1: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:38:54.50 ID:zcirwKWx.net

千歌「ええっと……」


千歌「……あなたは、誰ですか?」


千歌「ごめんなさい。私、記憶喪失みたいで……あ、もう知ってますか? えへへ」


千歌「だから、あなたが誰かわからないけど……でも、いい人なんじゃないかって思います」


千歌「どうしてそう思うかって? それは直感です、ふふん……って、あ、あれ?」


千歌「あ、あの……どうして、そんな悲しそうな顔を……私、何かマズいことを……!?」


千歌「よ、よくわからないけど……その、落ち着いてほしいな。あなたがうつむいてるのを見ると、私――どうしたら、いいのか……」



2: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:39:43.29 ID:zcirwKWx.net

曜「ヨーソロー! ただいま戻りました!」

梨子「曜ちゃん! おかえり」

「……」

梨子「……びっくりしたでしょう?」

曜「まあ、それは……そうだけど。でも、私は大丈夫だよ!」

梨子「……ふふっ」

曜「ええっ、笑われた!? もしかして、顔に何かついてる?」

梨子「いや……無理してるのが、ひしひしと伝わってくるなって」クスッ

曜「あ、あはは……」

梨子「もうっ、そんなに強がらなくてもいいのに」

曜「強がってるっていうか……受け入れられないっていうか」

梨子「そう……だよね」

曜「……他の子は?」

梨子「うん……えっとね、私たち以外はみんな同じ空き病室にいるの」

梨子「この病院は比較的空いてるし、事情も事情だから……病院の人が特別に貸してくれたみたい」

曜「そっか。まあ、一番最後にここについたのも私みたいだしね」


3: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:40:09.34 ID:zcirwKWx.net

曜「でも……梨子ちゃんはどうしてここに? 他の子たちと一緒にいても良かったんじゃ……」

梨子「どうしてって……心配だからよ」

曜「え、あ~……あはは、そっか。ありがとね、梨子ちゃん」

梨子「鈍いのね……でも、良かった」

曜「良かった? 何が?」

梨子「だって、もしいつもと全く変わらない曜ちゃんだったら……」

曜「だったら……?」

梨子「……逆に反応しづらい、というか……」

曜「ええっ……」

梨子「ふふっ。ねえ、そろそろ……」

曜「……そうだね。みんなのところに行こうか」

梨子「うん。よいしょっ……っと、と、と」ヨロッ

曜「わわっ、大丈夫?」タッ、ガシッ

梨子「急に立ったせいかな、よろけちゃった……ありがとね」

曜「……ぷっ、くく……」

梨子「そ、そんなにおかしかった!?」

曜「いや、梨子ちゃんも無理してるんだなって思ってさ」アハハ


4: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:40:36.27 ID:zcirwKWx.net

曜「しつれいしまーす……」ガララッ

果南「……曜ちゃん、梨子ちゃんも」

ダイヤ「扉はしっかり閉めてくださいね。話し声が外に聞こえてしまいますから」

善子「曜……」

花丸「梨子ちゃん……」

ルビィ「……」

鞠莉「……二人とも……」

梨子「曜ちゃん、この椅子を使って」

曜「うん、ありがと。それで……千歌ちゃんは……」ガタッ…トスッ


5: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:41:55.34 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「改めて言うことになるけど……ちかっちは、記憶喪失を起こした」

曜「……っ」

鞠莉「原因は交通事故。私はその場で見ていたわけじゃないけど、看護師さんから聞いたの」

鞠莉「昨日の夜、ちかっちが一人でジョギングをしていた時……車に、轢かれて……」

鞠莉「……ちかっちは強く体を吹き飛ばされて、地面に激突したわ。出血も酷かったみたい」

曜「……頭に巻いてた包帯は、そういう……」

鞠莉「近くで見ていた人と車の運転手がすぐ対応してくれて、医者の手術もあって……一命は、取り留めたけど……」

鞠莉「……意識が戻った時には、もう記憶がなかった……」

曜「で、でも、なんで……! 千歌ちゃんの不注意が事故を起こしたの!?」

果南「……それは違うよ」

鞠莉「……これは運転手の話だけど……ちかっちはね、車に突っ込むように車道へ飛び出したの」

曜「えっ……?」

鞠莉「運転手は、ちかっちが飛び出す前にブレーキを踏んでた……猫が車道を横切るのが見えたから」

曜「……っ」

鞠莉「……ちかっちは、車に轢かれそうな猫を見てとっさに庇ったのよ」

鞠莉「ブレーキが間に合わなかった車と衝突して、頭をぶつけて、血を流しても……」

鞠莉「……猫を抱きかかえた腕だけは、緩めることはなかった……そう言ってたわ」

曜「……そ、んな……」


6: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:42:20.88 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「ちかっちは、今は落ち着いてるように見えるけど……最初は酷く錯乱していたらしいわ」

鞠莉「当たり前、だけどね。ここがどこか、自分が誰かすらも忘れちゃったんだから……」

鞠莉「看護師が複数人で、何とか落ち着かせた……って」

曜「……その後は?」

鞠莉「家族の方が、私たちより先に面会したわ。基本的な状況については説明したって話してた」

鞠莉「記憶喪失のことと、自分の住んでいる家、場所、自分の名前や年齢、家族構成……その辺りね」

鞠莉「それと……通ってる学校、私たちAqoursについても話してくれたって」

鞠莉「最後に……ちかっちのお母さんが『千歌をよろしくお願いします』って、私の肩をポンと叩いたの」

鞠莉「呆然と突っ立ってる私に、微笑みかけて……そのまま病院の出口へ向かって行ったわ」


7: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:42:46.97 ID:zcirwKWx.net

梨子「私を含めて、みんなは一度千歌ちゃんと面会してるの」

梨子「曜ちゃんが最後の一人……これで千歌ちゃんは、Aqoursのみんなと顔を合わせたってこと」

梨子「ただ……私たちを覚えてる、なんてことはなかった」

梨子「そのままの意味……うっすらと覚えてる、とかもない」

鞠莉「一番最初に会ったのは私だけど……むしろ、ちかっちは怯えていたわ」

鞠莉「過去の事……記憶については、深いことは言ってない。みんなもそれはわかってるはず」

果南「……ただでさえ記憶を失くしてるのに『どうして私のことを覚えてないの?』なんて言ったら、動揺しちゃうからね」

鞠莉「幸い、私と話した後は少しずつ緊張が解けていったみたいだけど……」

曜「そっか。確かに、私が千歌ちゃんと話してた時は結構落ち着いてたように見えたよ」

曜「でも……そう見えるってだけで、心の中は……」

花丸「……千歌ちゃんは」

花丸「――千歌ちゃんは、優しいから……」


8: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:43:13.09 ID:zcirwKWx.net

「……」

果南「……なんだか落ち着かないや。ちょっと外を走ってこようかな」

曜「果南ちゃん……」

果南「ここで黙っていても、何も進まないしね。それに……気持ちの整理もつけないと」

果南「私も……みんなもね。それじゃ」ガララッ、タッタッタッ…

鞠莉「……マリーもちょっと外に出てこようかしら♪」

ダイヤ「果南さんに追いつくのは大変そうですわね……無理はなさらない様に」

鞠莉「オ~ゥ♪ ダイヤってば、私のことは何でもお見通し?」

ダイヤ「はぁ……これだけ一緒にいれば伝わりますわ」

鞠莉「……じゃあね。みんな、思いつめちゃダメよ?」ガラガラ…ガタン

ダイヤ「……『これだけ一緒にいれば』ですか……」

ダイヤ「千歌さんと幼馴染の、果南さんや曜さんは……」

曜「……ううん。辛いのは、みんな同じだよ」

ダイヤ「……そうですわね」


10: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:43:38.26 ID:zcirwKWx.net

花丸「……オラ、学校の図書室に行ってこようかな」

花丸「今は夏休みだけど、今日は学校が開いてたはずだし」

ダイヤ「ここから学校まで?」

花丸「うん。散歩がてら、外の空気を吸って少しリラックスしてくるずら」

花丸「それと……図書室には本がたくさんある」

善子「ずら丸……」

花丸「果南ちゃんはああ言ってたけど……マルは、気持ちの整理なんてできないよ」

花丸「千歌ちゃんの記憶について、諦めたくない。いや……諦めきれない」

花丸「きっと、記憶喪失に関する本だって……っ……」グスッ

花丸「そうじゃないと、そうじゃないと、千歌ちゃんと過ごしてた来た時間も、思い出も……うぅ……」ゴシゴシ


11: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:44:04.56 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「る、ルビィも行くよっ。本を探す手伝いくらいなら、出来ると思うから……」

花丸「ぐすっ……うん。ありがとう、ルビィちゃん」

ルビィ「ねえ、そ、その……善子ちゃんも、良かったら」

善子「私はここに残るわ。その……ちょっと立ち止まりたいの」

善子「あと、ヨハネよ」

花丸「ふざけてる場合じゃないずら」

善子「立ち直り早っ!?」

花丸「……」

善子「……」


12: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:44:31.92 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「……行こう、花丸ちゃん」

花丸「……うん、そうだね。善子ちゃん、あとは任せたずら」

善子「はいはい、任されたわ。さっさと行きなさい、しっしっ。あと、ヨハネよ」

ガタッ タッ、タッ…

善子「……ねえ、ルビィ?」

ルビィ「どうしたの?」

善子「……誘ってくれて、ありがとね」

ルビィ「……うんっ!」

ガララ…ピシャッ


13: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:44:57.42 ID:zcirwKWx.net

「……」

善子「……ふーっ、とは言ってみたものの……」

善子「千歌の心境も、今何をすべきかも……」

「……」

善子「……さっぱり、ね」ハァ

曜「……そうだよね。鞠莉ちゃんが言ってた通り、思いつめちゃダメなのは間違いないかも」

善子「全く、鞠莉も無茶な要求してくるわ」

善子「ラブライブ!の地方予選が終わって、敗退して……」

善子「それでも『めげずに、残された夏休みも練習頑張ろうっ』って言ってたのに」

梨子「……」

善子「アンタが頑張れなくなって……どうすんのよっ……」グスッ

ガララッ

善子「っ!?」ゴシゴシ

ダイヤ「この病室に、他の方が……っ!?」


14: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:45:24.16 ID:zcirwKWx.net

千歌「――……ここで、あってますか……?」…ガタン


ダイヤ「千歌さん!? なぜここに!」

千歌「ひうっ!?」ビクッ

ダイヤ「あっ……し、失礼しました。しかし、病室を勝手に出ては……」

千歌「ダイヤさん……ですよね?」

ダイヤ「へっ……? いや、まあ……」

千歌「そちらが梨子さんで……」

梨子「は、はい……」

千歌「そちらが、曜さん」

曜「そう……だよ……?」

千歌「あなたは……善子さん」

善子「ヨハ……そうよ」


15: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:45:55.99 ID:zcirwKWx.net

千歌「……よかったぁ。みんな覚えられた!」

千歌「お母さん?から聞いたんです。ここのみんなは、記憶を失う前の私と友達だったって」

千歌「私と友達になってくれるって、とってもいい人たちですよね! ね!」

善子「……いいから、病室に戻りなさい」

千歌「ほぇ? いや、でもでもっ、ここでみんなと話したら、何か――」

善子「――いいから、出てってっ!」

千歌「っ!?」ビクッ

曜「善子ちゃんっ」

善子「……っ」

「……」

ダイヤ「……千歌さん、お気持ちはありがたいのですが……」

ダイヤ「病室に戻られた方が良いと思います。でないと……怒られますわよ」

千歌「あっ……そ、そうですよね! すみません、突然出てきて……」

千歌「……じゃあ、失礼します。良かったらまた、私の病室に来てくださいね」

ガララ…ガタン


16: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:46:23.29 ID:zcirwKWx.net

善子「……最低ね、私」

善子「受け入れられないからって、一番辛いはずの千歌に当たって……」

曜「……そんなことないよ」

善子「……あるわよ」

曜「ないよ」

善子「あるわよっ!」

曜「ないっ!」

善子「……っ」

曜「誰も落ち着いていないこの状況で、千歌ちゃんと話しても……」

曜「……きっと、余計混乱してたと思う。私たちも、千歌ちゃんも」

善子「……でも」

曜「でもも何もないよ」


17: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:46:52.50 ID:zcirwKWx.net

梨子「それに……」

善子「……それに?」

梨子「……病室を抜け出すのはホントにマズいわよ」

善子「え、いや、確かにそうだけど……」

ダイヤ「もし善子さんが追い返さなかったら、今頃大騒ぎになってたかもしれませんわね」

善子「いや、でも」

梨子「でもも何もないよ」

曜「そうそう、あれで良かったんだって」

善子「……はぁ~……わかったわよ、そういうことにしておくわ」

善子「それにしても、勝手に病室を抜け出して私たちに会いに来るなんて……」


善子「――行動だけ見れば、メチャクチャなままね……」


18: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:47:21.77 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「……あ、いた! かな~ん♪」タッタッタッ

果南「あ、鞠莉」

鞠莉「はぁ、はぁ……よ、ようやく『ロックオーン!』できたわ……」

果南「……無理してそれ言わないでいいよ?」

鞠莉「ま、全く……はぁ、はぁ……果南ったら……はぁ、ごほっ、ごほっ、冷たいんだから♪」

果南「ちょっと待ってて、酸素缶が確か……」

鞠莉「……む、無理して売り物買わせないでいいから……ぜぇ、ぜぇ……」


19: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:47:50.93 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「……ふーっ……」

果南「落ち着いた? ほら、これでも食べてクールダウンしておきな」トッ

鞠莉「かき氷!? もう、果南ってば気が利くじゃない!」

果南「あはは、私も食べたかったってだけだけどね」

鞠莉「じゃあ早速……はい果南、あーん♪」

果南「ん~、ブルーハワイって結構イケるね」シャクシャク

鞠莉「……」

果南「どうしたの? 早く食べないと溶けちゃうよ」パクパク

鞠莉「もういいわ……ぱくっ。ん~、グレイッ!」シャクシャク


20: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:48:16.66 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「……いい場所ね、このテラス」

果南「うん。海を眺められて、潮風を感じられて……心地いいよ」

果南「……それにしても、私のいる場所が良くわかったね」

果南「『走ってくる』って言っただけで、ここに戻るなんて一言も言ってないのに」

鞠莉「果南のことなら何でもお見通しよ♪ 『走ってくる』なんてそれっぽい言い方しても無駄デース!」

果南「走ってたのは本当だよ。ここに来るまで、だけどね」

鞠莉「もう、素直じゃないんだから♪」

ザザーン…ザーッ…

鞠莉「……ねえ」

果南「ん?」

鞠莉「……気持ちの整理は、ついた?」


21: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:48:50.41 ID:zcirwKWx.net

果南「……ううん、そんなわけない。あの言葉は、苦し紛れに言っただけ」

鞠莉「……そっか」

果南「……最初は、夢か何かだって思ってた。記憶喪失なんて、そう簡単に起こるわけないって」

果南「でも、千歌と面会した時……私を見る千歌の目が、私を現実に引き戻した」

果南「昔から一緒にいたことも、9人でAqoursとして活動したことも、ラブライブ!の地方予選に出たことも……」

鞠莉「……」

果南「ここでみかんと干物を押し付け合って、笑ってたことも――全てが、頭の中で崩れ落ちるようだった」

果南「体を動かして、ここにくれば。少しは落ち着ける……そう思ったよ」

ザザーン…パシャッ…

果南「でも――海を眺めて、潮風に当たってるうちに……」

果南「……『やっぱり現実だった』って、今度こそ思い知らされた」


22: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:49:16.46 ID:zcirwKWx.net

果南「まあ、実感は未だにないけどね。面会時間も短かったし」

果南「……鞠莉はどう?」

鞠莉「私も同じ。ただ、ちかっちに会ったのは一番最初だったから……」

鞠莉「あの時の、ちかっちの表情が……未だに頭から離れない」

鞠莉「……そうね。自分でも言葉にし難いけど……」

果南「けど?」

鞠莉「なんて言えばいいのかしら、その――壊れそう、だったの」

果南「……」

鞠莉「あと一歩踏み出すだけで、一つ声をかけるだけで……そう思うと」

鞠莉「……何も声がかけられなかった。踏み出すこともできなかった」

鞠莉「しばらく沈黙が続いたわ。私はどうすればいいのか、必死に考えてた。でも、思考はぐるぐる回るばかり」

鞠莉「そんな時……ちかっちが、恐る恐る口を開いたのが見えた」

鞠莉「……それで、こう言ったの」


鞠莉「『あの……何か、喋っても、いいです……よ?』って」

鞠莉「困惑したような、怯えてるような、そんな声と裏腹に――小さくだけど、笑ってたわ」


23: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:49:42.70 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「その笑顔を見た時……私の方が壊れそうだった」

鞠莉「大声を出して、泣いて――ちかっちに駆け寄って、抱きしめたかった」

鞠莉「……あ、これ、他のみんなにはナイショよ?♪」

果南「はいはい。それで?」

鞠莉「そうしたいのをこらえた。ごまかすように私も笑って……」

鞠莉「『何を話せばいいのかわからないけど、とりあえず声をかけて』って、そう思ったところで……」

鞠莉「看護師の人に、面会の終了を告げられたわ。何も話さないまま、終わったの」

鞠莉「記憶喪失の人相手にいろいろ話しても、混乱するどころか取り乱す可能性があるし、面会時間が短いのは必然なんだけど……」

鞠莉「終わった後、ふっと緊張がゆるんで……病室を出て、時計を見て……気付いた」

鞠莉「私とちかっちが沈黙していた時間は、実際は感じられていたものより、ずっと長かったんだって――」

「……」

鞠莉「……私は、あれで良かったのかしら。考えても仕方ないってわかってる、けど……」

鞠莉「もっと何か……ちかっちを少しでも、緊張から遠ざけられたんじゃないかって……」


24: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:50:09.87 ID:zcirwKWx.net

果南「……ま、正解なんてないんだよ。きっと」

鞠莉「……そうよね。やっぱり、考えても仕方ないわね♪」

ザザーン…

鞠莉「……果南?」

果南「ん~?」

鞠莉「その……ぶっちゃけトークしてもいいかしら?♪」

果南「うん、いいよ」

鞠莉「……ホントにぶっちゃけるわよ?」

果南「うん」

鞠莉「……ちょっとヘヴィーな話よ?」

果南「うん」

鞠莉「……ドン引きするかも知れないわよ?」

果南「うん、いいからいいから」


25: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:50:37.08 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「……ちかっちが悪い、なんて絶対に言わない」

鞠莉「だって、轢かれそうになった猫を庇ったのよ?」

鞠莉「私の知ってるちかっちなら、間違いなくそうした。それもわかってる」

鞠莉「マルの言う通り。ちかっちは……優しいの」

果南「……そうだね」

鞠莉「……でもね、ちかっちが起こした事故の話を聞いてる時、ふっと脳裏をかすめた思考が……」

鞠莉「今も……ずっと頭の中にある」


鞠莉「――『なんで?』って……」


26: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:51:06.64 ID:zcirwKWx.net

果南「……」

鞠莉「とっさに体が動いた、とか、自分の身を捨ててでも、とか……」

鞠莉「その時、ちかっちが何故そうしたか。今となってはわからないし……」

鞠莉「……さっきも言ったけど、それは何一つ悪いことじゃない」

鞠莉「私は……ちかっちと友達になれて、一緒に活動出来て、本当に幸せ者だわ。胸を張って言える」

鞠莉「でも……」

果南「……でも?」

鞠莉「……なんで……」


鞠莉「――『なんで、自分を大切にしてくれないの?』……って、一瞬だけど、確かにそう思った」


鞠莉「……いや、思ってしまった、って言った方が正確ね」

鞠莉「……いい? 果南。もし不快に思ったら、すぐ――」

果南「最後まで聞くよ」

鞠莉「そう」クスッ

鞠莉「……その後ずっと、その思考を振り払おうとした」

鞠莉「自分の身を挺して、他の命を助けた。それで、自分の命まで落としかけた」

鞠莉「そんなちかっちに追い打ちをかけるような、こんなこと……絶対に考えるべきじゃないって」

鞠莉「そして、振り払おうとすればするほど……」

鞠莉「……その思いが、どんどん強くなっていった」


27: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:51:34.05 ID:zcirwKWx.net

鞠莉「……猫なんて」

鞠莉「――猫なんて、どうでもいい! 生死を賭けてまで、助けるものじゃない!」

鞠莉「自分勝手、メチャクチャなのはわかってる! でも……ぐすっ、なんで、なんでよ……!」

鞠莉「なんでちかっちは自分を大切にしてくれなかったの!? うぅ……」ポタッ

鞠莉「自分の身を簡単に投げ出さないでっ! あなたを……あなたを大切に思ってた人はどうなるのよ!」

鞠莉「もっと自分を……自分を、大切にしてよっ……ぐすっ、ひっく……」

果南「……」

鞠莉「……ぐすっ。ふふっ、私……性格、悪いわね」ゴシゴシ

鞠莉「ホント、さいて――!?」ピトッ

鞠莉(人差し指が……くちびる、に……)

果南「やっぱり、最後までは聞かないでおく」ニコッ

鞠莉「……~~っ!?」バシッ! ブンブン

果南「そ、そんなに振り払わなくても」

鞠莉「うるさいっ!」


28: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:52:00.74 ID:zcirwKWx.net

果南「……ねえ」

鞠莉「……なに」グスッ

果南「……鞠莉もさ、自分を大切にしなよ」

果南「考えることなんて、人それぞれだし……」

果南「私は、今の話を聞いて……自分も似たようなことを考えてたって気付かされた」

鞠莉「え、果南も?」

果南「……ちょっとね」

鞠莉「そっか」クスッ

果南「……やっぱりさ」

ザーッ…ピシャンッ…

果南「……正解なんて、どこにもないと思う」


29: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:52:27.99 ID:zcirwKWx.net

花丸「ぐぬぬぬっ」ヨタヨタ

ルビィ「むぐぐぐっ」フラフラ

ドサッ

ルビまる「ふーっ……」

ルビィ「す、すごい量の本だねぇ……」

花丸「まあ、結構適当に見繕ったし……実際に役に立つ情報があるかはわからないずら」

花丸「何より、マルは医療とかの科学系に関してはさっぱりだし……」

ルビィ「そ、そうだよね。ルビィもその、あんまり知識は……」

花丸「……」

ルビィ「……」

花丸「……とりあえず、ページをめくってみようか」

花丸「そうじゃないと……何も始まらないよ」

ルビィ「……そうだね」


30: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:52:53.59 ID:zcirwKWx.net

花丸「……」パサッ

ルビィ「……」ペラッ

花丸「……う」

ルビィ「う?」ペラ

花丸「うぐぅ……」ドサッ

ルビィ「ぴ、ピギッ!? は、花丸ちゃあ、しっかりして!」ユサユサ

花丸「だだ、大丈夫。ちょっと疲れただけずら。そ、そ、そんなに揺らさないで」

ルビィ「あっ……ご、ごめん」パッ

花丸「ううん、ありがと。でも……2時間もこうやってると、さすがにちょっと疲れるね」

ルビィ「そうだねぇ。花丸ちゃんもルビィも、あまり触れないような本だし……」


31: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:53:19.55 ID:zcirwKWx.net

花丸「……ねぇ、ルビィちゃん」

ルビィ「どうしたの?」

花丸「『記憶を失う』って、どんな感覚なんだろうね」

花丸「大切だったはずの思い出も、友達も……何もかもを忘れちゃう」

花丸「今、千歌ちゃんの身に起こってることなのに……まるで、物語みたい」

花丸「きっと、千歌ちゃんは今も苦しんでると思うんだ」

花丸「……マルは、千歌ちゃんの力になりたい」

花丸「それだけじゃない。自分のためにも……みんなのためにも。少しでも、情報を集めないと」

ルビィ「……うんっ! ルビィも同じ気持ちだよっ」

花丸「とはいえ……やっぱり疲れたずら」

ルビィ「ま、鞠莉ちゃんもああ言ってたし……ちょっと休憩してもいいの、かなぁ……」

花丸「よし。じゃあ、ちょっと休憩にしようか」


32: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:53:45.67 ID:zcirwKWx.net

花丸「えーっと……」トテトテ

ルビィ(……休憩って言ったのに、本棚の方に……)

花丸「あ、そうだ! せっかくだから、ルビィちゃんもどう?」

ルビィ「え、えっ?」

花丸「本を読む休憩に本を読むずら。ルビィちゃんも、面白そうな本を探してみたらどうかなって」

ルビィ「あ、あはは……花丸ちゃん、ホントに本が好きだねぇ」

花丸「純文学も好きだけど、本はそれだけじゃない。たまには違う本に触れるのも、面白いよ」

ルビィ「よしっ、じゃあルビィも何か探してみる!」

花丸「うんうん。せっかくだし、二人で何か本を探して読んでみようよ」


33: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:54:22.76 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「あっ! は、花丸ちゃん、この本とかどうかなぁ……?」

