1: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:35:44.05 ID:1RPleUxx.net


曜「真っ暗な海の底へ」


↑の千歌目線ssです。
先に見ておくことをおすすめします。
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1488789671/



3: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:36:59.14 ID:1RPleUxx.net

今日はとても早く部室に着いたのだ!
多分、初めて一番に来たと思う!
そういえば、今日は曜ちゃんが水泳部行くって言ってたっけ。
小さいときはすぐ泣いちゃって、泣き止むまでぎゅーってしてたなぁ。
でも、いつからかそんなこともなくなって…ちょっと寂しいなんて思っちゃってたり。
えへへ。曜ちゃん離れしないとなー、とは思ってるんだけど……。


4: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:37:52.52 ID:1RPleUxx.net

「あれ、千歌ちゃん?どうしたの…こんなに早く」

「なんか目覚めちゃったから早く来ちゃったんだー」

むむ。二番目は梨子ちゃんですか。
1年生の誰かかな、って思ってたけど。…ん?でもまだ30分前だよ?早くない?


5: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:38:18.53 ID:1RPleUxx.net

「梨子ちゃんはどうしてこんなに早いの?」

「うん。ちょっと読みたい本があって…静かに読みたかったんだけど……」

「その残念そうな顔やめてよぉ!」

「冗談だよ♪」

もう。梨子ちゃんってば、私をからかって遊んでるなー?
……まぁ。楽しいけど。


6: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:38:49.63 ID:1RPleUxx.net

「ねぇねぇ、それ何の本?」

「海に関する本だよ。曜ちゃん、衣装のイメージ悩んでるみたいだったから何か役に立てればいいな、って」

「ふむふむ…でも、曜ちゃん人魚のイメージで、って言ってなかった?」

「そうなんだけど…あんまり進まないって言ってて……」

「へぇー…見せて見せて!」

おぉ…すごい。結構海については知ってるつもりだったけど、こんな沢山の生き物がいたんだね!あ、この魚かわいいかも!


7: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:39:27.23 ID:1RPleUxx.net

「ねぇ、梨子ちゃん!」

「なにかアイデア浮かんだの?」

「うん、うまく言えないんだけどね!海の中で、ぶわぁーって感じにしたいなって!」

「アバウトすぎるよ…」

「えーっと…例えばね、水族館の水槽の前で踊るとか!」

「なるほど…頼めばできそうだね」

「せっかく曜ちゃんのセンター曲でしょ?だから、曜ちゃんらしいイメージがいいなぁって思ったんだ」

「ふふっ…千歌ちゃんは本当に曜ちゃんのこと、好きだよね」


8: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:39:58.75 ID:1RPleUxx.net

「大好きな幼なじみだもん!…あ。もちろん、梨子ちゃんだって大好きだよ?」

「ありがとう。確かに…魚たちのパーティーって感じがするかも」

「でしょー?練習終わった辺りで曜ちゃんに言おうね!」

「練習前とかでもいいんじゃない?」

「あー、今日曜ちゃん水泳部終わってそのまま来るから、多分ぎりぎりに来るんだよね」

ふふ。曜ちゃんの反応が楽しみだなぁ…。
最高のライブになりそうな予感!


9: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:40:24.59 ID:1RPleUxx.net

「ヨハネ、堕天!」

「おはよう、善子ちゃん。ちょうど同じタイミングだったずら!」

「善子言うなー!」

「お、おはようございます…」

「おはよーっ!」

「おはよう、三人とも」

1年生組はみんな10分前くらい?
って、いつの間にか時間経ってたんだ。なんだか、一気に賑やかになった。一人で部室にいるときとは大違いで、改めて自分が幸せなんだって感じる。


10: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:41:14.47 ID:1RPleUxx.net

それから五分くらいして、3年生が揃ってやって来た。果南ちゃんいわく、生徒会の仕事を手伝ってたんだって。…ちょっと失礼かもだけど、果南ちゃんそういうの苦手そうなのに。

