1: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:47:51.51 ID:wck4sCkn.net

「ウチ、できるかもしれない」

「はい?」

「タイムスリップってやつ、できるかもしれない」



あれはいつのことだったか。希ちゃんは深刻そうな表情で私――小泉花陽にそう言った。

えっと、本当にあれはいったいいつの出来事だったか。

私の記憶はもう過去と未来がまぜこぜで、過去だとしたらどれだけ前のことだったのか。未来だとしたらどれだけ先に起こることなのか。

もう、どうにもわからないのでした。


・・・・・




2: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:49:32.92 ID:wck4sCkn.net

きっかけは、何気ない会話でした。

何気ないと言ってもそれは希ちゃんにとっての『何気ない』であり、私には崇高で尊いものに感じられました。

あ、希ちゃんというのは東條希という私の一つ上、三年生の先輩です。

私たちがやっているアイドル――μ’sの創始者みたいなポジションにいます。

なんでも見越していてこの人がいればなんでもナントカなると思います。

スピリチュアルやオカルトや得体の知れない力を持っています。

たとえば逃げるメンバーの逃走経路を先回りして「待ってたよ」的なことを言ったりしちゃいます。

曰く、ずっと前から今の九人に目をつけていて、九人がめぐり合うために裏で糸を引いていたそうなのです。

なんともトンデモな人物なわけですが、本人はそう思われるのをあまりよく思っていないらしく、ときどきまるで真実のように「いやあ、全部嘘っていうかみんなの勘違いなんやけどなあ……」みたいな顔をしながら胃薬を飲んでいます。

しかしながら彼女が特別なパワーを持っていることは明白。そんな名役者なところや謙虚なところもかっこいい尊敬できる先輩です。



ああ、長くしゃべりすぎてしまいましたごめんなさい。私はつい熱が入ると饒舌になってしまう癖があります……。

とにかく! そんな先輩から「タイムスリップができる」なんて言われても、疑う理由のほうがないわけです。


3: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:50:56.16 ID:wck4sCkn.net

もちろんお茶目な人でもありますから、イタズラという確率もありました。

いえむしろ彼女のことだから「イタズラのつもりでやったのに本当にできちゃったよどうしようなんだこれ!?」くらいの奇跡は平然とやってのけることでしょう。

そういうわけで私は迷うことなく希ちゃんにされるがままに椅子に座らせられ、腕をだらりと伸ばしました。

だってやってみたいじゃないですか。タイムスリップ。

「ぷっ……ひひひ」

「ど、どうしたの希ちゃん」

「えっへっへ、花陽ちゃんは正直でかわいいなって。よぅし、いくよ……?」

「う、うん」

「あ、その前に手順をもう一度だけ確認しよっか。まず……」

「目を閉じて深呼吸。気持ちが落ち着いてないとダメなんだよね」

「そーそー。次に戻りたい記憶を思い出す。鮮明に、これ以上ないってくらい」

「うん。ついさっきのことを思い出せばいいんだね?」

「そ。これは試験やからね。ちょーっと10分前に戻るくらいならもし失敗しても平気だよ」

「えっ……くれぐれもよろしくね」

「大丈夫大丈夫。念のためやって。失敗なんてしないから」

「うん。信じてるよ。それで、今朝希ちゃんは朝ごはんなにを食べたかを聞くんだよね。それから今に戻ってきて、希ちゃんと答え合わせ」

「うんうん。ぷっ……ふふ。で、当たってたら成功ってこと」

「はい」

「いひひ、じゃあ始めるよ。目をつぶって、深呼吸」

ちょいちょい笑いが入っていることを不思議に思いつつ、私は希ちゃんの声に従います。


4: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:51:29.91 ID:wck4sCkn.net

・・・・・



私は言われた通り目を閉じ、深く呼吸をする。

私は気持ちを落ち着かせて、極力なにも考えない。

私は次第にぽわーん、と感覚が曖昧になってくる。



「イメージして。あなたが最も憧れて、愛して、信じている風景を」



希ちゃんの声だけが聞こえてくる。

ああ。これはなんだか本当に心地がいい。

すべての雑音が遮断され、すべての感覚が一点に集中していく。



「かーよちーん!」



すべての雑音が遮断された(はず)の世界に誰かの声が響く。

でもそれは矛盾ではない。だってそれは、雑音なんかじゃないんだから。


5: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:52:11.27 ID:wck4sCkn.net

「かよちんってばー」

「え!? ちょ、凛ちゃん、今は大事なことしてて……」

私は目を開けられない。声を出せない。そのため代わりに希ちゃんが応対する。

「ねーなになに、何してるの?」

「しーっ! あ、いやちょうどいいや。あのね凛ちゃん、花陽ちゃんにドッキリ仕掛けるから手伝って……」

「ふむふむ。それは面白そう……わかった。時間が戻ったフリをすればいいんだね」



二人が何か話しているのが聞こえる――聞こえない――

私はというと、凛ちゃんが割り込んできたせいで、思い出すべき十分前より強く、ある記憶を、思い出してしまう。



……やっぱり、着替えてくるね



凛ちゃんを見て、私は鮮明に、あの日を思い出してしまった。


6: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:52:44.73 ID:wck4sCkn.net

「う……」



ザザ……。時間旅行の合間に、ノイズが入る。



「う、うう、う……」

「え、あれ、あ、え、花陽ちゃん!? しっかり!」

「かよちん!」



――かよちん!



瞼の裏で景色がグニャリと曲がり、そのまま私は意識を失った。



・・・・・


7: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:53:42.25 ID:wck4sCkn.net

「ここは……」



なにか、夢を見ていた気がする。

さっきまで感じていたことが夢で、こっちが現実。わたしはりんちゃんといっしょにがっこうむかうと中だった。

しかしどうも体がぎこちない。まるで肉体と魂の規格が違えているような感覚。しかしあくまで甚だ胸が軽くて、燦然と軋轢なる相対的な地面が近いことにシビアでアイロニックなシニカルさを感じるだろうか。いやない。



「かよちん? どうかした?」

「あ……凛ちゃん……」

ふ、と意識が戻ってくる。すぐ近くから聞こえてくる声の主を探す。

近くに凛ちゃんがいる。……でも、今の声、なんだかいつもよりさらに幼かったような……

「あ……」

目の前に現れた凛ちゃんは、ランドセルを背負った小さな女の子だった。

うっわぁ! きゃわわ。

じゃなくて……失敗した。直前に凛ちゃんが乱入してきたことで、違う時間に来てしまったようだ。しかも、相当昔の時間。

過去にきてしまったこと自体に驚きはなかった。私は希ちゃんを信じていた。

そんなことより。

「凛ちゃん……ちっちゃい……」

「む! いきなりなーに! かよちんだって凛と同じくらいじゃん」

「え、ああ」

通りで体がうまく動かない。文字通り魂と体の大きさが違えているのだから高校生の私の精神には小学生の小泉花陽の体は小さすぎる。


8: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:54:19.78 ID:wck4sCkn.net

自分の体を確認してから、凛ちゃんの下半身に視線を落とす。あ、変な意味はありません。

やっぱりそうだ。凛ちゃんはスカートを着ている。ということは次に起こるのは……男の子たちが現れて伝説の美少女凛ちゃんのドレスコードにケチをつける。

私は……

そんなことがあっていいのでしょうか。いいえ“それを知っていて何もしない”なんて許されるでしょうか。

私は…………

でもきっと私は言い返すことなんてできない。

私は…………!

それでも私は、あのとき言えなかったことを精いっぱい伝えたい。



「すっごく似合ってるよ!」



アイドルの特訓で身についた発声で精いっぱい叫ぶ。

いまだかつてこんな大きな声を出したことはなかった。当時は。

そんな私を、凛ちゃんはきょとんと見つめる。

「だから凛ちゃん何があっても脱いじゃダメなんだからね! 凛ちゃんはスカート似合ってるよ世界一似合ってるよこんなにかわいいんだからスカート着たらとっても女の子っぽくて抱きしめてなでなでして連れて帰りたくなっちゃうんだからーっ!」


9: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:55:47.40 ID:wck4sCkn.net

もう叫びに叫びました。女子小学生の体を借りて、普段思っていることも含めて発散する。

でも、よくよく考えてみたら私はなぜかとても具合が悪くて吐き気がしていたので、叫ぶのはよくなかったと思います。

「おぅエッ」

瞬間、頭がぐわんぐわんする。とっさに口を抑えてかがみこん……

「かよちん!?」

ロ凛ちゃんが呼んでいるのが聞こえる――聞こえない――

また意識が飛んで、次に目を覚ましたら私は高校生の体で家のベッドから転げ落ちていた。



・・・・・


10: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:56:40.30 ID:wck4sCkn.net

「ごちそうさま」

「えっ、全然食べていないじゃない」

朝食を残すと、お母さんに大変驚かれた。

なんだかひどい夢を見てとても食欲がないのだ。そう。この吐き気は……

なんて、目覚めたのがベッドということは、あれは夢だったんだ。

――どこから?

「えーっと」

「花陽、本当に大丈夫なの?」

「ああ、えっと……うん、ちょっと食欲なくて……じゃなくて。そう、ダイエット中なんだ」

「アイドル始めたからって、体形気にしてそれで体を壊したら元も子もないじゃない」

「うん……そっか、そう。かも」

「そんなダイエットはお母さん認めません。とりあえず具合悪そうだし今日はお休みしなさい」

「あ、うん」

ぼーっとした頭はイマイチ働かないまま。

私は何に頷いたのかも忘れて部屋に戻った。



・・・・・


11: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:57:10.41 ID:wck4sCkn.net

お風呂上がり。部屋のベッドに寝転がってエステのチラシを広げる。

「美容エステかあ……みんなには言えないなあ」

穂乃果ちゃんだってあれだけ必死に減量しているのに、私だけいいのかな。

そんなずるいこと、していいのかな。

――あれ。私なんでこんなもの眺めてるんだったっけ。

あ、そうだ。たしかダイエット中の私を心配したお母さんが……。



バチン。



突然どこからかそんな音が聞こえたような気がして体を起こすと、同時に辺りが真っ暗になった。

「うわ、停電かな」

一切光のない空間で恐怖を紛らわせるために枕を抱きしめる。

枕……枕はどこだろう。さっきまで頭を置いていた位置を探るがそれらしい感触がない。

どころか布団もタオルケットも体に触れない。そういえばお尻の下が固く冷たい。

どう考えても私は今ベッドの上にいない。ベッドはどこ……? いや、もうここは“私の部屋ですらない”!


12: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:57:39.74 ID:wck4sCkn.net

「なにこれ……あ、ああ……」

ここには何もない。枕もベッドも、光もない。

「ここはどこ……!?」

「場所は言えないけど……あーそうね、まず何から言えばいいのか」

「とりあえず『怖がらないで』かな」

「そうね。そう言いましょう。大丈夫よ。怖がらないで」

「ひぃ!?」

誰かの声がする。二人いる。泥棒? おばけ? 宇宙人!?

「あれ……怖がってるわね。怖がらないでって言ってるのに」

「そりゃ突然こんなんなったら誰でも怖がるんやない?」

「あー……えっと、もうちょっと待ってね花陽。もうすぐ明るくなるから」

「いやぁ誰!? だれ……だれか、だれかたすけてっ……!」

「まだなの?」

「ん、そろそろ」

暗くなった時と同じように辺りが急に明るくなり、今度は眩しさに目がくらむ。何が何だかわからない。


13: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:59:21.20 ID:wck4sCkn.net

「なに、なんなんですかあなたたち誰ですかここはどこですか!?」

「まず落ち着いて花陽ちゃん。深呼吸。悪いことはしないから安心して」

「そんなの……」

「ごめんね。急にびっくりするよね」

「そりゃあ……」

優しいトーンで私を落ち着かせようとしてくる女性の声が不思議とありがたく感じられた。

私、聞いたことあります。これストックホルム症候群っていうんですよね。

「……ここは、どこなんですか」

「有り体に言えば未来よ。ここは」

「未来……? そんなこと急に言われても」

「信じられないって? タイムリープの経験者であるあなたが?」

「あっ……」

半ば気が付いていた。あれは夢なんかじゃなかったんだ。

確かにそうだ。事実私は過去へのタイムスリップに成功した。

ならその逆、未来から現在への干渉もあり得るのではないか。

「そういうことよ。細かく言うとあなたが行ったのはタイムリープ。過去の自分の体に向けて意識だけ時間移動する類の時間旅行。

対して私たちが行っているのが正真正銘のタイムスリップ。体ごと時間を超えている」


14: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 21:59:56.12 ID:wck4sCkn.net

「な、なるほど……? それで未来人さん。あなたたちはいったい何を、しに……!?」

待って。

この声……この顔立ち……

「そんな、あなたは」

「……ええ。久しぶりね花陽」

「絵里ちゃん……」

それは私の知る現在の絵里ちゃんとは??―決定的に何かが変わり果てた??―絢瀬絵里ちゃんだったのです。

「結論から言うわ。花陽、あなたのせいで世界が滅びた」



・・・・・


16: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:15:13.53 ID:wck4sCkn.net

・・・・・



「えーと……はい?」

「だから、この世界よ。このままでは滅びる」

「…………?」

「だから……」

「待った絵里ち。この場合いきなり結論を言うのは正しくないかもしれない。ウチが説明するよ」

「ああ……そうね。その方がいいわ。きっとそういうのは私よりあなたの方が上手よね」

「というわけで花陽ちゃん。順を追って説明するけど」

「えーと、あなたは、もしかして希ちゃん……ですか?」

「そうそう。あ、シワが増えたとかそういう感想はナシね!」

「あ、じゃあもしかしてみんなも」

「いや、二人や。ウチらだけ」

「そ、そうなんだ」


17: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:15:42.35 ID:wck4sCkn.net

「さて……まず前提としてウチらは“この世界の正規の未来”から来た。逆に言えば“すでに変わってしまった未来”から来た。ってことはわかっておいて」

「はあ」

「それはつまり『花陽ちゃんが改変する前の世界は知らない』し、『どうやって変えたのかも知らない』ってこと」

「ではどうやって…」

「ん。近い将来世界はある危機に陥る。それでその原因を探ると、他の世界とのある食い違いが見えてきた」

「他の世界?」

「別宇宙……かな。数ある宇宙の中で、地球人類が滅びる世界とそうでない世界があったんよ」

「別宇宙? 宇宙がたくさんある? そんなものが」

「そりゃあるよ。未来だもん。別宇宙の観測くらい日常茶飯事やって」

「えーっ……」

「それで、まあなんやかんやしてその分岐点と思われるあなたを調査することになった。で、こうして過去に来た」

「そんなまさか、それってタイムマシン!? ありえないです!」

「そりゃあるよ。未来だもん。あと十年もすればその原型が公になるはず」

「えーっ……」


18: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:16:46.23 ID:wck4sCkn.net

「続けるよ。それで調査してくうち花陽ちゃんもまたタイムトラベラーであるとわかった。ので、さらに過去に遡ってこうして直接接触することにしたのだ」

「どうして絵里ちゃんと希ちゃんが」

「だって対象が花陽ちゃんだから。そりゃウチらが調べることになるやん」

「……だいたいわかりました。それで、何がどうなって世界は滅びるんですか」

「そこまでの因果関係はまだ不明よ」

黙って未来希ちゃんの説明を聞いていた未来絵里ちゃんが口を開く。

「ただ言えるのは、この世界ではある発明が成されないことになってる」

「ある発明、ですか」

「ある医療技術と言い直しましょうか」

「本来発明されるはずだった医療技術が発明されない……そうかそれで」

「理解が早いわね」

「その……世界を滅ぼすほどの病というのはいったいどんな」

「魂と肉体の乖離。自身の内と外の差異に耐えきれなくなりやがて死に至る病。『アイドル症候群』。そう呼ばれてる」



・・・・・


19: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:17:23.52 ID:wck4sCkn.net

「アイドル症候群?」

そんな病名聞いたこともない。魂と肉体の乖離? いったい何を言っているの?