花丸「何か見つけた? えーっと、その本は……心理学?の本だね」

ルビィ「うんっ。ほら、ルビィって……その、泣き虫だったり、臆病だったりするから……」

ルビィ「少しでも、それを克服したいなぁって思って。なんとなくだけど、それっぽい本だし……」

花丸「なるほど……ルビィちゃんが選んだ本なら、良いと思うよ」

花丸「それに、心理学についてはオラも触れてみたいし……少しだけ、だけど」

ルビィ「あははっ、そうだね。この本は多分、わかりやすく書いてくれてると思うよ」

花丸「じゃあ、早速机の上で広げてみるずら!」


34: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:54:49.11 ID:zcirwKWx.net

花丸「ふむふむ」ペラペラ

ルビィ「うゅ」ペラペラ

花丸「流し読みだけど、結構面白いね」

ルビィ「そうだねぇ。心理学をしっかり学べば、他の人が何を考えてるかとかわかるのかなぁ」

花丸「そ、それはそれで怖いね……」ペラ

ルビィ「あはは、ルビィもそうかも」ペラ

花丸「人間は、いつだって一人……それでこそ、救われてる部分もあると思うから」

花丸「……あ、長くなりそうな話に……」

ルビィ「ううん。花丸ちゃんの話は、いつ聞いても面白いよっ」

ルビィ「ルビィには、ちょっと難しく感じるけどね……えへへ」

花丸「ふふっ……そう言ってくれると嬉しいずら」


35: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:55:15.84 ID:zcirwKWx.net

花丸「……あっ、ルビィちゃんが言ってたのはこの辺りかな?」ペラ

ルビィ「あっ、そうかも。このページは……『泣くときの心理』……について書いてある、のかなぁ……?」

花丸「な、なかなか難しいテーマだね。泣くって言っても、色々あるから」

ルビィ「そうだねぇ」

花丸「その……マルも、さっき泣いちゃったし」エヘヘ

ルビィ「……うん」

花丸「……」

ルビィ「……」

花丸「……き、休憩時間なのに暗い話になっちゃったずら……」

ルビィ「ううん。そうかもしれないけど、気にすることじゃないよっ」

花丸「……ありがと。ルビィちゃんは……強いね」


36: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:55:43.90 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「ル、ルビィが……? ま、まさか……そんなこと……」

花丸「でも、千歌ちゃん以外のみんなが揃った時……ルビィちゃんは、落ち着いてるように見えて」

ルビィ「……あのね。ルビィは……」

花丸「……ん?」

ルビィ「実は、その……花丸ちゃんが来る前に……」

ルビィ「……いっぱい、泣いてちゃって……」

花丸「……そっか」クスッ

ルビィ「お姉ちゃんが、慰めてくれたから……えっと、それで、ね?」

花丸「……どうしたの?」

ルビィ「ずーっと泣いてたら……なんというか、すっきりしたというか……」

ルビィ「その……少し、落ち着けたんだ」エヘヘ


37: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:56:09.81 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「悲しかったよ? 千歌ちゃんが事故で怪我して、記憶を失って……」

ルビィ「その悲しいって気持ちは、泣く前も、泣いた後も……ずっと残ってた」

ルビィ「でも、それとは別に……冷静にもなれた」

花丸「……そうだったんだ」クスッ


花丸「……泣くことって……――涙って、不思議だね」

ルビィ「……不思議?」

花丸「悲しくて、辛くて、胸がこれ以上ないってくらい締め付けられて……」

花丸「心が、耐えきれなくなって……そのせいで、涙が流れるのに……」

花丸「――……その涙が、心を救ってくれるんだなって」

花丸「泣くことで、冷静になれるし、落ち着ける」

花丸「皮肉なことだけど……でも、切なくて、美しいなって」フフッ


38: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:56:36.95 ID:zcirwKWx.net

ルビィ「――そ、そんな話……聞きたく、ないよっ……」

花丸「っ! ご、ごめん、またわかりにくい話だったかな」

ルビィ「そんなことない、そんなことないっ! でも……」

ルビィ「聞いてるだけで……ルビィ、またっ……」

花丸「ルビィちゃん……あ、あれ……マルも、涙が……っ」ゴシゴシ

ルビィ「……ねぇ、花丸ちゃん?」グスッ

花丸「えっ?」

ルビィ「――思いっきり、泣いちゃおう?」

花丸「……ふふっ、そうだね」グスッ

花丸「この本にも、『たまには思いっきり泣くといい』って、書いてあるから……うぅ……」


ルビィ「……うわぁぁぁぁん! うぅ……どうしてっ、どうして……千歌ちゃあが……!」

花丸「んぐっ……うぅ……ルビィ、ちゃん……」ギュッ

花丸「……ぐすっ、ひっぐ……千歌、ちゃん……っ! うぅ……」ポロポロ


39: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:57:02.73 ID:zcirwKWx.net

花丸「……ふう、この本はこれで終わりずら」パタン

ルビィ「たくさん泣いたら、その……不思議と、はかどったね」

花丸「ふふっ。やっぱり本に書いてある通り、思いっきり泣くのはいいことなのかも」

ルビィ「そうだねぇ……あっ」 <ハジメータイマーイストーリー♪

花丸「電話?」

ルビィ「お姉ちゃんみたい」ピッ

ルビィ「もしもし? ……うん、うん……わかった。じゃあねっ」ピッ

花丸「ダイヤさん、なんて言ってたの?」

ルビィ「えっと、病室にいたみんなは一旦家に戻るって」

ルビィ「果南ちゃんと鞠莉ちゃんにも伝えたって言ってたよ」

ルビィ「あと、あまり帰りが遅くならない様に……とも言ってた」

花丸「うーん、そうだね。もう夕方だし……少しだけ収穫もあったし」

花丸「ちょうど本も読み終わったから、今日はこれくらいにしておこうか」ニコ


40: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:57:49.67 ID:zcirwKWx.net

タッ、タッ…

花丸「まあ、ホントに小さな収穫だけど……ね」トコトコ

ルビィ「た、確かに……その、ルビィも考えてたことだった……かな」トコトコ

ルビィ「でも、『何か得た』ってことは……きっと、大事だと思うっ」

花丸「うん、ありがとう」

「……」トコトコ

ルビィ「……あっ」…タッ

花丸「……どうしたの? 突然立ち止まって……」


ルビィ「……ううん。夕日が――綺麗だなって」

花丸「あっ……き、気づかなかった。本当だね、綺麗……」

ルビィ「……お姉ちゃんが言ってたの。『少し、考える時間が欲しい』って」

花丸「……そっか」クスッ

花丸「善子ちゃんも言ってたけど……きっと、立ち止まることも大事なんだろうね」

ルビィ「……うんっ!」


41: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:58:15.79 ID:zcirwKWx.net

花丸「……でも、今は早く歩かないと!」

ルビィ「ピギッ!? も、もうこんな時間!? 花丸ちゃあ、一緒に走ろう!?」

花丸「ええっ!? オ、オラは運動は……でも、ルビィちゃんの頼みなら!」

ルビィ「ありがとっ! じゃあ、早く早くっ!」ダッ

花丸「よ、よ~し! 全速前進、よーそろー! ……ずら!」ダッ


42: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:58:41.18 ID:zcirwKWx.net

曜「……ふうっ、ようやく一息つけた!」

曜「なんだか頭も体もバタバタして、今までずーっと落ち着かなかったけど!」

曜「……みんな、大丈夫かな……」

曜「……いやいやっ! ダイヤさんもああ言ってくれたし、みんな家に戻って少し落ち着いてるはず……」

「……」

曜(……いや……一番落ち着いてないのは、やっぱり自分自身か……)

曜(なんだか、未だにふわふわしてるみたい……)

曜「……記憶喪失、かぁ……」

曜(今まで、ずーっと一緒にいたのに……)

曜(千歌ちゃんの中では……何もかも……)

曜「……あ~っ! 自分の部屋で自分の椅子に座ってるのに、なんでこんなに落ち着かないんだ~っ!」クシャクシャ


43: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:59:07.54 ID:zcirwKWx.net

曜「はあ……ベランダで夜の風にでも当たろうかな。今なら、星もよく見えると思うし!」スタッ

曜「……あっ」フッ

曜(そうだ、自分の部屋には……千歌ちゃんの写真が、ずーっと飾ってあって……)

曜(あの写真は、本当に小さい頃……二人で写った写真)

曜(あっちには……果南ちゃんと、3人で撮ったやつだ)

曜(梨子ちゃんと3人で写ってるのも……Aqoursのみんなで写ってるのも……)

曜(……ずっと飾ってある写真なのに。なんでだろ……さっきまで、まるで見えてなかったみたい……)

曜「……ふ~っ……」

曜「やっぱり、夜風に当たった方が良いか」アハハ


44: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/28(金) 23:59:35.50 ID:zcirwKWx.net

曜「よいしょ……っと」ガラッ

曜「……うん、いい風。何度吹かれても飽きない」

曜「星もきっと、綺麗で……って、曇ってるーっ!?」

曜「はぁ~、星にまで嫌われちゃったか……あれっ?」<オーモーイーヨヒトツニナレー♪

曜「着信……梨子ちゃんからだ」ピッ


曜「もしもし、梨子ちゃん?」

梨子『曜ちゃん! ごめんね、夜遅くに。大丈夫?』

曜「ううん、全然大丈夫……ふふっ」

梨子『と、突然笑って……本当に大丈夫なの?』

曜「いや、ちょっと前にもこんなことがあったから……」

曜「今みたいに、夜……ちょうどベランダにいる時、梨子ちゃんから電話がかかってきてさ」

梨子『そういえば、そうだったね』フフッ


45: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:00:01.62 ID:6oQiZxwn.net

曜「……ありがとう」

梨子『ど、どうしたの? 本当にだいじょう……』

曜「あはは、大丈夫だって。もうちょっとだけ話を聞いてよ!」

梨子『……ふふっ、いくらでも聞くよ』

曜「……あの時、私は――梨子ちゃんの電話と、千歌ちゃんの声に救われた」

梨子『……』

曜「……今もね。落ち着かなくて、心細くて……信じられなくて」

曜「でも……梨子ちゃんの声を聞いただけで、前と同じように……」

曜「不安な気持ちも、心細さも……何もかも、一気に軽くなったよ」

曜「……また、助けてもらっちゃったね」アハハ

梨子『ううん。私も、曜ちゃんの声が聞きたくて電話したの』

梨子『勿論、ちょっと心配なのもあったけど……それ以上に、私も同じように心細かったから』

梨子『……そうじゃなければ、こんな時間に電話かけたりしないよ』クスッ


46: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:00:27.79 ID:6oQiZxwn.net

曜「いやいや、気にしなくていいよっ。いくらでも話し相手になるから!」

梨子『……本当に?』

曜「もちろんでありますっ!」

梨子『……言ったわね?』

曜「二言はないよっ!」

梨子『……じゃあ、夜中の2時あたりにかけようかしら』

曜「ええっ!? う~ん……でも、もし着信があったら頑張って起きるっ!」

梨子『じ、冗談だよ。もうっ』

曜「えっ、そうだったの!? 真に受けちゃった……!」

梨子『……でも、ありがとう。もし、泣きそうなくらい心細くなったら……かけちゃうからね?』

曜「そ・の・か・わ・り……私も深夜に電話しちゃうかもっ!」

梨子『うんっ! もし、曜ちゃんから着信が来たら……どんなに眠くても、頑張って起きるよっ』


47: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:00:55.13 ID:6oQiZxwn.net

梨子『……私ね』

曜「ん?」

梨子『明日……千歌ちゃんを学校に連れて行ってみようかなって思って』

梨子『まあ、千歌ちゃんの状態にもよるけれど……病院の人がいいって言ってくれたらの話』

曜「け、結構突然だね」

梨子『ほら、LINEでルビィちゃんが言ってたでしょ?』

梨子『"過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……って』

曜「えっ!? 全然見てなかった……」

梨子『もう……本当に大丈夫?』

曜「あ、あはは……後で確認しておくよ。でも、どうしてルビィちゃんがそれを?」

梨子『今日、花丸ちゃんと二人で本を読んでたら見つけたんだって』

梨子『あの二人も……やっぱり、諦めきれないんだと思う』

曜「……そっか。そうだよね」


48: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:01:21.16 ID:6oQiZxwn.net

梨子『……ねえ、その……』

梨子『こんなこと聞かれても、困っちゃうかもしれないけど……曜ちゃんは、どう思う?』

曜「……私は、良いと思うよ」

曜「こんなこと言ったら、無責任かもしれないけど……梨子ちゃんになら、任せられる」

曜「記憶を失う前の千歌ちゃんと、あんなに仲良しだったんだもん! きっと……」

梨子『それで何か勘違いをしていた人もいたけどね』

曜「つ、ツッコミが重すぎる……」

梨子『こ、これも冗談だって……ありがとう』

梨子『曜ちゃんがそう言ってくれるってだけで……やろうって気になれる』

曜「そっか、良かった! 少しでも力になれたなら、私は嬉しい!」

梨子『もう、何言ってるのよっ。また、勘違いばっかりっ……ぐすっ……』

曜「か、勘違い? ごめん、なんか雑音が……」


49: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:01:51.79 ID:6oQiZxwn.net

梨子『ご、ごめんなさい。ちょっと風の音が入ったみたい』

曜「ううん、大丈夫だよ。それで、勘違いって……」

梨子『……曜ちゃんと話してる間、私は……ずっと力を貰えてた』

梨子『全然、少しなんかじゃないよ』

曜「……あはは、ありがとっ! ……本当に、梨子ちゃんと話せてよかった」

梨子『……私も』

曜「そういえば、その話は他の子にも?」

梨子『うん、勿論。LINEでは、千歌ちゃんについても色々話してたから……って、本当に全く見てないのね』

曜「あ、あはは……それで、なんて?」

梨子『みんな、曜ちゃんと同じように……応援してくれた。私なら大丈夫、って言ってくれたの』

曜「そっか。みんな、同じことを思ってるんだね」

梨子『ふふっ、そうみたい』


50: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 00:02:22.51 ID:6oQiZxwn.net

曜「あ、ところで……今何時くらい?」

梨子『え? えーっと……わっ、もう11時!?』

曜「う、うそっ!? 早く寝ないと!」

梨子『じゃあ、そろそろ切るね?』

曜「うんっ。梨子ちゃんには明日もあるしね。私も今日は疲れたから、ぐっすり眠らないとっ」

梨子『そうだね。私も曜ちゃんも、ゆっくり休もう。おやすみなさい』ピッ

曜「うん、またねっ」ピッ

曜「さてと、ベットにダイブだっ!」ガララッ

曜「……あっ」

曜(さっきの……千歌ちゃんと梨子ちゃんと、私の3人が映ってる写真……)

曜(なんでだろ、さっきより……ずっと近くに写真があるみたい)

曜(梨子ちゃんも……同じ風に当たってたのかな)

曜「……ありがと、梨子ちゃん」ニコッ

曜「な~んて! 歯を磨いたら、さっさと寝ようっ!」


62: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 11:58:07.88 ID:6oQiZxwn.net

梨子(……)ゴシゴシ

チュンチュン、チチ……

梨子(朝……)

梨子「……そうだ。あれ……持って行ってみようかな」

梨子("過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……)

梨子「……まあ、おまじないみたいなものね♪ えーっと、どこにしまったっけ……」

ガサゴソ

梨子「……あ、あれ、ここじゃない……」

ガサガサ

梨子「……た、大切なものだしすぐ見つかるはず……」

ゴソゴソ

梨子「ど、どこ? どこだろ……」ガサゴソ

梨子「……あ、あった! わかりやすい場所なのに、探してなかったよ……もう行かないと、っと」

梨子「お母さん、いってくるね」トントン、ガチャ

<ハーイ、イッテラッシャイ


63: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 11:58:33.62 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……ここが千歌ちゃんの病室……だよね」

コンコン…ガララッ

梨子「失礼します」

千歌「あっ、梨子さん! こんにちは」

梨子「こんにちは、千歌ちゃん」フリフリ

梨子「名前……よく覚えてるのね」

千歌「勿論です、頑張って覚えましたっ」

梨子「ふふっ、ありがとう」

梨子(頑張って覚えた……か)

梨子(……裏を返せば……私のことは、やっぱり――)

「……」

梨子(……と、いけないいけないっ)

梨子「……え、えーっと」

千歌「その……」

梨子「えっ?」


64: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 11:58:59.50 ID:6oQiZxwn.net

千歌「――その右手につけているシュシュ、かわいいですね!」

梨子「っ!?」ドキッ

梨子「ま、まさか、千歌ちゃん、覚え……て……」

千歌「……へ?」

梨子「……あっ、いや、なんでもないの、なんでも!」

千歌「な、ならいいんですけど」

梨子「……これは、ね」

千歌「……」

梨子「――……私の、大切なものよ」ニコ

千歌「そうなんですか? ふふっ……いいですね、そういうの」


65: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 11:59:25.31 ID:6oQiZxwn.net

梨子「ちょっと座るね? 椅子椅子……よいしょ、っと」ガタッ、トスッ

千歌「どうぞごゆるりと!」

梨子「……結構元気なのね」

千歌「はい、大分元気です!」

梨子「そっか、良かった。その……動いたりとかは、大丈夫?」

千歌「はい、なんとか。先生からも言われたんですけど……」

千歌「少なくとも、日常的な動作については今のところ問題ないそうです」

千歌「……ただ……記憶については……」

「……」

千歌「……っとと、暗い話になっちゃいましたね」エヘヘ

梨子「もう……そんなの、千歌ちゃんが気にすることじゃないよ」


66: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 11:59:51.32 ID:6oQiZxwn.net

千歌「先生は『今後も検査を続けていく』って言ってました」

千歌「もしかすると、記憶を失う前には何の問題もなかった動作が抜けていたりするかもしれないし……」

梨子「……うん」

千歌「……その逆で」

千歌「――……何か、残っている記憶もあるかもしれない……」

梨子「……っ」

千歌「まあ、そう言われても、私にはさっぱりなんですけど……」エヘヘ

梨子「そう……ね」

梨子「……あ、ちょっと思ったんだけど……今日は、検査じゃないの?」

千歌「え……っと、確か検査があったと思います」

梨子「……あれ、本当に?」

千歌「えっ、そう言われると、なんだか自信が……ち、ちょっと待ってください! 確か予定を書いたノートが……」ペラペラ

千歌「……あ、ありました! 今日は……やっぱり、3時間くらい記憶や動作について検査をするって……」

梨子「……本当に?」

千歌「わ、私、そんなに信用無かったんですか……?」ウルウル

梨子「わあっ、違う違うっ! そういう意味じゃなくて、その……」


67: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:00:17.30 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……その?」

梨子「……さっきね、受付の人にちょっとお願いをしてきたの」

千歌「お願い?」

梨子「うん……私がね、『千歌ちゃんを、通っていた学校に連れていきたい』って」

千歌「それって……」

梨子「そう。千歌ちゃんが……『記憶を失う前に』通っていた、学校の事」

千歌「ほ、本当ですかっ!?」ガバッ

梨子「わわっ!? 千歌ちゃんっ!?」ビクッ

千歌「行きたい、行きたいですっ! ……あれ、でも今日は検査が……」

梨子「それなんだけど……受付の人は『問題ない』って、言ってた、ような……」

千歌「えっ、そうなんですか?」

梨子「うん。奥に行って誰かと話してたみたいだから、受付の人の独断ってこともないだろうし……」

千歌「……って……もしダメだったら、梨子さんは一体何をするつもりでここまで……!?」


梨子「……そうね。もしダメだったら……おしゃべり、かな」クスッ


68: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:00:43.32 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン…ピシャンッ

千歌「ん~っ! ……ふうっ」

梨子「あれから、もう一度受付の人に確認してみたけど……やっぱり、大丈夫みたいだね」

千歌「そうみたいですね。時間も、あまり遅くならなければいいって……」

梨子「千歌ちゃんの先生、本当に大丈夫……?」

千歌「なっ!? も、もう、不安になるようなことを……」トコトコ

梨子「ふふっ、冗談よ。あ、千歌ちゃん、そっちじゃなくて……っ」

梨子(……そっか、学校の場所も……)

千歌「……あっ! すみません、勝手に進んじゃって……」

梨子「……ううん、大丈夫。でも、絶対にはぐれないでね?」

千歌「そう、ですよね……気を付けます! ……あ、そうだっ」

ギュッ

梨子「っ!?」ドキッ

千歌「手を繋いでおけば、流石にはぐれようが……あれ、どうしました?」

梨子「……ううん、なんでもない。でも……繋いだからには、離しちゃダメよ?」ギュッ

千歌「もちろんっ」


69: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:01:09.06 ID:6oQiZxwn.net

「……」トコトコ

梨子「……外に出るのは……」

千歌「昨日、一回だけ。夜だったんですけど、先生に付き添ってもらって……」

梨子「私たちが帰った後? 結構急なのね」

千歌「万が一何かあった時に戻ってこれるように、パニックにならない様にって……病院の周りを見て回ったんです」

梨子「……大丈夫、だった?」

千歌「はいっ。勿論、最初は怖かったです。ただでさえ、知らない場所なのに……周りも暗かった」

千歌「でも、先生と話してるうちに……気づいたら、気持ちが軽くなってました。あの時も、こうやって手を――」

梨子(……さっきより、握る力が強――)

千歌「梨子さん?」

梨子「ひゃいっ!?」

千歌「わわっ、だ、大丈夫ですか……?」

梨子(……もう、あなたは――いっつも、周りを見て……)

梨子「……大丈夫、よ」ギュウッ


70: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:01:37.54 ID:6oQiZxwn.net

梨子(……千歌ちゃんにとっては、ここはもう……)

梨子(知らない町の、知らない場所……か)

梨子(でも……千歌ちゃんは……)

梨子「……不思議、ね」トコトコ

千歌「……ふし、ぎ?」トコトコ

梨子「記憶を失ってるはずなのに……あなたらしさ」

梨子「千歌ちゃんらしさは――不思議と、あなたの中にあるままなんだなって」フフッ

梨子「こんなこと言ったら、困っちゃうかな」

千歌「え、ま、まあ……私らしさって、良くわからないですし」

千歌「でも……先生が、同じようなことを言ってましたよ」

梨子「そうなんだ?」

千歌「はい。記憶を失っても――その人間らしい振る舞いは、失われない場合が多い……って」

千歌「これも、記憶喪失のパターンによるみたいですけどね」

梨子「……そっか」


71: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:02:03.42 ID:6oQiZxwn.net

…タッ

千歌「……ここですか? えーっと……『うらのほしじょがくいん』……?」

梨子「そう。ここが、私の――私たちの、学校よ」

梨子「……ほら、さっき買ったお茶。水分補給はしっかりしないとね」サッ

千歌「はい、ありがとうございますっ」ゴクゴク

千歌「……ぷは~っ! ふう……結構歩くんですね、ちょっと疲れちゃいました」エヘヘ

梨子「私も疲れちゃったなぁ……あー、それでね。さらに悪いお知らせなんだけど……」

千歌「なっ、わ、悪いお知らせとは……」

梨子「この学校……冷房ないのよ」

千歌「……普通の学校には、冷房があるんですか?」

梨子「……っ」

千歌「……変なこと聞いちゃいました!?」

梨子「あっ、ううん!? そんなことないよ」

梨子「そうね……普通はあるかな」

梨子「こんな暑い中、さらに暑い室内で授業をやるわけだし……都会の学校には、普通冷房が配備されてるわね」

千歌「都会、ですか……」

梨子「そ、私たちがいるここは……田舎、かな」クスッ


72: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:02:29.11 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……そういえば、今日って……」

梨子「今日は夏休みだけど、学校が開いてる日なの」

梨子「開いてるってだけで、実際に生徒はほとんどいないと思うけど……」

千歌「けど?」

梨子「記憶を失う前の千歌ちゃんを知ってる人が、今の千歌ちゃんに会ったらびっくりしちゃうだろうし……」

梨子「そういう意味では、ゆっくりと校舎を回れるから……今日でよかったよ」

梨子「上履きを……よいしょっと。あ、千歌ちゃんの下駄箱はそこね」

千歌「あ、ありがとうございますっ。よいしょ」

千歌「……私の名前が」

梨子「ん?」

千歌「私の名前が……私の下駄箱があるってことは、私はやっぱり……」

梨子「……そうよ。あなたは、この学校の……大切な生徒で、大切な友達よ」ニコ


73: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:02:55.01 ID:6oQiZxwn.net

コツ、コツ…

千歌「校庭にも、この廊下にも……」

梨子「そうね。やっぱり、誰もいないみたい」

千歌「も、もしかして、私たちだけだったりして……」

梨子「そ、それはないわよ。学校が開いてる日は、先生が何人か職員室にいるようになってるから」

千歌「そういうもの、なんですね」

梨子「さすがに、誰もいないようじゃ危ないからね」

梨子「……えっと、まずは私たちの教室に行ってみようか」

千歌「わかりましたっ」

梨子「こっちの階段よ」

タン、タン…


74: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:03:21.00 ID:6oQiZxwn.net

梨子「ここね、よいしょ……っと」

ガララッ

千歌「わぁ……日差しが差し込んでて、なんだか綺麗ですね!」

梨子「ふふっ、そうね。ちょっと……いや、結構暑いのは困ったものだけど」

梨子「今は夏休みだけど……普段は、ここで授業が行われてるわ」

千歌「授業……ですか?」

梨子「えっ?」

千歌「あ、いや……その授業で、私はどんなことを学んだのかなって……」

梨子「う、うーん……現代文とか、数学とか……?」

千歌「そう、なんですか……私はここで、1年半くらい……ずっと通っていたんですよね」

梨子「そう、だけど……」

千歌「……現代文とか、数学とか、言葉はわかるけど……」


千歌「――……何を学んだか、何を勉強したかは……私の中には……ない、みたいです」


75: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:03:46.93 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……っ」

千歌「あはは、困りましたね……私、卒業できるんでしょうか……」

梨子「……させる、わよ」

千歌「へっ?」

梨子「千歌ちゃんが……千歌ちゃんさえ良ければ、必ず卒業させる」

千歌「……」

梨子「今は病院での検査とかもあるし、無理だろうけど……勉強なんて、私がいくらでも教えるよ」

千歌「で、でも……」

梨子「私だけじゃない。曜ちゃんも、他のみんなも……必ず、手伝ってくれるわ」

千歌「……どうして」

梨子「えっ?」


千歌「……どうして、そこまでしてくれるんですか……?」


76: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:04:14.24 ID:6oQiZxwn.net

ビュウッ!