「ちょっと千歌、なんか失礼なこと考えてない?」

「き、気のせいだよ!うん!」

果南ちゃんに心を読まれた…!?
いや、私が顔に出しちゃってるのかも。この前も曜ちゃんにわかりやすい、って言われたし…。


11: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:41:42.62 ID:1RPleUxx.net

「みんな、おはヨーソロー!」

遅れてやってきた私の幼なじみ。いつもの、少し水気が残った柔らかな髪と、微かな塩素の匂いが落ち着く。
……あれ?
目の下、クマできてる?
それに、なんだかちょっと表情が暗い気がする……。
曜ちゃんの様子を観察していると、私の視線に気付いたようで、声をかけられた。


12: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:42:07.42 ID:1RPleUxx.net

「千歌ちゃん、どうしたの?」

「……あのさ」

「曜ちゃん、疲れてる?」

「えー、疲れてないよ?ほら、元気っ!」

曜ちゃんはその場で大きくジャンプをした。それが空元気なんだろうなってなんとなくわかったけど、ここで事を大きくされるのは、きっと曜ちゃん好きじゃないだろうから。


13: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:42:33.31 ID:1RPleUxx.net

「そっかぁ」

とりあえず今は気にしないことにしよう。また、あとで。ちゃんと曜ちゃんの話を聞こう。

「ほら、千歌ちゃん。練習行こ?」

「うん、行こっか!」

「ヨーソロー!」

今は切り替えて、練習に集中。
曜ちゃんのために。みんなのために。最高のライブにするために!


14: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:43:01.34 ID:1RPleUxx.net

練習が終わって、ダイヤさんと果南ちゃんから明日は練習が休みだと言うことを告げられる。
曜ちゃんはなんだか暗い顔をしていたから、声をかけた。
でも、聞こえてないみたいで何度か呼んでやっと気がついた。

「…千歌ちゃん?」

「もう。何回も呼んでたのに」

「え、嘘…ごめんね」


15: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:43:26.39 ID:1RPleUxx.net

「考え事?」

「うん、まぁそんなとこ」

「ふふーん、なにか悩み事があるならこのちかちーが「大丈夫」

「食い気味だなぁ…」

「ほんと、悩みなんてないって!ありがとね」

曜ちゃんは小さく微笑んだ。
余計なこと言っちゃったかな。
反省。


17: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:44:25.19 ID:1RPleUxx.net

帰ろ。と私が提案して、梨子ちゃんを呼ぶ。
Aqoursを始めるまではずっと二人で帰っていた道を、三人で歩けるのはとても楽しかったし、幸せだ。
でも、多分曜ちゃんにとってはそうじゃない。なんとなくだけど、曜ちゃんは梨子ちゃんをあまりよく思ってない。そんな気がする。
なんでなのかは、わからないけれど。
そんなことを考えながら私は、梨子ちゃんと話していたことを曜ちゃんに説明する。
でも、また考え事をしているみたいで話を聞いていないようだった。


18: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:45:00.56 ID:1RPleUxx.net

「それでねー…って、曜ちゃん聞いてる?」

「き、聞いてる!聞いてるよ…果南ちゃんが寝ぼけて朝方にワカメを取ってた話でしょ?」

「そんな話してないよ!」

「ちょっと気になるかも…」

果南ちゃんが寝ぼけてワカメを…。
うん。やりかねない。その話本当なのかな。…って、そうじゃないよー!


