に佐賀藩士南部長恒が調べ上げて編んだ『疏導要書』を、前山利雄・元県武雄土木事務所長が現代語訳して収録。『佐賀市史』をはじめとする『市史』『町史』から成富に関する記述も集め、成富研究のための基本となるべき情報を網羅した。
勇猛な武将として戦場をかけめぐり、対外関係では加藤清正らに高く評価されたことや、石井樋など佐賀での治水事業、佐賀藩が担った「大坂城普請」などでの活躍も挙げて、「強敵を破りその名を天下に現し、平時には山野海辺を巡見し新しく田畠を開き、藩の財を増やす」と書いている。
田中さんは「成富は今でいうマルチ人間。難局に対応する知恵が随所にあり、とにかくすごい男だと感じた。多くの人の協力でまとめたが、７冊の中でも一番難しかった」と話している。
佐賀新聞社刊、Ａ５判、３４１ページ、本体１５００円。県内主要書店で販売している。
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