千歌「……わっ!? 窓から、風――」

梨子「……言ったでしょ? 大切な友達だ、って」クスッ

千歌「そん、な……」

ヒュー…

千歌「だって、私……記憶を、失ってるんですよ?」

千歌「今だって……あなたは、梨子さんは……こんなに優しくしてくれてるのに……」

千歌「私は、なに、ひと……つっ……うぅ……」グスッ

千歌「ぐすっ……何一つ、思い出せない……っ」ゴシゴシ

梨子「それでも、よ」

千歌「でもっ!」

梨子「でもも何もないの」

千歌「……っ」


77: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:04:42.35 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……ねえ」

千歌「……」グスッ

梨子「いい風だと思わない?」

ヒュー…パタパタ…

千歌「……そう、ですね……」

梨子「私ね。冷房があったら……この風は、感じられなかったと思うの」

千歌「……」

梨子「この、気まぐれな風に吹かれながら……曜ちゃんや千歌ちゃんと、同じ教室で授業を受けて……」

梨子「休み時間にお話ししたりする時間が、とっても楽しかった」

千歌「思い出せないのは悔しいけど……そう言われると、嬉しいです」エヘヘ

梨子「……ううん。私たちの卒業まで、まだ時間はある」

梨子「流石に、ずっと高校にいるわけにはいかないけど……学校生活が続く間、これからも……」

梨子「千歌ちゃんと曜ちゃんと……みんなと。出来る限り……一緒にいたいなって」


78: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:05:07.89 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……よいしょ、っと」トコトコ…ガタッ

千歌「……そこは」

梨子「……ええ、私の席」クスッ

梨子「千歌ちゃんも、自分の席に座ってみたらどうかな。そこの椅子よ」

千歌「は、はい……えいっ」ギィ…トスッ

「……」ヒューッ…パタパタ

千歌「私……」

梨子「ん?」

千歌「私、みんなのこと……まだよくわからなくて」

梨子「そ、それは仕方ないよ。面会時間も短かったし……」

千歌「それで、梨子さんのことも……」

梨子「……」


79: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:05:35.30 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……でも」

千歌「今、話してて……とっても、安らぐんです」

梨子「……っ」

千歌「私のことを想ってくれてるのが、伝わってきて……だから」

梨子「だか、ら?」


千歌「――もし、私が授業に全くついていけなかったら……」

千歌「……その時は勉強、教えてくださいね」ニコッ

梨子「っ!」

梨子「……もちろん」ニコ


80: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:06:01.15 ID:6oQiZxwn.net

ガララッ…ガタン

梨子「ふう……じゃあ、次の教室に行こっか」

千歌「はいっ。それにしても……卒業には、統廃合のことも絡んでたんですね」

梨子「え、ええ……勢いで卒業とか言っちゃったけど、統廃合の危機にあったのを忘れてたわ」

千歌「それで、廃校を阻止するために集まったのが……」

梨子「そう、私たち9人。『Aqours』よ」

梨子「千歌ちゃんのお母さんから、話は少し聞いたんだっけ?」

千歌「はい、結成の理由とかは聞かされなかったけど……」

千歌「記憶喪失を起こした直後、面会に来てくれた8人が、Aqoursのメンバーってことは知ってます」

梨子「……うん」

千歌「それで、私たちは……スクールアイドル、だったんですよね」

梨子「そう……ね」

千歌「……私が、アイドルなんて……プロじゃないってことを考えても……」

梨子「想像できない?」

千歌「……はい」


81: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:06:27.30 ID:6oQiZxwn.net

梨子「大丈夫よ。千歌ちゃんは立派にリーダーを務めてた」

梨子「それに……かわいかったわよ?」

千歌「なっ……もう、からかわないでくださいっ」カァッ

梨子「ふふっ」

タン、タン…

千歌「……次は、どこに?」

梨子「うーん……千歌ちゃんには、あまりなじみのないところかな?」

千歌「えっ……ちなみに、梨子さんは?」

梨子「まあまあ、かな。いったりいかなかったり……」

梨子「……っと、ここね」

千歌「『図書室』……ですか?」


82: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:06:52.74 ID:6oQiZxwn.net

ガララッ

梨子「……ここにも、誰もいないみたいね」

梨子「風に当たる者のいない扇風機が、一人虚しく動いてる……」ブオー…

千歌「……ひと『り』?」

梨子「……こほん。えーっと……ここは見ての通り、図書室よ」

千歌「ご、ごまかした……でも、なんとなくわかります」

梨子「わかる?」

千歌「はい……私はあんまりいかなそうだなって」

千歌「確かに、私にはなじみのない場所かも知れませんね」エヘヘ

千歌「こんなにたくさん本があるのに、そのどれにも触れない……っていうのは、ちょっともったいない気もしますけど」

梨子「そうね……もし気が向いたら、寄ってみてもいいかも」

梨子「色々な本があるし、落ち着けるし……そうだ。学校が始まってからなら、きっと花丸ちゃんも喜ぶよ」

千歌「花丸さん……ですか?」


83: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:07:18.73 ID:6oQiZxwn.net

梨子「ええ、花丸ちゃんは図書委員だから」

梨子「普段はこの、扇風機があるカウンター側にいて……本の貸出とか、管理とか……花丸ちゃんが担当してるの」

千歌「へ~……そんなシステムがあるんですね」

梨子(あっ……『図書委員』って言葉、千歌ちゃんには……)

千歌「……梨子さん?」

梨子「あっ、ううん。なんでもない」

梨子「……あとは、そうね……」

千歌「なんですか?」

梨子「……放課後とか、勉強するにはうってつけかな」クスッ

千歌「な、なるほど……長い付き合いになるかもしれませんね……」ゴクリ


84: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:08:09.32 ID:6oQiZxwn.net

千歌「よ……っと」ガララッ ピシャン

梨子「そうそう、出てから言うのもなんだけど……図書室内では静かにね?」

千歌「梨子さんは、たまに行くんでしたっけ?」

梨子「ええ……本を読みにいったり、あとは花丸ちゃんとお話ししにいったりとか」

千歌「……静かにお話し、ですか?」

梨子「……図書室に他の誰もいないときはその限りじゃないかも」

千歌「な、なるほど……さすが、廃校の危機なだけありますね……」

梨子「もう……他人事じゃないんだけど」

千歌「そ、そうだった……」

梨子「ふふっ、大丈夫よ。千歌ちゃんは今、自分の事を考えないとね」

千歌「はい……ありがとうございます」

梨子「次はこっち。階段を使うよ」

タッ、タッ…


85: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:08:34.90 ID:6oQiZxwn.net

タン、タン…タッ…

千歌「わあ……!」

梨子「ここが、屋上。風はまだ少しあるみたいね」ヒュー

千歌「学校って、こんな場所があるんですね!」タタッ

梨子「そ、千歌ちゃんがここに来るのも何度目かしら」クスッ

千歌「えっ……記憶を失う前の、私は……」

梨子「……ええ、何度も来てたの」

千歌「……」

梨子「それでね。ここでは……みんなで、歌やダンスの練習をしてた」

千歌「……スクールアイドルだから、ですか?」

梨子「そうね、それは勿論だけど……」

千歌「……」

梨子「『やりたいから』やってた。みんな、そうだと思う」


86: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:09:16.74 ID:6oQiZxwn.net

ヒュー…

「……」

千歌「……歌も、ダンスも……」

千歌「……私、は……」

梨子「これからやればいいだけよ」

梨子「千歌ちゃんに、その気があれば……ね」

千歌「……はい」

梨子「……ねえ。最後に一つだけ、行きたい場所があるんだけど……」

千歌「え? あ、勿論大丈夫ですっ」

梨子「ふふっ、よかった。じゃあ、屋上からは降りようか」

千歌「そうですね……」

梨子「……千歌ちゃん?」

千歌「あっ、いえ、なんでも……えへへ」

梨子(……夕日……もう、夕方だったのね……)

梨子「さ、こっちよ」

千歌「はーい」

タッ、タッ…


87: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:09:42.59 ID:6oQiZxwn.net

「……」

タン、タン

千歌「……」

梨子「……」

千歌「次は、どこへ……」

梨子「……」タッ、タッ

千歌「……梨子さん?」

梨子「えっ!? あっ、ううん。どうしたの?」

千歌「なんか、上の空だったような……」ジー

梨子「だ、大丈夫。ただ……この後のことを、ちょっと考えてて」

千歌「この後……? どこかに行くんですよね」

梨子「うん。それでね、千歌ちゃんに見せたいものがあるの」

千歌「見せたいもの……ですか?」

梨子「……いや、見せたいものというよりは……『聴かせたいもの』かな」

千歌「……ほぇ?」


88: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:10:09.04 ID:6oQiZxwn.net

タン、タン

梨子「……ここだよ」ピタッ

千歌「音楽、室……?」

梨子「そう、中に入ろっか」ガララッ

千歌「……わぁ! すごいっ、おっきなピアノですね!」タタッ

梨子「ええ」

梨子(……初めて見るみたい。でも、そう……だよね……)

千歌「ってことは『聴かせたいもの』って……」

梨子「うん。千歌ちゃんに聴いてほしい曲があるの」

千歌「じゃあ、早く聴かせてくださいっ。楽しみです!」

梨子「も、もう……大丈夫よ。ピアノは逃げたりしないわ」


89: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:10:35.92 ID:6oQiZxwn.net

梨子「よいしょ……っと」トスッ

梨子(ふう……こうして椅子に座るのも、鍵盤を前にするのも……やっぱり、少し緊張するな)

梨子(でも、それでも……私は……)

千歌「それで、どんな曲を演奏するんですか?」

梨子「……千歌ちゃんが」

千歌「え?」

梨子「――記憶を失う前に好きだった曲、よ」

千歌「……っ」

梨子「ふふっ、緊張しないで。私は、ただ……千歌ちゃんが心地よく聴いてくれれば、それだけで嬉しいから」

千歌「……そう、ですよね……わかりましたっ」


90: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:11:16.85 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……でも、千歌ちゃん? その……」

千歌「ほぇ?」

梨子「そうやってピアノの前で凝視されると、さすがに恥ずかしいんだけど……」

千歌「えぇっ!? でも聴くだけじゃなくて、梨子さんの様子も見たいな~って……」

梨子「ま、まあ、そうしたいならいいけれど……よし。じゃあ、始めるね」

千歌「はいっ!」


…タン…♪


梨子「……ユメ~ノト~ビ~ラ~♪」

千歌「……わあ!」

梨子「ずっとさ~が~し~つづ~け~た~♪」タン、タラン♪

梨子「きみと~ぼく~と~の~……」タン、タン♪

千歌「……」

梨子「つな、が……り、をっ……」タン…


91: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:11:44.79 ID:6oQiZxwn.net

千歌「っ……梨子、さん……?」

梨子「さが……ぐすっ、し……うぅ……」ポタッ

千歌「梨子、さん……」

梨子「……ごめん、なさい……私、こんな……泣いちゃ、いけないのに……!」グスッ

千歌「謝らないでくださいっ! 私は、全然大丈夫です……」タタッ

パッ…ギュウッ

梨子(っ!? ……私の、手を……)

千歌「……って、わあっ!? すみません! こんな、突然……」パッ

梨子「――ううん、ぐすっ……ありがとう。びっくりしたけど……ちょっと、落ち着けたよ」クスッ

千歌「そう……ですか。それなら、良かったです」

梨子「うん。でも……どうして、私の手を握ったの?」

千歌「えっ……と、どうしてでしょうか。梨子さんが泣いてたから……居ても立ってもいられなくなった、というか……」エヘヘ


92: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:12:10.77 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……ふふっ、そっか」

千歌「あと、その……」

梨子「……ん?」

千歌「――手が、震えてるように見えたので……」

梨子「っ……あなたは、本当に……」

梨子「――鋭い、のね……」グスッ

千歌「そ、そんな……それより、大丈夫ですか?」

梨子「大丈夫、って?」

千歌「梨子さんの演奏は、すっごく聴きたいです。でも、また……泣いちゃうくらいなら、私は……」

梨子「……大丈夫。ごめんなさい……次は、ちゃんと演奏するわ」


93: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:12:36.41 ID:6oQiZxwn.net

千歌「だ、だから、謝らなくても……」

梨子「ううん、謝るの」

千歌「……どうして、そんな……」

梨子「……相手が一人でも、何人でも……聴きにきてくれた人に対しての……」

梨子「――……人に聴かせる演奏を、途中で止めてしまった」

梨子「……それは、簡単に片づけられることじゃないって……私は、そう思ってる」

千歌「……」

梨子「例え相手が、千歌ちゃんみたいに優しくても……ね」

千歌「……真面目、なんですね」

梨子「ふふっ、どうかしら」

千歌「ええっ、肯定も否定もしないんですか……」

梨子「……ふう。もう一回、演奏するね」タン、タン…

千歌「はいっ、お願いします!」


94: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:13:02.16 ID:6oQiZxwn.net

タン…♪

梨子「……ユメ~ノト~ビ~ラ~♪」

梨子「ずっとさ~が~し~つづ~け~た~♪」タン、タラン♪

梨子「きみと~ぼく~と~の~……♪」タン、タン♪

千歌「……」

梨子「……つながりをさ~が~し~て~た~♪」タン、ポロロン♪

~♪

梨子「……せいしゅんのプロ~ロ~~ォ~……グ~♪」タラララ…タン♪

千歌「……す、ごい……」パチパチパチ

梨子「ありがとうございました」スタッ…ペコリ

梨子「どうだった……かな?」

千歌「う~ん、言葉にするのは難しいけど……感動した、というか……?」

千歌「歌声も綺麗だし、ピアノの演奏も……梨子さんの言う通り、心地よく聴けました」

梨子「そっか……良かった。ありがとう」

千歌「い、いやいや! 私がお礼を言いたいですっ……ありがとう、ございます」


95: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:13:30.89 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……いい曲、ですね」

梨子「うん、私もそう思う」

梨子「……って、この曲は千歌ちゃんから教えてもらった曲なんだけど」

千歌「え……あ、そういえば! 私が記憶を失う前に好きだった曲、でしたっけ」

梨子「そうよ。すっかり忘れちゃってるのね」クスッ

千歌「もうっ、笑い事じゃないですよっ」

千歌「……この曲、は……」

梨子「……この曲はね、『スクールアイドルの曲』……よ」

千歌「えっ……?」

梨子「それで……私の先輩さんたちが作った曲でもあるの」

千歌「そ、そうなんですか!?」


96: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:14:02.16 ID:6oQiZxwn.net

千歌「それじゃあ、この学校には……前にも、スクールアイドルグループがあったんですか?」

梨子「え、ええっと……それもそう、ね」

千歌「それ……『も』?」

梨子「……ううん、なんでもない」

梨子「この曲は、東京にある学校のグループが作った曲」

千歌「え、ええっ!? なんか、こんがらがってきた……!」

千歌「……あれ? ということは、梨子さんは……」

梨子「そ……私、東京からの転校生なのよ?」

千歌「え~っ!?」

梨子「お、驚いてばっかりね……」

千歌「そりゃ驚きますよっ!」


97: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:14:28.06 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……さっき、少しだけピアノの話をしたでしょ?」

千歌「はい。『ミスは簡単に片づけられない』って話……ですよね」

梨子「うん。私は……ずっとピアノをやっていたの。勿論、東京の学校にいる時も」

梨子「それでね、コンクールに出たこともあったんだけど……」

千歌「へ~、すごいですねっ」

梨子「ううん。そのコンクールで……演奏ができなかったの」

千歌「えっ……」

梨子「さっきのとはちょっと違うけど……失敗した、って意味では同じね」

梨子「その後、この内浦にきて……この学校に転入して」

千歌「……」

梨子「それで……千歌ちゃんと出会った」

千歌「……っ」


98: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:14:57.89 ID:6oQiZxwn.net

梨子「そういえば……転入した直後は、千歌ちゃんからしつこく勧誘されたっけ」クスッ

千歌「かん、ゆう……?」

梨子「そう。Aqoursは最初、千歌ちゃん一人だけだったのよ?」

千歌「き、記憶を失う前の私は積極的だったんですね」

梨子「うん、随分と苦労したわ」クスッ

千歌「あ、あはは……お恥ずかしい限りです……」

梨子「その時、私は……『ピアノに専念したいから』って、断り続けてきた」

千歌「……」

梨子「それでも、あなたは……諦めなかったの」

梨子「……何をやっても楽しくなくて、変われない……」

梨子「そんな私に……手を差し伸べてくれた」

梨子「……さっきみたいに、ね」フフッ


99: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:15:23.96 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……」

梨子「……どうしたの?」

千歌「……そんな大切なことを、忘れて……思い出せないのが……」

千歌「ちょっと、悔しくて……」

パッ…ギュッ

千歌「っ!?」

梨子「千歌ちゃんが、どんなに思い出せなくても……私は、絶対忘れない」

梨子「千歌ちゃんのおかげで……Aqoursのみんなに出会えて」

梨子「今までが、ずっと……楽しかった」

梨子「私を……変えてくれた」

ギュウッ

梨子「――……今度は、私が手を差し伸べる番だって思うの」

梨子「私だけじゃない。曜ちゃんも――みんなも」

梨子「きっと、こうやって……手を伸ばして……握ってくれる」


100: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:15:50.12 ID:6oQiZxwn.net

千歌「はい……ぐすっ……ありがとう、ございます……っ」

梨子「もう、泣かないの……かわいい顔が台無しよ?」

千歌「っ……ち、茶化さないでくださいっ」ゴシゴシ

梨子(……やっぱり、握る力が……強い)

梨子(そう、よね。記憶喪失を起こして……怖くないわけ、ないよね……)

梨子「……ねえ」

千歌「……はい?」グスッ

梨子「……もう一つ、聴いてほしい曲があるの」

千歌「……聴かせて、ください」

梨子「もちろん……始めるわね」トスッ


梨子「……」スウッ

梨子「――……お~も~い~よひとつになれ~♪」タン、タタン♪

梨子「こ~の~と~きをま~っていた~♪」

タン、タン、タン、タン、タン…タタタン♪
~♪


101: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:16:16.09 ID:6oQiZxwn.net

千歌「うわっ、結構日が沈んでるっ!」タッタッ

梨子「う……すっかり長居しすぎちゃった」タタッ

千歌「もしかして、ドジっ子なんですか?」

梨子「……怒るわよ?」

千歌「ひっ……じ、冗談ですよ~……あはは……」

梨子「はあ……むしろ、受付の人や千歌ちゃんの先生に怒られないか心配よ」

千歌「大丈夫ですよっ。先生は優しいので……多分」

梨子「多分って……余計不安なんだけど」

千歌「あ、あはは……」

梨子「じゃあ、ちょっと急ごう? でも、はぐれないようにね」

千歌「はいっ」


102: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:16:41.72 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン…ピシャッ

梨子「ふうっ、着いた」

千歌「やっぱり、結構歩きますね」アハハ

「お~い、おかえりっ」パッ、ギュウッ

梨子「……曜ちゃん!?」

千歌「曜さんっ!」

曜「……二人とも、生ぬるい手……」

梨子「曜ちゃんの方も生ぬるいわよ……ねえ、千歌ちゃん。言った通りでしょ?」

千歌「本当、ですねっ」ギュッ

曜「え~、何なにっ? 何のお話し?」

「だーっ! じゃれついてないで、帰ったのを受付の人に話しなさいよっ」

梨子「よ、善子ちゃんもっ」

善子「いいからっ。私たちはこのロビーで待ってるわよ」

梨子「そ、そうだね。千歌ちゃん、帰ってきたって受付の人に伝えよう?」

千歌「は、はいっ」


103: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:17:07.44 ID:6oQiZxwn.net

梨子「……ふう、ただいま」

曜「おかえりっ」

善子「おかえり。大丈夫だったの?」

梨子「ええ、まあ……私は……」

曜「私『は』?」

梨子「千歌ちゃんは、この後に検査を受けるらしくて……」

善子「……さっき、奥の病室に連れていかれたのは……」

梨子「ええ……『みんなと話したい~!』って叫びながら、看護師さんと一緒に奥へ消えていったわ……」

曜「あ、あはは……『千歌ちゃんらしい』って言うのもなんだかおかしいけど、千歌ちゃんらしいね」

善子「っていうか、病院では静かにしなさいよ」

曜「善子ちゃんも、さっきは少し声大きかったよ?」

善子「フッ、堕天使ヨハネにとっては、下界での会話など一時の戯れにすぎな……」

「……」シーン

善子「……ヨハネよっ!」

ようりこ「「静かに」」

善子「……はい」


104: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:17:33.77 ID:6oQiZxwn.net

善子「えーっと……」ポチッ ガタンッ

善子「……ほら、二人とも。これでも飲んだら?」タタッ

梨子「善子ちゃん……ありがとう。じゃあ、私はカフェラテを貰おうかな」パッ

曜「私はこの……えーっと……『振って飲むぷるぷる静岡みかんゼリージュース』?……っていうのを貰うね」パッ

善子「私はブラックコーヒーね」カシュッ…ゴクッ

善子「……苦い……ココアにすれば良かった……」

曜「……ぷは~っ、これ美味しいっ!」

梨子「うん……こうするだけでも、ちょっと落ち着けるね」

梨子「……あっ、そうだ。お金お金……」

善子「み、水臭い……お金はいいわよ」

梨子「え? でも……」

善子「いいの。千歌に学校を案内してくれたんでしょ?」

善子「安すぎるけど……それに対しての感謝としてでも受け取りなさい」

梨子「……安くなんてないよ。よぉ~く、味わって飲むね」ニコ

善子「大げさすぎよっ!?」


105: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:18:19.30 ID:6oQiZxwn.net

善子「あ、曜からはお金をもらうわよ?」

曜「が~ん……でも、この『振って飲むぷるぷる静岡みかんゼリージュース』に出会えた謝礼としてなら、130円は安い……」

善子「あ、アンタも大げさね……冗談よ。こうして付き合ってくれてるだけで、充分嬉しいわ」

曜「ううん……私だって、こうして善子ちゃんといられて良かった」

「……」

梨子「……二人で、私たちの事……待っててくれたんだよね」

善子「ええ。ほら、梨子ってちょっとドジったりするし……」

梨子「……怒るわよ?」

善子「……へい」

曜「最初は私一人でここに来て、待ってようかなって思ってたんだけどね。こう、家でじっとしていられなかった!」

曜「それで、LINEにそのことを書いたら……善子ちゃんも来てくれるって」

善子「そう。それで、こうして病院のロビーで待ってたの」

梨子「そう、なんだ……いつ戻るかもわからないのに、待っててくれたんだね」

梨子「……本当に、ありがとう」


106: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:18:49.07 ID:6oQiZxwn.net

曜「……正直ね。LINEで、ああは言ったけど……一人でここで待っていたら、心細かったと思うんだ」

曜「千歌ちゃんが、記憶喪失になって……梨子ちゃんと、学校に行くって聞いて」

曜「もちろん、梨子ちゃんなら大丈夫って思ってたけど……それでも、心配だった」

曜「……でも、善子ちゃんが来てくれて……一緒に居て、話してるだけで……」

梨子「……だけで?」

曜「……救われた?」

善子「大げさな上に疑問形……」

曜「あ、あはは……とにかく、善子ちゃんと待っていたら……」

曜「こうして、梨子ちゃんが帰ってきてくれて、千歌ちゃんの顔も見られて……」

曜「……安心したよ」ニコッ

善子「……直後に千歌が連行されていったのは少し残念だけどね」

曜「う、確かに……少し話してもいいかも、って思ってたし……」

善子「でも、無理言うわけにもいかないわね。千歌も、検査を受けないとダメでしょう?」

梨子「うん。多分、この後じゃないかな」

梨子「……記憶喪失に関して、ね」


107: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:19:15.06 ID:6oQiZxwn.net