19: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:45:25.47 ID:1RPleUxx.net

「そうじゃなくて!新曲のイメージをちょっと変えたいね、って話だよ」

「…イメージ?」

あれ、曜ちゃんの顔が曇ったような…?
余計なことだったかな?なんて考えてると、梨子ちゃんが補足で説明してくれる。

「うん。今までは人魚のイメージだったでしょ?でもそこをちょっとだけ変えて、水中で踊っているようにしたいの。水族館とか借りて……どうかな?」


20: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:45:49.51 ID:1RPleUxx.net

少し考えるような仕草があり、小さく頷いてから曜ちゃんは了解であります!とヨーソローのポーズをした。
どうしよう。もうすぐ最寄りのバス停に着いちゃうよ。
拒絶されちゃったら、怖いな。
……でも。

「って、もう二人とも降りるとこじゃない?」

「あぁ、うん。千歌ちゃん行こっか」

「……私今日沼津に用事あるから」

「じゃあ私は帰るね。バイバイ!」


21: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:46:15.18 ID:1RPleUxx.net

梨子ちゃんごめんね…。
なんか、罪悪感がすごい。
けど、まずは曜ちゃんの悩みを解決しなきゃだよね!
話を聞くだけでも、違うだろうし。

「…私ね、本当は今日用事なんてないんだ」

「え?じゃあ、なんで…」


22: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:48:11.35 ID:1RPleUxx.net

「曜ちゃんってさ、昔から一人で悩みとか、抱え込んじゃうでしょ?だから私、不安で…曜ちゃんがどこか遠くに行っちゃうような気がして、怖かったんだ」

「…私にできることならなんだってする。だから、一人で抱え込まないで助けを求めてよ……仲間、でしょ?」

私の気持ちを曜ちゃんにぶつける。
言葉に嘘偽りはまったくない。
だって、そうでしょ?
私たちの関係に、嘘なんていらないよ。


23: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:48:43.48 ID:1RPleUxx.net

……でも。曜ちゃんの表情はすごく暗かった。今にも泣き出しちゃうんじゃないかって顔。
小さく私の名前を呼んで、震える声で一言。好きだよ、って言われた。
なにをいきなり。私もだよ。って、言おうとしたけど、曜ちゃんの顔が、冗談じゃないことを示していて。
なんとなく、ごまかそうとして、明るい口調で冗談っぽく振る舞おうとしたけど、それは曜ちゃんによって遮られた。

「違うよ」


24: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:49:22.90 ID:1RPleUxx.net

「千歌ちゃんの好きと私の好きは違うの」

「私の好きは手を繋ぎたいとかキスしたいとか、その先をしたいとか…そういう、好きだよ」

返す言葉がなにも見つからなかった。
だって、そんなこと考えたこともなかったから。私にとって曜ちゃんは、大切な幼なじみで、親友。どう足掻いても曜ちゃんと同じ気持ちにはなれないって気付いてしまった。
沈黙が気まずくて、声をかけた。


25: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:49:48.79 ID:1RPleUxx.net

「なんで、私のこと…だって、私……取り柄なんかなにもない普通星人だよ…?」

「千歌ちゃんは普通星人なんかじゃない…輝いてるよ」

「小さいとき、私すぐ泣いちゃって…その度に千歌ちゃんが抱きしめて、慰めてくれて……それが何より嬉しかったんだよ」

曜ちゃんは、私のことそんな風に見てくれていたんだ。
私にとって彼女は、いつも先にいて背中を追いかける存在だったから、嬉しかった。彼女と対等にいれるみたいで、嬉しかった。でも、私は……。


26: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:50:14.41 ID:1RPleUxx.net

「…ごめんね、困らせちゃって。伝えたかっただけだから……返事とか、いいからね」

顔をあげると、今にも壊れてしまいそうな曜ちゃんがいた。
こんな表情、初めて見た。
そんなに、私のことで悩ませていたんだ。私がうじうじしてちゃ、ダメだよね。だから私は、彼女のしわが寄っている眉間を小さく突いて、できるだけ明るい口調で告げた。


27: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:50:39.57 ID:1RPleUxx.net

