三池港鉄道敷世は平成となった頃、ワシは実家のある大牟田を離れて福岡近郊で一人暮らしを始めていた。そしてやっと手に入れた初めての新車、90年式S13シルビア。様々な思い出を作ってくれたこのクルマで、時折り向かったのはほかでもない、幼い頃から自転車で走り回った大牟田の工場街や港湾だった。

いずれは失われるかも知れない予感があったこれらの風景に、ワシは敢えてシルビアを交えて写真を残した。その意味は特に無かったが、今となっては美しいS13も手元にはなく、ワシにとっては心に残る写真となっている。

S13シルビアと四山鉱この写真は三井三池四ツ山鉱の竪坑。この巨大な初期の鉄筋コンクリート建築物は、この写真の撮影から数年の後、1997年の三川鉱閉山の後になんとダイナマイトで爆破し解体された。まるで市民の情念を逆撫でするような解体劇であったようである。老朽化が進んでいたとはいえ、周囲には近接した住宅や公共施設もなく、このモニュメントを存置しておいて何が問題だったのか?

ダンクロローダー続いてご覧に入れるのは、ダンクロローダーと呼ばれていた「快速石炭積込機」というものである。貯炭場に隣接して、接岸した貨物船に石炭を積み込むための巨大な重機。これは三池港独自のもので、明治時代に作られたもの。動力には電気を使用している。
近年まで残されていたが、まるで不意打ちを食らわすように解体されたという。存在している以上、所有している企業は税金を払っているワケで仕方ない言えばそれまでだが、こういうものを壊すときには識者に相談するのが常識ある企業のする事なのではないか?

S13シルビアの美しさは、工業製品としてあまりに儚いものであった。あれから20年を経たワシの手元には既にない。しかし、ワシはこうした大牟田の近代化遺産までもが、少なくともかつて少年時代に自転車で走り回っていた頃、いずれこうも簡単に無くなってしまうものとは想像していなかった。

明日、アメリカには新大統領が誕生する。それに際して言っておきたいのは、少なくとも近年のアメリカによる市場原理主義と、それに影響された日本の構造改革や規制緩和などが、この大牟田という小都市にはこういう形で「リアルな現実」として現れている…という事なのだ。