「……」

曜「……ねぇ、梨子ちゃん。千歌ちゃんは……どうだった?」

善子「……私も気になるわ」

梨子「うん……私も、自分から言おうって思ってたから」

梨子「まず……記憶喪失っていうのは、一緒に居るとより実感が強くなった……かな」

梨子「今日行ったのは……千歌ちゃんが記憶を失う前に通ってた、浦の星女学院だから」

曜「……」

梨子「私たちの教室も、図書室も……屋上も。全部、初めて見るみたいだった」

善子「……実際、千歌の中では……『初めて見た』んでしょうね」

梨子「うん……それでも、千歌ちゃんは……」

曜「……千歌ちゃん、は……?」

梨子「記憶を失ってても、呼び名や話し方が違っても……千歌ちゃんらしいな、とも思ったの」

善子「……さっき、曜も少し言ってたわね」


108: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:19:40.63 ID:6oQiZxwn.net

梨子「千歌ちゃんからも聞いたわ。『記憶を失っても、その人間らしい振る舞いは失われない場合が多い』……って」

梨子「正確には、千歌ちゃんを担当してる先生の言葉だけど」

善子「そう、ね……病室で見た時も、さっきの様子だけでも……私も、そう感じるわ」

善子「……まっ、これに関しては、小さい頃からず~っと一緒に居る曜が一番実感してるだろうけど」

曜「なっ、私に振るの!? ……でも、そうだね。確かに、その通りだと思う」

曜「善子ちゃんも、花丸ちゃんのことは全部わかってるでしょ?」

善子「フッ、私を誰だと思ってるの? この堕天使ヨハネに、知らぬことなど……」

善子「……って、知らないわよ! ずら丸に話飛んじゃってるじゃない!?」

曜「ぷっ……あははっ」

梨子「……ふふっ」

善子「笑うなっ!」


109: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:20:11.84 ID:6oQiZxwn.net

曜「あはは、ごめんごめん」

梨子「でも、こうしていると……やっぱり、楽しいね」フフッ

善子「……何よ、もう……ふふっ」

善子「……今度は、ここに……」

曜「そうだね。千歌ちゃんも……それに、Aqoursのみんなも」

梨子「うん。みんなで話せば……きっと、もっと楽しいよ」

梨子「まあ、ロビーでも、千歌ちゃんの病室で話すにしても……あんまり大きい声は出せないけど」

ようよし「「……確かに」」

梨子「……もっとこうしていたいけど……そろそろ、帰ろっか」

曜「うわっ、こんなに経ってたんだ……そうだね、何かあったらLINEで話そう」

梨子「うん……そうだ、今日の学校案内はしっかりLINEにまとめておくね」

善子「りょーかい、助かるわ……ねえ、ちょっといい?」

梨子「ん?」

曜「どうしたの?」

善子「……ずら丸ってさ。LINE……というか、スマホ使ってないわよね……」

「……」シーン

ようりこ「「善子ちゃん、任せた(よ)!」」

善子「やっぱり!? ……わかったわよ、メールかなんかで送っておくわ」

善子「……アイツも、千歌の事を心配してたしね」

曜「……うん」

梨子「そう……だよね」


110: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:20:43.33 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン…ピシャン

トコトコ…

曜「……じゃあ、私たちはこっちだから!」

善子「じゃあね、梨子」

梨子「ええ、今日はありがとう」

曜「こちらこそっ! じゃね!」


「……」トコトコ

善子「……」

曜「……」

善子「……はあ~っ……」

曜「えっ、突然のため息……幸運が逃げちゃうよ?」

善子「神から追放された堕天使である私に、幸運など初めから存在しな……わあっ!?」トテッ

曜「わっ……とと! 大丈夫?」ドサッ

善子「うぅ、危な……曜が支えてくれなかったら、コケてたわね……」


111: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:21:08.99 ID:6oQiZxwn.net

善子「もう、こんなところに空き缶ポイ捨てしたのはどいつよ!?」

曜「あはは、むしろ不幸を呼んじゃったね」

善子「全く……あそこにゴミ箱があるから捨ててくる」ヒョイッ タッタッタッ…

曜(だ、堕天使とは一体……)

善子「ただいま……どうしたの? そんな顔して」

曜「あ、ううん、なんでもないっ。善子ちゃんこそどうしたの? ため息ついて……」

善子「いや、今日病院に行く前にゲームしてたんだけど……」

曜「けど?」

善子「全然身が入らなくて、モンスターにボコボコにされたのを思い出して……」

曜「あららー……」

曜「……やっぱり、千歌ちゃんのこと……だよね」

善子「そう、ね。梨子のことも、だけど……心配だったし」


112: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:21:34.96 ID:6oQiZxwn.net

善子「結局……梨子に関しては、杞憂だったけど」

善子「……フッ……さすが、私のリトルデーモンなだけあるわね」ギラン

曜「はいはい」

善子「雑っ!?」

トコトコ

善子「……ねえ、曜」

曜「うん?」

善子「前にした話、覚えてる?」

曜「……千歌ちゃんと善子ちゃんがゲームで遊んだ、って話?」

善子「……聞いておいてなんだけど、よくわかったわね」

曜「あははっ。善子ちゃんと一緒に居る時間だって、短くないから」


113: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:22:00.59 ID:6oQiZxwn.net

善子「私がAqoursに入って、少し経った頃……かしら」

善子「その時も、私はまだ学校に馴染めてないんじゃないかって……ちょっと思ってた」

善子「それでも、楽しかったわ。ずら丸やルビィ、クラスのみんなと話すのも……」

善子「勿論、Aqoursのみんなでいる時も……ね」

曜「……うん」

善子「それでね。さすがに、正確な日付は覚えてないけど……部室で千歌と二人きりになったことがあるの」

曜「ほうほう、二人きり……」ニヤニヤ

善子「何笑ってんのよ」

曜「なんでもないよ、それで?」

善子「ちょっとだけ部室を整理した後、二人で座って……一息ついて」

善子「千歌はあんな感じだし、別に気まずさがあったわけじゃないけど……『何を話そうかな』ってふっと思った」


114: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:22:26.69 ID:6oQiZxwn.net

善子「でも、私が口を開く前に……アイツ、ゲームの話を持ち出してきたのよ」

善子「そうね……『ねえ、善子ちゃんってゲーム得意だったよね~?』って感じで」

曜「うわ、似てな……」

善子「うるさいっ! これでも頑張って再現したのよっ!」

善子「……それでさ。『それがどうしたの?』って、ちょっとつっけんどんに返しちゃったんだけど」

善子「そしたら『このゲームのここがクリアできなくて~』……って」

善子「そのゲーム、ちょうど私もハマってたゲームだったのよ」

曜「へえ、すごい偶然……いや、そこそこの偶然……ってくらい?」

善子「し、締まらない言い方だけどそうなるわね……まあまあ人気のゲームだったし」

善子「……同じゲームをやってる人が近くにいたんだ、って喜んだ」

善子「その勢いのまま、私は色々話したわ。攻略法だけじゃなくて、ストーリーとかキャラクターとか……聞かれてないことも」

善子「ネタバレはしない様に気を付けてたけどね。うーん……5分くらいは、一人で喋りまくってたかも」

曜「な、長っ!? 5分って無駄にリアルだよ!」

善子「し、しょうがないでしょ!? ちょっと舞い上がっちゃったの! っていうか、リアルの話よ!」


115: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:22:53.50 ID:6oQiZxwn.net

善子「……それで、ひとしきり喋った後に……ハッとなったというか、我に返ったというか」

曜「……」

善子「千歌が、ぽかんと口を開けてるのを見て……」

善子「『またやっちゃった』……って思った。自己紹介の時とか、学校で堕天モードが発現した時みたいにね」

曜(は、発現って……)

善子「こんなことしても、千歌は距離を置いたりしない……っていうのは、それまで一緒に居てわかってたけど」

善子「その頃は、やっぱり学校に不安を抱えていたから……この癖は直さないと、くらいはぼんやり考えてたわ」

曜「……」

善子「……でもね、その後千歌は……」

善子「目をキラキラさせて、食いついてきたの」

善子「『ええっ!? そんな攻略法があったの!?』から始まって……」

善子「『あのキャラにはそんな心情が隠れていたんだ!」とか『ストーリーで曖昧だったところが良くわかったよ!』とか……」

曜「おおっ、さっきよりは千歌ちゃんっぽい……!」

善子「そりゃ、よく覚えてるから……って、そこに反応するの!?」


116: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:23:19.28 ID:6oQiZxwn.net

曜「うん、千歌ちゃんの様子が良く伝わってくるなって!」ニコッ

善子「あっそ……」

曜「それで、その後善子ちゃんの家でゲームしたんだっけ?」

善子「そうよ。私も千歌も熱中し過ぎて、時間に気付いた千歌がバタバタ帰って行ったのも覚えてるわ」

曜「あ、あはは……それはそれで、簡単に想像できる……」

トコトコ

善子「……私、ね」…ピタッ

曜「……ん?」タッ…

善子「あの時抱いた感情は、今でも鮮明に覚えてるし……一生忘れないと思う」

曜「……かん、じょう?」

善子「情けない話だけど……」

善子「あの時……泣きそうになっちゃって」

曜「……」


117: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:23:44.92 ID:6oQiZxwn.net

善子「自分から一方的に話し始めて、一人で失敗した気になってた……」

善子「それなのに、千歌は……アイツは、そんなことはつゆ知らずで」

善子「表情はああだったけど、実際は私の話を全部聞いていて……」

善子「私と同じくらい、一人で喋って……さ」

善子「その時は『フッ……良くわかってるじゃない。さすが、私のリトルデーモンね』」

善子「……とか言って、泣きそうなのをごまかしたけど」

曜「……」

善子「本当は……嬉しくて」

善子「千歌からすれば、最初からそうだったんだろうけど……」

善子「『私のありのままを受け入れてくれるんだ』って、実感した」

善子「……失敗した、なんて考えてる自分も、バカらしく思えてきちゃった」


118: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:24:11.36 ID:6oQiZxwn.net

曜「……いい思い出、だね」

善子「ええ……この話は、堕天使ヨハネが本か何かで後世に伝えなければ……」

曜「うわ、発現した……本か何か、って……」

曜「……千歌ちゃんも、楽しかったんだろうね」トコトコ

善子「……え?」タッ

曜「千歌ちゃんはそんなに深く考えてなかったというか……いや、この言い方はちょっと失礼だけど……」

曜「ただ単に、話したいように話してた。それは、きっと……」

善子「……」

曜「……善子ちゃんと話すのが、楽しかったからだよ」

善子「……そう、ね」

善子「こっちは色々思ってるのに、全く……のんきなんだから」

曜「あはは」


119: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:24:38.44 ID:6oQiZxwn.net

善子「……」トコトコ

曜「……」トコトコ

善子「……まあ、今の話も……もう、千歌の中にはないんだろうけど」

曜「……そう、だね」

「……」

善子「……明日、さ」

曜「ん~?」

善子「千歌と、ゲームでもしようかなって……」

善子「……あの時みたいに」

曜「うん……善子ちゃんなら、そう言うんじゃないかって思ってた」クスッ

善子「クッ、心を読まれた!? こいつ、出来るっ……!」

曜「うわ、また発現しちゃったか~……」

善子「面倒そうに流さないのっ!」


120: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:25:13.02 ID:6oQiZxwn.net

曜「……梨子ちゃんと、同じだね」

善子「えっ?」

曜「千歌ちゃんが、記憶喪失になって……今でもみんな、動揺してると思うんだ」

曜「……少なくとも、私はそう」

善子「私も、よ」

曜「ふふっ、そっか。それでも……千歌ちゃんと一緒に居たいって」

曜「……善子ちゃんも、思うんだね」

善子「……フッ、浅はかね。愚かな人間風情が……」

曜「ひどっ!?」

善子「千歌のことは心配よ。未だに実感はわかないけれど……記憶も取り戻せるんじゃないかって、諦めたわけじゃない」

善子「でも、一番は……」

曜「……」


善子「――……9人がAqoursとして、今までやってきたように……これからも、活動したい」


曜「……っ!」

善子「……そのためには、なんとしてでも千歌に戻ってもらわないと……Aqoursに、ね」

曜「うん……うんっ! 私もそう思うっ」

善子「……あのさ、曜。アンタが良ければ、明日は3人で……」

曜「え、いいのっ!?」

善子「むしろ断るわけないでしょっ!?」

曜「あ……あはは、確かにそうだね……うん、勿論! 善子ちゃん家、だよね?」

善子「ま、そうなるわね……千歌の家に行くわけにもいかないし」

曜「じゃあ、明日を楽しみに……あっ、梨子ちゃんからのLINE……えっ」ポチッ

善子「えっ……あっ」チラッ

ようよし「「バスの時間が~っ!?」」


121: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:25:38.85 ID:6oQiZxwn.net

善子「ただいま……」ガチャッ

<オカエリ…カオイロワルイワヨ?

善子「え、いや、ちょっと疲れて……ぜ、全力でダッシュしたから。ちょっと部屋で休んでる……」

ドサッ…ゴロン

善子「……ふ~っ……」

善子「結構走ったとはいえ……一応普段から練習して、スタミナもつけてるのにな……」

善子(……いや……)

善子(千歌が記憶喪失になってから……3日は練習してない……)

善子「たった3日でも……結構鈍るものなのね」

善子「夏休みは毎日のように練習してたし、尚更かな……」

「……」

善子「……この部屋暗っ!?」


122: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:26:07.48 ID:6oQiZxwn.net

ポチッ

善子「なんで電気つけてないのよ、私っ!」

善子「……そうだ。梨子の書き込みを見ておこっと……それで、ずら丸にメールで送信して……」

善子「それとは別に、明日のことも……千歌と曜に話しておかないと」

善子「……とりあえず、病室に行くことだけ伝えておこうかしら」

善子「無理やり連れだすわけにもいかないし……病院側の都合もあるだろうし」

善子「……曜はともかく……千歌にLINEを送るのは、ちょっと勇気がいるわねっ……!」

善子「くっ……動けっ、闇に染まりし我が右手っ……!」グググッ…

…ポチッ

善子「……はあ、無駄に疲れたわ。息抜きにゲームでも……」

<ゴハンデキタワヨー

善子「……はーい、すぐ行くっ」

善子「まっ……腹が減っては、とも言うしね。ごはんごはん~♪」

タッタッタッ…


123: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:26:33.79 ID:6oQiZxwn.net

千歌「ふふ~ん♪ ふんふんふ~ん♪」シャカシャカ

コンコン、ガララッ…ガタン

「……」フリフリ

千歌「……わわっ、先生っ!?」

女医「ごめんなさい、おどかしちゃったかしら」

千歌「いえ、そんなっ……イヤホンしてたから、気づかなくて」

千歌「再生を止めて……っと」ポチッ

女医「……検査の方、お疲れ様。休み休みとはいえ、3時間は続いたし……体調は大丈夫?」

千歌「はい、全然大丈夫ですっ! ふふん!」

女医「そう、頼もしいわ」クスッ

女医「でも……些細なことでも、何か変化があったらすぐ教えてね」

千歌「わかりましたっ」


124: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:26:59.43 ID:6oQiZxwn.net

女医「今日は、友達と学校に行った……って聞いたけど」

千歌「はい。梨子さんが、学校を案内してくれて……って、OKを出してくれたのは先生ですよね?」

女医「ええ、まあね。検査はこの時間に回せばいいし……友達と会うのは、大切なことよ」

千歌「……記憶を失っていても……ですよね」

女医「そう、記憶を失っていても……ね。楽しめた?」

千歌「はいっ、とっても! 最初は不安もあったけど……梨子さんが、親切にしてくれたので……」

女医「……ぷっ、くく……」

千歌「えっ、笑うところなんですか!?」

女医「ふふっ……ええ。親切にしてくれない友達なんて、いないわよ」

千歌「へ、へ~……」


125: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:27:25.20 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……あっ、そうだ! 梨子さん、ピアノ弾けるんですよっ」

女医「ピアノ? 演奏してもらったの?」

千歌「はい、『音楽室』ってところで……いや~、他のみんなとか、先生にも聴いてほしかったなぁ……」

女医「ふふっ、そんなに感動したのね」

千歌「はいっ。歌声もピアノも……曲も、とっても感動しました。こう……元気が湧いてくる、というか?」

千歌「帰りに梨子さんに頼んで、曲を送ってもらって……さっきまで、聴いてたんです」

女医「鼻歌まで歌ってたわね」

千歌「う……そう言われると、恥ずかしいような……あっ、先生も聴いてみます?」

千歌「『ユメノトビラ』って曲と『想いよひとつになれ』って曲なんですけど……」


126: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:27:53.53 ID:6oQiZxwn.net

女医「う~ん……気持ちは嬉しいけど、遠慮しておこうかしら」フフッ

千歌「ええっ、そんなぁ……『想いよひとつになれ』の方は、私が歌ってるんですよ?」

千歌「先生に、私の歌を聴いてほしいっ……私は忘れちゃいましたけど。えへへ」

女医「って、笑えないわよっ」

千歌「……はい。でも、どうして……」

女医「……そうね。私はその二曲とも、何度も聴いてるのよ」

千歌「えっ!? そ、そうなんですか……?」

女医「ええ、私も気に入ってる曲だからね」

女医「それに……高海さんのダンスも歌も、何度も見たわ。こうして近くで聞いても……かわいらしい声、ね」クスッ

千歌「えっ……うぅ、からかわないでくださいよぉ~!」ポカポカ

女医「ちょっ……わ、わかったからっ、大人しく寝てなさいっ」


127: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 12:28:19.47 ID:6oQiZxwn.net

女医「……じゃあ、そろそろ戻るわね。多少ならいいけど、あまり遅くまで起きてちゃダメよ?」

千歌「た、多少ならいいんですね……」

女医「まあね。それじゃ、おやすみなさい」

ガラッ…ピシャン

千歌「……あ、ああした後だとちょっと寂しい……」シーン

千歌「もう1回曲を聴いたら、寝ようかな……っと、LINEも見ておかないと」

千歌「……あ、善子さんからだっ!」

オーモーイーヨヒトツニナレー…♪


132: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:13:57.28 ID:6oQiZxwn.net

果南「はぁ、はぁっ……」

タッタッタッ…

果南(……朝のジョギングは、いつもしている事だけど)

果南(特に、今は――止まったら……)

果南「いや……はぁ、はぁ……止まるわけには……」タッタッタッ

「はぁ、はぁ……わぁっ!?」

果南「……わっ!?」

果南(人!? 全然、気づかなか……)

「ひゃあっ!?」ドスッ! ドテッ

果南「うぐっ……」ドスッ

果南「い、いたた……ごめんなさいっ、大丈夫……っ!?」


花丸「えっ……か、果南、ちゃん……!?」

果南「……は、はなま、る、ちゃん……?」


133: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:14:23.39 ID:6oQiZxwn.net

花丸「はぁ、はぁ……ふーっ……」トスッ

果南「大丈夫? だいぶ息が上がってたみたいだけど」

花丸「だ、大丈夫……果南ちゃんほどじゃないけど、スタミナは前よりついたから」

花丸「くーりんぐ?って言うのもやったし……こうして座ってれば、すぐ動けるようになると思うよ」

果南「そっか」

果南「……さっきはごめんね。しっかり前を見てなかったかも」

花丸「ううん。マルの方もぼーっとしてたし……お互い様、だよ」

花丸「その……お互い、衝撃も少なかったし」

果南「あはは、確かに」


134: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:14:50.05 ID:6oQiZxwn.net

果南「隣、座るね」トスッ

花丸「……うん」

果南「……」

花丸「……」

果南「……花丸ちゃんって、いっつもこうやって走ってたっけ」

花丸「ううん。いつものこの時間は……家で本を読んでるよ」

果南「読書かぁ。私は、この時間だとあんまり頭に入ってこないかも」

花丸「……今度、オススメの本を貸してあげようか?」

果南「えっ、いや……気持ちは嬉しいけど、私のガラじゃないよ」

花丸「そっか」


135: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:15:16.46 ID:6oQiZxwn.net

花丸「……果南ちゃんは、いつも走ってるんだよね」

果南「……そうだね、日課だし」

花丸「その上、随分長い距離を……」

果南「あはは。花丸ちゃんも、そのうち毎日走れるようになるって」

花丸「ええっ!? お、オラには無理ずら~……」

果南「そう? 毎日朝に走るのって、すごく気持ちいいよ?」

花丸「そ、それはそうだけど……たまにでいい、かなぁ……」

果南「そっか~。毎日一緒に走れたら、楽しいかなって思ったんだけど」

花丸「お、お気持ちだけで充分、ずら……」


136: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:15:42.12 ID:6oQiZxwn.net

「……」

果南「……」

花丸「……ねえ、果南ちゃん?」

果南「えっ……と、どうしたの?」

花丸「こ、こうしてると果南ちゃんの方が心配だよ……上の空だし」

果南「大丈夫大丈夫。それで?」

花丸「……ずっと気になってたんだ」

花丸「――……気持ちの整理は、ついたのかなって」

果南「……っ」

花丸「果南ちゃんは、千歌ちゃんの……千歌ちゃんの記憶喪失を、受け入れられたのかな……って」

果南「……鞠莉にも、同じことを聞かれたよ」

花丸「そっか……やっぱり、そうじゃないんだよね?」

果南「っ!」ドキッ


137: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:16:08.07 ID:6oQiZxwn.net

「……」

果南「……鋭いんだね……」

果南「でも、どうしてそう思ったの?」

花丸「う~ん……なんとなく、かな?」

果南「そこは結構曖昧なんだ……」

花丸「うん。あの時の果南ちゃんからは、無理してる感じが伝わってきたずら」

果南「め、面目ない……」

花丸「ええっ!? そんな、落ち込むようなことじゃないよ」

果南「あはは、ありがと。ただ、花丸ちゃんはそういうところに気が付くんだなって思ってさ」

果南「記憶を失う前の千歌に対して何度も抱いた感覚に、ちょっと似てるよ」

果南「……いや。千歌は……今もそうだろうね」

花丸「梨子ちゃんも言ってたしね。『記憶喪失を起こしても、その人らしさは失われないことが多い』って」


138: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:16:46.10 ID:6oQiZxwn.net

花丸「……オラはね」スタッ

果南「……ん?」

花丸「小さい頃から本が友達で、こうやって走ったりの運動は苦手で……」

花丸「果南ちゃんがAqoursに入ってきた時……『正反対の人が来た』って思ったんだ」

果南「……うん」

花丸「……ちょっと近寄りがたい、とかも思ってたし……」

果南「えっ、そうなんだ」

花丸「ち、ちょっとだけ……ずら」

花丸「でも……Aqoursのみんなで、いるうちに……」

花丸「ダイヤさんに鞠莉ちゃん、千歌ちゃんや曜ちゃん……ほどじゃないと思うけど」タッタッ

花丸「さっきみたいに、なんとなく果南ちゃんのことがわかってきたのかなって」…クルッ


139: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:17:19.37 ID:6oQiZxwn.net

果南「……そっか」

花丸「えへへっ」ニコッ

果南「……そろそろ、ジョギングに戻ろうかな」スタッ

花丸「うん。マルは、もうちょっと休んでからにするよ」トスッ

果南「じゃあ……」

ポンッ

花丸「っ!」

果南「次会う時は、おすすめの本を教えてね。マル」

タッタッタッ…

花丸「……行っちゃった、ずら」


140: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:18:08.87 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン ピシャッ

善子「はい……津島善子です。高海さんとの、面会に……」

善子「……」タッ、タッ…

ガララッ

善子「失礼しまーす……合ってるわよね?」…ガタン

千歌「はい、おはようございます! 善子さんっ」

善子「おはよ。元気そうで安心したわ」

千歌「善子さんこそっ!」

善子「えっ……そ、そうね」

善子「この堕天使ヨハネには、常に闇のエネルギーが……」

千歌「……だてんし……よはね? って、なんですか?」

善子「……っ」

善子「……いーや、なんでもないっ」


141: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:18:34.91 ID:6oQiZxwn.net

千歌「え~、気になります……」

善子「なんでもないっての! それより、昨日のLINEはちゃんと見た?」

千歌「はい、もちろんですっ。この時間に、善子さんが面会に来てくれるのと……」

千歌「このあと、善子さんの家に行って……ゲーム?っていうのをやるんですよね」

善子「……え……」

千歌「えっ?」

善子「……げ、ゲームって言葉も……覚えて、ないの?」

千歌「あっ! いや、え~っと……」

千歌「テレビにゲーム機を繋いで、ソフトを入れて、コントローラーを握って……とかは覚えてるんですけど」

千歌「……どんなソフトがあったか、っていうのは……覚えて、ないみたいです……」


142: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:19:01.42 ID:6oQiZxwn.net