「泣きそうな顔してるくせに、何言ってるの」

「し、してない!」

「してるよ…後悔するならなんで言おうと思ったの?」

「……バス、もう一周してもいい?」

話してくれる気になったのかな。
海を見たいと言うので、曜ちゃんらしいなぁ、なんて思った。
そしたら、いきなり謝られて。


28: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:51:11.05 ID:1RPleUxx.net

「……千歌ちゃん、ごめんね」

「謝られるようなことされてないけど…?」

「迷惑かけて、困らせちゃって、ごめん」

「私は嬉しかったけどね。曜ちゃんの本音、少しだけでも聞けて」

あぁ。私、ずるいな。
こんな言い方。
曜ちゃんを追い詰めていたのはきっと、私自身だったはずなのに。
……気付いたら、海から一番近いバス停だった。

「曜ちゃん着いたよ、降りよ」

「…あ、うん」


29: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:51:36.11 ID:1RPleUxx.net

海を眺めて、お互いしばらく無言で立っていた。なんだか少し怖くなって、内浦の海は綺麗だなんてどうでもいいことを呟いた。
それが引き金になったのかはわからないけど、曜ちゃんが口を開いてくれた。

「あ、あのね…千歌ちゃん」

「ん?」

「あ…いや、なんでもない!」

……まだ、なにか隠してるのか。
もう全部吐き出してほしいのに。
ちょっと強引だけど、いいよね?


30: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:52:01.76 ID:1RPleUxx.net

「もう。ここまで来てそれなの?」

私は曜ちゃんの肩を掴んで強く抱きしめる。
…やばい。泣きそう。私が泣いてどーすんの!
曜ちゃんをさらに強く抱きしめて、涙を無理やり抑える。

「私じゃ……助けられないの…?」

「……私ね、泳ぐの好きなんだ」

「え…うん……?」


31: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:52:27.71 ID:1RPleUxx.net

「潜ったときに、周りの音がなんにも聞こえなくて、目を開けてもほとんど何も見えないの」

「その感覚が好きなんだよね」

「潜ってる間だけは…みんなからの期待とかないでしょ?……だからかな」

いきなり、なんで水泳の話?って思ったけど、すぐに納得した。
そっか。期待されるの、つらかったんだ。そうとも知らずに私は今まで……。


32: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:52:51.75 ID:1RPleUxx.net

「……曜ちゃん、やっぱり期待が重荷になってたんだ」

「ん……まぁ、贅沢言うなって怒られちゃうかもだけど…」

「ごめんね、ずっと無理させてて」

「千歌ちゃんのせいじゃないって…」

「曜ちゃんがつらいならやめてもいいんだよ…?」

「それはできないよ!」


33: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:53:22.13 ID:1RPleUxx.net

初めて聞く曜ちゃんの声色に驚く。
私は、今まで曜ちゃんのこと全然知らなかったんだって改めて思い知る。
どうして、気付くことができなかったのかな。たぶん、曜ちゃんが悟られまいと一生懸命隠していたんだろうなぁ。

「……なんで、できないの?」

「なんにも残らないよ…」

「…え?」


34: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:53:47.34 ID:1RPleUxx.net

「なんでもこなしちゃう明るく元気な渡辺曜がいなくなったら……もう、なんにも…」

「からっぽな私なんか…誰も……」

曜ちゃんがからっぽ?
そんなわけない。そう信じたくて、自分に言い聞かせるように、大きな声で。

「そんなことない!」

「あるよ!千歌ちゃんになにがわかるの!?」


35: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:54:13.02 ID:1RPleUxx.net

「たしかに…私は曜ちゃんの気持ちわからないけど!それでも、曜ちゃんのこと一番に思って……」

また、ずるいことを言ってしまった。
曜ちゃんの気持ち、知ったのに。こういうこと、言うべきじゃないって、わかるのに。

「そんなの信じない!」

「なんで!?」


36: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:55:18.57 ID:1RPleUxx.net