「つまるところね、自殺よ」

「えっ」

「世界が滅びるっていうのは人類滅亡のことだったいうのはなんとなくわかるでしょ。驚くことにね、その原因は隕石でも宇宙人襲来でも自然災害でもなく……みんな自ら命を絶ったのよ。

アイドル症候群……私たちの未来では既に6割の人間が自殺した」

「人類は集団自殺によって滅びるんよ」

「そんなのむちゃくちゃだよ!」

「ほんとにね」

「でもそんなむちゃくちゃな未来を、変えられるとしたら……いや、変わってしまった未来を修正できるとしたら」

「…………」

「花陽にしかできないことなの! これは義務でもあるのよ、もともとあなたが変えてしまった未来なんだから」

「うっ……そんな、私……私はどうすれば」


20: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:17:50.09 ID:wck4sCkn.net

「あなたは過去で何をしたの? 何かを変えてしまったはずなのよ」

「何か……ですか」

「心当たりない? 何をしたか知らないけど、それは世界滅亡と天秤にかけるほどのことなの?」

「……わかりません。心当たりはありません」

「そう。わかった信じるわ。今は」

「このままだと世界はどうなってしまうのでしょうか」

「確実に滅びる。けどまだ手はある。その『医療技術』を発明するはずだった人を調査しましょう。なぜこの世界ではそれが成されないのかわかればどうにかなるかも」

「未来でその発明をするはずだった人の『今』に会いに行くんですね」

「会うっていうか、調査よ。基本過去の人間には会っちゃダメなんだから。それを破るとどうなるかはわかるわね?」

「今回の私みたいなことになる……と」

「そういうこと」

「じゃあ隠れて調べるんですか……そんなすごい人を……」


21: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/01(金) 22:18:59.52 ID:wck4sCkn.net

「『魂に関する医療技術』は今からおよそ10年後に、ある女医によって発明される。

その技術によって死の寸前にある人間の魂を保存したり、アイドル症候群の治療が確立される――はずだったのよ」

「でもいくら未来でそんなすごい発明をするはずだったからって、現在の当人を見つけることなんてできるんですか?」

「簡単よ」

「簡単……それも未来だからですか」

「いいえ。本来なら途方もない労力が必要でしょうね」

「…………?」

「西木野総合病院の次期院長にして元μ’s。その女医の名は――『西木野真姫』」



・・・・・


47: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:16:41.26 ID:NouK/zR6.net

「さあ! 今日も練習いっくにゃー!」

「どええええええ!?」

凛ちゃんがめっちゃかわいい服着て踊ってるっていうかそれスカートっていうかそれもう見えそうっていうかそれ見えてるっていうかそれ大丈夫なのぉ!?

「どうしたのかよちん」

「ほっほっ……! いいよぉ! 凛ちゃんいいよぉ!?」

「かよちん?」

「すばらしいです! もうどこをどうやったらかわいいか知り尽くしているような仕草! 見てるだけで息が苦しくなる笑顔! リビトー崩壊誘発服! トリプルスリー! 流行ってない!」

「かよちんが壊れた!」

「あああああなんか目から涙が……ありがとう……ありがとう」

「ちょっと花陽、大丈夫?」

「そうか……希ちゃん!」

「ん?」

「成功したんだよタイムスリップ!」


48: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:17:13.68 ID:NouK/zR6.net

「はい?」

「だから、タイムスリップだよ! 私、過去を変えちゃったんだ!」

「へーすごい! よくわかんないけどウチも負けてらんない! UFOと更新せねば」

あれなんかこの希ちゃんいつもと違ってすごい三枚目臭がするー!?

「きゃー、宇宙人とか、ニコこわーい」

あれなんかこのにこちゃんいつもと違って全く三枚目臭がしないー!?

「だれ……みんな……だれ……」

「かよちん、大丈夫?」

「だれ……誰か助けてーっ!」



*****


49: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:18:12.11 ID:NouK/zR6.net

*****



「なんですかこれは」

近未来的なTVに映し出される覚えのない光景。そこに移るのはスカートを着て練習する凛ちゃんとそれに驚く私でした。

「“この世界”での正史よ」

「絵里ちゃん……さん」

「絵里ちゃんでいいわよ。もしくはエリーチカ」

「絵里ちゃんさん、これはいったい?」

「さっき希ちゃんさんが説明したでしょう。私たちは別宇宙を観測できるって。それを応用としたらこれは基本。単純にこの世界の観測よ」

「ごめんなさいわかりやすく……」

「よーするにこれから起きることを先行上映してるってことや」

「さすが希ね」

「ごめんね。花陽ちゃんの知る絵里ちがどうかは知らんけどこの絵里ちは説明下手なんよ」

「あ、大丈夫です。私もそんな風に認識しています」

「ほう。どの世界でも絵里ちは絵里ちってことか」


50: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:18:50.12 ID:NouK/zR6.net

なによ、きっとどこかの宇宙ではパーフェクトかしこいエリチカだっているんだから」

「それって“この”絵里ちはパーフェクトかしこくないってこと?」

「揚げ足とらないでよ、もう……」

「絵里ちは頭いいけどそれを砕いて誰にでもわかるようにできないからね。いつもそれで誤解されて……」

「今は私の話はいいでしょ!」

どの世界でも、未来でも、この二人は仲がいいんだなあ。

「ふふ! 未来でもみんな元気にしてるの?」

「…………」

「…………」

「あっ……ごめんなさい。そうだよね、世界が滅びちゃうっていうのに私は何を……」

「聞きたい?」

「え」

「未来ではみんなどうなっているか――」

「う、ううんいいや」

その深刻な表情から紡がれる言葉を予想して、私は怖くなった。


51: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:19:15.04 ID:NouK/zR6.net

「そ、そうだ。もう少し見てみようか」

さっきまで屋上の練習にてスカート凛ちゃんに驚嘆する私を映していたTVをいじりながら希ちゃんが笑う。

「それにしてもんー。なるほど? 花陽ちゃんは何かに驚いているみたいやけど」

「はい。私の知る世界とは少し違っているみたいです」

「どのへんが?」

「みんな少しづつ違っていて、まだ確信は持てません。でも」

「でも?」

「このTV、誰かに絞ってみることは可能ですか」

「できるよ。真姫ちゃんに絞る?」

「いいえ……凛ちゃんに絞ってください」

「凛ちゃん? でもウチらの目的は真姫ちゃんに医療技術を発明してもらうことであって……」

「いいえ希。ここは花陽に任せましょう」

「……そうやね。今日のまばたきが地球の裏で台風を起こすっていうもんね。アライグマ効果」

「それを言うならバタフライ効果。今日のまばたきじゃなくて蝶のはばたき」

「それな」

「で、花陽。これより先がみたいの? 前がみたいの?」

「あ、じゃあこれよりさらに過去を見せてください」

「希」

「はいよー」


52: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:20:31.29 ID:NouK/zR6.net

*****



「ねえねえ、放課後どこか寄って行こうよ――ん、なになにニコちゃんも来たいんだ? しょうがないにゃー。そんなむすっとして、誘われなかったのが気になるんだ!」

「違いますー。そんな暇があったらニコはお家に帰ります」

「そんなこと言わずにさあ。ねえかよちん」

「そうだよ。花陽、たまにはゆっくりニコちゃんとお話したいな」

「いやよ。ニコは忙しいの、早く帰ってやらなければいけないことがいーっぱいあるんだから」

「つれないにゃー」

「アイドルはぁ、そんなに簡単にうろついていいものじゃないのよ?」

「さすが、ニコちゃんはストイックだね」

「とにかく、ニコはそんな暇はないニコ!」

「そっか。じゃあそうと決まれば早速行くにゃー!」

「ちょっと凛ちゃん、話聞いてた!?」



*****


53: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:21:12.16 ID:NouK/zR6.net

*****



放課後。凛ちゃんとにこちゃんと一緒に街へ繰り出す。

これが私、小泉花陽。音ノ木坂学院に通う高校一年生の日常。

“ここ”の私の日常。らしい。



「違う……」

「なにかわかったのね!? 何が違うの?」

「みんな違う! にこちゃんはこんな子じゃなかった!」

「にこ? 希、にこにチャンネルを合わせて、今度は少し時間を進めてみましょう」

「はいよー」



*****


54: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:21:44.25 ID:NouK/zR6.net

*****



「さあさあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

「なにしてるの? のぞみんっ」

「おっ、お嬢ちゃんお目が高いねえ!」

「やーん、お嬢様なんてそんな、やっぱりニコからはお嬢様オーラが溢れ出ててるとか?」

「いや、様とは言ってないから」

「もう少しで穂乃果ちゃんたち来るだろうから、そしたら構ってもらうといいよ」

「なんや冷たいなあ。興味ない?」

「そんなことより、ニコの爪研ぎ知らない?」

「今なら希ちゃんの占いつきよ!」

「仕方ないなあ。ニコっちが興味持ちそうな逸品見せたる」

「どうせよくわからないオカルトものなんでしょ? ニコこわーい」

「これです! アイドルの神さんが宿った品!」

「アイドルの神さま! ねえねてのぞみん、どれどれ見せて?」

「ふっふっふ。落ち着きなさいお嬢様ちゃん。これや!」

「ただの布切れじゃない?」

「全然違うのだ! これにはある曰くがついててね。その昔……」



*****


55: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:22:16.66 ID:NouK/zR6.net

*****



「――ってことがあってねー」

「あー! 凛もその話希ちゃんにされたよ」

「凛ちゃんもー?」

花陽は白米スムージーをすすりながら凛ちゃんとにこちゃんが話しているのを眺める。

……ひどく客観的だ。

花陽は……私は笑う。笑うが、花陽は今どんな目で笑っているのだろう。そんなことを考える

“ここ”は何がが違う。違う。違うのは私だ。

誰かに罪を認めてほしい。世界を変えてしまうなんて大それたことをやってしまった私が何もとがめられることなく笑っているなんて――

「かよちん?」

「え?」

「大丈夫? 聞いてた?」

「ごめんなんだっけ」

「それで、ニコちゃんがいらないって言った布きれ、凛がもらったんだよー」

「あー、そうなんだね」

私は、とんでもないことをしてしまったのではないでしょうか?

いつかそのしわ寄せがくるのではないでしょうか?



*****


56: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:23:01.97 ID:NouK/zR6.net

*****



「う……ア」

「希、止めて!」

「はいよー」

「う、うう、う」

「経験の伴っていない記憶が蘇っているようね。花陽、ゆっくり息をして」

「すーっ、は、はあ、はあはあ……な、なにこれ」

「ウチらにとっては“懐かしい”記憶なんやけど花陽ちゃんには違うみたいね」

「この世界の記憶は、あなたの脳内に残っているのよ。たとえ魂が別の世界の未来からきたものでも」



――そうだ。“思い出した”。

この世界では凛ちゃんがスカートを着ている。

それはつまり、何がどうなって……どんな因果で……かはわからないけど――

凛ちゃんがスカートを着たら、世界が滅びるということだ。


57: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:23:39.78 ID:NouK/zR6.net

「花陽、いい加減教えなさい。あなたは何かに気が付いているんでしょう」



凛ちゃんは笑っていた。

元の世界の凛ちゃんだってよく笑っていた。

でも、女の子らしい服を着て、笑う凛ちゃんはここにしかいない。

凛ちゃんと一緒におしゃれな雑誌を見ながらお話しできるのはここでしかない。

でも、この世界は、いずれ滅びる。



「花陽、答えて。あなたは何を変えたの?」

「――――わかりません」

「……そう。そうなのね……わかった。まだわからないのね。いいわよ。私はあなたを信じる」

「――っ! でも、できることはやらせてください。世界を終わらせたりしない」

「でもあなたに『分岐点』の心当たりがない以上……」

「私にやらせてください」

「え」

「真姫ちゃんの調査、私にやらせてください。“本物のタイムスリップ”」


58: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:24:46.57 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



「えー、ではここまでの概要をまとめます」

希ちゃんさんが未来版ホワイトボード(空中に文字が浮かんでいて、手で触れると動いたりします)にここまでの情報を整理する。

時間移動の際は“今いる世界”と“これから向かう世界”をしっかり理解していないと自分を失う危険があるらしい。

「花陽ちゃんがタイムリープする前の最初の世界を“宇宙A”、変わってしまった後――今の世界――を“宇宙B”とします」

「目下のところ、花陽が確認したAとBの違いは『にこの性格』ね。BのにこはUTXに編入するためにμ’sを利用するつもりだったみたい。知らなかったわひどい話よね」

「でも続けるうちに心変わりするみたいやね。『トイレのサボったリング』……この言葉にどんな思いがあるのかはわからんけど」

「私は今絵里ちゃんさんたちと一緒にBの未来にいて、これからBの過去に向かうわけですね」


59: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:25:44.75 ID:NouK/zR6.net

「オッケー。じゃあ始めようか」

「どうすればいいんでしょうか」

「まず服を脱ぎます」

「はい?」

「よく映画で見ない? 未来からきた裸のターミネーターとか」

「え、まさか服は送れないとか!? 裸になっちゃうんですか!?」

「そこで逆転の発想や。服を送れないなら服をタイムマシンにすればいいじゃない」

「なんて変態的発想! さては日本製ですね!?」

「というわけで今から花陽ちゃんの服をタイムマシンにします」

「ぬ、脱ぐって、本当に? ここで? し、下もですか?」

「え? あ、その上着だけでいいよ」

「それ早く言ってくれませんかね!?」



・・・・・


60: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:26:32.21 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



タイムマシンと化した上着を羽織り、希ちゃんさんと絵里ちゃんさんに身を委ねる。

向かうのは“μ’s結成間もない時代”。座標“真姫ちゃんのいるところ”。時間“午後8時”。身を隠すため日が沈んだ時間。

「行くわよ。向こうでも私たちがモニタリングしてるから気を楽にね」

「はい」

「なんとか『真姫が医療技術を発明しない理由』の手がかりをつかんできて」

「はい」

「希、カウントダウン」

「はいよー。3秒前。2、1……」

「早いよ!? せめて10秒前から……」

「ゼロ」

「ちょ、あああああああ!?」



意識だけの時間旅行とは違う。景色だけじゃなくて体全体がグニャリと曲がって捻じれて潰れて溶けて砕けて混ざって壊れて消えた。



・・・・・


61: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:27:45.77 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