善子「……そう」

「……」

善子「……じゃあ」

千歌「……じゃあ?」

善子「どんなソフトがあるか、っていうところから教えないとダメね」

千歌「はい、お願いしますっ」

善子「いい? 堕天使である私から教示を受ける事、光栄に思いなさ……」

千歌「善子さんって堕天使なんですか!?」

善子「……もういい……」


143: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:19:28.49 ID:6oQiZxwn.net

善子「そうね……ゲームソフトといっても、ホントに色々あるんだけど」

善子「……例えば、人を銃で撃つゲームとか?」

千歌「ひ、ひぃっ!? ダメですよ、そんなのっ!」

善子「わあっ、わ、悪かったわよっ。最初に挙げるようなものじゃなかったわ……」

善子「……ただ、現実世界で出来ないことを体験させてくれるのが、ゲームの良いところでもあり……」

千歌「た、確かに……現実世界で人を銃で撃つのは、難しいですよね」

善子「……『難しい』じゃなくて、さっきアンタが言った通り『ダメ』なんだけど」

千歌「あっ……それもそうでした」エヘヘ

善子(こ、これはこれで調子狂う……)


144: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:20:01.98 ID:6oQiZxwn.net

千歌「他には、何か……」

善子「平和的……?なもので行くと、パズルゲームとかかしら」

千歌「パズルはわかりますけど……絵を合わせたり、ですか?」

善子「ええっ……と、そういうのもあるわね」

善子「あと、3個揃えると消えたり4個揃えると消えたりするものもあるし……」

善子「それをたくさん消して、相手に攻撃したりとか」

「……」

千歌「……ほぇ?」

善子「……あ、改めて説明するのって難しいのね……」

千歌「う~ん、習うより慣れろ……のほうがいいんでしょうか?」

善子「それもそうかも……」


145: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:20:41.80 ID:6oQiZxwn.net

善子「あ、そうそう。わかりやすいものに『アクションゲーム』ってジャンルがあるわ」

千歌「あくしょんげーむ?」

善子「これも色々あるけど、リアルタイムでキャラを操作して敵を倒す……ってのが基本かしら」

千歌「へ~……! 面白そうですねっ」

善子「そうね。うまくキャラを動かせたときとか、敵を倒した時の達成感がすごいわよっ」

千歌「それ、やってみたいです!」

善子「じゃ、決まりね。ま、いきなり対戦ゲームとかやるのも難しいでしょうし……」

千歌「じゃあ早速、善子さんの家にお邪魔しても……」

善子「ええ……光さえも呑み込む我が世界に……」

善子「……えーっと、私の家に来てもらうわよ。時間の方は大丈夫?」

千歌「はい。LINEの内容は先生にも伝えてますし、問題ないって言ってました」

善子「りょーかい。でも、一応受付で確認しておくから、先に準備を済ませておいて」

千歌「わかりましたっ」


146: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:21:10.47 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン…ピシャン

善子「ま、まぶしっ……しかもあっつい……」

千歌「受付の人には、何か言われました?」タタッ

善子「ううん、問題ないって。遅くなり過ぎないように、とだけ言われたわ」

善子「昨日の梨子と同じ、ね。そうだ、はぐれないようにしなさいよ」

千歌「はいっ」

トコトコ…

千歌「曜さんも、LINEで言ってた通りですか?」

善子「そ。用事があるから私の家には遅れて来る、って」

千歌「そうですか、じゃあそれまでは……」

善子「ええ。私が手取り足取り、みっちり教えてあげるわ……ククク……」

千歌「お、お手柔らかにお願いします……」


147: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:21:42.21 ID:6oQiZxwn.net

善子「……そういえば、記憶喪失については……病院で何かわかったりしたの?」

千歌「えっと、先生は『まだ不明瞭な部分が多い』って言ってたと思います」

善子「せ、先生がそう言っちゃうんだ……大丈夫なのかしら」

千歌「これに関しては、問診や検査を進めないとわからないって……」

善子「そう。メッセージアプリ……LINEとか、スマホの使い方は?」

千歌「え~っと、LINEについては先生に教えてもらいました。少し時間かかったけど……」

千歌「あと、メールの使い方や連絡先の見方についても……ですね」

善子「なるほどね」

千歌「通話に関しては『混乱する可能性があるから、緊急時のみ』って言われてます」

千歌「で、それ以外は……」

善子「以外は?」

千歌「使い方があんまり……いずれ慣れると思うし、先生も手伝ってくれるって言ってましたけど」

善子「そ、そう簡単にはいかないってことね……」

千歌「あ、あはは……」


148: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:22:17.14 ID:6oQiZxwn.net

千歌「ただ……」ピタッ

善子「……」…タッ


千歌「――……少なくとも、『思い出』に関しての記憶は完全に失われてる――」


善子「……っ」

千歌「……って、先生は言ってました」

善子「そう……よね」

千歌「……あっ! でも『今のところは』とも言ってましたよっ」

善子「その辺も、検査を受けたり先生と話したり……って感じ?」

千歌「はい。入院生活は、まだ続くみたいです」

善子「その割に、今日は私の家に遊びに……って、なんだか不安になるわね……」

千歌「大丈夫ですよっ、多分!」

善子「どっからその自信が湧いてくるのよっ!」


149: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:22:43.98 ID:6oQiZxwn.net

善子「ふうっ……はい、ここが私ん家よ」

千歌「マンション、だったんですね……」

善子「ええ。さ、上がって」ガチャッ

千歌「お、おじゃましま~……す……」ボソボソ

善子「声ちいさっ……」

<ハーイ ジブンノイエダトオモッテ、ユックリクツロイデイッテネ

善子「変なこと言わないでよ、ママっ!」

千歌「あ、あはは……」

善子「全く……こっちよ。転んだりしないようにね」

千歌「は~いっ」


150: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:23:11.86 ID:6oQiZxwn.net

善子「えーっと、テレビの電源に……ゲーム機の電源も……」ポチポチ

善子「……あ、千歌? その辺に座って大丈夫よ?」

千歌「あ、そうですね……立ってゲームやるわけにもいかないですし。よいしょっと」トスッ

善子「当たり前よ……よし、ちゃんとついたっと」

千歌「あくしょんげーむ?をやるんでしたっけ」

善子「そうね。一人プレイだから、一緒にはプレイできないけど……」

千歌「じゃあ、私は後ろで見てますね!」

善子「ええ。プレイしたくなったら言ってくれれば、すぐ交代するわ」

千歌「そうですねっ。その間に、善子さんのプレイを勉強しておきます」

善子「フッ……私の華麗な戦略、繊細な操作……よく見ておくことねっ!」


151: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:23:47.13 ID:6oQiZxwn.net

デデーン

善子「……」

千歌「……死んじゃった、んですか?」

善子「まあ、そうなるわね……やっぱりこのモンスター強すぎない!?」

千歌「善子さんが動かしてたキャラ、大丈夫なんでしょうか……」

善子「大丈夫よ。こんな感じですぐ生き返るし」ピカーン

千歌「あ、ホントだ」

善子「ただ……このモンスターを倒さない限り、先には進めないのは確かね」

千歌「な、なるほど……」

善子「見てなさい、今度こそは私の本当の力を……!」

デデーン

善子「あーっ、もうっ! なんでこんな強いのをゲーム中盤に出したのよっ!」

千歌「あ、あはは……」


152: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:24:18.15 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……私も、ちょっとやってみてもいいですか?」

善子「えっ? 勿論いいけど……初心者には結構難しいと思うわよ、このゲーム」

千歌「習うより慣れろ、ですっ」

善子「ふふっ、いい心がけね。さぁ、今こそ真の力を解き放つのよ、千歌っ!」

ドーン

千歌「わ、わあっ!」 善子「そこはガード、ガードよっ!」

ドカーン

千歌「うわあっ!?」 善子「そこはローリングで回避っ!」

デデーン

千歌「わあっ、やられたっ!?」

善子「諦めちゃダメ! もう一回よっ」

デデーン
デデーン…


153: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:24:48.31 ID:6oQiZxwn.net

デデーン

千歌「や、やられたぁ~!」

千歌「くうっ、強い……!」

善子「に、20回は死んでるわね……」

善子(でも……私より、上手くなってるような……)

善子「ふーっ……どうする? 一回、休憩でも……」

千歌「いや、まだいけますっ!」

善子「ふっ……それでこそ千歌よ! さぁ、始めましょうっ!」

千歌「はいっ!」


154: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:25:36.38 ID:6oQiZxwn.net

千歌「よし、良い感じっ」ポチポチ

善子「そうねっ! あとは、あの最後の攻撃をしのげば……!」

善子(私は……昨日も、今日も。どうしても避けられなかったけど……)

ゴオッ!

善子「……来るわよっ!」

千歌「はいっ……てりゃあっ!」ポチッ、カシャッ!

善子(か、回避じゃない……ガードした!?)

ザシュッ…ドサッ

善子「……た、倒し、た……」


155: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:26:06.42 ID:6oQiZxwn.net

「……」

善子「……ふーっ。全く、アンタには敵わな……」

千歌「やった……いやっ、たあぁぁぁ~!」ギュウッ

善子「えっ!? ちょっ、わあっ!?」ドサッ

善子「あーっ、もう! く、くるし……」

千歌「やったあ! やりましたよっ、善子さんっ!」ギューッ、スリスリ

善子「いいから……はな、れっ……な……」


ギュウッ…

千歌「……っ」


善子「……ぐすっ、ひっぐ……」

善子「……うぅ……ぐすっ、えぐっ……」ポタッ

千歌「……善子、さん……」

ギュッ…


156: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:26:34.94 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……大丈夫、ですか?」

善子「アンタにだけは心配されたくないっ!」グスッ

千歌「ええっ……」

善子「……けど、ありがと」

千歌「……いえ」

「……」

善子「……前に、ね」

千歌「……」

善子「千歌が記憶喪失になる前にも……ここでこうやって、ゲームをしたの」

千歌「そうなん、ですか……?」


157: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:27:19.53 ID:6oQiZxwn.net

善子「ええ……記憶喪失を起こしたんだから、千歌は覚えてなくて当然だけどね」フフッ

千歌「……」

善子「……その時の私、対戦ゲームで千歌をボコボコにしてたのよ」

千歌「えっ、ひど……」

善子「た、確かに酷いけどっ! ただ……」

千歌「ただ……?」

善子「アンタは……千歌は、負けるたびにどんどん強くなっていって」

善子「最終的には……私と互角に戦えるくらい上達してた」

善子「……いや、やっぱり私の方がちょっと強かったわね」

千歌「ええっ……」


158: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:28:02.70 ID:6oQiZxwn.net

善子「……千歌に勝つと嬉しくて、負けると悔しかった」

千歌「……」

善子「でも、それ以上に……楽しかったわ」フフッ

千歌「……っ」

善子「どんどん上達していく千歌を見るのも、それに勝つのも負けるのも……ね」

善子「Aqoursで私と互角に戦える人なんて、千歌くらいしかいなかったから……」

善子「だから……」

千歌「……」

善子「アンタには……もう一度、私より……ちょっと下、くらいに……」

ギュッ…

千歌「っ……」

善子「上手くなってもらわないと、困るの、よ……っ!」グスッ


159: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:28:29.45 ID:6oQiZxwn.net

千歌「……私……」

善子「……」ギュウッ

千歌「梨子さんの時も……善子さんの時も」

千歌「……なんで、記憶喪失なんかにって……」

千歌「そう思うと……やっぱり、悲しくて……悔しくて……っ」グスッ

善子「……ふふっ。バカ……ぐすっ」…パッ ゴシゴシ

千歌「えっ……」

善子「ゲームなんて、これからでも……いくらでもできるわ」

千歌「で、も……」

善子「私の家に来てくれたら、いくらでも付き合うし……」

善子「私が病室にでも、千歌の家にでも……携帯ゲーム機で、だって……」


160: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:28:56.34 ID:6oQiZxwn.net

善子「私だって、千歌が記憶喪失になったのは悲しい……けど」

千歌「……け、ど?」

善子「それでも、今からでも……こうやってゲームをしたり、どこかへ遊びに行ったりはできるでしょ?」

千歌「……」

善子「……そ・れ・と・も……私と遊ぶのはつまらない?」

千歌「なっ!? そ、そんなわけないですよっ!」

善子「まっ、私がダメなら……そうね、例えば」

「私とかならどうかなっ?」

善子「そうそう、曜なら絶対に……え」

千歌「あっ」

曜「……おはヨーソロー……なんちゃって」


161: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:29:24.11 ID:6oQiZxwn.net

善子「……はあ、びっくりした。心臓止まるかと思ったわよっ」

曜「い、一応お呼ばれしてるのにっ!?」

千歌「まあまあ、二人ともっ。善子さんのお母さんが淹れてくれた、熱いお茶でも……」ズイッ

善子「そうね、頂くわ」ズッ

曜「喉乾いちゃったし、私もっ」ズズッ

「……」シーン

善子「……なんで私が頂く側なのよっ!? しかも夏なのにあっつあつじゃないっ!」

曜「え~っ? 暑い夏に飲む熱いお茶も、いいものだよ?」

千歌「ずずっ……わあ! このお茶、美味しいですねっ!」コト

善子「もういい……」

善子「……その、曜はいつから……」

曜「え~っと……善子ちゃんが『千歌ちゃんに負けると悔しい~!』って言ってた時からかな?」

善子「そ、そんな前からいたのっ!?」

曜「それで、さ♪ 私だって、善子ちゃんとは互角くらいに戦えてたと思うんだけどな~?」

善子「いーや。僅差だけど、千歌のほうが上手ね」

曜「え~っ!?」

千歌「あははっ」


162: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:29:53.61 ID:6oQiZxwn.net

善子「……その、自分から呼んでおいたのに……悪かったわね」

曜「ううん……私が声をかけなかった、ってだけだよ」

善子「……いや、そこは声かけなさいよっ!?」

曜「うん……善子ちゃんと千歌ちゃんが話してて、私も駆け寄りたかったよ」

善子「……」

千歌「……」

曜「……でも、それ以上に……私も、泣いちゃいそうだったから……さ」アハハ

善子「なによ、もう……そんなの、気にすることじゃないでしょ」

曜「そこでそのお詫びとして、これを……」ドサッ、ズイッ

千歌「わあっ、お菓子とみかんがたくさん!」

善子「お菓子はともかく、みかん……まっ、半分は許してあげる」


163: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:30:20.92 ID:6oQiZxwn.net

曜「……半分?」

善子「もう半分……対戦ゲームでは、ボコボコになってもらうわ!」

曜「望むところだよっ!」

千歌「……じゃあ、私は最初見学で……」

善子「何言ってんのよ! 私と協力して曜を叩くわよ!」

曜「えっ、ズルっ!? 千歌ちゃん、みかんあげるから私側にっ」

千歌「いやでも、操作とか戦い方とか……」

ようよし「「いいのっ!」」

千歌「そ、そんなぁ~!」

ウワッ、ソノアイテムズルクナイ!?
ワッ、チカチャンコンナニツヨカッタノ!?
ヤッタッ、カチマシタッ!
……


164: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:30:49.39 ID:6oQiZxwn.net

善子「ふうっ、危ない危ない……また熱中し過ぎたわね」

曜「結局、千歌ちゃんが一番強かったような……」

千歌「えへへっ」

善子「お、覚えておきなさい……」

曜「そういえば……善子ちゃん、病院までは大丈夫なの?」

善子「何言ってんのよ。曜に丸投げするわけにも、千歌を一人で帰らせるわけにもいかないでしょ」

曜「……そっか」フフッ

善子「……あ~あ。これじゃあむしろ、私が千歌に教わらないとね」

千歌「はい、いくらでも教えますよっ」

善子「た……頼もしいかぎり、よ」ピクピク

曜「善子ちゃん、顔ひきつってるよ」

善子「うるさいっ!」


165: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:31:28.02 ID:6oQiZxwn.net

ウイーン…ピシャッ

善子「じゃあ、私は受付に話を通してくるわ」

曜「わかったっ。千歌ちゃん、ちょっとロビーで座ってようか」

千歌「はーいっ」

トスッ、ポフッ

<ツシマヨシコデス。タカミサントイッショニ…

千歌「……」

曜「……」

曜「……ねぇ、千歌ちゃ――」


千歌「……」


曜「……っ」

善子「……二人とも? 戻ったわよ」

曜「……善子ちゃん」

千歌「あ、おかえりなさいっ」


166: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:31:59.52 ID:6oQiZxwn.net

曜「それじゃあ、私たちはここで、だね」

千歌「はい、今日はありがとうございました」

善子「ええ、また誘うわ」

千歌「楽しみにしてますねっ」

曜「じゃね!」

善子「さようなら」

千歌「は~いっ!」フリフリ

トコトコ…

曜「千歌ちゃん、この後は?」

善子「やっぱり検査だって」

曜「あはは、やっぱりか」


167: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:32:26.15 ID:6oQiZxwn.net

曜(……)

曜(……千歌ちゃんの、表情……)

曜(虚空を見つめていて……いや、何も見てなかった、ような)

曜(……あんな表情……私……見たことあったっけ)

曜(――……すごく悲しそう、だった……)

曜(……なんで、声をかけてあげられなかったんだろ)

曜(はっきり、声をかけていれば……少しは……)プニッ

曜「っ!?」

善子「よーう。どうしたの? 険しい顔して」ツンツン、プニプニ

曜「……いや、今日のお菓子とみかん代がちょっとお財布に響いたなって……」

善子「まあ、みかんがやたら多かったわね……その、ね」

曜「ん?」

善子「千歌だけじゃなくて、曜も……困ったら、私や他のみんなを頼ってもいいと思う」

善子「この堕天使ヨハネの黒魔法により、因果すらも歪めて……」

曜「うん、頼りにしてるっ!」

善子「あっそ……ふふっ」


168: 名無しで叶える物語(家) 2018/12/29(土) 16:32:56.97 ID:6oQiZxwn.net

曜「それにしても、病室で携帯ゲーム機はダメな気がするんだけどな~」

善子「確かに……って、ツッコミ遅くない!?」

曜「そんなことより、今日も急がないとバスに遅れちゃうかも」

善子「そうね、軽く走ろうかしら……疲れすぎない程度に、だけど」

曜「うんっ! じゃあ、全速前進……」

曜「よーしこー!」ダッ

善子「善子言うな! 待ちなさーいっ!」

タッタッタッ…


173: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:26:49.46 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……もう、夜……ですわね」

ダイヤ(千歌さんは、今頃……)

ダイヤ(善子さんや曜さんと別れて……病室で独り、でしょうか)

「お姉ちゃあ?」

ダイヤ("過去に記憶を形成した物事に触れれば、何か思い出すかもしれない"……)

ダイヤ(ルビィと花丸さんが、学校の図書室で調べてくれた……)

「お姉ちゃんっ」

ダイヤ「はっ! ……ルビィ?」

ルビィ「お風呂、上がったから……お姉ちゃんもどうぞ、って」

ダイヤ「……ありがとう、ルビィ。ちょっとボーっとしてましたわ」ナデナデ

ルビィ「えへへっ」

ダイヤ「じゃあ、お姉ちゃんもお風呂に入ってくるわね」

ルビィ「うんっ!」


174: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:27:46.46 ID:Yja1//47.net

ザパンッ

ダイヤ「ふーっ……」

ダイヤ「過去に記憶を形成したもの、ですか……」

ダイヤ「……千歌さんとの思い出なんて、たくさんありますわね」

ダイヤ「梨子さんも、善子さんも……他の皆さんも……ルビィも、きっと」

ダイヤ(……わたくしが、千歌さんと会うとしたら……)

ダイヤ「う、う~ん……」

ポタッ…ピシャッ

ダイヤ「アキバ、でしょうか……」

ダイヤ「いや……ここからだと時間も結構かかるし、病院の都合も……」

ダイヤ「あそこは人も多い上、路線図もゴチャゴチャしてて……」

ダイヤ(……でも、やらない理由ばかり探していても……)

「……」

ダイヤ「……仕方ない、ですわね」ザパッ


175: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:28:12.56 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ただいま、ルビィ」

ルビィ「あっ、お姉ちゃん。おかえりっ」

ダイヤ「……ねえ、ルビィ? 明日、時間はある?」

ルビィ「明日? 大丈夫だよっ。今日は、花丸ちゃんと一緒に図書室にいたけど……明日は学校が開いてない日だし」

ダイヤ「ふふっ、そう。花丸さんとは……」

ルビィ「うん、千歌ちゃんの……記憶喪失に関しての調べもの。今日は、他のこともしてたけど」

ルビィ「確か『果南ちゃんに貸す本も探さないと~』って、言ってたような……」

ダイヤ「か、果南さんが読書? 何があったのやら……」

ルビィ「……千歌ちゃんのこと、だよね」

ダイヤ「……ええ。梨子さんや、善子さんがしたように……」

ダイヤ「わたくしとルビィも、千歌さんに会えれば……と」


176: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:28:42.44 ID:Yja1//47.net

ルビィ「うん、良いと思うっ。それで、どこかに遊びに行くの?」

ダイヤ「ええ。え~っと、その……秋葉原、とか?」

ルビィ「ピギッ!? あ、あきはばらっ!?」

ダイヤ「い、いや、勿論話が通れば、ですけどっ! ダメもとですわ、ダメもと!」

ルビィ「そ、そうなんだ」

ルビィ「……でも、お姉ちゃんらしくていいねぇ」ニコッ

ダイヤ「そ、そうかしら?」

ルビィ「うん。ルビィもそうだけど……お姉ちゃんも千歌ちゃんも、μ’sが大好きだったから」

ルビィ「千歌ちゃんと、みんなと一緒に……Aqoursとして居られたのも」

ダイヤ「……千歌さんが、スクールアイドルに……μ’sに触れてくれたから、ですわね」

ルビィ「そうだよっ。だから、あの場所に行くのはいいんじゃないかなって」

ダイヤ「……そうですわね」クスッ

ダイヤ「じゃあ、千歌さんにメールを送っておくわね」

ルビィ「うんっ。ルビィは、電車とか調べておくよっ」


177: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:29:08.68 ID:Yja1//47.net

トコトコ

ダイヤ「わ、割とあっさりOKが出ましたわね……」トコトコ

ルビィ「うゅ……ちょっと眠い……」フラフラ

ダイヤ「ルビィ……大丈夫?」

ルビィ「うん。昨日の話の後、忘れ物とかが無いようにってしっかり準備もしたし……」

ルビィ「……ただ……」

ダイヤ「……ただ?」

ルビィ「3人で遊びに行くのが、楽しみで……あんまり、眠れなかったから」エヘヘ

ダイヤ「……そう」フフッ

ダイヤ「行きの電車は結構長いですし、その時に眠るといいかしら」

ダイヤ「それまでは、頑張って起きていないと……ぶっぶー、ですわ」ニコ

ルビィ「うんっ!」


178: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:29:35.27 ID:Yja1//47.net

ウイーン…ピシャッ

ダイヤ「まずは受付ね。ルビィ、一緒に」

ルビィ「は~いっ」

トコトコ…

ダイヤ「……えーっと、千歌さんの病室は……」

ルビィ「……ここかな?」タッ

ガララッ…

ダイヤ「おはようございます、千歌さ……」

ルビィ「あれ……」

千歌「すー……すぅ……」

ダイヤ「寝て……」

ルビィ「る、ビィ……」

ダイヤ「な、なっ!? 確かにこの時間に出発すると、千歌さんにメールを……」

ルビィ「う、うん。ルビィもLINEで千歌ちゃんに確認取ったし、返信もあったし……」

ダイヤ「しかし、起こすのもなんだか……」

ルビィ「そ、そうだねぇ……すっごく気持ちよさそうに寝てるし……」


179: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:30:05.37 ID:Yja1//47.net

千歌「……はっ!?」ガバッ

ルビィ「ピギィッ!?」

ダイヤ「起きたっ!?」

千歌「……あ、おはようございますっ。ダイヤさん、ルビィさん」

「……」シーン

千歌「え~っと、今の時間は……」

チッ、チッ…

千歌「……わああっ!? すみません、すぐ準備しますっ!」

ダイヤ「い、いえ、落ち着いて準備してください……怪我したら大変ですわ」

ルビィ「うゅ」コクコク

ダイヤ「わたくしたちは、ロビーで待ってますわね」

千歌「は、はーいっ!」ドタバタ


180: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:30:31.89 ID:Yja1//47.net

千歌「ふうっ。お待たせしましたっ!」

ダイヤ「いえいえ。では、受付の人に話を……」タッタッ…

ルビィ「体調は大丈夫っ?」

千歌「大丈夫ですっ。よく眠れたので!」

ルビィ「そっか、良かったぁ」

ダイヤ「……戻りました。さあ、二人とも……行きましょうか」

ダイヤ「全国の強者が集う迷宮……『東京』へ、いざっ!」

千歌「わあ、善子さんみたいですねっ!」

ルビィ「お姉ちゃあもリトルデーモンに……?」

ダイヤ「……そんなに似てましたの!?」


181: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:30:57.71 ID:Yja1//47.net