「千歌ちゃんの一番は梨子ちゃんでしょ!?私なんかいらないんだ!」

胸がズキンと痛む。
私にとっての一番はいつも曜ちゃんだったのに。曜ちゃんが梨子ちゃんとあんまり仲良くなれなかったのは、私のせい?
曜ちゃんのためにしてたこと、全部苦しめてただけだったんだ。
それなのに、私…。


37: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 10:55:47.32 ID:1RPleUxx.net

地面に叩きつけられて、現実に引き戻される。
何が起きたのかはしばらくわからなかったけど、走り去る彼女の背中を見て、ようやく状況を把握できた。

「待って!曜ちゃん!」

その背中が見えなくなるまで、彼女が振り向くことはなかった。
それまで抑えていた涙が、堰を切ったように溢れだした。
もう、いいよね?泣いても、いいよね?
小さくうずくまってただ泣き続けた。


49: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:41:15.50 ID:1RPleUxx.net

ひとしきり泣いて落ち着いた。
曜ちゃん、家にいるかな。
このままじゃ、多分私たちの関係は終わってしまう。そんなの、嫌だから。
曜ちゃんと一緒にいたいから。
私は、もう一度バスに乗った。


50: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:41:40.29 ID:1RPleUxx.net

小さいときから何度も来た、慣れ親しんだ曜ちゃんの家。
チャイムを鳴らしても、反応はない。
何度鳴らしても、ダメだった。
まさかと思いノブに手をかけると、回った。…なんで、開いてるの?
嫌な考えが浮かぶ。
重いドアを開けると―曜ちゃんが、倒れてた。

「曜ちゃん!?曜ちゃん!」


51: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:42:05.97 ID:1RPleUxx.net

体を大きく揺さぶる。
……ん?寝息が聞こえる。
なんだ、寝てるだけ…って、なんで玄関で?
それだけ、疲れてたのかな。
うーん、力はあまり自信ないけど、大丈夫かな?
起こさないようにそっと持ち上げる。
曜ちゃんは、とても軽かった。


52: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:42:33.44 ID:1RPleUxx.net

そのまま曜ちゃんの部屋に連れていって、ベッドに寝かせた。
起きたら、曜ちゃんに伝えよう。
同じ気持ちにはなれないけど、私にとっての一番はずっと曜ちゃんなんだ、って。それから、ぎゅーって抱きしめたい。
そんなこと考えてたら、軽く寝ちゃってたみたいで、慌てて時計を見る。
20時くらい?
そろそろ起きたかな?


53: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:43:04.12 ID:1RPleUxx.net

部屋に入ると、目の前に曜ちゃんがいて、驚いた。

「千歌ちゃん…なんで……」

「……ごめん。勝手に入っちゃった。玄関、開いてたし」

「だって、私……千歌ちゃんに、ひどいこと…」

「さっきも言ったでしょ?曜ちゃんの本音聞けて嬉しかった、って」

やっぱり、曜ちゃんは優しい。
自分のことよりも、私のことを気遣ってくれてるんだ。


54: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:43:30.79 ID:1RPleUxx.net

「醜い私……知られたく、なかったのに。あんなこと言うつもり、なかったのに」

「私は頑張って、努力して…千歌ちゃんの隣にいるために、いろんなことで一番になって、かっこよくいよう、って…」

「なのに……梨子ちゃんが千歌ちゃんの家の隣に引っ越して来て…私の居場所がなくなったみたいで…」

「ずっと、嫉妬してた…なにもしてないくせに、ずるいって」


55: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:44:04.53 ID:1RPleUxx.net

「私の方が……ずるくて、汚い…のに…っ」

「私以外を…見てほしくない、って……」

ひとりごとのように、曜ちゃんは呟いた。
これが、曜ちゃんの気持ちなんだ。
ずっと、ずっと聞きたかった。
いつもどこか心の中で距離を感じてて、お互い本音を隠していたから。
曜ちゃんは勇気を出して本音を言ってくれたんだ。


