2024年09月29日

新庄監督は続投するのか?

 北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督に対して、報道によれば球団側は続投を要請するとのこと。ボロボロのチームを3年で立て直して2位まで導いた功績を考えれば、当然のことと言えるでしょう。しかし新庄監督がこの要請を受諾するかどうかは予断を許しません。

◇ 世間の評価

 SNSを見ると、目立つのは新庄監督の采配を批判するコメントです。とりわけ2023年6月24日のロッテ戦の「2者連続スクイズ失敗」に象徴されるように、動きすぎの采配を批判する声が多いようです。また、継投失敗についての批判も目立ちます。

 そのこと自体は否定できませんが、2024年8月14日のロッテ戦では「2者連続初球スクイズ」を成功させており、失敗だけを槍玉に挙げるのはフェアではありません。また、継投については新庄監督の一存だけで決めるものではなく、投手コーチの責任でもあるでしょう。もちろん最終責任は監督が負うのでしょうが。

 なにより、SNSに限らずネット上の意見というのは賛成よりも反対のほうが大きく見えてしまうものです。「この監督の采配は素晴らしいと思った」よりも「あの監督の采配はけしからん」のほうが、ネット上に書き込んだり「いいね」を付ける動機になりやすいからです。

 したがって、一部の者がSNS上で繰り返し大声で騒いでいるからと言って「新庄監督には批判的なファンのほうが多い」とはなりません。

◇ 名監督の条件

 名監督にもいろいろなタイプがあります。例えば、十分な戦力を与えることで力を発揮し、長期にわたって常勝軍団を作り上げることが得意な監督。巨人でV9を達成した川上哲治監督や、西武で黄金時代を築き上げた森祇晶監督などが合致するでしょう。

 勝って当然と思われがちですが、スター軍団をまとめ上げるのは傍目には分かりにくい苦労もあります。森監督は著書で「(西武監督時代の9年間は)マンネリとの戦いだった」と振り返っています。ただし、巨人も西武も共通して、黄金時代が終わると主力に衰えが見られ、代わりとなる若手の台頭が乏しく、後任監督が苦労させられたという一面もありました。

 試合中の采配に長けた名監督も数多いですね。ID野球で知られる野村克也監督が代表格でしょうが、中日で黄金時代を作り上げた落合博満監督も合致するかもしれません。いずれもデータを生かし、情に流されずに時に非常な決断をして試合に勝ってきたという印象があります。

 ほかには、弱小チームを優勝争いチームに変貌させるのが得意なタイプもいます。最も有名なのは阪急と近鉄を立て直した西本幸雄監督でしょうか。西本監督は、弱小チームを優勝争いまで導くと「私の役目は終わった」とばかりに、キレイに立ち去るのがまたカッコイイです。

 モチベータータイプもいますね。野球はロボットではなく感情を持った人間がプレーするわけですから、選手をうまく乗せることも勝利の条件の一つと言えるでしょう。代表格は巨人の長嶋茂雄監督でしょうか。ここでは割愛しますが、長嶋監督の選手のやる気を引き出したエピソードは五指に余ります。

◇ 私の新庄評

 もうお気づきになった方もいるでしょう。新庄監督は、私も試合中の采配が特別優れているとは思いませんけれども、上記の「弱小チームを立て直した」「モチベータータイプ」の両方に合致すると思います。

 したがって、試合中の采配だけを槍玉に挙げて「新庄はヘボ監督だ」と言うのは、きわめて偏った見方だと言えるでしょう。批判するにしても、もっとさまざまな観点から評価しなくてはなりません。

 前任の栗山英樹監督が一部の主力選手を甘やかし、人種差別発言や暴力事件など不祥事続出でチームの空気はよどみ、マスコミから叩かれ、主力選手が根こそぎ流失して投打ともガタガタの戦力となったのは記憶に新しいでしょう。そんなボロボロの焼け野原に来てくれたのが新庄監督です。

 多くの選手にチャンスを与え、やる気を引き出す発言を繰り返し、一方で結果が出ない選手はたとえ主力といえどもスタメンから外す、あるいは二軍に降格させるという荒療治も行いました。

 今年で言えば、春先に不調だった新外国人のレイエスを二軍落ちさせ、2022年首位打者の松本剛もたびたびスタメン落ちを経験。昨年ブレイクした江越大賀は二軍暮らしが続いており、4番候補として期待されていた野村佑希に対しても無条件で椅子を与えることはせず、今年は一軍と二軍を行ったり来たりの状態です。

 信賞必罰とでも書けばよいでしょうか。気を抜けばすぐにスタメンから外されるし、代わりに別の選手にチャンスが与えられることが分かっているから、選手のモチベーションが上がるのでしょう。前任の栗山監督とは圧倒的大差があります。

◇ 新庄監督は続投するのか?

 普通の感覚なら「自らが手塩にかけて育てた若手選手たちの成長をもっと見守りたい」「2位まで来たのだから次は優勝を目指したい」となるのでしょう。

 しかし新庄監督は、良くも悪くも「普通の感覚」ではありません。そもそも普通の感覚であれば、栗山前監督がボロボロの焼け野原の最低のチーム状態で投げだした当時のファイターズの監督など、まず引き受けないでしょう。優勝どころか、CS進出すら絶望的な戦力でしたから。

 一定の成果を残し、来季に向けて明るい材料をたくさん見出すことができるようになったことで、自らの役割を終えたと判断して颯爽と立ち去る、ということも十分に考えられそうです。

 まだファイターズの地盤はユルユルで、変な監督が就任したら一気に最下位に逆戻りだと私は考えています。もう少し新庄監督に指揮してもらいたいと考えるのは、おそらく私だけではないでしょう。