「おえっ……ここどこ……」

広い通路。薄暗くてよく見えないけどお城か何かの中だろうか。

吐き気を抑えて立ち上がる。少なくとも近くに真姫ちゃんがいるはずだけど、見当たらない。

「よかった。絶対見つかっちゃダメなんだもんね」

一度大きく息をしてから周りを見渡すと、扉に『真姫』とネームプレートがぶら下がっているのを見つけた。

「真姫ちゃんの部屋……ここ、真姫ちゃんちだ」

『花陽、聞こえる?』

「絵里ちゃんさんですか?」

『そうよ。外には聞こえないから安心して。そのイヤホンから耳の骨に直接振動を伝えてる。最悪それは失くしてもいいけど、そのバッジはダメよ?』

そのバッジ……胸元の1センチ大のバッジに目を落とし、時間旅行前の希ちゃんさんとの会話を思い返す。



・・・・・


62: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:28:17.45 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



――花陽ちゃんの服をタイムマシンにするといっても、本体はコッチ。このバッジね。

「この小さいのがタイムマシンなんですか!? この変態技術、やっぱり日本製ですね」

「これを上着に着けて……はい完成」

「これだけ?」

「そ。これだけ。触れた衣類に時間移動効果を付与するバッジやから」

「触れた衣類はなんでもタイムマシンになっちゃうの!?」

「ちょっと違うかな。まず“移動する先の時間と座標を設定する”。“衣類につける”。だけ。それから“同時にタイムマシン化できる衣類は二つまで”」

「三つ目以降はどうなるの?」

「一つ目がただの服に戻って、三つ目がタイムマシン化するんよ」

「なるほど」

「くれぐれも『向こう』でほかの衣類にそのバッジを触れさせないでね。二つ目まではタイムマシン化しちゃうから」

「あはは、そんな。いくらドジで鈍感な私でもそんなことしないよ」



・・・・・


63: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:28:45.10 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



『花陽、具合はどう?』

「吐き気がひどいです。確か初めてタイムリープしたときもこんな感じでした」

『それは“時間酔い”ね』

「時間酔いですか」

『時差ボケみたいなものよ』

『おっ絵里ちー、今のたとえはよかったんやない』

……どうやら希ちゃんさんも近くにいるらしい。

『それはともかく花陽、今その部屋には誰もいないわ。チャンスよ』

「チャンス?」

『中を調べるの! 真姫が開発するはずのものの前型みたいなものがあるかも』

「入る!? 勝手に!?」

『そのために飛んだんでしょ!』

「そんなあ……」


64: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:36:47.08 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



変な汗がひどい。体感で1時間は経ったと思ったけど時計を確認したらあれからまだ10分程度しか経っていなかった。

よく整理された机。その引き出し。ベッドの下。上。あ、真姫ちゃんのにおい……。

めぼしいものはない。クローゼットを開ける。うっわひっろ!? まさがこれが噂の衣裳部屋(ウォークイン)!? 遊びに行っても中を見せてくれない理由がわかったよ!

ドレスのカーテンをかき分け、ひな壇みたいなタンスの前に立つ。

「こんなところに何かあるとは思えないんですが」

『念のためよ。タイムマシンが衣類になるんだから医療技術が衣類になっていてもおかしくないでしょ』

「正論です……」

罪悪感に押しつぶされそうになりながらタンスを上から開ける。

うわあ……高そうな服……二段目、三段目……

ああたどり着いてしまった開けてびっくりパンツコーナー。いけない真姫ちゃんのパンツが陳列してるいけない。

ここをまさぐるのは人間としていけない。見てるだけで背徳感じゃなくて罪悪感がひどいのにここに手を突っ込んだりしたら私はもうどうなってしまうでしょうか。


65: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:37:29.88 ID:NouK/zR6.net

『何してるんや花陽ちゃん、そこも調べて。よく言うでしょ、“すべての道はパンツに通ず”。“能ある鷹は爪を下着に隠す”』

「言わないです」

『しーっ声でかい! 近くに真姫ちゃんいるんやから』

「それ先に言ってくれませんかね!?」

『緊急事態よ代わって希! ……花陽聞こえる!? 真姫が部屋に戻るわ!』

「ぴゃああ!?」

『隠れて! 幸い衣裳だらけの服祭りでしょ!』

『ぽろりもあるよ!』

「ないです!」

『仕方ない一旦未来に戻って!』

そうだ帰りの設定をしておいてよかった! 後はバッジを外してつけ直すだけ……ぽろり。

「ああっ!?」

『なに!?』

「バッジ落としました!」


66: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:37:54.73 ID:NouK/zR6.net

『うっそやろお前!?』

『ハラハラするわね! ショーみたいにエンターテイメントしてくれるわね! これが本当のハラハラショー!?』

『追い込まれるとポンコツ発揮するのホントやめて!?』

『希こそ標準語に戻ってるわよ』

「静かにしてください! どうしましょう!?」

「隠れつつバッジを見つけつつコッチに戻るんや!」

「マルチタスク苦手なんです!」

「ゆとってる場合かぁ!」



「今日の入浴剤は何にしましょう。森林浴……あ、アロマキャンドルもいいわね」



真姫ちゃんが入ってくる。どうやらお風呂に入るのに着替えを取りに来た様子。私がとっさに雑に閉めたタンスの三段目を開けて下着を手に取っている。

――とくに何も気が付いていないようなので神経質に見えて以外と鈍感なところがあるのかも。なんか親近感湧いてきちゃった。


67: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 19:38:39.06 ID:NouK/zR6.net

「ん――」

「…………!」

やっぱりバレた!?

「やっぱり今日のパンツはこっちにしましょう」

パンツ選ぶ真姫ちゃんかわええ。どれどれ、真姫ちゃんはどんなパンツをセレクト――あ。



――動けないまま、2分ほどが経過した。

『行ったわね。無事でよかったわ花陽』

「…………」

『この時間の真姫にヒントはないみたいね。戻ってきなさい。バッジは見つけた?』

「…………」

『花陽?』

「バッジ……なんですけど」

『ええ。はやく見つけて――』

「パンツに」

『え?』

「バッジがパンツに引っかかってたみたいで……」

『…………』

「そのパンツ、真姫ちゃん持っていっちゃいました……」

『うっそぉん』              


68: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 21:22:25.54 ID:NouK/zR6.net

・・・・・



花陽は既に設定を終えていたバッジを私は落としてしまった。

あろうことかそのバッジはタンスの中のパンツに不時着。

あろうことかタイムパンツは真姫によってお風呂場に運ばれていった。

それが前回までの――



「絵里ちゃんさん! ドラマ風の回想はいいので指示をください!」

『追いなさい。何としてもタイムパンツを取り戻すのよそれしかないでしょ』

「でも真姫ちゃんお風呂場に……」

『追いなさい』

「でも……」

『追いなさい』



私はソロリソロリと廊下を渡って、お風呂場に向かう。

ああもう私、下着泥棒まがいの次は覗きですか……ああもう……ああもう!

『歴史改変して人類滅亡に追い込んだのが今更なに言ってるんや』

「正論です……。もうそれ言われるとダメです死んで詫びていいですか」

『ダメです生きて償ってください』


69: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 21:23:18.23 ID:NouK/zR6.net

ピカピカのランドセルを背負ってちょっぴり大人になれた気がした小学一年生。

制服が変わっても希望に満ちた未来を疑わなかった中学一年生。

本格的に大人の階段を登り始め、個人の責任に目覚めた高校三年生。

そんな私も、今は涙を流して唇を結びながらJKの入るお風呂直隣の洗面所の扉を開くようになりました。

お父さん。お母さん。いままでありがとうございました。

ごめんなさい。



『パンツあったー? はよそれ盗って』

「字が不適切です……」

『いやそれないと戻れないし、盗らないと』

「ありました……」

『いやーよかった。本当よかった。ついでに風呂場の扉ちょっと開けてくれる?』



私は希ちゃんさんの言葉を無視して真姫ちゃんのパンツを鷲掴み、タイムマシンを起動した。

――このパンツごと戻るから真姫ちゃん困るだろうなあ……。



・・・・・


70: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 21:23:44.07 ID:NouK/zR6.net

「うぅ……」

「おかえり花陽。具合はどう?」

「気持ち悪い……」

「大丈夫そうね。時間酔いしなくなるほど時間旅行を繰り返すことにならないことを祈るわ」

「ごめんなさい……何も得られなかった」

「なにも? ちゃんとあるやない。その右手」

「右手……」

私の右手には、確かに真姫ちゃんのパンツが握られていた。

「それが花陽ちゃんの成果。ほら胸を張っていいんやよ」

「これが…………いやいや、一瞬騙されそうだったけど私最悪だ」

「何か変わったかもしれないわ。ちょっと見てみましょう」

私へのねぎらいもほどほどに、切り替えの早い絵里ちゃんさんはなんだかすごそうな機械をいじりだす。


71: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/02(土) 21:24:13.92 ID:NouK/zR6.net

「どうやった? 初めての時間旅行は」

「うーん。あ、初めてじゃないよ」

「そっか、一回タイムリープはしてるんやったね。……そういえばどうやったの?」

「え、希ちゃんがやってくれたんだよ」

「え? ウチ?」

「希ちゃんさんじゃなくて、希ちゃん」

「どっちにしろウチにそんなことできたっけかな……」



「な、なによこれ……」

そこに絵里ちゃんさんの上ずった悲鳴に近い声が響く。

「なんやどうしたの」

「また変わってる……いえ、“増えてる”……!」

「へ……?」

「また世界が変わった……“宇宙C”の出現よ」


81: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:49:05.44 ID:GP9i6ahC.net

・・・・・



“宇宙C”。

あれが宇宙CだかDだかの出来事で……

そう。たしか私がパンツを持って行っちゃったせいで真姫ちゃんがノーパンになって絵里ちゃんがひきこもりになってそれから――

それはどこの宇宙の話だったんだっけ。私が今思い出しているのは過去? 未来?

時間旅行を繰り返すと記憶に混乱が生じる。それから言語に問題が出てくるとかなんとか。

私にそれは見られたでしょうか? もうそれもわからないほど頭がぐちゃぐちゃになっているのでしょうか。

きっと後者でしょう。なぜなら次に私は、なぜか百年くらい前の日本にいるんですから。



・・・・・


82: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:50:33.04 ID:GP9i6ahC.net

・・・・・



――あれ?

私さっきまで……ここはどこですか?

――――――――。



――――。



あっ。

思い出した。“記念”に好きな時代に飛んだんだ。

……なんの“記念”だっけ?



「うわっ」

「え、なに、だれ?」

振り向くとそこには“当時の人”がいた。

私と同じくらいの年の綺麗な女の子。……なんだか誰かに雰囲気が似ていた。


83: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:51:54.77 ID:GP9i6ahC.net

「なにその着物、見たことない……そうか、あなたお船に乗ったことがあるんやね!」

「え、おふね?」

「すごいすごい。洋服やろそれ、そんな奇怪な恰好はじめてみた!」

「あ、そっか……私は未来から、じゃなくて。えっと、私まだ外国には行ったことないんです」

「じゃあ異人さんのお知り合いからのいただきもの!?」

「あ、そう……なんです。私もよくわからなくて、でもそういうお友達はいます」

「どこ、どこの人なの!」

困った。ここは相当昔らしい。なら確かにこんな格好でウロウロしてたらこんなことにもなる。でも説明のしようがないし……嘘をつくのもいやだし……。

「ねえってば、その異人さんどんな人なん?」

「あー……ロシ……ソ連……じゃなくて、北の国の人に、知り合いがいます」

「北かすごいなあ。いいなあいいなあ。どこで知り合えるん?」

「一緒にアイドルをやっているんです」

「あいどるぅ? もうかぶれちゃって。ウチ学がなくて文字もわからないんよ」

「えっと、アイドルっていうのは……人を笑顔にさせる仕事です」

「すてき!」

「そうかな。ありがとうございます」


84: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:52:38.42 ID:GP9i6ahC.net

「人を笑顔にさせる仕事かあ。芸能? ウチもそんな仕事ができたらなあ。どんな仕事なんやろ……たとえばこう……」

少女はよれた着物をヒラリと振って華麗なステップを踏む。いや、ステップなんてかぶれたものではない。少女は舞った。

「こうやってさ、歌って、踊って、誰かが笑ってくれる。とか、いいよね」

「うん。私も、そういうのを目指してる」

「そっかそっか。ウチももう少し頑張ってみるよ」

「え、うん」

「ありがとう。アイドルやっけ。ウチにもできるかなあ」

「できるよ!」

「うんうん……あなたのおかげで……えっと、お名前」

「小泉花陽」

「ああ……やっぱりウチなんかよりずっと身分のいい人なんやね」

「え、身分とか、そういうのはないよ」

「お偉いさんでも、小泉花陽さんみたいな人もいるんやね」

「いっぱいいるよ。長生きすればいつかたくさん出会える時代が来る」

「ん! ウチの名前はの――へっくち!」


85: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:53:06.25 ID:GP9i6ahC.net

「大丈夫? 寒いよね。……そうだ」

私は上着を脱いで、羽織らせる。

「わっ、見た目よりあったかい」

「あげるよ」

「え!?」

「この服、あげる」

「いいの!? だってこれすごい……なんやこの織物いったい何でできて!?」

「ふふ! 大事にしてくれるとうれしいな」

「一生大事にするよ! いつか子供ができてその子供に子供ができても大事にさせる! これは家宝にする!」

「えへへ、大げさだよ」

「本当にありがとう! ああ、あったかい。いつか会いたいなあ。北の国の異人さん……」



・・・・・


86: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:56:28.60 ID:GP9i6ahC.net

・・・・・



――今のはいつの話だったか。意外とすぐ未来の話だったかも。



「花陽ちゃん花陽ちゃん」

「う……ん……」

「どうしたん、急にボーッとしちゃって」

「え、あれ?」

「話聞いてた?」

「ごめんなさい」

「絵里ち、もう一回説明してあげて」

「耳の穴かっぽじって聞きなさい。かっぽじった手は汚いからよく洗って。手洗いは爪先までしっかりして、手を拭いたらそのタオルも汚いから洗濯して……」

「何の話ですか」

「衛生の話よ」

「違うよ?」

「そうだった。まあそのくらい重要な話って話」

この絵里ちゃんホントわかりにくいな……もしかしたら私の知ってる絵里ちゃんより数段上のポ………かもしれない。


87: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 20:58:47.10 ID:GP9i6ahC.net

「とにかくこの宇宙Cでは世界は滅びないわ」

「へー……ん?」

今さらっととんでもなく重要なことを言われてしまったような。

「この宇宙Cでは世界は滅びないわ。いやあよかったわね。万事解決よ」

「――ん? えーと、え!?」

「終わったのよ」

「なんで唐突に世界救われてるんですか私がボーっとしてる間に何があったんですか!?