56: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:44:32.65 ID:1RPleUxx.net

「……ごめん。それは無理だよ…」

「わかってる…こんなの私のエゴだから」

「……千歌ちゃん、今何時?」

「今?20時過ぎかな」

「終バス終わってるね」

「そだね…だからさ、今日泊まってもいい?」


57: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:45:04.51 ID:1RPleUxx.net

曜ちゃんの顔がひどく歪んだ。
本気で言ってる?なんて、聞かれたから、うん。だめ?と小さく返した。
背中に衝撃が走って、痛い。
…あ、私。押し倒されたんだ。

「私、こういうことするかもしれないよ」

「…曜ちゃん」


58: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:45:32.03 ID:1RPleUxx.net

ここで、抱きしめてあげれたらどれだけ良かったろう。
抱きしめたかったよ。でも、震えてうまく動かせなかった。
私に、そんなことする資格、ないよ。
曜ちゃんになにか、伝えたくて。でも、言葉にできなくて。
結局、またあの顔をさせてしまった。

「なんてね、ほら…自転車出すからさ、後ろ乗りなよ」

「ま、待って…!」


59: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:46:00.51 ID:1RPleUxx.net

曜ちゃんから、返事はなかった。
頭の中がぐちゃぐちゃで、なんて言えばいいのかもよくわからなくて。

「曜、ちゃん…疲れてるでしょ?千歌がいるのが嫌ならひとりで帰れるから……」

「やめて」

「あ…ごめ……っでも、でもね」

それは明らかな拒絶だった。
これ以上踏み込むな、って言われてるようで、泣きそうになった。


60: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:46:53.68 ID:1RPleUxx.net

「……ごめん。自転車…貸すから」

「あ…うん。ありがと……明日、返しにいくから」

「…うん。じゃあね」

「……バイバイ」

結局、曜ちゃんは私の顔を見てくれないままだった。
言いたいこと、なにひとつ言えなかった。
私、本当に弱いなぁ。
涙をこらえて、借りた自転車にまたがる。
なにも考えず、ペダルを漕いだ。


61: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:47:21.88 ID:1RPleUxx.net

家に着いたのは、21時を過ぎたくらいだった。
美渡姉と志満姉になにやってたんだ、って文句言われたけど、曜ちゃんのとこ。とだけ言って部屋に入った。
ベッドに寝転がったら、悔しさと、悲しさと、虚しさ。いろんな感情がぐるぐるして、気持ち悪かった。
そのまま、私は眠ってしまった。


62: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:47:48.65 ID:1RPleUxx.net

目が覚めたのは日付が変わるかどうかってあたりだった。
梨子ちゃんからの着信で、眠い目をこすりながら電話に出た。
梨子ちゃんは、泣いていた。
パニックになっているようで、落ち着かせようとしたけど、うまくいかない。
海岸にいるとわかったので、すぐ向かうと答えて、ふすまを開けた。
電話はつないだまま。その方が安心できるだろうし。


63: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:48:13.51 ID:1RPleUxx.net

「美渡姉!」

「わ、なに?」

「海岸!きて!」

「はぁ?なんで…」

「わかんないけど!梨子ちゃんが…」

「…わかった。志満姉呼んでくるから千歌は先に行ってて」


64: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:49:27.44 ID:1RPleUxx.net

全速力。
どうしたんだろ。海岸、って…?