トコトコ

ダイヤ「メールでも確認しましたけど、電車などの交通機関については……」

千歌「その記憶は失われていないみたいです、先生にも確認しました。道や駅は全く分かりませんけどっ」

ルビィ「あ、あはは……」

千歌「ただ、これもメールやLINEに書いたことですけど……『秋葉原』については、全く……」

ダイヤ「そう……です、か」

千歌「都会については、梨子さんから少しだけ話を聞きました。人がいっぱいいる、とかなんとか……」

ルビィ「……大丈夫だよっ!」

ダイヤ「ルビィ……」

ダイヤ「……そうですわね。わたくしたちも、詳しいわけではありませんけど……」

ダイヤ「……あの街は、ただ歩くだけでも……楽しかったですから」

ルビィ「きっと、千歌ちゃんも気に入ってくれると思うっ」

千歌「……はいっ、楽しみです!」


182: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:31:28.79 ID:Yja1//47.net

千歌「え~っと、切符は……」

ダイヤ「この駅までだから……そのボタン、ですわね」

千歌「ありがとうございます」エヘヘ

プシュー…ガタン、ゴトゴト…

ルビィ「ふわぁっ……んぅ……」

ダイヤ「ルビィは、今のうちに寝ておいた方が良いわね」クスッ

ルビィ「そう、かも……ちょっと肩借りるね。お姉ちゃあ……」コクッ

ダイヤ「ええ……おやすみなさい」ナデナデ

千歌「ふふっ。仲、良いんですね」

ダイヤ「ええ。わたくしの、自慢の妹ですから。ふふん」

ダイヤ「……でも、千歌さんも……姉妹仲は、とても良かったと覚えてます」

千歌「そ、そうなんですか?」

ダイヤ「はい。今は難しいかもしれませんが……」


183: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:31:55.31 ID:Yja1//47.net

千歌「……」

ダイヤ「ちゃんと家に戻ったら……必ず、温かく迎えてくれますわ」ニコ

千歌「そう、ですか……それを聞いて、ちょっと安心しました」エヘヘ

ダイヤ「わたくしたちAqours、だけではありません」

ダイヤ「……あなたは、色々な人に愛されていましたから」

千歌「……でも、私は……記憶を……」

ダイヤ「それで冷めるほど、冷酷にはなれませんわよ」クスッ

千歌「……みんな、温かいんですね」

ダイヤ「ええ。そして……それはきっと、変わることはありません」

ダイヤ「ですから、難しいことかもしれませんが……千歌さんは、心配しなくても大丈夫ですわ」フフッ


184: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:32:27.23 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……まあ、今から行くところは、むしろ『絶えず変化する街』ですけど」

千歌「ええっ!? この流れで!?」

ダイヤ「ええ。人もたっくさんいますわよ! 恐らく、千歌さんの想像以上に!」

千歌「さ、さっそく少し心配に……」

ダイヤ「全く、もう……わたくしもついてますし、大丈夫ですわ」

ダイヤ「あの街は……次々新しい物を取り入れて、変わっていく……」

千歌「……」

ダイヤ「人がたくさんいるのも、街が変化を受け入れているからこそ……そう考えてます」

ダイヤ「……私たちが住む内浦の、澄んだ空気や、綺麗な景色には……敵いませんけど」クスッ

千歌「はい、私も……病院の外で見る景色も、学校も……大好き、です」ニコ


185: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:32:57.79 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……っと、ルビィ。そろそろ起きないと」ポンッ

ルビィ「むにゃ……うん、大丈夫だよっ」

ダイヤ「千歌さんも。この駅で乗り換えなので、降りる準備を……」スタッ

千歌「はいっ」

ルビィ「ほら、千歌ちゃんっ」サッ

千歌「ルビィさん、ありがとうございます」ギュッ

ダイヤ「ふふっ。さあ、こちらですわ」


186: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:34:04.42 ID:Yja1//47.net

ルビィ「ついに……」ゴクッ

ダイヤ「ついに、あきは」

千歌「わあっ、人がいっぱいっ!」パァッ

ダイヤ「……」

ルビィ「あ、あはは……」

千歌「……私のいた場所とは、大違い……ですね」

ダイヤ「ええ。お店もたくさんあれば、ゲーセンも……」

千歌「……げーせん?」

ルビィ「ゲームセンター、だよっ」

千歌「げーむせんたー……ゲームがたくさんあるんですか?」

ダイヤ「……行ってみた方が早いですわね」


187: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:34:29.94 ID:Yja1//47.net

千歌「……これは?」

ルビィ「このクレーンを動かして、ぬいぐるみを下に落とすゲームっ」

千歌「これは……」

ダイヤ「シューティングゲーム、ですわね。善子さんもやっているかもしれません」

千歌「……しゅーてぃんぐ?」

ダイヤ「え、え~っと、どう説明すれば……」

ルビィ「デモ映像が流れてるね。この、飛行機みたいな敵がこうやって弾を撃ってくるから……」

千歌「へ~……うわ、すごい量の弾……」

ルビィ「自分の飛行機をレバーで動かして、弾を避けながら敵を撃つんだよ」

ダイヤ「さっすが我が妹ですわっ!」ナデナデ

ルビィ「えへへっ。前に善子ちゃんがたくさん話してたから、覚えちゃったっ」


188: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:34:55.69 ID:Yja1//47.net

千歌「こ、これは……」

ルビィ「中央からまるいのが流れてくるから、音楽に合わせてボタンを押すのっ」

ダイヤ(まるいの……)

千歌「こんなにボタンがあるのに……大丈夫なんでしょうか」

ルビィ「千歌ちゃんなら大丈夫じゃないかなぁ?」

千歌「ええっ!? そうなんですか?」

ダイヤ「ええ、なんたってスクールアイドルですから! リズム感覚だって、ちゃ~んと鍛えてますわ」

ダイヤ「まっ、わたくしに敵うかどうかはともかく……」

千歌「え~っと、私……その辺の記憶が……」

「……」

ダイヤ「も、申し訳ありません……」ガクッ

千歌「い、いやいやっ、大丈夫ですっ!」

ルビィ「あ、あはは……」


189: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:35:21.96 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……っと、ゲーセンの音は結構耳に……」スタスタ

ルビィ「うゅ……」タタッ

千歌「でも、色々なものが見られて楽しかったですっ」

ダイヤ「それなら何よりですわ。じゃあ、次は神田明神に……」

千歌「かんだ、みょうじん?」

ダイヤ「『神社』は、わかりますよね?」

千歌「はいっ、神様を祀っているところですよね」

ダイヤ「ええ。ここ秋葉原にある神社、そこでお参りをしていこうかと……それに」

千歌「それに?」

ダイヤ「少し見せたいものもありますので」フフッ

ルビィ「なるほど、アレを見せるんだねぇ」ニヤッ

千歌「なっ……き、気になりますっ!」

ダイヤ「まあ、それでも……はぐれない様に、ゆっくり歩きますわよ」

ちかルビ「はーいっ!」


190: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:36:05.26 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ふう……ここですわね」

千歌「な、長い階段……!」

ルビィ「『あの階段』だねっ」

ダイヤ「そう、『あの階段』ですわ」

千歌「あの階段?」

ダイヤ「……記憶を失う前の千歌さんも、のぼったことのある階段です」クスッ

ダイヤ「それも、全力で……ですわ」

千歌「そう、なんですか……全力で、こんな長い階段を……」

ルビィ「……そうだっ、千歌ちゃんとお姉ちゃんで競争してみたらっ?」

ダイヤ「なっ!? わ、わたくしは構わないけど……千歌さんに、無理をさせるわけには」

ルビィ「あっ、そ、そうだね……ごめんなさい」

ダイヤ「そんな、謝ることではありませんわ」ポンッ

ダイヤ「気持ちだけで十分……」ナデナデ

千歌「いや……私は、やってみたいです」

ダイヤ「……はぁっ!?」

ルビィ「……千歌、ちゃん……」


191: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:36:33.55 ID:Yja1//47.net

千歌「過去に記憶を形成したものに触れれば……そう、ですよね」

ダイヤ「……確かに、そうですけど……」

千歌「やってみて、ダメでも……やってみるだけでも、良いかなって」

ダイヤ「……っ」

ルビィ「……ふふっ。千歌ちゃあらしいね」

ダイヤ「……はあ、仕方ないですわね。ただ……やるからには、全力でいきますわよ」

千歌「はいっ、望むところですっ!」

ルビィ「じゃあ、ルビィは先にのぼってるねっ」

タッタッタッ…

ルビィ「ルビィが『スタート!』って言ったら、スタートだよっ!」

千歌「……ルビィさん……結構な速さでのぼった割に、息一つ切らしてないんですね……」

ダイヤ「わたくしの、自慢の妹ですから」

千歌「あははっ」


192: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:36:59.77 ID:Yja1//47.net

ルビィ「よーい……」

ちかダイ「……」ジィッ…

ルビィ「……スタートっ!」

ちかダイ「っ!」ダッ!

ダイヤ(……スタートはほぼ同じ)タッタッタッ

千歌「はぁっ!」タッタッタッ

ダイヤ(走り方も、スピードも……記憶を失う前と、全く……いや、むしろ……っ)

ダイヤ(少し、速いくらい……わたくしが遅れてるっ!?)

ダイヤ「くっ!」タッタッ

ダイヤ(でも、後輩の背中を……追いかけるわけには……っ!)

ダイヤ「……たぁっ!」ダッ

タンッ! ダッダッ…タッ…

千歌「はぁ、はぁっ……」

ダイヤ「はぁ、はぁ……はぁ~っ……」

ちかダイ「……どっちがっ!?」ガバッ


193: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:37:26.25 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……一段差で、千歌ちゃあが早かった……」

ルビィ「……と、思うっ!」

ダイヤ「『と、思う』……でも、負けは負けですわね。ふーっ……」

千歌「はぁ、はぁ……か、勝ったとはいえ……さすがに、疲れますね」

ダイヤ「……でも、素晴らしい走りでしたわ」

ルビィ「うんっ。千歌ちゃんもお姉ちゃんも、かっこよかったよっ」

ダイヤ「ふふっ、ありがとう」

千歌「えへへ……ありがとうございます」

ダイヤ「ところで、記憶の方は……」

千歌「えっと、何も思い出しませんでした!」

ダイルビ「……」


194: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:38:01.56 ID:Yja1//47.net

千歌「……でも……楽しかったですっ」

ダイヤ「……そうですか」クスッ

ルビィ「……よかったっ」ニコッ

ダイヤ「さっ、お参りの方にも行きますわよ」

ルビィ「は~いっ、何をお願いするか考えておかないとっ」

千歌「あっ、私もっ!」

ダイヤ(……千歌さんは、何をお願いするのでしょうか……)

ルビィ(……千歌、ちゃあは……記憶のこと、なのかな……)

千歌「……どうしたんですか?」

ダイヤ「あっ、いえ……わたくしも、何をお願いするか悩んでしまって」フフッ

カラン パン、パン…タッ


195: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:38:29.50 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ふうっ、お参りも済みましたわね」

千歌「ダイヤさんとルビィさんは、どんなお願い事をしたんですか?」

ルビィ「ルビィは……」

ダイヤ「ちょっ!? ダメですわよ、願い事を言ってしまっては!」

ルビィ「あ……そ、そういえばそうだったっ」

ダイヤ「『願い事を口にしてしまうと叶わなくなる』 元はと言えば、千歌さんがここに来た時……っ」

千歌「……へ?」

ルビィ「……っ」

ダイヤ(『思い出』に関する記憶は、失われている――善子さんが、そう教えてくれて……)

ダイヤ「……いえ、なんでもありませんわ」

千歌「……そう、ですか」

ルビィ「……」

ダイヤ「……さ、次はこちらです」タッ


196: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:38:58.58 ID:Yja1//47.net

ルビィ「これが!」サッ

ダイヤ「見せたいもの!」タッ

ダイルビ「ですわ(だよ)っ!」バーン

千歌「……絵馬、ですか?」

ダイヤ「ふっ、ただの絵馬ではありません。よく見てください」

千歌「えーっと……これは……スクールアイドルのグループ名が書かれた、絵馬……?」

ダイヤ「その通りです。ここ、秋葉原は……かつてμ’sとA-RISEが鎬を削った、いわばスクールアイドルの聖地ですから」

千歌「こっちにも、別のグループ名が……メンバーの絵?も描いてありますね」

ルビィ「それだけじゃないよっ。ほら、こっちとかっ!」

千歌「あ、『Aqours』……? 私たちの、グループ名が書いて……」

ダイヤ「ふふっ……数は多くないけれど、やっぱりありましたわね」

千歌「えっ、私の絵も描いてある!? ダイヤさんや、ルビィさんの絵も……」

ダイヤ「そう。わたくしたちAqoursを応援してくれている方が描いた絵馬です」

千歌「ここ、東京ですよね!? なのに、内浦で活動していた私たちのこと、まで……」


197: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:39:25.71 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「言ったでしょう? 『あなたは色々な人に愛されてる』と……」

千歌「……っ」

ダイヤ「千歌さんを……そして、わたくしたちを応援してくれてる人は……ここ、秋葉原にだっているのです」

千歌「……でも」

ルビィ「千歌ちゃあが、記憶を失くしても……」

千歌「っ!」

ルビィ「記憶が、消えちゃっても……こうやって、誰かが描いてくれた絵馬は」

ルビィ「……消えたりは、しない……から」

千歌「……」

ルビィ「それでねっ。この、色んな絵馬に込められた『気持ち』……も」

ルビィ「同じように……ずっと、ず~っと……消えないんじゃないか、って……」


198: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:39:51.75 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ふふっ。わたくしも、同じ意見ですわ」

千歌「……う~ん、なんというか……オカルト、っぽいお話ですね」

ダイヤ「この流れでそんなっ!?」

ルビィ「あ、あはは……確かにそうだねぇ」

ルビィ「花丸ちゃんが前に使ってた言葉だと……『ちょうしぜんてき』なお話なのかなぁ」

ダイヤ「スピリチュアル、ですわね」

千歌「ちょうしぜんてき……すぴり、ちゅある……?」

ダイヤ「……いえ、オカルトとほぼ同義です」

ダイヤ「科学、自然界の法則、常識……それらでは説明できない現象のこと、ですわ」


199: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:40:17.86 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「これらは……絵や文字が描かれた、ただの木の板に過ぎません」

千歌「……」

ダイヤ「でも、わたくしには……」

ダイヤ「描いてくださった人の感情、気持ち……温かさが」カラン…パッ

ダイヤ「一つの絵馬を見る時、こうやって手に取る時……伝わってくるようです」

千歌「はい、私も……」

千歌「スクールアイドルとしての記憶を失っていても……それでも、色々な絵馬から」

千歌「応援してくれている、一人ひとりの気持ちが……伝わってきます」

ダイヤ「……ふふっ」


200: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:40:46.72 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「この神田明神だって、そうですわ」フッ

千歌「えっ……?」

ダイヤ「古来から在る神様を慕い、敬う気持ち……その基に成り立っていて、毎日たくさんの人が訪れる」

ダイヤ「神様、願掛け……それらは、科学や自然界の法則で説明できるものではありませんが」

ダイヤ「ここを訪れる人たちは、誰もが……真摯に向き合っています」

千歌「……そうですね」

千歌「不思議です。さっきまでいた場所は、にぎやかで……色々な建物があって」

千歌「今いるここは……静かで、心が落ち着く……」

ルビィ「でも……どっちも、良いところでしょっ?」

千歌「……はい! それだけは……同じ、ですねっ」ニコッ


201: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:41:13.62 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……さて、と。そろそろ、沼津に戻りましょうか」タッ

千歌「ええっ、もうですか!?」

ダイヤ「もう、です。行きもそうでしたけど、ここから内浦までは大分時間がかかりますし……」

ダイヤ「遅くなったら大事です。何かあった時のためにも、早め早めに行動するのが基本ですわ」

千歌「……そう、ですね。ありがとう、ございます」

ダイヤ「あ、ありがとう? 別に、感謝されるようなことは……」

千歌「いえ……私の事を、大切に思ってくれてるんだなって」

千歌「今まで会ったAqoursの皆さんも……そうでした」

ダイヤ「……ふふっ、当然ですわ」

千歌「でも……」

ダイヤ「どうしました?」

千歌「わがままかも知れないけど……やっぱり、名残惜しいなって」

ルビィ「また、来られるよっ!」

千歌「えっ?」

ダイヤ「ルビィ……」

ルビィ「千歌ちゃんはまだ入院中だし、お姉ちゃんは来年……卒業、しちゃうけど」

ルビィ「それでも……お姉ちゃんが卒業した後でもいいっ。また、こうやって……」

ルビィ「3人ででも、Aqoursのみんなででも……必ず、来ようっ!」

千歌「……はいっ! 絶対、ですよっ」

ダイヤ「……もちろん、です」ニコ


202: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:41:52.89 ID:Yja1//47.net

プシュー…ガタン、ゴトン…

ダイヤ「……んぅ……」コクッ、コクッ…ドサッ

千歌「わっ!?」

ルビィ「お、お姉ちゃん?」

ダイヤ「……はっ! 大丈夫ですか、千歌さん!?」ガバッ

千歌「え、はい。肩がぶつかっただけなので……」

ルビィ「……お姉ちゃあこそ、大丈夫?」

ダイヤ「だ、大丈夫……ではありませんね。その、ちょっと疲れてしまったみたいで……」

ルビィ「もう乗り換えもないし、この電車で沼津に着くまで寝てた方が良いんじゃないかなぁ?」

ダイヤ「ですが、寝過ごしてしまったら大変ですし……」

ルビィ「大丈夫、ちゃんと起こすよっ!」

千歌「そうですよ、私たちに任せてくださいっ!」


203: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:42:23.89 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ふふっ、そうですか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

ダイヤ「でも、もし何かあったらすぐ起こしてくださいね」

ルビィ「うんっ」

ダイヤ「では……千歌さん、ちょっと肩をお借りしますわね」トサッ

千歌「はい、私ので良ければ……ゆっくり休んでください」

ダイヤ「ええ。二人とも……おやすみ、なさ……」スー、スー…

千歌「あはは……すぐ寝ちゃいましたね」

ルビィ「うん。ちょっと、じゃなくて……大分、疲れてたんだろうねぇ」


204: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:42:55.96 ID:Yja1//47.net

「……」

ガタン、ゴトン…

千歌「……今日は、ありがとうございました」

ルビィ「ううん、こちらこそ。とっても楽しかったよっ」

千歌「はい。そう言ってくれると、嬉しいですっ」

「……」

千歌「……この時間のこの電車には、誰もいないんですね」

ルビィ「うん。都会の電車とは、大違いだね」

千歌「でも、こうしていると……寂しい、とは思いませんね」フフッ

千歌「窓から差し込んでる夕日が……綺麗です」

ルビィ「そうだねぇ」


205: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:43:27.32 ID:Yja1//47.net

千歌「……ダイヤさんは、すごいですね」

ルビィ「えっ……と、突然どうしたの?」

千歌「いえ、ただ……今日の電車をしっかり調べてくれたり、何を持っていけばいいかも昨日教えてくれて……」

千歌「秋葉原でも、道案内をしてくれて……ダイヤさんが自分で『詳しくない』って言っていたのに」

ルビィ「……」

千歌「私は、今はこうですけど……それでも『頼りになる先輩だな』って、思っちゃいました」エヘヘ

ルビィ「うんっ。ルビィの大好きな、自慢のお姉ちゃんだもんっ!」

千歌「いいお姉さん、ですね」ニコッ


206: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:43:54.58 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……お姉ちゃんね。最初は、千歌ちゃんが作ろうとしたスクールアイドル部に反対してたんだよ?」

千歌「えっ、そうなんですか!? その、ダイヤさん相手に……良く通りましたね」

ルビィ「よ、良く通ったって……一応千歌ちゃんがしてたこと、なんだけど……」

千歌「あ、あはは……」

ルビィ「千歌ちゃんは……諦めなかったから」

千歌「……」

ルビィ「曜ちゃんと梨子ちゃんでグループを立ち上げた後……ルビィを、そして花丸ちゃんも……何度も勧誘してくれて」

ルビィ「善子ちゃんも、果南ちゃんも、鞠莉ちゃんも……お姉ちゃんも」

ルビィ「千歌ちゃんのおかげで……今の私が、お姉ちゃんが。Aqoursがあるの」

ルビィ「前にお姉ちゃん、『先輩としても、千歌さんに負けないくらい頑張らないと』って言ってたっけ」クスッ

千歌「……っ」


207: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:44:22.87 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……ルビィもね。千歌ちゃんのこともお姉ちゃんのことも、みんなのことが大好きで」

千歌「……」

ルビィ「そ、その……泣き虫だし、運動も得意じゃないけど……それでも……」

千歌「それ、でも……?」

ルビィ「好きだからこそ、みんなに負けないくらい……歌やダンスを頑張ろうって思えるんだっ!」

千歌「……ふふっ」

ルビィ「えへへっ!」

「……千歌、さ……」

千歌「わっ……ダイヤ、さん?」

ダイヤ「むにゃ……千歌、さ……ん……」

千歌「私の、名前……?」

ダイヤ「ルビ……ィ……すー、すー……」

ルビィ「ルビィの、名前も……」


208: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:44:49.47 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……ふふっ」

千歌「……あははっ」

千歌「かわいらしい寝言、ですねっ」

ルビィ「そうだねぇ」

千歌「かっこいいところだけじゃないって……こう言うのもなんですけど、ちょっと安心しました!」

ルビィ「あはは、ルビィもっ。どんな夢、見て……」

ポタッ…

ルビィ(――……え……?)


ダイヤ「千歌、さ……ん……ルビ、ィ……」ポロ…

ダイヤ「……か……な、い……で……すぅ、すぅ……」ポタッ


千歌「……ダイヤ、さ……ん……?」

千歌「――……なんで……泣い、て……」


209: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:45:15.85 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……お姉、ちゃ……ん……」グスッ

ガバッ

ルビィ「――……うぅ……うわぁぁぁぁん!! わぁぁぁぁん!!」ギュウッ

千歌「……ぐすっ……ルビィ、さん……」ゴシゴシ

千歌「……ダイヤ、さん……ぐすっ、うぅ……」ギュッ…

ダイヤ「すぅ、すぅ……んっ」パチッ…ゴシゴシ

ダイヤ(……手に、涙の……跡……?)