ていうか宇宙Cはあくまで宇宙Cであって、もともとの宇宙Aに戻ったわけじゃないですよね!?」

「花陽ちゃん、ウチらの目的は世界崩壊を止めることであってもとの世界に戻すわけじゃないから」

「そうなのぉ!? 私もとの世界に帰るつもりでした!」

「へーきへーき。タイムトラベラーはそれに関する“記憶を消される”ようになってるから」

「えぇ!? 聞いてないよ」

「花陽ちゃんは時間旅行のことは忘れてこの平和な宇宙Cで暮らせるよ」

「横暴すぎませんかね!?」


88: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 21:00:40.68 ID:GP9i6ahC.net

「しょうがないよ。ウチらも未来帰ったらこれまでのことは忘れることになるし。ね、絵里ち」

「…………」

「絵里ち?」

「え? ……ああ、そうね。未来に帰ったら私は……」

「ん。そういうことなんで! めでたしめでたし」

めでたい? 私はまだ過去から真姫ちゃんのパンツを盗んできただけ。

なのにもう終わり!? 過程が飛びすぎてなんですかこれはふざけてるんですか。

「さて。ここは正確には過去と未来の中間だから改変の影響が遅い。今のうちにやり残したことある?」

「へ?」

「“記念”にどっか好きな時代に連れてってあげてもいいよ? 恐竜がみたいとか東京オリンピックがみたいとか」


89: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 21:01:15.95 ID:GP9i6ahC.net

「ダメよ希そんなの聞いてない」

「いいやん。どうせ忘れるんやし、ちょっとくらい」

「ダメだったら」

「絵里ちは頭かったいなあ。ねえ花陽ちゃん? 花陽ちゃんも頑張ったんだからご褒美欲しいよね?」

「え、ええ……私は、うーん」

「ダメよ! タイムマシンを早く返しなさい」

「あっ、あかん、しょうがない楽しんできてね!」

「え!?」

「適当に設定したけどこの際いいよね、いってらっしゃい!」

「ええ!?」



こうして私は“記念”にどこかの時代に吹っ飛ばされました。

そのときの記憶は……どうしてだろうもう思い出せない。

それとももう既に語ったんでしたっけ……ああもう時間軸がわからない難しい話が見えない……。

私の話なのにどこまでも客観的ですね私は。



・・・・・


90: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 21:02:23.38 ID:GP9i6ahC.net

・・・・・



希ちゃんにどこかの時間に飛ばされた私はすぐにタイムマシンと化した真姫ちゃんのパンツ――略してタイムパンツ――を使って私は未来の希ちゃんさんと絵里ちゃんさんの待つ時間へ帰った。

「ただいま! ちょっと希ちゃんさんひどいよ! 向かう時間がわかってないと自分を失う危険があるとかなんとか言ってたじゃないですか!」

戻ってすぐ希ちゃんに言い寄る。

さっきまでどの時間で何をしていたかイマイチ覚えてないのは突然勝手に飛ばされたからではないのか。

「希ちゃんさんってば! ……希ちゃん?」

「ああ、おかえり……」

さっきまでのテンションとの落差がすごい。それに……。

「絵里ちゃんさんはどちらに?」

「ちょっとね、絵里ちと二人きりで話したくてさ」

「それであんな乱暴して私を撤去したんですか」

「絵里ちがなんか隠してるっぽくてね。そしたらああいうことだった」

希ちゃんさんが指さす先。一瞬何もないように見えたけど、よく見ると絵里ちゃんがいた。

“半透明な絵里ちゃん”がいた。


91: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 21:04:05.24 ID:GP9i6ahC.net

「なんですかこれ、絵里ちゃんの向こうが透けてる!?」

半透明チカは驚く私に気怠そうな笑顔をみせて、うわ言のようにつぶやく。

「これは希にも黙ってたんだけどね、『滅ぶ世界』と『滅ばない世界』の違いは……真姫の発明以外にもう一つあるのよ。 

それで……今は『滅ぶ世界』から『滅ばない世界』に移行してるわけだから、逆にそこも修正されなきゃでしょ? ……んで、その違いっていうのがつまり……ああもう喋るのもつらいわね」

「え、絵里ちゃん? 何言ってるの? なんで体スケスケなの?」

「だから……『世界が滅ばない』ってことは……『絢瀬絵里が死ぬ』ってことなの……。

絢瀬絵里が死なないと……真姫は医療技術を発明しないってわけ……だから、真姫が発明して、世界が滅ばないってことは……」



よーするに、正しい歴史では死ぬのよ。私。



・・・・・


93: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 22:18:17.04 ID:GP9i6ahC.net

世界を滅ぼす『アイドル症候群』の『治療法を発明する西木野真姫』。

そのきっかけとなるのが『絢瀬絵里の死』。

『真姫ちゃんがノーパンになる』と、巡りめぐって絵里ちゃんが死ぬ。よって真姫ちゃんのパンツを盗ったことで世界が救われた。そういうことらしい。ようやく合点がいった。



「でも……そんなのってないよ。それじゃまるで私たち、最初から絵里ちゃんを殺すために……」

「そうなるわね。だから黙ってたのよ。希とか、下手したら世界より絵里ちが大事とか言ってくれそうだし……なんてうぬぼれかしら」

「そんな、ウチ、絵里ちにまで死なれたら……」

「違うでしょ、私が死ぬ世界では私以外は誰も死なないわ」

「いやや……きっとみんな助かる世界があるよ……!」

「ない。そんな宇宙は観測されなかった」

「いやや……いやや……私どうすれば……」

希ちゃんはそのまましゃがみこんで動かなくなってしまった。よほど堪えたらしい。


94: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 22:19:04.62 ID:GP9i6ahC.net

「“正史”では私は、誕生日当日に17歳のまま橋から落ちて死ぬ。でも大丈夫。みんな乗り越えて生きていくし、花陽も希も改変前の記憶は失うから余計な悲しみを背負う必要はない」

「やめてよ絵里ちゃんそういうことじゃないでしょ! 希ちゃんの言う通り、別の方法がきっとあるよ」

「あーもーうるさい。こちとらとっくに覚悟できてんのよ。それがそんなに騒がれちゃ揺らいじゃうじゃない。さあ。じゃあもう行くわ。未来に帰れば私は消える」

「ここは改変の影響が遅いんでしょ、ならせめてずっとここにいれば……!」

「ずっとここにいれば、いつ死ぬかわからない。私結構弱いから、そういう恐怖に耐えられないのよ。だからせめて自分で引き金を引きたい」

「やだ、待って……急すぎてわからないよ……待ってよ私は何のために」

「もう、行くから……っ!」

「待って!」



“ダスビダーニャ”

絵里ちゃんは最後にそう言うと、まるでコンビニから出ていくように――でもきっとコンビニではなにも買わなかったんだろう。少し後ろめたそうに――あっさりと消滅した。



・・・・・


95: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 22:19:47.33 ID:GP9i6ahC.net

・・・・・



「……………………」



あれからずっと、希ちゃんは喋らない。

私も、何をどうしていいのかわからない。

世界を変える手がかりを探すために過去の真姫ちゃんのところにいって、それ自体が変化になって世界は変わった。

世界は救われた――でもそのかわりに絵里ちゃんは死んだ。

いや、絵里ちゃんが死んだから世界は救われた。

つまり絵里ちゃんが死ななかったから世界は滅びた。そういうことだ。



――ほんとうに? もう一つ、一番初めの一番大事な何かを忘れてるような……。



「なあ花陽ちゃん」


96: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 22:28:04.74 ID:GP9i6ahC.net

「希ちゃん……私たちこれからどうすればいいのかな」

「知らん……絵里ちがいないと、ウチはなんもわからん。だからウチが、花陽ちゃんに聞こうと思ったんよ。

私たちこれからどうすればいいのかな。このままのこのこ元の時間に帰って全部忘れればいいのかな。

絵里ちを見捨てて、世界を守って――それともいっそ、世界なんか放り投げて絵里ちの死なない世界にしようか」

「絵里ちゃんが死なないってつまり、世界は滅びるってことだよね……」

「いっそそうしちゃおうか。なんて、冗談。……とも言い切れないかな。花陽ちゃんなら大事な友達と、世界と、どっち取る?」



――あ、そうだ。一番初めの、一番大事なこと。

私は世界が滅びると聞いても、『凛ちゃんがスカートを着る』という改変を黙っていた。

誰より私が、そんな馬鹿げた選択をしたんだった。

だったら、そんな馬鹿な私なら次に考えることなんて限られている。

タイムパンツを握りしめ、目を閉じる。それしかない。


97: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/03(日) 22:28:33.00 ID:GP9i6ahC.net

「まだ、希望はある」



――『魂に関する医療技術』は今からおよそ10年後に、ある女医によって発明される。

その技術によって死の寸前にある人間の魂を保存したり、アイドル症候群の治療が確立される――

絵里ちゃんは確かにそう言っていた。



「私、会いに行ってきます」

「会いに行くって誰に……」

「『死の寸前にある人間の魂を保存する技術』の開発者――西木野真姫ちゃんさんに」



・・・・・


104: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:54:56.70 ID:F/blU+C1.net

*****



私が死んだ日。

私がこうなる少し前。

あの日私は、外に出た。



「なんで話聞いてくれないの! 絵里ちゃんのバカー!」

「私の話を聞いてくれないのは――穂乃果のほうでしょ!」

帰り道。橋の上を歩いてた。

少し冷たい風が吹いた。

ずっと右手に握っていた、それが風に吹かれて掌から離れる。

つい、身を乗り出してそれを掴もうとしてしまったの。

私は落ちた――一人で落ちた? ――誰かが手を掴んだ? ――引き上げられずに一緒に落ちた? ――やっぱり一人で落ちた? ――。

全部忘れた。川にどっぼーん。



――――。


105: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:55:51.47 ID:F/blU+C1.net

――――。



「はア、う……」

青い空、あるいは白い雲、あるいは曇り空、あるいは暗い雲。

体が凍るように冷たいような、煮えるように熱いような。

体中が水浸しのような、血まみれのような。

後頭部がドク、ドク、と脈打っている。

重い。動かない。生きている。すぐに死ぬ。

水をいっぱい飲んだ。息があるのが不思議なくらい。意識があるのが奇跡なくらい。

もう疲れたから目を閉じよう。そう思った、とき。

「――――」

私じゃない誰かが喋っている。

かすむ、視界の先に人影がある。だれ? なに? 聞こえない。

わたしは、そのまま死んだ。



*****


106: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:56:52.63 ID:F/blU+C1.net

*****



「次の方、どうぞ」



エリーが死んでから、私は病院を辞めた。

“次期院長”の肩書きを捨てて、今は小さな診療所の“優しい先生”になった。

優しい真姫先生は、入ってきたマスクの少女に優しく語り掛ける。



「今日はどうしましたか?」

「実は、どこも悪くないんです」

「はい?」

「先生は忙しいだろうから、こうでもしないとゆっくり話せないだろうなって」

「ああ……そうね。それはそうだわ。いいですよ、お話ししましょう。私の仕事は診療ですから。それで、今日はどうしたの?」

「つらいことがたくさんありました」

私の診療所に訪れる患者は多岐にわたる。ときにはこういう“治療”が必要な患者だっている。

少女によると、世界は誰かがつらい目にあって、代わりに誰かが助かるようにできているらしい。

少し精神が不安定になっているようだ。抗うつ剤はできるだけ服用しないほうがいいんけど、もしかしたら必要になるかもしれない。


107: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:57:27.05 ID:F/blU+C1.net

「先生にもそんな経験はありませんか。たとえば親しい誰かが死んで、代わりにどこかの誰かが助かった。とか」

「え……」

「たとえば、かの『アイドル症候群』の治療薬開発の裏には、“大切な誰か”という犠牲があった。とか」

「それは……エリーのことを言っているの……?」

答えはない。マスクの少女は昔どこかで見たような決意のまなざしを向けてくるだけ。

私はそれを肯定と受け取り、言葉を続ける。

「そうよ。あれから眠り続けていたエリーを助けるために私は研究を続けた。そして研究が完成する前にエリーは死んだ。それだけ」

「絵里ちゃんが死ななかったら、その研究はありえなかったってことだね」

「『アイドル症候群』の治療薬は付加的なものよ。私がつくったのはあくまで『生者の魂の保存』。わかりやすく言うと『人工的な幽体離脱』」

「人工的な幽体離脱……?」

「傍からは死んだようにしか見えないだろうけど、実際は中身が空っぽの仮死状態。魂だけを世界から切り離して保存。目覚めない代わりにどんなに体が傷ついても死なないようにする」

「それで絵里ちゃんを助けようとしたんだ」

「本当は間に合っていたのよ。でもこの技術はすでに眠りについた人には使えなかった。……正直今でも思うわ。もしもエリーが意識をなくす前に……!」

「それは悔やむだけ無駄な話です。真姫先生は悪くないです」

「……あなたいったい誰なの?」


108: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:58:07.43 ID:F/blU+C1.net

「この時間ではまだタイムマシンは試作段階らしいですね」

「…………! 少し前にニュースで見たわ。でもそうだとして、それは未来に完成するものであって、“高校生のあなた”がここにいるのはおかしいじゃない」

「えっと、ややこしい事情で、なんて言えばいいんだろう……」

「要するに、未来から過去に行ってあなたを連れて今に来た誰かいるってことね?」

「相変わらず頭がいいんだね。すごい理解力です」

「何しにきたのよ。まさか昔話をしに、神をも恐れぬ禁忌を犯したってんじゃないでしょ」

「私にしては珍しく単刀直入に言わせていただきます。絵里ちゃんを救うためにきました。西木野真姫さん、あなたのその技術が必要です。力を貸してください」

「な、そんな……」

そんなこと急に言われても……もちろんエリーが助かるというのならなんだってしたい。

でも、エリーはもう……それは許されることなの?

「歴史を変えちゃだめだとか、そういう考えはきっともう古いです」

「未来人に向かってなんてこというのよ」

「『巣から落ちたひな鳥がいて、それを助けるのは自然の摂理に逆らうことになるから助けちゃダメ』。

そんな傲慢な話がありますか? いつから人間は自然を超越したんですか。違いますよね。

人間だって自然の一部なんだから、人間がひな鳥を助けることも自然の一部であって自然の摂理なんですよ。

同じように死ぬはずだった人間がいたとして、それを救うのは歴史を変えることになるからダメだとか、そんなことはないんですよ。助けましょうよ、助けていいんですよ。

真姫先生……いえ、真姫ちゃん! お願い力を貸して」



*****


109: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 22:59:28.65 ID:F/blU+C1.net

*****



「はア、う……」

青い空、あるいは白い雲、あるいは曇り空、あるいは暗い雲……。

体が凍るように冷たいような、煮えるように熱いような。

体中が水浸しのような、血まみれのような。

後頭部がドク、ドク、と脈打っている。

重い。動かない。生きている。すぐに死ぬ。

水をいっぱい飲んだ。息があるのが不思議なくらい。意識があるのが奇跡なくらい。

もう疲れたから目を閉じよう。

そう思った、とき。

「――――」

私じゃない誰かが喋っている。

かすむ、視界の先に人影がある。だれ? なに? きこえない。

わたしは、そのまましんだ。



――死なせない。今からあなたの魂を保存します。


110: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:00:06.46 ID:F/blU+C1.net

『人工的な幽体離脱』。たぶん絵里ちゃんはこれから不思議な体験をすることになるでしょう。

でも諦めないで。絶対に絶対に絶対に助けるから!

それまでどうか、待っていてください。



なんかよくわかんないけど、死んだはずなのにそんな言葉が聞こえた気がした。



・・・・・


111: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:00:35.39 ID:F/blU+C1.net

・・・・・



眼を開けたら、眼を閉じた私がいた。

私は横になっていて、それを上から見ている。

つまり私は今浮いているってわけ。ほんとハラショー。

もう少しズームアウトしてみると、横に亜里沙がいた。

うつむいてなんだか悲しそうなの。

え? なんでうつむいてるだけで悲しそうなのがわかるかって?