「梨子ちゃん、聞こえる?もうそっち着くから、大丈夫だからね!」

どこだ。梨子ちゃんは……いた。
小さくうずくまっていて、夕方の自分と重なって見えた。

「梨子ちゃん!どうしたの。なにがあったの!?」

「ち、千歌、ちゃん…私、わたし……」


65: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:50:02.99 ID:1RPleUxx.net

「大丈夫だから、ゆっくり深呼吸して…」

「そこ、の…上に……だれかの、靴が…揃って、置いてあって」

靴が揃って置いてある。
それが、なにを意味するかは……。
遅れてやってきた美渡姉と志満姉は電話をしていた。たぶん、レスキュー隊を呼んでるんだと思う。


66: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:50:30.06 ID:1RPleUxx.net

「あの、私…気分転換に、ここ来て…ぼちゃんって、音がしたから……そっちに、向かったら…っ」

怖かった。
最悪な想像をしてしまう自分がいた。
曜ちゃん…が。そんなわけない。だって、曜ちゃんはさっき家で別れたんだから。


67: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:50:55.15 ID:1RPleUxx.net

そんなことを考えている間にレスキューの人が来て、酸素ボンベなんかを出してどんどん潜る準備を始めた。
すぐに潜り出して、私たちは海をただ、見つめることしかできなかった。

どれくらい経ったかはわからない。
たぶん、結構な時間が経っていたと思う。


68: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:51:20.82 ID:1RPleUxx.net

レスキューの人たちがあがってきて、腕に抱えるその少女を、私たちはよく知っていた。
顔は青白く、唇は紫になっていて、ひどく胸が痛んだ。

「よ、ちゃ…」

「……時間がかなり経っていて、危険な状態です」

大丈夫。大丈夫、だよね?
だって、曜ちゃんが死んじゃうなんて……。


69: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:51:47.62 ID:1RPleUxx.net

曜ちゃんは、病院に搬送された。
運よく、命は助かったって。
でも、目は覚めない。
いつ覚めるかもわからないらしい。

それから私は毎日曜ちゃんのところに行った。
Aqoursは曜ちゃんが帰ってくるまで活動停止。だって、9人揃わなきゃ私たちじゃない。みんなは私のわがままを聞いてくれた。


70: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:52:17.14 ID:1RPleUxx.net

曜ちゃんの手を握って、今日はこんなことがあったんだよ。また美渡姉が私のプリンを食べちゃってさ、なんて話しかける。
もう何ヵ月も返事はない。
今日もだめか、なんて諦めかけていたとき、ピクリと曜ちゃんの手が動いた。
驚いて顔を見ると、まぶたが少しあがって。
急いでナースコールを押した。


71: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:52:43.66 ID:1RPleUxx.net

すぐに先生たちが来て、よくわからない機械とかを繋いでた。
ちょっとして、先生が私の方を向いて嬉しそうに、目が覚めたみたいで、本当に良かった。と言ってくれた。
看護師の人たちが曜ちゃんに、渡辺さん聞こえますか?なんて呼びかけて、小さく頷いたのが見えた。
嬉しくて、涙がとまらなかった。
ずっと後悔してたから。


72: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:53:08.84 ID:1RPleUxx.net

「曜ちゃん、おはよう」

「…か、ちゃ…」

「ごめんね…私、なにもできなかった」

「…と、な…い」

「ずっと言いたかったことがあるんだ。聞いてくれる?」


73: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:54:29.35 ID:1RPleUxx.net

曜ちゃんは頷いてくれた。
大きく息を吸って、今度こそ、ためらわない。

「私ね、曜ちゃんとずっと一緒にいたい」

「もう、なにがあっても離さない!」

「私にとっての一番は、やっぱり、曜ちゃんなんだ」



74: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:55:23.90 ID:1RPleUxx.net

完結です。
前スレもあわせて、たくさんのコメントありがとうございました。




77: 名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 19:56:59.43 ID:b2a43a4k.net

よかったよかった


80: 名無しで叶える物語(笑)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 20:24:24.12 ID:iHqfUtKb.net

良かった
おつ
梨子視点も欲しいな……


81: 名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 20:26:10.17 ID:C6FIk6EA.net

えがった……
おつ


86: 名無しで叶える物語(りんご)@\(^o^)/ 2017/03/08(水) 20:51:20.55 ID:1STMGL9L.net










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