千歌「ぐすっ、ひっく……」

ルビィ「お姉ちゃん……千歌、ちゃん……ぐすっ……」ポロポロ

ダイヤ「……千歌さん、ルビィ……」

ダイヤ(わたくしが、泣いているのを……見て……)

ダイヤ「……ふふっ……ありがとう」ギュッ…ナデナデ


210: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:45:41.52 ID:Yja1//47.net

タッタッ…タッ

ダイヤ「……ふう。長かったけど、ちゃんと帰ってこれましたわね」

千歌「……」

ルビィ「お姉、ちゃん……」

ダイヤ「大丈夫です。全く……寝ながら泣くなんて、我ながら器用なことですわ」

ダイヤ「さあ、病院へ戻りましょう? その間にも、話すことはできますから」クスッ

ルビィ「……そう、だねっ」

千歌「……はい」


211: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:46:18.18 ID:Yja1//47.net

千歌「ダイヤさん……」

ダイヤ「……はい」

千歌「……泣いていた時、その……」

千歌「何か……夢を見ていたのかな、って思って……寝言も言ってましたし」

ダイヤ「……その通り、ですわ。細かくは覚えてませんけど……あんな夢は、二度と御免……ですわね」

ルビィ「ど、どんな夢を……?」


ダイヤ「――……わたくしのそばにいた、ルビィと千歌さんが……」

ダイヤ「わたくしに背を向けて……遠く遠くに走り去ってしまう夢です」


ルビィ「……っ」

千歌「そん、な……」

ダイヤ「追い付こうといくら走っても、どんどん距離が離れていって……」

ダイヤ「……わたくしが泣いていたのは、きっと……その夢があまりにも辛かったから、かしら」


212: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:46:52.85 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「でも……夢から覚めた時は、心底安心しました」

千歌「えっ?」

ダイヤ「夢の中では離れていった千歌さんとルビィが、一番近くにいたものですから」クスッ

ダイヤ「それに……」

千歌「……それに?」

ダイヤ「わたくしだって……まだ、千歌さんやルビィの元から離れるわけにはいきません」

ルビィ「……お姉、ちゃん……」

千歌「……」

ダイヤ「千歌さんは……今、記憶喪失で入院中、というのも勿論ですけど」

千歌「けど?」

ダイヤ「元から、放っておけない……というより、危なっかしい人でしたから」クスッ

千歌「え、え~っ!? 私って、一体……」

ダイヤ「ルビィは言うまでもなく、わたくしの大事なだ~いじな妹ですしね。ねえ、ルビィ?」ナデナデ

ルビィ「えへへっ、ありがとっ!」

千歌「……ふふっ」

「ふふっ、あはははっ……!」


213: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:47:18.31 ID:Yja1//47.net

ウイーン…ピシャン

ダイヤ「お疲れ様でした。早速、受付の方に報告してきますね」タッタッ…

<…キャアッ!? トッ、トッ…フゥ

千歌「つ、つまづいてる……」

ルビィ「あ、あはは……」

ダイヤ「戻りまし……な、何を笑っていますの?」

千歌「いえいえ」ニヤニヤ

ルビィ「なんでもないよぅ」ニヤニヤ

ダイヤ「むぅっ……い、いいから千歌さんはさっさと病室に! 『先生が呼んでいる』って、受付の方が言ってましたわよ」

千歌「うっ……また検査、かぁ」

ダイヤ「医者の指示に従うのは大事なことです。入院中なら、尚更ですわ」

ダイヤ「『医を信ぜざれば病癒えず』……記憶喪失と病は違いますが、これは変わりません」

千歌「ほぇ?」

ダイヤ「……なんでもありませんわ」ハァ…


214: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 13:47:44.86 ID:Yja1//47.net

ルビィ「じゃあね、千歌ちゃんっ!」

ダイヤ「もし話したいことがあれば、メールを送っていただければ返信しますので」

千歌「はい。二人とも、今日はありがとうございましたっ」

ダイヤ「ええ。それでは、失礼しますわね」

ウイーン…ピシャッ

ダイヤ「あら……もう、少し暗くなっているのね」

ルビィ「ねえ、お姉ちゃん」

ダイヤ「どうしたの?」

ルビィ「『医を信ぜざれば病癒えず』って、どういう意味なの?」

ダイヤ「そうね……」

ダイヤ「……『人を信じ想うのは、自らにとっても大事なこと』と言ったところでしょうか」

ルビィ「……そうなんだ」

ダイヤ「ええ、そうですわ」

トコトコ…


219: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:30:04.60 ID:Yja1//47.net

…ドサッ

ダイルビ「ふ~っ……」

ダイヤ「歩いたり走ったり……電車で寝たとはいえ、やっぱり疲れましたわね」

ルビィ「そうだねぇ。お姉ちゃんは、その……電車でも、あんまり眠れなかったみたいだし……」

ダイヤ「……いえ。これからお風呂に入って、ご飯を食べて……」

ダイヤ「……今度こそ、ゆっくり寝ればいいだけですわ」ナデナデ

ルビィ「そっか……そうだよねっ」

ルビィ「じゃあ、お風呂はお先にどうぞっ。お姉ちゃんっ」

ダイヤ「ええ、ありがとう。そうさせてもらうわね」

タッ、タッ…

ルビィ(……と、とは言ったけど……ちょっと、心ぼそ……)<ハジメータイマーイストーリー♪

ルビィ「ピギッ!? ち、着信……あっ、曜ちゃんからだっ」

ルビィ「お、お庭に出て……よいしょ、っと」タタッ トスッ…ピッ


220: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:30:35.35 ID:Yja1//47.net

曜『もしもし?』

ルビィ「こんばんは、曜ちゃんっ」

曜『こんばんは! ごめんね、突然電話しちゃって……し、しかも疲れてそうなタイミングで……』

ルビィ「だ、大丈夫だよ?」

曜『それならよかった! ダイヤさんは?』

ルビィ「今はお風呂に入ってるっ」

曜『そっか』

ルビィ「……それで、どうしたの?」

曜『うん……やっぱり、千歌ちゃんのことが気になっちゃってさ』

曜『今日、ダイヤさんとルビィちゃんが二人でアキバに行くって聞いた時から……ずっと、ね』


221: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:31:02.97 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……」

曜『アキバで何かに巻き込まれたら……って心配は、あんまりしてなかったけど。なんたって、ダイヤさんがついてるしっ』

ルビィ「あははっ。うん、お姉ちゃんのおかげで、何事もなく楽しめたよっ」

曜『でも、それとは別に……千歌ちゃんの記憶が』

曜『もしかすると、戻ったりするんじゃないか……って、ちょっと思ったんだ』

ルビィ「……そう、だよね。秋葉原は、あの場所は……」

曜『そう……千歌ちゃんが大好きなμ'sの、始まりの場所』

曜『……ルビィちゃんやダイヤさんには、言うまでもないことだろうけどさ』アハハ

ルビィ「……うん」

曜『それに、梨子ちゃんがこっちに来る前に居た場所でもあるっ』

ルビィ「そうだねぇ。梨子ちゃんは、音ノ木坂に通ってた、から……」


222: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:31:28.91 ID:Yja1//47.net

曜『音ノ木坂や神田明神には行ったの?』

ルビィ「神田明神には行ったよっ。音ノ木坂には、いけなかったけど……時間もあんまりなかったし」

ルビィ「それでね、『あの階段』で千歌ちゃんとお姉ちゃんが競争したんだっ!」

曜『へえ~っ! で、どっちが勝ったのかな~? お互い、ちょっと鈍ってそうだけど……!』

ルビィ「千歌ちゃんの勝ちでしたっ。小さな差だけど、ねっ」

曜『おおっ、ダイヤさんに勝っちゃうんだ。千歌ちゃん、入院中だからあんまり体動かしてなさそうなのに』

ルビィ「うん……二人のこと、じーっと見てたけど……千歌ちゃんは」

曜『……』

ルビィ「……記憶を失う前と、同じくらい……速かった、と思う」

曜『……っ』

ルビィ「記憶が戻ったりは、しなかった……けど」

曜『……そっか』


223: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:31:55.34 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……ねえ、曜ちゃあ?」

曜『どうしたの?』

ルビィ「……千歌ちゃんのこと、気になる……んだよ、ね。その……」


ルビィ「――……千歌ちゃんともう一度会ったりは、しないのかなって」


曜『っ!?』

ルビィ「あっ、せ、急かしてるわけじゃないよっ?」

ルビィ「る、ルビィだって、千歌ちゃんと会う前はすごく緊張したし……」

ルビィ「……そうは見えなかったお姉ちゃんも、実際は……多分、だけど」

曜『……』

ルビィ「……ただ、ね」


224: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:32:25.77 ID:Yja1//47.net

ルビィ「……善子ちゃんが、LINEで言ってたの」

ルビィ「――……曜ちゃんが、なんだか……思い詰めてるように見えた、って」

曜(っ……よ、善子ちゃん、も……)

曜『……あのエセ堕天使め、ルビィちゃんにまで心配を……』

ルビィ「あ、あはは……」

ルビィ(エセ堕天使って……)

曜『……ま、思い詰めてるのは……そうなんだけど、ね』

曜『善子ちゃんの言う通りだし……ルビィちゃんが今言ったように』

ルビィ「……」

曜『千歌ちゃんにまた会うことも、考えてるし……迷ってもいる、かな』


225: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:32:51.50 ID:Yja1//47.net

曜『でも……善子ちゃんもルビィちゃんも、私のことを気にかけてくれてるってだけで……とっても嬉しいっ』

曜『そして、先輩としては面目ないであります……』

ルビィ「ピギッ!? そ、そんなことないよっ!」

ルビィ「ダンスも上手だし、体力もあるし……曜ちゃんが作る衣装も、とっても綺麗で……かわいくて」

ルビィ「だから、その……ルビィの、自慢の先輩だよっ!」

曜『……ありがとっ、ルビィちゃん!』

ルビィ「うんっ! ……だからね、ルビィは……曜ちゃんの力になりたいなって」

ルビィ「善子ちゃんもきっと、そう思ってる……そこには、先輩とか後輩は関係ないよっ」

曜『あははっ。ホントに頼りがいのある後輩……じゃなかった、仲間だねっ!』


226: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:33:18.27 ID:Yja1//47.net

曜『……でも、やっぱり私……』

ルビィ「えっ?」

曜『……もうちょっと、自分で考える時間が必要なんじゃないか……って思うんだ』

ルビィ「……そっか。曜ちゃんがそう思うなら、それがいいと思うっ!」

曜『うん、ありがとっ』

「……」

…ガタ、ガタン

ルビィ「……っと、お姉ちゃんが上がったみたい。ルビィもお風呂入らないとっ」

曜『そっか、じゃあここまでにしようっ。話してくれてありがとね!』

ルビィ「こちらこそっ、また話そうねっ」

曜『もちろんっ、じゃあね!』ピッ

ルビィ「はーいっ」ピッ


227: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:33:49.09 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ふう、戻りました……あら、誰かと話していたの?」

ルビィ「うん、曜ちゃんとだよっ!」

ダイヤ「ふふっ、そうですか」

ダイヤ「さっ、ルビィもお風呂へどうぞ。今日は汗もかきましたしね」

ルビィ「……そうだねっ。じゃあ入ってくるっ」スタッ

ダイヤ「ええ」

ルビィ(……)トテトテ

ルビィ(……曜ちゃん、声は明るかったけど……)

ルビィ(何度も……言葉に詰まってた、ような……)

ルビィ「……曜、ちゃん……」

タッ、タッ…


228: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:34:15.84 ID:Yja1//47.net

プルルルッ

ダイヤ「……今度はわたくしの携帯に? 曜さん、ではないでしょうし……もしもし」ピッ

鞠莉『グッドイブニーング! ダイヤ!』

ダイヤ「……」キーン

ダイヤ「……はあ、もう少し静かにお願いしますわ」

鞠莉『ため息をつくと、幸運が逃げちゃうわよ?♪』

ダイヤ「不幸は善子さんが全部被ってくれるから大丈夫」

鞠莉(お、オゥ……)

ダイヤ「……と、花丸さんが言ってましたから、問題ありません」

鞠莉(マルもなかなか言うわね……)

ダイヤ「それで、やっぱり……」

鞠莉『ええ、ちかっちのこと……よ』


229: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:34:41.56 ID:Yja1//47.net

鞠莉『今日は楽しめた?』

ダイヤ「ええ、色々な場所を回ってきましたわ。歩き疲れてしまいましたけど」クスッ

ダイヤ「……前に行ったように、今度は……」

鞠莉『……』

ダイヤ「みんなでまた……来なければいけませんわね」

鞠莉『……その通りね♪』

ダイヤ「でも、今は……」

鞠莉『ん~?』

ダイヤ「一人一人で千歌さんと向き合う時間も、必要ではないか……そう思ったりもします」

ダイヤ「……今、鞠莉さんが考えている事だと思いますけど」

鞠莉『もう、ダイヤったらクールなんだからっ♪』


230: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:35:08.50 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「わたくしも、正直……今日、こうやって千歌さんと会うのには勇気がいりました」

鞠莉『……』

ダイヤ「千歌さんが、わたくしやルビィのことを……何も覚えていない」

ダイヤ「そう考えるだけで……会話に詰まったりしないか、とか、不安を煽るようなことを言ってしまうのではないか、とか……」

ダイヤ「会う前に思うことは、不安ばかり……行きの列車でも、そのようなことを考えていたくらいです」

ダイヤ「それでも……ルビィが一緒に居るだけで、その緊張は幾分楽になりましたけど」クスッ

鞠莉『やっぱり、姉妹のパワーは偉大……ってことかしら?』

ダイヤ「ええ、それは間違いありませんわ! ……ですが、それ以上に……」

鞠莉『それ以上、に?』

ダイヤ「千歌さんがあまりにも千歌さんらしかったので、無用な心配だったと実感させられました」フフッ


231: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:35:36.48 ID:Yja1//47.net

鞠莉『梨子が言っていた……その通りだった、ってことね』

ダイヤ「そうです。『記憶を失っても、その人間らしい振る舞いは失われない場合が多い』……」

ダイヤ「メールに書いた、病室での出来事は覚えてます?」

鞠莉『ええ。ちかっちが病室を抜け出して、ダイヤやみんなに会いに来た、ってお話しよね』

ダイヤ「あの時は、なんとなく程度にしか感じてませんでしたが……今日会ってみて、確信しました」

ダイヤ「記憶を失っていても、それは変わらないものだ……と」

鞠莉『……』

ダイヤ「千歌さんの個性……人懐っこさに明るさ、そして……輝きを、何かを追いかけていく力……」

ダイヤ「それらが、失われていたら……わたくしは、途方に暮れていたと思います」

鞠莉『……そう、よね』


232: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:37:15.11 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「ただ、それと同時に……記憶喪失に関しても、実感は強まりました」

鞠莉『……』

ダイヤ「『思い出に関する記憶は、完全に失われている』……これも、善子さんが言っていた通りです」

ダイヤ「わたくしたちが、みんなで秋葉原を訪れた時の記憶……」

ダイヤ「神田明神にある階段をのぼったことも、お参りで自らが言っていたことも……」

鞠莉『願い事を口に出すと叶わない、ってヤツ?』

ダイヤ「……ふふっ、よく覚えているのですね」

鞠莉『ええ♪ あの時のちかっち、とってもキュートだったから♪』

ダイヤ「……それも、思い出の何もかもが。今の千歌さんの中には、存在しない」

ダイヤ「……改めて、目の前に突き付けられたことです」

鞠莉『……っ』

ダイヤ「千歌さんの中に在る性格と、そこに無い記憶。二つの大きな差には……苦心しなかった、とは言えません」


233: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:37:44.45 ID:Yja1//47.net

ダイヤ「……でも、鞠莉さんだって……」

鞠莉『な~に?』

ダイヤ「この話を聞いて……千歌さんと会いたくない、とはならないでしょう?」クスッ

鞠莉『……ふふっ、当たり前じゃない!』

ダイヤ「それなら、早く明日に向けて準備をしたらどうです?」

鞠莉『ええ……ありがとね、ダイヤ。その一言で、今度こそ……決心がついたわ』

ダイヤ「ふふっ、それはなによりです。では、切りますわね」

鞠莉『グッナ~イッ♪』ピッ

ダイヤ「はい、おやすみなさい」ピッ

ルビィ「うゅ……今度は鞠莉ちゃんから?」トコトコ

ダイヤ「戻ったのね、ルビィ。ええ、今度は鞠莉さんからです」

ダイヤ「ほぼ同じ時間帯で、わたくしとルビィに1回ずつ着信が来るなんて……なかなかの偶然、ね」

ルビィ「……みんな、千歌ちゃんのことを気にかけてるんだねぇ」

ダイヤ「……ふふっ、そうね」


234: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:38:18.40 ID:Yja1//47.net

曜(風……)ヒュー…

曜「お昼は、晴れていたけど……」

曜(今、空にあるのは……黒くて厚い雲……)

曜「こんなんじゃ、やっぱり星は見られない……かぁ」

ヒュー…ヒュウッ…

曜(……ルビィちゃんには「自分で考える時間が必要」って言ったけど……)

曜(本当は、ただ……)

「……」

曜(会うのが怖くて、避けてるだけ……逃げてるだけ)

曜(……そう、なのかな)

曜(善子ちゃんと3人でゲームしたときは、とっても楽しかったけど)

曜(その後に見た、千歌ちゃんの表情が……)

曜(……今も、頭から離れない……)


235: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:38:45.42 ID:Yja1//47.net

曜「……ずっと、一緒に居たのに……なんでだろう」

曜「こういう時に、近くにいて……声をかけてあげられない、なんて」

曜(あの時も、こうやってベランダにいて……千歌ちゃんは、私のもとに駆け付けてくれて)

曜(私に……手を伸ばしてくれたのに)

ヒュー…

曜(梨子ちゃんも、教えてくれた)

曜(「千歌ちゃんは、ずっと曜ちゃんの誘いを断り続けていたことを気にしていた」)

曜(「だから、曜ちゃんと一緒に始めたスクールアイドルは……絶対やり遂げる」……って)

曜「その決意だけは、絶対に曲げたりしない……そう、言ってたっけ」

曜(でも、それも……千歌ちゃんの中には、もう……)


236: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:39:15.51 ID:Yja1//47.net

曜「……違う」

曜(千歌ちゃんの方に踏み出せない……歩み寄れない)

曜(……決意がないのは……私の方、だ……)

ポツ、ポツ…

曜「……雨?」

ポツ…ザザーッ!

曜「って、めちゃくちゃ降りはじめた!? まずっ、今すぐ部屋に退避だっ!」タッ、ピシャン!

曜「はぁ~、ちょっと濡れちゃったかぁ。とりあえず、服を着替えて……」

曜「……ふわぁっ……ね、寝ようかな……」


237: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:39:45.36 ID:Yja1//47.net

コンコン、ガララッ…ガタン

千歌「あっ、先生! こんばんはっ」

女医「ええ、今日もおつかれさま。すごい雨ね」

ザーッ…

千歌「そうですね……明日までには止んでくれないと、困るんですけど……」

女医「あら、出かけるの?」

千歌「はいっ。鞠莉さんが、『明日学校でソフトボールしよう』って言ってくれたので!」

女医「それはまた唐突ね」

千歌「ソフトボールと言っても、ルールを覚えてるだけだったんですけど……鞠莉さんが詳しく説明してくれましたっ!」

女医「そう。まあ、これはただの通り雨よ。すぐ止むわ」

千歌「本当ですか? 良かったですっ」

千歌「……ところで、明日のお昼にやる検査は……」

女医「夜に回すわ」

千歌「い、いっつもそれですね……」

女医「大丈夫よ。高海さんは気にしなくていいの」


238: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:40:11.59 ID:Yja1//47.net

女医「そういえば、あなたはソフトボールが得意なんだっけ」

千歌「えっ、そうなんですか……って、どこでそれを!?」

女医「スクールアイドルとしての、あなたのプロフィールに書いてあるわ。ネットで検索すれば一発よ」フフッ

千歌「うぅ、なんだか恥ずかしいなぁ……」

女医「もう……アイドルが恥ずかしがってたら、ステージで歌って踊るライブなんて出来たものじゃないわよ?」

千歌「そ、それはそうですけど……なんだか上から目線のような」ジトー

女医「気のせいじゃない? ……そうだ、伝えておくことがあったわ」

千歌「なんですか?」

女医「高海さんが記憶を失ってから、今までやってきた色々な検査……そのうちの『記憶喪失後の動作』についてね」

千歌「えっ……は、はい……」


239: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:40:43.47 ID:Yja1//47.net

女医「単刀直入に言うと、体を動かすこと……動作については、一切の欠落が見られなかった」

女医「検査で試行した動作だけでなく、すべての動作に関しても『抜け落ちている可能性は限りなく低い』……」

女医「今までの検査で判断したこと、よ」

千歌「そう……ですか。はぁ~……良かったです。まあ、私も薄々感じてはいましたけど」

女医「……軽く流してるけど、スクールアイドルとしてのダンスもその内に含まれるわよ」

千歌「そうなんですか~……ええっ!?」

千歌「で、でも、私……ダンスを練習した記憶なんて、全く……」

女医「そうね。わかりやすい言葉だと……『体が覚えてる』って言うのかしら」


240: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:41:09.57 ID:Yja1//47.net

女医「脳に損傷を受けたのは同じでも……動作が抜け落ちる場合と、そうでない場合があるわ」

女医「日常生活での動作が抜けることは珍しいけど、そこから先はまちまち……脳が損傷を受けた部分にも左右されるわね」

女医「ただ、高海さんは全く問題なかった……そういうことよ」

千歌「ほぇ~……」

女医「……最後の言葉だけ覚えておけばいいわ」

女医「ただ……例えば私がここで単に『踊ってみて』って言っても、そうはできないわね」

千歌「そうなんですか?」

女医「ええ。体が動作を覚えているだけであって、意図的にそれを引き出すことは……少なくとも、今は不可能よ」

女医「ただ『この曲のこの部分でこうして』とか、お手本を見せてもらったりすれば……」

女医「『ダンスを練習した記憶』が無くても、すんなりこなすことが出来る。そんなところね」


241: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:41:36.69 ID:Yja1//47.net

千歌「な、なるほど……」

女医「だから、ダンスの他にも……明日やるソフトボールでも、ちゃんと動けると思うわ」

女医「……あなたのプロフィールに、特技として書くくらいだしね」クスッ

千歌「もう、その話はやめてくださいよぅ……そうだっ」

千歌「こうなったら、そう言う先生の特技も教えてもらいますっ!」

女医「そうね……ピアノ、かしら。あなたの友達、桜内さんと同じ……ね」

千歌「じゃあ、今度聴かせてくださいっ!」

女医「また唐突な……でも、無下にするわけにもいかないか。約束するわ」

女医「でも、ピアノを聴かせるのは……高海さんの退院祝いにしようかしら」クスッ

千歌「わかりました、さっさと退院しますね!」

女医「ず、随分簡単に言ってくれるわね……」


242: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:42:10.89 ID:Yja1//47.net

ザーッ…

千歌「……雨、止みませんね」

女医「本当ね。これじゃあ、外にも出られないわ」

千歌「この時間に、病院の外へ出ることもあるんですか?」

女医「ええ。休憩がてら、星を見に……ね。ここから見る星は綺麗だから」

千歌「へぇ~、なんだか素敵ですねっ」

女医「ふふっ、ありがとう」

ザザーッ…

千歌「……そうだ。えっと、こんなこと言ったら困っちゃうかもしれませんけど……」

女医「困らないわよ、どうしたの?」

千歌「その……」


千歌「……最近、私と会ってくれる……Aqoursの、みんなが……」

千歌「――……流す、涙を見ると……私も……悲しくなって、泣いちゃって」

千歌「でも、そのどれもが……私を想ってくれている、涙でもあって」

千歌「――……こう、『二度と忘れないんじゃないか』ってくらい……心に、残ってるんです」


243: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:42:40.14 ID:Yja1//47.net

ザーッ…ザザーッ…

千歌「こうやって、雨を見てると……それを思い出しちゃって」エヘヘ

女医「……そう、ね」

「……」ザーッ…

女医「……涙が出る理由は、他にもあるけど……高海さんが今言ったのは、感情が高ぶりによるもの」タッ…

千歌「……」

コツ、コツ…

女医「嬉しいとか、悲しいとか。大きな感情がトリガーになって、人は泣く……涙を流すの」

女医「……あなたは、よくわかってると思うけど……ね」


244: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:43:24.73 ID:Yja1//47.net

女医「医学的には、涙は『涙腺から分泌される水分』に過ぎない」

女医「もちろん含んでいるものは違うけど、水というだけなら……」コツ、コツ…

女医「……今こうやって降っている、雨と同じ」ザーッ…

千歌「……」

ザザーッ…

女医「でも……」

千歌「……でも?」

女医「それはあくまで、医学的な話よ」

女医「――……涙は、人が抱く感情が詰まっている……言うなら『感情の結晶』ね」

千歌「……感情の、結晶……」


245: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:43:54.34 ID:Yja1//47.net

ザーッ…


女医「……そして、その涙には――……人を動かす力がある」


千歌「……っ!」

女医「あなたが言ったように……」

女医「人が泣いてるのを見て、つられて泣いてしまったり……居ても立っても居られず、泣いている人に寄り添ったり」

女医「それらは全部、涙が持つ……不思議な力によるもの」

女医「――……感情を、心を……人を動かす力が、確かに宿っている」

女医「友達の涙が、深く印象に残ってるのは……あなたが、それに心を打たれたから」

女医「……私は、そう考えるわ」

ザー…ポツ、ポツ…

千歌「……私も、そう思います」

女医「……なんて、ね」

千歌「……えっ?」

女医「前半はともかく、後半については……出まかせって程じゃないけど、私自身も半信半疑だったりするのよ」クスッ

千歌「え、ええ~っ!? そ、そんなぁ~……」


246: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:44:23.72 ID:Yja1//47.net

千歌「私、先生の話……すごく良い話だな、って思ったのに……」

女医「そう、良い話でしょ?」コツ、コツ…

千歌「えっ?」

女医「言った通り、根拠もないし自身も疑っている……けど、それだけじゃない」

女医「『こうだったらいいな』って、どこかで思っている……信じている部分だってあるわ」

女医「その思い、信じることだって……自分の力になるはず、よ」

千歌「む、難しい話ですね……わ、わっ!?」ポンッ

女医「大丈夫。高海さんなら絶対にわかることよ、私が保証するわ」ナデナデ

千歌「む、むぅ~……それこそ、根拠がない話じゃないですかっ!」

女医「ええ。私がそう思ってるだけね」ナデナデ

千歌「な、なっ!? もう、髪がくしゃくしゃになっちゃうからやめてくださいっ」パッ、グイッ

女医「いたっ……ちょっ、強く掴み過ぎよっ! 悪かったから、離しなさいって!」バタバタ


247: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 19:44:54.33 ID:Yja1//47.net

女医「……じゃ、今日もなるべく早く寝るのよ? 明日もあるし、ね」

千歌「はい……こうやって話せて、楽しかったです。ありがとうございました」ニコッ

女医「ええ、こちらこそ」クスッ

女医「じゃあね」

ガララッ…ガタン

千歌「よし、今日は早く寝て……」

千歌「……あっ」

ポツ…ピチャン

千歌「雨、止んでる……先生の言った通り、かぁ」フフッ

千歌「っと、寝ないと寝ないと……」

…スゥ、スゥ…



250: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/30(日) 21:28:12.65 ID:0Ooz38v5.net

この女医さんトマト好きそうだな



255: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:06:21.77 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「シャイニー☆」

千歌「本当に、良く晴れてますね……昨日の大雨が、嘘みたいです」

鞠莉「まさしく『一寸先はシャイニー☆』ね♪」

千歌「なんですか、それ?」

鞠莉「……」

千歌「それにしても、このグラウンド……広い、ですね」タッタッ

鞠莉「そうね、二人で遊ぶにはちょっと広すぎるくらいかも」

千歌「いえ! 伸び伸びと動ける気がするので、いいと思いますっ!」

鞠莉「そう? なら、いいんだけど」クスッ

鞠莉「……それに、この場所は……」

千歌「……なんですか?」

鞠莉「ちかっちがこの学校に通い続ける上で……またお世話になる場所だから、ね♪」

千歌「……そう、ですねっ」ニコッ


256: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:06:48.44 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「ここまでの道は大丈夫?」

千歌「はい。今日は暑いし、病院からは歩くけど……それでも、まだ全然動けますっ」

千歌「……たぶん!」

鞠莉「期待してるわ♪ でも、まずは準備運動ね」

千歌「準備運動……怪我をしないよう、体を動かしておくんですよね」

千歌「……どんなことをするんでしたっけ?」

鞠莉(……っ)

千歌「鞠莉さん?」

鞠莉「じゃあ、マリーがお手本を見せてあげる♪ ちゃんとついてくるのよ?」

千歌「はいっ!」

鞠莉「……と、その前にこれを……」ドサッ

千歌「ちょっと大きな荷物、ですよね」

鞠莉「昨日説明した通り、ソフトボールに使う道具よ♪」


257: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:07:18.70 ID:dWPliCK4.net

千歌「よいしょ……っと。ふう……」

鞠莉「オッケー、パーフェクツ! 昨日、ちかっちが言ってた通りね♪」

千歌「はいっ! 動作に関しては、お手本があったり、やり方を教えてもらったりすれば問題ない……そう、先生から言われたので」

鞠莉「じゃあ、いよいよ本番ね♪ カモン、ちかっち!」

千歌「は~いっ」トテトテ

鞠莉「まずこれが……ボールね」ガサガサ、ポテッ…コロコロ

千歌「投げたり捕ったり、打ったりするヤツですよね!」

鞠莉「そう、投げたり捕ったり打ったりするヤツね! で、これが……グローブ!」ガサ、ポイッ

千歌「手にはめてボールを捕るヤツですね!」

鞠莉「イェス♪ それで、これが……バットよ!」ガサ、カラン…コロコロ

千歌「打つヤツ!」

鞠莉「そう、打つヤツ!」


258: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:07:53.12 ID:dWPliCK4.net

「……」コロコロ…

鞠莉「……まずは基本的な動作からね。キャッチボールから始めるわよっ」

千歌「きゃっち、ぼーる……投げて捕るやつ、ですよね?」

鞠莉「そう! さっきと同じで、マリーが教えてあげればすぐよ♪ 最初は、ボールを投げるところから……」

鞠莉「まず、グローブは利き手と逆……左手につけるの。それで、ボールを右手に持って」

千歌「こう、ですか?」

鞠莉「そうっ! それで次は、マリーのグローブめがけてボールを投げるの! そうね……」タッタッタッ…

鞠莉「……最初はこのくらいの距離ね。さぁ、カモン!」

千歌「投げる体勢とかは……とりあえず、普通に投げてみますね。えいっ!」

シュッ、スパァン!