だって妹だもの。顔を見るまでもないわ。

そしてその状況で私は冷静にこう思ったの。

なんだこれ意味わかんねえ。ってね。



*****


112: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:01:16.42 ID:F/blU+C1.net

*****



こうして絵里ちゃんの魂が保存された世界“宇宙D”が生まれた。

“ここ”ではいつか私――花陽が絵里ちゃんを目覚めさせるのか、それとも自力で復活を果たすのか、ひとまずそれは置いておいて。

これで絵里ちゃんが死んだと思った真姫ちゃんは『アイドル症候群』の治療薬を完成させる。

世界は滅ばす、絵里ちゃんも死なない世界が生まれたはず。

もう大丈夫だ。全部、うまくいったんだ。

私は満足して、この平和な“宇宙D”の“もとの時間”に帰った。それはつまり――

――へーきへーき。タイムトラベラーはそれに関する“記憶を消される”ようになってるから――

私は時間旅行に関する記憶をすべて忘れて、平穏を取り戻した。


113: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:02:02.80 ID:F/blU+C1.net

・・・・・



出会いがわたしを変えたみたい なりたい自分を見つけたの

ずっとずっと憧れを 胸の中だけで育ててた

大きななわとび みんなが飛んで

わたしは怖くて入れない

宇宙ひもで 二重飛び



・・・・・


114: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:03:20.49 ID:F/blU+C1.net

・・・・・



最近、何かを忘れている気がする。

何がって言われるとそれはわからない。

でも凛ちゃんの笑顔や、希ちゃんが起こす奇跡や、ひきこもりだけど少なくとも生きている絵里ちゃん。

強風に吹かれる真姫ちゃんのスカートを見ると妙な気分になる。

何かが足りない? 欠けている? 忘れている?

平和な毎日。楽しい日常。でもほんとにこれでいいんだっけ?


115: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:03:58.96 ID:F/blU+C1.net

そんな、モヤモヤを文字に起こしてみた。私の私による私への行き場のない疑念を、生徒会の意見投書箱に突っ込んだ。

どうしてそんなところに送り付けたのかと聞かれると、これまたわからない。

内容はこうだ。

“この学校のスクールアイドル『μ’s』の名付け親は私のはずなんです。

ですが、グループ内ではある先輩が名づけたことになっています。

たしかに私は『μ’s』と書いた紙を投書した記憶があるのに……。

もしかしてこの記憶は偽りなのでしょうか?

しかもその先輩はこの私すら知りえないアイドルの情報を知っているのです。

私はアイドルに関しては隅々まで熟知しているはずなのに、その先輩のアイドル豆知識を知らなかったのです。

私の記憶が抜き取られている……ということはないでしょうか?

私の本当の記憶は抜き取られ、嘘の記憶が植えつけられているのでないでしょうか。それを否定できる要素がありません。

私誰でしょう。最近不安で夜も眠れません。”


116: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/04(月) 23:06:38.84 ID:F/blU+C1.net

我ながら不安定な、病的一歩手前な内容だとは思いました。こんなものを生徒会に送り付けてもしょうがないし、まさか回答がもらえるとも思っていなかったのです。

ところが――

“そのとおりです。本当はμ’sの名付け親はあなたではありません。その先輩なのです。

その偽りの記憶は"漆黒の白鳥"と呼ばれる存在によって植えつけられ、本当の記憶は抹消されました。

しかし安心してください。“漆黒の白鳥”はこの町を守る存在です。あなたは知ってはいけないことを知り、“奴ら”に狙われていました。

それを助けるために“漆黒の白鳥”はあなたの記憶を改ざんしたのです。”

とんでもない回答が返ってきたのでした。

というところから私の物語は始まります。

――あれ、やっぱりおかしいな。もっとずっと前から始まっていたような気がする。



・・・・・


125: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:07:50.38 ID:60tv9Bb5.net

・・・・・



それから何日か経ったある日の放課後のことです。

「かよちん、もしかして最近痩せた?」

凛ちゃんが唐突にそんなことを言い出しました。

「ええ!? き、気のせいだよ」

「そうかなあ」

とっさに否定してしまったけど、本当は凛ちゃんの言う通りでした。

私はほんのわずかですが、ダイエットに成功していたのです。

ただ、その方法があまりに恥ずかしいものだったので隠してしまったのです。

ここだけの話、私はお母さんにすすめられて美容エステに通っているのでした……。内緒です。

でもさすが凛ちゃん。普通気が付かないほどの差なのに。

私の身長体重、スリーサイズ、肺活量、血圧、基礎代謝、骨密度、肌年齢、毎朝の献立、その他もろもろを把握してるだけはあるなあ。……お互いさまだけどね。

凛ちゃんとの友情を確かめ会っていると、横で話を聞いていた希ちゃんが体の心配をしてくださいました。ああ、なんてお優しいお方!

「花陽ちゃん、最近ちゃんと寝てるん?」


126: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:09:24.12 ID:60tv9Bb5.net

「えっ……と、実はあんまり」

「やっぱり。それで少しげっそりして見えたんやない?」

「そうかも……ちょっと、心配事があって寝つきが悪いの」

そう答えると、今度は世界が滅びるような顔をして凛ちゃんが私の心配をしてくれます。ああ、私は世界屈指の幸せ者です。

「えー! かよちんは凛になんでも相談していいんだよ、どうしたの?」

「ううん。これは私の中の問題だから」

「それはナシだよかよちん。凛は話してくれるまでかよちんを放さないよ」

「えっ……じゃあ一生言わなかったらずっと……えへ」

私が真実を話すことはありませんでした。凛ちゃんに余計な心配をさせたくはありません。

決して、話さない限りずっと凛ちゃんが抱き着いてくれたからではありません。決して。

凛ちゃんは本当に授業中も練習中も下校中も、帰宅後も家に電話をして私の家に泊まり込んで一緒にご飯を食べて一緒にお風呂に入って一緒に寝てもずっと放してくれませんでした。頭が沸騰しちゃうよぉ!

そして次の日も一緒に登校して、凛ちゃんはもはや私のストラップと化していましたが、それでも私は悩みの話はしませんでした。

だって話しちゃうと凛ちゃんが離れ……じゃなくて。違います。凛ちゃんがずっとくっついているのが嬉しいんじゃないです。いや嬉しいですけど。でも違うんです。


127: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:09:58.29 ID:60tv9Bb5.net

「かよちん! 話してくれないと一生このままだよ!」

「えへへ、えぇー絶対話さないもん」

「じゃあ凛も絶対放さないもん!」

「えへへ困ったなあ。もう、離れてよぉ凛ちゃん」

「いーやかよちんが悩みを打ち明けてくれるまでは!」

「えへ、授業始まっちゃうよ」

「知らない知らない!」

「先生に怒られちゃうよ、えへ」

「むぅ……じゃあ話してよ!」

そんな幸せなやりとりをしていると……



「花陽ちゃん……記憶は戻った?」



どこからか現れた希ちゃんは、一瞬にして頭を冷ます一言を……記憶は戻ったか……希ちゃんは私の記憶がおかしいことを知っている!?


128: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:10:57.42 ID:60tv9Bb5.net

「どうしてそれを……!?」

「ちょっと占わせてもらったよ……何者かに偽りの記憶を刷り込まれているみたいやね……」

「の、希ちゃん……すごすぎます……」

「すべて……話してくれるね?」

「はい……希ちゃんには隠せそうにありません」

こうして私は最近自分の記憶がおかしい気がするという話と、それを生徒会に投書したら帰ってきた回答について打ち明けました。さよなら凛ちゃんストラップ。

「どうやら記憶を消される前の私は『知ってはいけないこと』を知ってしまったみたいなんです。

そしてそのせいで何者かに狙われていた……そしてさらに別の何者かが私のその記憶を消したんです。私を助けるために」

「それは……大変やったね」

「その私の記憶を消したものの名は……『漆黒の白鳥』」



・・・・・


129: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:11:44.07 ID:60tv9Bb5.net

・・・・・



私は失われた記憶を探して歩き回る。

長い廊下。どこかに何かが落ちている。

教室には誰もいない。誰もいない。誰もいない。……誰もいない教室がいくつか続くと、今度は誰かがいる教室を通り過ぎる。

広い教室。誰かが何かを話している。

私はとてもゆっくり歩くから、話し声が聞こえてくる。


130: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:13:07.87 ID:60tv9Bb5.net

教室Eでは、希ちゃんとことりちゃんが話している。

「どんなに妄想で良くないものを倒したって……絵里ちは」

「妄想じゃないもん! あれからことりは強くなった! だからいつかきっと絵里ちゃんを助けるもん!」

「ことりちゃん……“奴ら”をどれだけやっつけても絵里ちはよくならない」

「そんなことない! 『漆黒の白鳥』はいつか絵里ちゃんを助ける! 絶対!」

「ことりちゃん……」

「『漆黒の白鳥』はこの街のみんなの……正義の味方だもん!」

漆黒の白鳥。

南ことり。これ以上は手遅れになる末期のアイドル症候群。

もしさらに彼女の繊細な心を傷つける事態が起これば……。





私は廊下を歩く。


131: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:13:58.29 ID:60tv9Bb5.net

教室Bでは、希ちゃんとにこちゃんが話している。

「最近調子どう? のぞみん」

「ん……びょーきなんはウチだけやないって気づいてからずいぶん楽よ」

「へえ?」

「にこっちは?」

「ニコは……私は……今日は、希に、お礼を言おうかな……なんて」

「へ? ウチなんかしたっけ?」

「この間ね、穂乃果がちょっと」

「穂乃果ちゃん? 話がみえないんやけど」

「穂乃果があんたからもらったっていう『スピリチュアルなんたら』を持って私のところにきたのよ」



スピリチュアル望遠鏡のぞみんパワー注入バージョン。

本来の望遠鏡とは違って、近くのものが遠くに見える世にも不思議な望遠鏡。

遠すぎて届かない。でも手を伸ばしてみたら案外近くにあったことに気が付く。



「直ったのよ。アイドル症候群」



私は廊下を歩く。


132: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:14:38.57 ID:60tv9Bb5.net

教室Cでは、希ちゃんと真姫ちゃんが話している。

「真姫ちゃん、アイドル症候群って知ってる?」

「なにそれ。言っておくけどそんな病気この地球にはないわよ。今のところ」

「ええー真姫ちゃん知らんのー? 今世間じゃ話題沸騰よ?」

アイドル症候群。

本当の自分と実際みんなに見せる自分の姿の差異に悩む病。

自分が何者なのか、という悩みに侵され心身が乖離していき自分の体が自分の意思とは別物のような違和感に襲われる。

最悪の場合死に至る。死因は外的要因による生命活動の停止。自殺、あるいは事故死がほとんど。

現在多くの若者が「アイドル症候群」に苦しんでいる。 非公式のデータでは日本のアイドル症候群、及びその予備軍の割合は急速な増加傾向にある。



私は廊下を歩く。


133: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:15:38.65 ID:60tv9Bb5.net

教室Aから歩き始めて――いろんな教室に寄り道しながら――教室Dの前で足を止める。

教室Dでは、凛ちゃんと真姫ちゃんが話していた。

「真姫ちゃん、勉強教えてよ」

「いいけど……どうしたのよ」

「おかしい?」

「ええ。おかしい」

「ひどいにゃ。……凛は脳のことが知りたいにゃ」

「本格的におかしいわよ。なんで脳?」

「真姫ちゃん詳しいでしょ?」

「まあ……?」

「“記憶”ってなに?」

「それは“短期記憶”のこと? “長期記憶”のこと? それとも“感覚記憶”ってこともあるわね」

「ん――? ごめんもう一回……言われてもわかんないか。えっと、『最近なにか忘れてる気がする』みたいな」

「それって誰の話?」


134: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:16:07.63 ID:60tv9Bb5.net

「別に誰でもないよ、ただなんとなく気になったんだ。『忘れたくないことを忘れない方法』」

「ああそういうこと。それなら“長期記憶”ね。“長期記憶”の忘却には“時間の経過”と“ほかの記憶による干渉・上書き”の二つが考えられる。だからそれを忘れないためには……」

「忘れちゃったら、二度と思い出せないのかな」

「そうとも限らないわ。『忘れる』っていうのは『思い出し方を忘れる』ってことなの。アクセスできなくなるだけで、ファイル自体は消えていないという説がある」

「そっか、じゃあ大丈夫だ」

「ええ。だからテストでわからない問題が出ても諦めないことね」

「うん! 忘れない。いつまでも、忘れない」



一瞬、ここは違うと思った。ここは違う教室だ。

でも、もう一度確認したらやっぱりそこは教室Dに戻っていた。

「凛ちゃん、真姫ちゃん、なんの話してるの?」

教室の扉が閉まる。振り返ると、希ちゃんが後ろ手を取っ手にかけていた。

飛び石のようにまばらな場面を飛び越えて、ようやく私の今はここであることを思い出す。


135: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:17:05.78 ID:60tv9Bb5.net

「ねえみんな。ウチの昔の予言、覚えてる?」

「なんだっけ? いっぱいありすぎてどれかわかんないにゃ」

「『九人が揃ったとき、道は開けるだろう』」



たしか希ちゃんがμ’sに入った時、そんなようなことを言っていた気がする。

「ああ、言ってた。言っていましたね!」

「あれには驚いたよ!」

「凛ちゃん、花陽ちゃん、今のμ'sを数えてみ?」

「え? いち、にい、さん……」

「よん、ご、……あれ」

絵里ちゃんがいない。絵里ちゃんはずっと学校に来ていない。

「八人しかいないにゃああ!」


136: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:17:40.07 ID:60tv9Bb5.net

「そう! このままでは……」

「このままでは……?」

「このままでは世界の人間が『アイドル症候群』に侵されてしまうのだ!」

「なんですかそれは!」

希ちゃんによると私たちが九人そろっていないと『なんだかヤバイ』そう。

アイドル症候群……どこかで聞いたことがあるような、ないような。……やっぱりない、かな。

「『アイドル症候群』ですって!?」

「知ってるの真姫ちゃん!」

「ももももちろんよ」

「どんな病なの!」

「なんか……アレよ。ヤバイのよ」

真姫ちゃんによると『アイドル症候群』も『なんだかヤバイ』そう。

つまりそれはもうものすごくヤバイということ。頭の回転が遅い私でもわかります。なんかよくわかんないけど世界がヤバイ。


137: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:18:23.83 ID:60tv9Bb5.net

「どうすれば!」

「なんかよくわかんないけどμ'sが九人揃えばなんとかなるってカードが告げるんや!」

なるほど! さすが希ちゃん。やっぱり希ちゃんがいれば大抵のことはナントカなる。

希ちゃんのスピリチュアル預言だか予言に従えば、きっと万事うまくいくはず。つまり!

「九人揃うためにはやく絵里ちゃんを立ち直らせないと!」



・・・・・


138: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:19:21.16 ID:60tv9Bb5.net

・・・・・



――絵里ちゃんの誕生日がきた。

私たちは今『穂むら』にいて、絵里ちゃんのサプライズパーティの準備をしているところです。

準備ができたら絢瀬家にみんなで突入して無理やり連れ出すことになっています。

どんなに嫌がっても、泣いて拒否されても、謝りながら引っ張り出すよ。ごめんね絵里ちゃん。

そのためにわざわざ部活は休みにして、放課後からずっと準備をしているんだから。



ピンポーン。インターホンが鳴る。

「あら、誰かきたよ」

「私の家だし私が出るよ。みんなは準備よろしく!」


139: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:20:03.23 ID:60tv9Bb5.net

ピンポーン。インターホンが鳴った。

……インターホンが……なに、この感じ。これは、前にもどこかで……。

あら、誰かきたよ。私の家だし私が出るよ。みんなは準備よろしく。

経験はない。でも知ってる。私はこれを、どこかで見たことが……あるような……。

たとえば、近未来的なTVのような画面越しに、この“結末”を、知っているとしたら、私はいったい、なんだ?



「みんな大変! 絵里ちゃんが!」



みんな大変。絵里ちゃんが。ここにきたんでしょう? 知ってる。

でもまだ誕生日パーティの準備が終わってないから入れられなくて、そしたら絵里ちゃんは走ってどっか行っちゃったんだよね。

「でもまだ、パーティの準備中だったから入れるわけにもいかなくて……そしたら走ってどっかいっちゃった!」

ほら、知ってる。私知ってるよ。

あ……ああああああああああああああ!


140: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:20:49.78 ID:60tv9Bb5.net

“思い出したよ”

希ちゃんが絵里ちゃんを探しに行って、見つけられなくて、絵里ちゃんは死ぬ。

――“正史”では私は、誕生日当日に17歳のまま橋から落ちて死ぬ――そう言っていた。



「じゃあウチ……探しにいってくるから……」



私が呆然としているうちに、希ちゃんは胃薬を一錠口に含むと、一人で絵里ちゃんを探しに出て行った。



・・・・・


141: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:21:22.24 ID:60tv9Bb5.net

・・・・・



「ダメ! ダメダメダメダメ!」

「かよちん?」

「ダメだよ希ちゃんだけに任せちゃ! みんなで探しに行かないと、行かないと……」

「でも、希ちゃんなら絶対見つけられるにゃ。前だって……」

「いいから行こう!?」

私は凛ちゃんの手を引っ張って、穂むらを飛び出す。

後ろからバタバタと階段を駆け下りるたくさんの足音が聞こえた。

「かよちん!? 探すって、全然探してないよ!?」

凛ちゃんの質問には答えず、まっすぐ“あの橋”へと走る。なんとしても絵里ちゃんより早くあそこに行かないといけない。

走る。少し見落としがあることはわかっていたけど、何を見落としているのか考えている暇はない。今は走るしかない。

絵里ちゃんを救わなければ。私はそのために――


142: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:22:15.22 ID:60tv9Bb5.net

その人は橋の上を歩いていた。 少し冷たい風が吹いていた。

その人……絢瀬絵里が右手に握っていた、何かが風に吹かれて掌から離れる。

絢瀬絵里は身を乗り出してそれを掴もうとして――橋から転落した。



「絵里ちゃ……!」

遠い。間に合わない。もう手を伸ばしても届かない……

「絵里ち!」

私の代わりに誰かが絵里ちゃんの手を掴んだ。

「誰か……助けて……」

「今引き上げるから!」

「の……希!?」

「動かないで!」

「い……やだっ! 離して」

「今『誰か助けて』って言ったやろぉ!」

「パ――が川に落ちてっ」

「うるさい! 引き……あげるから……暴れるな!」


143: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:23:10.44 ID:60tv9Bb5.net

「離して! 離してよ! 私なんかどうでもいいんだから!」

「お願い……暴れないで……手がっ」

「離して! 離せっ! このっこのっ!」

「もう……限界……」

「はなせぇ! うわあああ!」



そして“絵里ちゃんと希ちゃん”は橋から落ちて……見えなくなった。



『――川の河口、河川敷で見つかった遺体はそれぞれ音ノ木坂学院に通う高校生絢瀬絵里(17)さん、同じく音ノ木坂学院に通う高校生東條希(18)さんであったことが……』



・・・・・


144: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:24:04.38 ID:60tv9Bb5.net

・・・・・



そんな馬鹿な、私が見たのと違う……違うよ、どうして希ちゃんまで……?

希ちゃん、どうして間に合ってしまったの? 違う、こんなの違う……。

――死なせない。今からあなたの魂を保存します。

“あのとき”絵里ちゃんにはそれができていたんだった……! できていたのに、絵里ちゃんだけだった。だって知らないよ……なんで希ちゃんも死んじゃうの……?

おかしい、おかしいよ……!

「――ちん、かよちん! 助けなきゃ!」

「あ……待って凛ちゃん危ない!」

「でも!」



何かを見落としていることには気が付いていた。

改めて、凛ちゃんの姿をみてゾッとした。比喩でもなんでもなく背筋が凍った。

凛ちゃんは、かわいかった。私が望んだかわいい姿。


145: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/05(火) 22:25:07.96 ID:60tv9Bb5.net

“真姫ちゃんがノーパンにならない→絵里ちゃんが死なない→真姫ちゃんが『アイドル症候群』の治療法を開発しない→世界は滅ぶ”

いつの間に認識が挿げ代わっていたんだろう。一番最初の、一番大事なことを忘れていた。

もともとの因果関係はこうだったはずだ。

“凛ちゃんがスカートを着る→世界は滅ぶ”

凛ちゃんがスカートを着たら世界が滅びたんだった。

“時間の経過”もしくは“ほかの記憶による干渉・上書き”で忘却していた。まばたきの間に洗い流されていた。

これが――“アライグマ効果”。



川へ降りていく『スカートを着たかわいい凛ちゃん』を目で追いながら、私は膝から崩れた。



この宇宙では絵里ちゃんが死に、希ちゃんが死に、そしてきっと世界も滅びる。



・・・・・


151: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:27:51.77 ID:qJuRpyL5.net

・・・・・



『この宇宙では絵里ちゃんが死に、希ちゃんが死に、そしてきっと世界も滅びる』



ここはダメだ。どんなに妥協したってここはあり得ない。ここ以外のどこかに変えなくちゃいけない。

でも、もう私にはタイムマシンと化した真姫ちゃんのパンツ――タイムパンツ――がない。



「あ、あの……失礼します」

病院の一室。凛ちゃんと一緒におっかなびっくりで扉を開ける。

部屋の中には絵里ちゃんと希ちゃんの……が並んでいた。

「凛ちゃん。大丈夫だよ」そう言って凛ちゃんの肩に、優しく手をおくことができればよかったけど、そんな余裕は私にもなかった。

呼吸をするだけで精いっぱい。絵里ちゃんと希ちゃんを見るのもつらい。転落していく絵里ちゃんと希ちゃんの顔を思い浮かべて、振り払う――振り払えない――

「じゃあ私は外で待っているね。 二人きりで、ゆっくりお話していいからね」

臆病で卑怯な私は、そう言い残して逃げ出しました。

凛ちゃんを置いて部屋を出て、壁にもたれて大きなため息をつく。

何も見たくない。目を覆った手が、びしょびしょ。



・・・・・


152: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:28:18.84 ID:qJuRpyL5.net

・・・・・



夜。真っ暗な自室でベッドに腰掛ける。

後悔。懺悔。自己嫌悪。こんな私に生きる価値なんかない。こんな世界に価値はない。

腰掛けたまま、だらりと腕を伸ばす。

大きく息を吐いて、極力何も考えない。

目を閉じて深呼吸。気持ちが落ち着いてないとダメなんだ。

次に戻りたい記憶を思い出す。鮮明に、これ以上ないってくらい

私は目を閉じ、深く呼吸をする。

私は気持ちを落ち着かせて、極力なにも考えない。

私は次第にぽわーん、と感覚が曖昧になってくる。



――イメージする。私が最も憧れて、愛して、信じている風景を。


153: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:31:16.73 ID:qJuRpyL5.net

すべての雑音が遮断され、すべての感覚が一点に集中していく。

私は鮮明に、あの日を思い出す。

ザザ……。体中が切り刻まれても、その一点から目を離さない。

――――れ。

――――戻れ。

――――戻れ、戻れ、戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ!



瞼の裏で景色がグニャリと曲がり、そのまま私は意識を失った。



・・・・・


154: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:31:54.56 ID:qJuRpyL5.net

・・・・・



お風呂上がり。部屋のベッドに寝転がってエステのチラシを広げる。

「美容エステかあ……みんなには言えないなあ」

穂乃果ちゃんだってあれだけ必死に減量しているのに、私だけいいのかな。

そんなずるいこと、していいのかな。

――あれ。私なんでこんなもの眺めてるんだったっけ。

あ、そうだ。たしかダイエット中の私を心配したお母さんが……。



バチン。



突然どこからかそんな音が聞こえたような気がして体を起こすと、同時に辺りが真っ暗になった。


155: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:33:23.81 ID:qJuRpyL5.net

「…………」

成功した。私は自力でタイムリープに成功した。

あとは周りが明るくなって、目の前に未来から来た絵里ちゃんさんと希ちゃんさんがいる。

また世界を変えるために私は時間旅行を始める――その前に希ちゃんに教えてしまおう。世界を救うと絵里ちゃんが死んじゃうって。

そして。前と違うやり方で世界を変えるんだ。誰も死なない、本当のハッピーエンドに行くんだ。

「ん、そろそろ」

暗くなった時と同じように辺りが急に明るくなり、今度は眩しさに目がくらむ。

それからすぐに“私の部屋”の扉が開く。

「大丈夫、花陽? ブレーカー落ちちゃったみたいで」

「ううん。大丈夫だよお母さん。おやすみ」

「おやすみ」









……ふふ。


156: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/06(水) 16:33:54.02 ID:qJuRpyL5.net

うふ。ははは!

それはそうだよね! だってこの世界では絵里ちゃんと希ちゃんが死ぬんだもん!

未来からその二人がやってくるわけがないんだよ!

絵里ちゃんと希ちゃんが死んでしまうこの世界では、もう未来から絵里ちゃんさんと希ちゃんさんが来ることはない。

ここは最低最悪の宇宙だ。

だというのに、それを変える手段が……もうなにもない。



・・・・・


158: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:19:09.89 ID:karFJm5n.net

・・・・・



「ねえねえ、放課後どこか寄って行こうよ――ん、なになにニコちゃんも来たいんだ? しょうがないにゃー。そんなむすっとして、誘われなかったのが気になるんだ!」

「違いますー。そんな暇があったらニコはお家に帰ります」

「そんなこと言わずにさあ。ねえかよちん」

「…………」

「いやよ。ニコは忙しいの、早く帰ってやらなければいけないことがいーっぱいあるんだから」

「つれないにゃー」

「アイドルはぁ、そんなに簡単にうろついていいものじゃないのよ?」

「…………」

「とにかく、ニコはそんな暇はないニコ!」

「そっか。じゃあそうと決まれば早速行くにゃー!」

「ちょっと凛ちゃん、話聞いてた!?」



『…………』。私は何も言わない。

私が何をしても何も変わらない何も言わなくても何も変わらない。



「いいからいいから。どこ行く? なにする?」

「…………」


159: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:20:06.92 ID:karFJm5n.net

「じゃあ、この前かよちんが行きたいって言ってたところに行こっか」

「ちょっと待ってよ、ニコは行くなんて……」

「クレープとか、スムージーを出してるお店なんだよね! かよちん」

放課後。凛ちゃんとにこちゃんと一緒に街へ繰り出す。

これが私、小泉花陽。音ノ木坂学院に通う高校一年生の日常。

“ここ”の私の日常。らしい。

「――どうだった?」

「…………」

「いいなあ。凛もかよちんのやつにしておけばよかった」

「…………」

「ニコちゃんのはどうだった?」

「うん! とってもおいしかったよっ! しあわせ~」

「…………」

「また来ようね! 次は凛がかよちんの頼んだやつ食べるにゃ」


160: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:20:40.34 ID:karFJm5n.net

次の日も、その次の日も、私たちは街へ繰り出す。

最初はいやそうだったにこちゃんも、楽しそうに笑うようになった気がする。

私は変わらず意思のない、ただ糸で引かれる人形……ストラップのようだった。

もう何度も見たこの世界に、何も興味が持てない。

いずれ滅びてしまうこの世界に、何も希望が持てない。



「――ってことがあってねー」

「あー! 凛もその話希ちゃんにされたよ」

「凛ちゃんもー?」

花陽は白米スムージーをすすりながら凛ちゃんとにこちゃんが話しているのを眺める。

……ひどく客観的だ。

花陽は……私は笑う。笑うが、花陽は今どんな目で笑っているのだろう。そんなことを考える

“ここ”は何がが違う。違う。違うのは私だ。

誰かに罪を認めてほしい。世界を変えてしまうなんて大それたことをやってしまった私が何もとがめられることなく笑っているなんて――


161: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:21:23.33 ID:karFJm5n.net

「かよちん?」

「え?」

「大丈夫? 聞いてた?」

「ごめんなんだっけ」

「最近かよちん……元気ないよ」

「え…………」

「顔色もよくないし、全然笑わないし」

「笑わない? そんなことないよほら。続き聞かせてほしいな。それでどうなったの?」

「……それで、ニコちゃんがいらないって言った布きれ、凛がもらったんだよ」

「あー、そうなんだね」

私は、とんでもないことをしてしまった。

いつかくるそのしわ寄せは、『誰も助からない世界』。

もう絶望する気力も削がれるほどの、圧倒的な“結末”。



「これがその布きれなんだけどね」

「あ、これ」

差し出されたボロボロの布きれを、手に取る。



・・・・・


162: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:22:02.19 ID:karFJm5n.net

・・・・・



どこで聞いた――見た?――話だったかな。



「さあさあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい」

「なにしてるの? のぞみんっ」

「おっ、お嬢ちゃんお目が高いねえ!」

「やーん、お嬢様なんてそんな、やっぱりニコからはお嬢様オーラが溢れ出ててるとか?」

「いや、様とは言ってないから」

「もう少しで穂乃果ちゃんたち来るだろうから、そしたら構ってもらうといいよ」

「なんや冷たいなあ。興味ない?」

「そんなことより、ニコの爪研ぎ知らない?」

「今なら希ちゃんの占いつきよ!」


163: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:22:40.12 ID:karFJm5n.net

「仕方ないなあ。ニコっちが興味持ちそうな逸品見せたる」

「どうせよくわからないオカルトものなんでしょ? ニコこわーい」

「これです! アイドルの神さんが宿った品!」

「アイドルの神さま! ねえねてのぞみん、どれどれ見せて?」

「ふっふっふ。落ち着きなさいお嬢様ちゃん。これや!」

「ただの布切れじゃない?」

「全然違うのだ! これにはある曰くがついててね。その昔……」


164: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:23:14.71 ID:karFJm5n.net

ただの布きれ。

その昔。小さな村にそれはそれは美しい娘がいた。

外から来たものが村を見て回ったら、口を揃えて「あの娘が一番美しい。あれこそこの村の宝だろう」と言っただろう。

しかし、村のものは誰一人、その娘を美しいとは言わなかった。その娘は村八分にあっていた。

身分も能もない娘が稼ぐためには、芸しかなかった。

娘は一日中たった一人で外に立ち、踊りを続けたという。

誰にも振り向いてもらえず、誰もいない客席を相手に踊る毎日。

それでも娘は諦めなかった。

決して己の身を売ることはなかった。あくまで芸で稼ぐのだと。

時折あるほんの些細なお恵みで食いつなぎ、どうにかこうにか命を繋いだ。

たった一人で、2年の月日が流れた。

2年。孤独の戦いを続けた娘にはいつしか仲間ができていた。

同じく身分を持たぬ人々である。

一人ではできなかった芸ができるようになった。

彼女らは一丸となって芸を披露した。

そしてその2年で、娘は亡くなった。



今からおよそ100年前の日本で生まれた、アイドルの神の話。



・・・・・


165: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:23:55.52 ID:karFJm5n.net

・・・・・



「これがその布きれなんだけどね」

「あ、これ」

差し出されたボロボロの布きれを、手に取る。

受け取って、わかってしまった。

その布きれ――かつてアイドルの神が生涯身に着けていたという布きれがなんであるかを。



――『この服、あげる』

『いいの!? だってこれすごい……なんやこの織物いったい何でできて!?』

『ふふ! 大事にしてくれるとうれしいな』

『一生大事にするよ! いつか子供ができてその子供に子供ができても大事にさせる! これは家宝にする!』



そっか。本当に、ずっと大事にしてくれたんだね。


166: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:24:21.93 ID:karFJm5n.net

「凛ちゃん……これ、ちょっと借りてもいい……?」

「お、かよちんもこれの『すぴりちゅある』がわかる? なにせ希ちゃんのお墨付きだからね」

「お願い貸して!」

「え、いいけど!?」

「ありがとう凛ちゃん!」

「おお……かよちんどしたの」

「ありがとう本当にありがとう! やっぱり凛ちゃんは……」

「にゃ? ……なんかよくわかんないけどかよちんが元気になってよかった!」

「私行かなきゃ!」

「へ?」

「ごめんね、“また明日”!」



私は代金をテーブルに叩きつけ、お店を出る。

また忘れていた。タイムパンツはもう失ったけど、一番最初のタイムマシンはパンツじゃなかったじゃないですか。


167: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:25:04.96 ID:karFJm5n.net

――『というわけで今から花陽ちゃんの服をタイムマシンにします。あ、その上着だけでいいよ』

そう、“もともとタイムマシンは私の上着だった”。

それを私はうっかり、100年前の誰かにあげてしまっていた。

タイムパンツの衝撃にかき消されていた。

“時間の経過”もしくは“ほかの記憶による干渉・上書き”で忘却していた。まばたきの間に洗い流されていた。

また“アライグマ効果”だ。

――『それから“同時にタイムマシン化できる衣類は二つまで”』

なら、今私が握っているこのボロボロの布きれは、まだタイムマシンの機能を持っているはず!

希ちゃんさんに無理やり飛ばされた、その帰りの設定が残っているはず!

それならタイムスリップで宇宙を超えてそこに帰れるはず!

「行け――っ!」



――――れ

――――戻れ

――――戻れる!



意識だけの時間旅行とは違う。景色だけじゃなくて体全体がグニャリと曲がって捻じれて潰れて溶けて砕けて混ざって壊れて消えた。



・・・・・


168: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 02:25:46.87 ID:karFJm5n.net

・・・・・



「絵里ちゃあぁぁぁぁぁああああ!」

「花陽!?」

「花陽ちゃん!? 今100年前に飛ばしたばっかなのに戻るのはやすぎや…いや、時間移動にその理屈は変か……にしても都合合わせるために“向こう”にいた時間分見積もるくらいしてよ!」

ここはどこ? 今はいつ? わからないけどそんなことは今はどうでもいい。

ここがどこで、私が誰で、今がいつだとしても、今目の前に絵里ちゃんと希ちゃんがいる!

「何の話ですか! そんなことより希ちゃん、絵里ちゃんは死ぬつもりなの! このまま滅びない世界に修正すると代わりに絵里ちゃんが死んじゃうの!」

「なんやって……絵里ち!?」

「くっ……そんなわけないでしょ何言ってるの花陽……まさか、あなた“いつの”花陽!?」

「今よりずっと未来の花陽だよ!」


174: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:33:05.83 ID:karFJm5n.net

「今よりずっと未来の花陽だよ!」



勢いに任せて目の前にあったすごそうな機械を思いっきり叩く。

世界が変わって“宇宙C――真姫ちゃんノーパン世界――”に移行したとき、絵里ちゃんがいじっていたすごそうな機械を思いっきり叩く。

手のひらがジーンとなる。痛い。何かを叩くのはこんなに痛いんだって初めて知った。

『殴るほうも痛い』って精神的にじゃなくて物理的に痛いんだ。なんか幻滅しました。

「やめなさい花陽、精密機械ぶん殴るとか文明的じゃないわ! 落ち着きなさい」

「これで世界を見てるんでしょ! 今から希ちゃんに真実を見せて……」

「やめてやめて、私もその機械の細かい設定はよくわかんないからいじられると困るの!」

「そんなの知りません! ごめんなさい、めちゃくちゃにいじっちゃいます!」


175: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:34:36.62 ID:karFJm5n.net

「やめて、やめて……わかったわかったから、確かに世界を直すと私は死ぬ、死にます!」

「認めましたね」

「そうよ……ごめんなさい。滅ばない世界では私は死ぬ」

「それはそうと、もう相当めちゃくちゃにいじっちゃいました」

「やめてーっ!?」

「手遅れかも」

「うっわ最悪よあなた最低最悪! お前の母ちゃんでべそー!」

「ごめんなさい……緊急事態だったので」

当たり散らして、落ち着いて。…………あっ。私何かとんでもないことをしてしまった。

私がこんな乱暴なことしちゃうなんて……信じられません。それだけ切羽詰まった状況だったということでここはひとつ。



「どういうことや、絵里ち」

そしてすべてを知った希ちゃんさんの静かな怒りが導火線に火をつける。爆発まであと――三分くらい?



・・・・・


176: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:35:44.24 ID:karFJm5n.net

・・・・・



「……というわけで、私が死なないと世界は滅びてしまうの」

絵里ちゃんが“絵里ちゃんの死と世界崩壊の因果”を説明している間、希ちゃんは黙って聞いていた。

「そうかそうか、つまり君はそういうやつなんやな」

「そうよ……怒ってる?」

「ウチは激怒した」

「ごめんなさい。でもね、ほかに方法はないの。いいのよ、私はもう」

「精神的に向上心のないやつはばかや!」

「ばかでけっこーコケコッコー!」

「古っ! 何十年前のネタやそれ古っ!」

「希こそ何百年前のフレーズ引用してるのよ!」

「絵里ちこそ世界の自殺を止めるために自分が自殺するとかいうドラマチックに酔ってるだけやろ!」

「はあ!? そんなんじゃないですし! これから世界のために死ぬ私になによその言いぐさ」


177: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:37:09.39 ID:karFJm5n.net

「誰も頼んでません―!」

「頼まれなくたってやりますー!」

「やるなって言ってるんやわからず屋め」

「やらないでどうするのよ世界はどうなるの」

「知らんけど嫌なの! 絵里ちが死ぬの嫌なの!」

「なんでよ! わがまま言うなっ!」

「はあ、はあ、はあ……」

「ふぅー、ふぅー……!」

話はどこまで行っても平行線。ですがまあ、とりあえずお互い言いたいことを言って落ち着いたみたいです。

「ふんっもういいわ! 私は全部話した。次は花陽の番よ」

「もうそっちはいいんですか? 私の話は簡単に説明すると、このままだと絵里ちゃんと希ちゃんが死に世界も滅ぶという話です」

「想像以上にひどいわね!? どうして!?」

「えぇウチも死ぬの!?」


178: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:37:59.83 ID:karFJm5n.net

「残念ながら(本当は絵里ちゃんが死んで世界は救われるんだけど私はそれが嫌だったので未来から真姫ちゃんの技術を過去に持っていってそのせいでまた世界が変わって結果的には)事実です」

「そんな、それじゃあ私は犬死ってこと……?」

「(私が余計なことをしなければそんなことにはならなかったけど)そうです。だから早まらないでください」

「嘘」

「えっ……」

「私に嘘をつくなという癖に、自分は嘘でごまかすの? 花陽ってそんな卑怯な子だったかしら」

「それは、そんな、私は……」

「正直に話して」

「…………できません」

「そうかそうか。つまり君はそういう――」

「できません!」



本当のこと。それはつまり絵里ちゃんさえ死ねばみんな助かるということ。

そんなことを言うことは……できません。

たとえ卑怯者だと、嘘つきだと言われても、嫌われても……できません……。


179: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:38:37.08 ID:karFJm5n.net

「できま……」

できません。あれ?

「あ……」

泣いていた。痙攣で声が出ない。『できません』と言うことができません。

否定しなきゃいけないのに。絵里ちゃんが死んだってしょうがないって言わなきゃいけないのに。

そんなことしなくてもきっともっといい方法があるって、それを一緒に探そうって言わなきゃいけないのに。

絵里ちゃん死なないでって、言いたいのに。

わからない。私どうして突然泣き出しちゃったんだろう。

「え、うぅ、あ……ヒッ、んっ」

言わなきゃいけないのに。言わなきゃいけないのに。私が何を見てきたのか、何を思うのか、どうしたいのか。

――――。

初めて絵里ちゃんさんたちに世界の滅亡を知らされたとき、ほんのちょっとだけ“そんなこと”よりスカートを着ている凛ちゃんがいる世界がいいって思った。

世界が滅びてもいいって思ったわけじゃなくて、“滅びなくて、スカート凛ちゃんがいる世界”という可能性に意地らしくすがった。


180: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:39:07.26 ID:karFJm5n.net

でも絵里ちゃんが死んだ。世界は救われた

絵里ちゃんが死ぬ未来を変えようとしたら絵里ちゃんと希ちゃんが死んだ。世界はまた滅びた。



何をどうしても、滅びない世界の未来に絵里ちゃんはいなかった。



でもどうしてもそんなのは嫌だ。

きっと凛ちゃんは絵里ちゃんのためならスカートくらい脱ぐと言う。すがっていたのは私だけ。ただ私が凛ちゃんにスカートを着ていて欲しかった。

だから。それはもう諦めてもいい。世界のためなら、凛ちゃんがスカートを着なくてもいい。

私は諦めます……わがままやってごめんなさい……でもどうか絵里ちゃんは……でもどうやっても……でも……でも……でも……。

もうどうすればいいのかわからない。

「でも……きっと……まだなにか……」

手が……。


181: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:39:36.93 ID:karFJm5n.net

「ない。ないのよ。それしかないの。もういいのよ」

落涙。痙攣。抱擁。混乱。

絵里ちゃんの柔らかい体が、私を包み込む。

「あ…………」

「私のためにいろいろやってくれたんでしょ?」

「だって……」

「もういいの。もうあなたは頑張らなくていい。考えなくていい。あとは私たちに任せて」

「でも……」

「その代わり、あなたが“変えたかった何か”は諦めて。ごめんね」

「でも……」

「一発でわかっちゃったのよ。花陽が何を見てきたのか。何を思うのか。だってあなたは誰より正直で優しい子なんだから。嘘なんかつけないし、ついてもすぐバレちゃうし、きっとそれは誰かを守るための嘘に決まってる」

「でも……」

「大丈夫。元の時間に帰れば私の死を当たり前に受け入れられるようになってるから」

「でも私……忘れたくないよ……!」


182: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:40:11.70 ID:karFJm5n.net

「わがまま言わないの。人生ってどこかで折り合いをつけるものじゃない。全部思った通りになんか行かないんだから、お互いちょっとずつ諦めて妥協点を作りましょう? 希も、それでいいわよね」

「あー…………」



いいはずがない。私は絵里ちゃんが消えた後の希ちゃんを知ってる。

そんなの、希ちゃんが認めるはずがない。なのに。

「はいよー」

……そんな、そんなはずがないそれでいいはずがない。

希ちゃんの気の抜けた返事が聞こえる……そんなことあるはずが……。



「ん。これ以上花陽ちゃんを泣かすわけにもいかないしなあ」

「ありがとう。希」

「待ってそんな……」


183: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:41:34.92 ID:karFJm5n.net

それ以上は何も言えなかった。

無限の時間をかけても、私には正解を見つけられなかった。

私のこころはもうボロボロだった。

『一発でわかっちゃったのよ。』

ふと、開いた手のひらを見つめてみる。

誰の? 私の……私の? 私の手……こんなにひょろひょろだったっけ。

鶏の足みたいな両手で顔をさする。いつの間にこんなに頬がこけて……肌もなんだかカサついている。

「誰……?」

ピカピカの金属製の壁に映る少女のボサボサな髪。ボロボロの肌。くまの一周した目。げっそりした体。記憶――混乱。言語――異常発生。私が私のなんで私とこんな私に私で私も私たち――たち?

もうあなたは頑張らなくていい。考えなくていい。あとは私たちに任せて――

本当にそんなことができたら……ああ、それはどんなに……。


184: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:43:56.30 ID:karFJm5n.net

「さて、“今度は”さっさと消えることにする」



私を抱き寄せていた絵里ちゃんの体が、ふ、と軽くなる。

顔をうずめているはずなのに、視界を遮るものがなにもない。

「あー……なるほど。こうなるのか」

「え、り……ちゃん?」

「みてみて花陽、希、私透けてる! 服だけ透けたらどうしよう! なんつって」

「こんなときにそんな……」

“ダスビダーニャ”。顔をあげたら、もう絵里ちゃんはいなかった。



「あ……っ! あ、ああ……」

絵里ちゃんがいた空を抱く。もうなにもない。

「絵里ちゃん……絵里ちゃん……絵里ちゃん絵里ちゃん絵里ちゃん!」



私の目の前でまた絵里ちゃんが消えた。

取り乱す私を、希ちゃんが黙って見下ろしていた



・・・・・


185: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:45:48.55 ID:karFJm5n.net

・・・・・



もう過去は変えない。

これ以上私のまがままで世界を振り回すわけにはいけない。

凛ちゃんからスカートを奪って、絵里ちゃんから未来を奪って、代わりに明日が約束される。それでいいんだ。

でも……それを忘れて生きていくなんて、やっぱりできない。私はずっと覚えていなくちゃいけない。

永遠に忘れずに、永遠に諦めずに、永遠に償えずに、それが私の妥協点。



「行くんやろ」

「うん」


186: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:46:56.68 ID:karFJm5n.net

過去は変えない。

“ここ”はもうこういうものなんだ。

だから探しにいこう。

希ちゃんさんたちが観測した別宇宙なんて、樹齢137億年の杉の木の一枚の葉っぱに過ぎない。

すべての葉っぱをゆすり落とせば、きっとあるはずだ。“誰も死なない、滅びない世界”。

世界が分岐し始めた最初の世界――枝分かれし始めた一番最初の“始まりの宇宙”を探しに行こう。

そこに至れば見つけられるかもしれない。私のわがままがすべて叶っている場所。

可能性をつくることはもうできない。だから探しにいこう――



「適当に設定したけどこの際いいよね」

「あはは。また?」

「うん。だってこの機械、さっき花陽ちゃんがめちゃくちゃにいじっちゃうから」

「そうでした」

「どの宇宙に飛んでいくかはわからないけど、やるんやろ」


187: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:47:50.72 ID:karFJm5n.net

「うん。しらみつぶしに。……希ちゃんも手伝ってくれる?」

「どうやろ。花陽ちゃんが戻ってくるころには、もういないかも」

「そっか」

「はい。このバッジ――タイムマシン、あげる。宇宙は選べないけど、時間は選べるから」

「よし。じゃあいってきます」

「いってらっしゃい!」



こうして私は合わせ鏡にも等しい無限の中から“1”を見つける旅に――



「あ、そうだ希ちゃん。つかぬ事をお聞きしますが」

「ん?」

「今朝希ちゃんは朝ごはんなにを食べた?」



出たのでした。



*****


188: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:50:57.92 ID:karFJm5n.net

*****



そうして“時間の狭間”ともいえるその空間に東條希だけが残された。

正確には東條希となんかすごそうな機械だけが残された。

絢瀬絵里は死に、小泉花陽は旅立った。あとは東條希が帰るだけだ。

「……なんてな。ウチが黙って絵里ちを見殺しにすると思ったか」

東條希は機械をいじってみる。

……やはりダメだ。小泉花陽によってめちゃめちゃに設定されている。よって小泉花陽が見てきた世界を観測することはできない。

あーあ。こんなことならあの六法全書みたいな説明書、ちゃんと読んでおくんだった。

仕方がないので、イメージする。小泉花陽が見てきたであろう世界を。

その世界では、東條希が最後の選択を間違える。

真の自分をさらけ出せず、誰にも助けを求めることができず、東條希はたった一人で絢瀬絵里を探しに行く。

……それを、阻止する。



東條希は目を閉じ、深く呼吸をする。

東條希は気持ちを落ち着かせて、極力なにも考えない。

東條希は次第にぽわーん、と感覚が曖昧になってくる。

――イメージする。東條希が最も憧れて、愛して、信じている風景を。


189: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:51:25.39 ID:karFJm5n.net

時間移動の際は“今いる世界”と“これから向かう世界”をしっかり理解していないと自分を失う危険がある。

東條希は“これから向かう世界”が理解できていなかった。

このまま飛べばただでは済まないだろう。

構わないと思った。

小泉花陽は最後の可能性を探しに行った。なら東條希は最後の最後まで、可能性を作り出すことに賭けてみよう。

星空で輝く光たちの中にたった一つだけ、絢瀬絵里が助かるという希望の光を作り出そう。

そのためなら、この東條希なんて、惜しくもない。



すべての雑音が遮断され、すべての感覚が一点に集中していく。

体がグニャリと曲がって捻じれて潰れて溶けて砕けて混ざって壊れて消える。

構わないと思った。



*****


190: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:52:18.18 ID:karFJm5n.net

*****



ここはどこの“穂むら”だろう。

傷心の絢瀬絵里を救うために、東條希が一人立ち上がった。

でも彼女にはその手立てがない。

ドクン。鼓動が高まる。息が速くなる。

はあ、はあ、はあ、はあ。まるでヘンタイのようだ。

視界が狭い。まるで盗撮カメラの映像のようだ。

東條希の偽物で絢瀬絵里を探し出せるのか?

いや、大丈夫や。東條希は東條希の力を信じることにしたんだった。これは偽物なんかじゃない。

東條希は絢瀬絵里の場所を知ってる。探し出せる。

そうだ。大丈夫、大丈夫。

少し目を閉じる。

もしも、もしも東條希に未来視が備わっていたなら――。

いやきっとある! 自分を信じて、東條希はぎゅっと目を閉じる。


191: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:53:02.86 ID:karFJm5n.net

――いいやそんなものはない。何も見いだせないまま東條希は一人で絢瀬絵里を探しに行ってしまう。



はずだった。



そこに、すでに体を失った“あの”東條希が飛んでくる。



希「バカやろう」

希「ぶへっ!」

希「時空を超えて飛び膝蹴りしにきてやったで」

希『ウチが探しといて説明するよ。パーティは明日に延期しよか』

希「アホウ! なんでそんなこと言ったんや!」

希「べ、別にいいやん……明日しきり直せばいいやん」

希「タイムリープ!」

希「え……?」

希「今の自分は未来からやり直しにきた自分だと思え!」

希「そんなん……」

希「今まで何回後悔してきたと思ってるん!」

希「そんなん……ウチが一番わかってるわ!」

希「そらそうやん。ウチはウチなんやから」


192: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:54:01.53 ID:karFJm5n.net

それは未来視というより、立体視と表現したほうが正しいだろう。

左右の、微妙に角度のずれた“ほぼ同一の絵”が重なって生み出す奥行き。

どこかの世界のいつかの時間の東條希が、この世界のこの時間の東條希と奇跡的に重なる瞬間が生まれた。

すでに体がないからこそ、そんな奇跡が発生したのだろうか。東條希は最後の最後で選択を変える。

「行こう! みんなで探しに!」



――それでいい。必ずみんなで絵里ちを見つけて……助け出して……。

体は弾け、意識も溶けていく。自分を失う。

最後にμ’sのみんなを見送って――その中にいる東條希に満足して――ないはずの目をゆっくり閉じる。



・・・・・


193: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:54:55.43 ID:karFJm5n.net

・・・・・



「花陽ちゃん花陽ちゃん、目を覚まして!」

「はっ!」

「どうやった!?」

「あ、ああ! 成功、成功です成功しました!」

「ほんとに! よしじゃあ答え合わせや。ウチは今朝朝ごはんになにを食べたでしょーか!?」

「希ちゃんは朝ごはんを食べていません!」

「えー!? 当たりや、本当にタイムスリップしたんや!」

「すごいにゃすごいにゃー!」

「どどっどどど、どうしましょう私もしかしてものすごいことを……!?」

「ぷっ、ぷぷぷ!」

「な、なな、なに!?」

「ドッキリ!」

「大成功にゃー!」


194: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:55:23.11 ID:karFJm5n.net

「えぇーっ!?」

「さっき花陽ちゃんに朝ごはん食べてないって教えたのもこの希ちゃんだったのだ」

「かよちんが目をつぶってる間に時計をいじったのは凛だったのだ」

「もう! 二人ともひどいよーっ!」

「あー面白かった。でもその素直で正直でかわいいところが花陽ちゃんのいいところだよね!」

「そうにゃそうにゃ」

「急に褒めてもごまかせないよ!?」

あはははははは…………



・・・・・



懐かしい夢に、ない頬を緩ませながら、ポコ、ポコ、ポコ。

東條希は深い海に溶けていった。



*****


195: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:57:18.66 ID:karFJm5n.net

*****



こうしてできたのが“宇宙E”――みんなで絢瀬絵里を探しに行って助け出す世界。

“教室E”と言ってもいいかもしれない。

時間とはどこまでも続く廊下。宇宙とは数ある教室。

だから私――小泉花陽の旅とは長い廊下を歩くことで、ときどき聞こえる話し声に誘われてふらっと教室に立ち寄る。

でも小泉花陽は、同じ教室の誰にも話しかけられない。

そんな、孤独。



聞こえないでしょう? こころの声は

同じ教室であなたが遠い

見つめることも迷惑ですかと

つぶやいた唇 こぼれるため息

とめられない 孤独なHeaven

気づいてと言えないよ



・・・・・


196: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 21:58:25.33 ID:karFJm5n.net

小泉花陽――私は私の世界を捨て、凛ちゃんがスカートを着る世界を捨て、絵里ちゃんが死ぬ世界を捨て、絵里ちゃんと希ちゃんが死ぬ世界を捨て、やっぱり絵里ちゃんが死ぬ世界を捨て、たった一つ自分のわがままを許してくれる世界を見つける決意をした。

もう私に世界はない。時間はない。既に四次元的な何かになり果てた。

すべての始まりはたしか……。



「ウチ、できるかもしれない」

「はい?」

「タイムスリップってやつ、できるかもしれない」



あれはいつのことだったか。希ちゃんは深刻そうな表情で私――小泉花陽にそう言った。

えっと、本当にあれはいったいいつの出来事だったか。

私の記憶はもう過去と未来がまぜこぜで、過去だとしたらどれだけ前のことだったのか。未来だとしたらどれだけ先に起こることなのか。

もう、どうにもわからないのでした。



花陽「凛ちゃんがスカートを着たら世界が滅びた」



終劇



かも


197: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:04:54.35 ID:karFJm5n.net

・・・・・









どこかの何かを基準にした“十年後”



こつ、こつ、こつ。

静かな廊下に靴音が響く。

「久しぶり絵里ちゃん」


198: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:05:44.02 ID:karFJm5n.net

絢瀬絵里は答えない。

十年前の少女のまま、絢瀬絵里は動かない。

“ここ”では絢瀬絵里は川から落ちた後十年眠り続けているらしい。

私――小泉花陽はあの日のままの絢瀬絵里の額に手をおく。

――死なせない。今からあなたの魂を保存します。

『人工的な幽体離脱』。たぶん絵里ちゃんはこれから不思議な体験をすることになるでしょう。

でも諦めないで。絶対に絶対に絶対に助けるから!

それまでどうか、待っていてください。

そう言って私はあの日、西木野真姫からもらった医療技術で絢瀬絵里の魂を保存した。



・・・・・


199: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:06:18.36 ID:karFJm5n.net

・・・・・



『次の方、どうぞ』

患者のフリをして西木野真姫先生のもとにタイムスリップした。

『先生は忙しいだろうから、こうでもしないとゆっくり話せないだろうなって』

マスクもしていたし、いくら面影があったってわかりっこないと思った。

『……あなたいったい誰なの?』

でも、たぶんその質問をされたころにはもうバレていたような気がする。

あのとき話した『巣から落ちたひな鳥』の話。あれが正しかったのかはもうわからない。

『真姫先生……いえ、真姫ちゃん! お願い力を貸して』

『……本当に、エリーを助けられるの?』

『約束します』


200: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:06:46.28 ID:karFJm5n.net

『わかった。これから基本を説明する』

説明は時間旅行のそれに瓜二つだった。

どちらも一度魂を切り離して高次元に持っていく。言われてみればなるほど。過程は同じなのかもしれない。

同じ過程を経ても結果が違ってくることなんて、ありふれているのかもしれない。

何度かタイムリープやタイムスリップを経験した私だったから、理解は早かった。

『つまり三次元から抜け出して四次元的な感覚を得られるの。まあ感覚って言っても当事者がどう感じてるかはわからないし、死んだことのない人にはわからないけどね』

『四次元?』

『そう。つまり“世界や時間を超えて作用する”ってこと』



・・・・・


201: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:08:47.71 ID:karFJm5n.net

・・・・・



別の宇宙の、十年後の絢瀬絵里。

でもあの日確かに絢瀬絵里の魂は保存――四次元に昇華された。

ならきっと絢瀬絵里は戻れる。そんな世界があったっていいはずだ。

西木野真姫は十年で研究自体は『間に合った』と言っていた。

ならきっとこの世界は滅びない。そんな世界があったっていいはずだ。

ここに至るまで、どれだけの時間がかかったのだろう。時間から外れた私にはもうそれがわからない。

胃薬が手放せない東條希がみんなに助けを求めて絢瀬絵里が助かる世界があるかもしれない。

矢澤にこがトイレのさぼったリングと一緒に心のくすみを落としてみんなで笑っていられる世界があるかもしれない。

なんかよくわかんないけど死んだ絢瀬絵里が自力で肉体に戻る世界があるかもしれない。

絢瀬絵里が十年越しに目を覚まして西木野真姫がパンツを履かない理由――かつての約束を果たす世界があるかもしれない。

μ’sが廃校を救って、ラブライブで優勝して、海を渡って活躍して、そんな世界があるかもしれない。

そしてそのどれもが、滅びないかもしれない。

だって宇宙は無限の可能性で満ち溢れている。そうだ。進め。


202: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:11:03.00 ID:karFJm5n.net

私はまた旅立つ。

どこかの誰かが、私という現象を求めているかもしれない。

これから私が向かうのは、私が向かうことが既に歴史に組み込まれた世界。

私という現象は世界を変えることなく、世界を巡る。



「さて。もう行かなくちゃ」

絵里ちゃんの誕生日を祝う、デスクの上の九つの花束。“ここ”の私、凛ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、亜里沙ちゃん……一人分足りないのは、これから来るのかな。

私は花束を用意できなかったので、そのどれとも品種の違う一輪の花をポツンと置いて……。

“ダスビダーニャ”。



*****


203: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:11:29.61 ID:karFJm5n.net

*****



私――小泉花陽が旅立ってすぐ。

こつ、こつ、こつ。

静かな廊下に靴音が響く。

仕事を終えた西木野真姫が絢瀬絵里の眠る病室へ向かう。

「はあい絵里」

いろいろ手は尽くしたけど、あの日からずっと、十年間ずっと絢瀬絵里は眠り続けている。

そして西木野真姫はノーパンであり続けている。

西木野真姫は枕元のデスクに赤い花束を飾る。――すでにμ’sと絢瀬亜里沙の分の花で花瓶もあふれかえっている。

「……あら?」

デスクの上の九つの花束。西木野真姫、星空凛、小泉花陽、高坂穂乃果、南ことり、園田海未、東條希、矢澤にこ、絢瀬亜里沙……。

そのどれとも束の違う、品種の違う一輪の花がポツンと置いてあることに気が付いた。

「この花は……私たち以外にも誰か来たのかしら……?」


204: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:13:22.22 ID:karFJm5n.net

・・・・・



これは星の数あるハッピーエンドの裏で誰かが叶えた物語。

たとえば誰かがつらい目にあって、代わりに誰かが助かる。

たとえば誰かが死んで、生き返る。その誰かから“臓器移植”されるはずだった別の誰かがいた。

これはそれだけの話なのです。



おしまい。




205: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:20:20.21 ID:karFJm5n.net

四次元トラベラーかよちんの変遷

“宇宙A” 花陽「凛ちゃんがスカートを着たら世界が滅びた」

“宇宙Bっぽい宇宙”にこ「トイレのサボったリング」

“宇宙Cっぽい宇宙”真姫「私がパンツを履かない理由」

“宇宙Dっぽい宇宙”絵里「なんかよくわかんないけど死んだ」

“宇宙Eっぽい宇宙”希「胃薬が手放せなくなった」

“始まりの宇宙”凛「」



最後までお付き合い下さったかたがおりましたら、ありがとうございました。




206: 名無しで叶える物語(舞妓 どすえ)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 22:36:33.25 ID:KJ0cAZMm.net

乙です
すごく面白かったです


207: 名無しで叶える物語(やわらか銀行)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 23:12:26.69 ID:dAMMV3OX.net

今までのSSの紹介うますぎ
さすが笑ね


208: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2016/01/07(木) 23:25:54.01 ID:8HwUwa6x.net

別世界ということで物語が繋がった
感動です 乙乙


209: 名無しで叶える物語(茸)@\(^o^)/ 2016/01/08(金) 00:33:09.96 ID:AYnjqhPt.net


どのssも作りこみが素晴らしかった











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元スレ:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1451652471/