鞠莉「……」

鞠莉(速っ!?)

千歌「……どうでした?」

鞠莉「えっ……と、ナイスボール!」

千歌「やったっ!」


259: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:08:18.91 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「ただ、フォームはもう少し変えた方が良いかしら? 今度はマリーが投げるから、ちゃんと捕らなきゃダメよ?♪」

千歌「は、はいっ」

鞠莉「よ~く見てるのよ? ちかっちのフォームは……こんなかん、じっ!」ブンッ

ビュッ…パシィッ!

千歌「おお~っ……速い……」

鞠莉(……キャッチも完璧……)

千歌「今のを真似すればいいんですねっ」

鞠莉「オフコース♪ さっ、いつでもいいわよ?」

千歌「こう、やって……こうっ!」ブンッ

ビュウッ、スパァァン!

鞠莉「……オゥ……ぐ、グレイッ! 良くできてるわ♪」

千歌「はいっ、大分投げやすくなりました!」

鞠莉(やるわね、ちかっち……!)


260: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:08:45.44 ID:dWPliCK4.net

千歌「……私、記憶喪失になる前も……」

鞠莉「ええ♪ 同じこのグラウンドで……9人みんなで集まってやったことが1回だけ……ね」

鞠莉「言い出しっぺはちかっちだったのよ?」

千歌「えっ? あ、あはは……」

千歌「……鞠莉さんも、私のことをよく覚えてるんですね」

鞠莉「ん~?」

千歌「今の、投げ方とか……鞠莉さん自身のことじゃない。私のこと、ですよね」

千歌「記憶喪失だから、っていうのは勿論ですけど、それでも……私が覚えてないことを覚えてるんだな、って……」

鞠莉「当然よ♪」

千歌「当然なんですか!?」

鞠莉「イェス♪ なんたって、ちかっちはAqoursのリーダーなんだから!」

千歌「……っ」

鞠莉「リーダーのことをよく見ていないメンバーが……ダンスとか歌とか、歌詞作りに衣装作りとか」

鞠莉「色々なことで息を合わせる必要があるスクールアイドルなんて、出来っこないわよ」フフッ

鞠莉「……『鞠莉さん"も"』ね」クスッ

千歌「えっ?」


261: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:09:16.99 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「私だけじゃなかったでしょ? ちかっちのことをよく覚えているメンバーは」

千歌「っ!」

鞠莉「ふふっ、ちかっちが自分で言った……そして、自分が思ってる通りよ」

鞠莉「まあ、ちかっちだけじゃないけどっ♪」

千歌「そう、なんですか?」

鞠莉「Aqoursのメンバーは、みんなが他のメンバーのことを理解しようとしてる……私は、そう思うの」

鞠莉「ただ、だからと言って、全てを知ってるわけじゃないわ。それに……」

鞠莉「――……お互いをよく知っていて、想ってるからこそ……踏み込めない部分だってある」

千歌「……踏み込めない、部分……ですか」

鞠莉「湿っぽい話だけど……マリーはそういうの、経験済みだから♪」テヘペロ


262: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:09:43.29 ID:dWPliCK4.net

千歌「……鞠莉さんは、経験済みなんですね……」

鞠莉「深刻そうな表情でそこだけ言うのはダメデース」

千歌「……辛いこと、ですよね」

鞠莉「……そうね。本音を言っていれば、気持ちを伝えていれば……」

鞠莉「――……きっと、すれ違わなかったのにって。そう思うと、後悔するし……やるせなくもある」

千歌「……」

鞠莉「でも……」

千歌「えっ?」

鞠莉「それでも、今があれば、ね。すれ違いも、良い思い出……とは、ならないかも知れないけど」

鞠莉「……思い出として笑って話せる日が、来ると思うの♪」

千歌「……そうですね。私も、そう思います」ニコッ


263: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:10:12.41 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「……それに、ちかっちは……」

千歌「……へ?」

鞠莉「ちかっちには……周りを巻き込んで、周りに踏み込む力があったの。いや……」

鞠莉「……『あった』ではないわね。今だって、きっと……変わってない」

千歌「……っ」

鞠莉「いい? 大事なことよ。ちかっちは……」ザッ…

千歌「っ!」ガバッ

鞠莉「自分を……自分、をっ!」グッ…ビュンッ!


…ズバンッ!


鞠莉「……大切に、ね。ナイスキャッチ♪」

千歌「ふふっ……いい球、ですね」


264: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:10:38.98 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「じゃ、次はピッチャーとしての投げ方を教えマース♪」

千歌「バッターに向かって球を投げるのは覚えてますけど、さっきみたいに投げるだけじゃ……」

鞠莉「ノンノン。違うわよ、これはソフトボールなんだから♪」

鞠莉「ちかっちには、マリーの言う場所でグローブを構えてもらうわ。さぁ、レッツゴー♪」

千歌「は、はいっ! えーっと……」タッタッタッ…

鞠莉「もうちょっとだけ後ろ……もうちょっと左ね」クイクイ

鞠莉「……オッケー♪ 次は、マリーと同じように屈んでもらえる?」

千歌「こう、ですか?」

鞠莉「そうそう、それで……グローブはこんな感じで構えるの」

千歌「え~っと、こう……ですよね。な、なんだかちょっとバランスが……」ユラユラ

鞠莉「キャッチャーは特殊なポジションだからね♪ 記憶を失う前のちかっちも、就いたことないだろうし」

鞠莉「私のボールを受けてもらうだけだから、バランスとかフォームはあまり気にしなくていいわよ」


265: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:11:10.94 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「ただ、キャッチだけはしっかりね。防具もつけてないし」

鞠莉「それに……私のボールは速いわよ?♪」

千歌「いえ、かならず捕ります!」

鞠莉「その意気よ♪ フォームもよく見ていてね、いくわよ……」ザッ…

グッ…グルン、ビュウッ! 

千歌「っ!」バッ

…ズバァン!

千歌「……痛っ!? じ、ジンジンする……」

鞠莉「そういえば、キャッチャーミットじゃないから少し痛いかも」

千歌「なっ……初めに言ってくださいよそれっ!」

鞠莉「ソーリー♪」テヘペロ


266: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:11:37.03 ID:dWPliCK4.net

千歌「腕を回して、下手投げするんですね……」

鞠莉「ええ。と言っても、ちかっちはピッチャーもやってたからすぐ出来ると思うわ」

鞠莉「最後はバッターね。今みたいに投げられた球を……」グッ

鞠莉「このバットで、こんな感じで……!」グイッ、ブンッ!

鞠莉「打ち返す……簡単なお話しよ♪」

千歌「ええっ、簡単なんですかそれ……」

鞠莉「ちかっちはバッターとしてもかなり上手かったわよ? 私ほどじゃなかったけど♪」

鞠莉(……後半は嘘だけど)

千歌「むっ……そう言われると、簡単には引き下がれませんね」

鞠莉(……っ! ちかっち、らしい……)

鞠莉「ふぅ~ん――……その言葉、待っていたわ♪」


267: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:12:14.46 ID:dWPliCK4.net

「……」ジィッ…

鞠莉「好きな方を選んで……と言いたいところだけど、マリーはピッチャーをやらせてもらうわね」

千歌「鞠莉さんがピッチャーですか?」

鞠莉「ええ♪ さっき言った……打撃が良かったちかっちを、きりきり舞いにしてあげる♪」

千歌「……わかりました。じゃあ、私がバッターですね」

鞠莉「オッケー♪ じゃあ、ファウルラインは……え~っと、地面に線を……この辺でいっか♪」ザッザッ

千歌「この辺でいっか、って……」

鞠莉「線の内がフェア、外がファウルね」

千歌「わかりましたっ」

鞠莉「ストライクとボールの判定は……そうね、あの壁はわかる?」

千歌「はい。な、謎の四角い枠?がありますね」

鞠莉「あそこがちょうどいいかしら。四角い枠に入ったらストライク、そうでなかったらボール……それでどう?」

千歌「……はい、良いと思います」

タッ、タッ…ザッ

鞠莉「遅いゴロとフライ、三振は私の勝ち。それ以外、ヒット性の当たりはちかっちの勝ち……いいわね?」

千歌「いいですよ」

「……」

千歌「……始めましょう」

鞠莉「いざっ!」パシッ


268: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:12:40.75 ID:dWPliCK4.net

鞠莉(前に集まった時も、こうやって……ちかっちがバッター、私がピッチャーで勝負したことがあったっけ)

鞠莉(あの時は、ちかっちに……レフトを超えるほどの痛打を浴びて、私の負けだった)

鞠莉(それだけじゃない。私の球を打てたのは、ちかっちに……曜と果南だけど)

鞠莉(曜と果南も、ボテボテの内野ゴロ。あの時、打ち取れなかったのは……ちかっちだけ)

鞠莉(記憶喪失、それには関係なく……借りは返させてもらうわよ、ちかっち!)

ザッ…

千歌「っ!」グッ

鞠莉「……」グイッ

鞠莉「……はぁっ!」グルン、ビュッ!

千歌「ふっ!」ブンッ

カキィィン!

鞠莉(……え?)

ビュウッ! …ポテッ、コロコロ…

千歌「ヒット……ですよね?」ニコッ

鞠莉(オゥ……)


269: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:13:09.31 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「……やるじゃない♪」

千歌「やるというか、私の勝」

鞠莉「第二戦よっ!」

千歌「ええっ……でも、何度やっても同じだと思いますよ?」

鞠莉「さあ、どうかしら♪」

鞠莉(記憶喪失に関係なく……なんて、余計なお世話だったわね)

鞠莉「……いくわよ?」

千歌「はい」

グッ…グルン、ビュッ! …カキィン!

鞠莉「……っ」

鞠莉(三遊間に速いゴロ……今の速さなら、まず抜けていた……)


270: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:14:03.35 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「も、もう一回よっ!」

ビュッ、カキィン!

鞠莉(れ、レフト方向に速い打球……レフトが居たとしても、取れるわけない……)

鞠莉「せいっ!」

千歌「はっ!」

ビュウッ、カキィン!

鞠莉(今度は、センター前……)

鞠莉「くっ……とりゃっ!」

ドカッ…コロコロ

千歌「ボール球、ですね」

鞠莉「はぁ、はぁ……ていっ!」

千歌「ていっ!」

ビュッ…カァァン!

鞠莉(……三塁線破る、長打コース……)

鞠莉「はぁ、はぁ……たあっ!」

千歌「ふぅっ!」カキィン!

鞠莉「おりゃっ!」

千歌「たあっ!」カキィン!

鞠莉「せいっ!」

千歌「はあっ!」カキィィン!



271: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:14:51.17 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「……はぁ、はぁ……」

千歌「ま、鞠莉さん……もうそろそろ、やめに……」

鞠莉「……あら? はぁ、はぁ……ちかっち、はっ……もう、限界なの?♪」

千歌「むっ……ち、違いますよっ! ただ、鞠莉さんが……」

千歌「――……この、炎天下の中で……次が50球目です」

千歌「それで、全ての投球がヒット性の当たりと……ボール球」

千歌「ファウルボールもありましたけど……空振りと見逃しは、いままで……」

千歌「……確かに、私だって疲れてます。でも……鞠莉さんは、もっと……」


272: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:15:24.56 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「いいえ……はぁ、はぁ……ちかっちには、悪いけど……」

鞠莉「もうちょっと……というか、私が勝つまで付き合ってもらうわ……はぁ、はぁっ」

千歌「……でも、それ以上やると」

鞠莉「いいからっ! お願い、打席に」


千歌「さっき『自分を大切にして』って言ってくれたのは……鞠莉さん、ですよ?」ニコ


鞠莉「……っ……」

ガクッ…ドサッ

千歌「ま、鞠莉さん!? 大丈夫ですか!?」

「……」

鞠莉(……私……何、やってるんだろ……)


273: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:15:56.00 ID:dWPliCK4.net

鞠莉(勝負を挑んでおいて、全部打たれて……)

鞠莉(ちかっちに負けたくないからって……わがまま言って、こうやって勝負を引き延ばして……)

千歌「……」

鞠莉(――……ちかっちに投げかけた言葉を……自分は破る、なんて)グスッ

千歌「……っ」

グッ、スタッ…

鞠莉「ぐすっ……私の……完敗、ね♪」ゴシゴシ

千歌「そう……なの、かな……」

千歌「……でも、今……」

鞠莉「……えっ?」

千歌「……鞠莉さんの考えてることも……わかる気がします」


274: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:16:27.50 ID:dWPliCK4.net

ザッ…

鞠莉(打席、に……?)

千歌「私――今日、こうやって鞠莉さんに会うまでに……他のメンバーにも会ってきて」

千歌「その中で『私を大切に思ってくれてる』って感じたことが……いっぱいありました」

千歌「――鞠莉さんも、同じです」クスッ

鞠莉「……っ」

千歌「だから、私も……その思いを、同じくらい大切に思ってます」

千歌「……けど……その、なんというか……」

鞠莉「……」


千歌「――……それでも、譲れない部分も……きっと、あるんじゃないかって」


鞠莉「……っ」

…ポテッ、コロコロ…


275: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:16:58.04 ID:dWPliCK4.net

千歌「……わがまま……なのはわかってます。けど」

鞠莉(……そっか)

千歌「こう、曲げられない部分……自分らしさも、同じように大切……というか」

鞠莉(ちかっちの、譲れない部分って)ダッ…

千歌「……いや、記憶喪失だし自分らしさってあんまりわからな……っ」

タッ…ガバッ!


鞠莉「――……ううん。あなたは……ちかっちは、ちかっちらしいわ」ギュウッ…


千歌「……鞠莉、さん……」

鞠莉「……記憶を、失う前と……本当に、変わって……ぐすっ、な……うぅ……」ポロポロ

千歌「そんな……泣かないでくださ……いっ……」グスッ…ゴシゴシ

鞠莉「でも、私……ぐすっ……安心、して……」

ギュウッ…


276: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:18:12.32 ID:dWPliCK4.net

「……」

鞠莉「……でも」パッ

千歌「……鞠莉さん?」

鞠莉「ぐすっ……んっ」ゴシゴシ

鞠莉「……私の譲れない部分が、バレちゃってるなら……」タッ、タッタッ…

タッ…クルッ

鞠莉「――この勝負、続けさせてもらっても……いい?」クスッ

千歌「……はい! ばっち来い、ですっ!」


277: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:18:45.90 ID:dWPliCK4.net

ザッ…

鞠莉「……」グイッ

千歌「……っ」グッ

鞠莉「……たあっ!」グルンッ、ビュンッ

千歌「はぁっ!」ブンッ!

カンッ、コロコロ…

千歌「……むぅ」

鞠莉「ファウルボール、ね♪」


278: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:19:36.57 ID:dWPliCK4.net

千歌「最初と比べれば、かなり遅い球なのに……」

鞠莉「まあね、疲労がベリーハードだから当然よ♪」

鞠莉(……そうだった。あの時……ちかっちと勝負した時)

鞠莉(私は……ちかっちを、ツーストライクまで追い込んでた)

鞠莉(負けたのが悔しくて、それを……忘れてたけど)

「……」ザッ…

千歌「っ」グッ

鞠莉「……せいっ!」グルン、ビュウッ

千歌「ふっ!」ブンッ、カンッ

千歌「……っとっと、うわぁっ!?」クルッ、ドスッ

…コロコロ…

鞠莉「言ったでしょ? きりきり舞いにさせてあげるって♪」

千歌「く、くぅっ……ば、バットには当たってますよっ!」

鞠莉「ストライクなのは同じじゃない♪」


279: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:21:37.28 ID:dWPliCK4.net

鞠莉(今までの、私の球は……7割くらい、内角に投げ込んでたはず)

鞠莉(今気づいたことだけど……思い返すと、あの時もそうだった。私の癖、ね)

千歌「うぅ……ちょっと汚れちゃった」スタッ、パッパッ

鞠莉「転かしちゃったのは悪かったけど、このまま勝たせてもらうわよ?♪」ニヤッ

千歌「ふーっ……勝負はまだ、終わってないですよ」

鞠莉(今までの、ヒット性の当たりは……ほとんどがレフト、引っ張り方向)

鞠莉(センターにもそこそこ飛んでいたけど、ライト方向は……1本だけ)

鞠莉(その上……そのヒットを除いた外角のストライクボールは、全部ファールに逃れられてる)

鞠莉(ちかっちが得意なのは引っ張れる内角で、逆に外角は苦手。冷静になれば、わかることなのに……)

鞠莉「……ふうっ……」

鞠莉(今まで、ちかっちの得意なコースに投げ込んでたなんて……ね)


280: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:22:04.49 ID:dWPliCK4.net

千歌「……でも」

鞠莉「ん~?」

千歌「私は今まで、空振りも見逃しもありません」ザッ、ザッ

千歌「ゴロやフライを打たせるか……空振り、見逃しをとらないと、三振にはなりませんよ」

鞠莉「へぇ~、結構ギリギリでバットに当ててたのに? 威勢がいいのね♪」

千歌「ふんっ! 打ちとってから言って下さいっ」

鞠莉(けど……ちかっちの言う通り。結局、ここでファウルに逃れ続けられたら……)

鞠莉(今は2球とも外角に投げ込めたけど、それを続けられるわけがない。いつかは、内角に……)

鞠莉(……でも……)

「……」ザッ…


281: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:22:30.10 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「……これで」グイッ

千歌「っ!」グッ

鞠莉「終わり……よっ!」グルンッ!

ポーン…

千歌「……へ?」

ヒュー…トン、ポテッ…
コロコロ…ピタッ

千歌「え、あれ? 山成りの、超スロー……ボール……」

千歌「……って、こんなの打てるわけないですよ! そもそも、ストライクゾーンに……」

鞠莉「ワッツ? マリーは、確かに言ったはずよ?」

鞠莉「――……『四角い枠に入ったらストライク』って♪」

千歌「え……あっ」

鞠莉「今の球、枠のど真ん中だったけど♪」

千歌「そ……」

「そんなぁ~~!」

ソンナァー
ソンナー


282: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:23:05.35 ID:dWPliCK4.net

善子「……ま、今日はこんなもんね」パタン

花丸「そうだね、おつかれさま」パタン

花丸「本はオラが片づけておくから、善子ちゃんは先に外で……」

善子「何言ってんのよ。そのくらい一緒にやるわ……ヨハネよっ!」

花丸「図書室内ではお静かに」シー

善子「誰もいないのに……まあいいけど。それじゃ、さっさと片づけちゃいましょ」

ゴソゴソ…

花丸「この本はここで……」

善子「えっと、この棚……じゃない。次の棚……でもない……ここね」ガサッ

善子「……さ、帰りましょうか」

花丸「うん」

タッ、タッ…


283: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:23:38.41 ID:dWPliCK4.net

「……」トコトコ

花丸「図書室、いいところだと思わない?」

善子「どうかしら、ね」

「……」

善子「結局、今日は二人っきりね」

花丸「うん。3人でやるつもりだったけど……」

花丸「ルビィちゃんが、今日はダイヤさんと朝から特訓するって言ってたから」

善子「こ、この暑さなのに……でも、あの二人なら大丈夫じゃない?」

花丸「ふふっ、そうだね」

花丸「みんなで集まる練習が無くても、鈍らないように。そして、より良く動けるように……」

善子「……私たちも、負けてられないわねっ」


284: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:24:04.67 ID:dWPliCK4.net

善子「……ってことで、今から練習する?」

花丸「ええっ!? む、無理だよ。疲れてるし、場所もどこで……」

善子「冗談よ。私だって、午前中から図書室にいるから……本を読むだけでも、暑くて疲れちゃった」

花丸「それにマル、図書室に来る前にジョギングもしたし……」

善子「あっ、そういえば最近やってるって聞いたわね。ずら丸はスタミナないし、いいんじゃない?」

花丸「むっ。そういう善子ちゃんは、トレーニングしてるの?」ジトー

善子「うっ……い、家で……た、体幹と筋トレを、少々……」

花丸「善子ちゃんだってスタミナ少ないと思うずら」

善子「う、うるさいっ! 明日……いや、明後日……えっと、明々後日から軽く走るようにするわよ!」


285: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:24:30.59 ID:dWPliCK4.net

「……」ピタッ…

「明々後日、ね」「明々後日……かぁ」

「……」…タッ

善子「8月の、31日……浦女の、学校の夏休みが……終わる日、ね」トコトコ

花丸「梨子ちゃんがピアノのコンクールに行って、Aqoursが地方予選に出場して……」トコトコ

花丸「……負けちゃって。すぐ後に、千歌ちゃんが……」

善子「あっ」ピタッ

花丸「えっ?」

善子「夏季課題、9割くらいやってないっ!?」

花丸「……派手にやらかしたずらね」

善子「……ずら丸、て」

花丸「無理ずら」

善子「フッ、聞けないというのね。ならば堕天使ヨハネの元に、重ねて命じましょう! 課題をて」

花丸「無理ずら」

善子「……」


286: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:24:56.31 ID:dWPliCK4.net

花丸「それに、マルも課題はまだ終わってないし……」

善子「そっか。アンタはルビィと一緒に、今日までにも何度か図書室に行ってたわね」

善子「――……千歌のために、か」

花丸「だから無理ずら」

善子「3回も言わないでいいっ!」

善子「はあ……もういい。私にはリリー……じゃない、梨子がいるし」

花丸「梨子ちゃん? 課題を手伝ってもらうの?」

善子「まあね」

花丸「へぇ~、何があったのやら……」

善子「そうね……前に、曜と千歌と私で集まってゲームしたって話は覚えてる?」

花丸「うん」


287: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:25:22.48 ID:dWPliCK4.net

善子「そしたら、昨日梨子が……LINEで『次は私も参加したいな♪』って言ってたから」

花丸(無駄に梨子ちゃんの声真似した上に、結構似てる……)

善子「ちょっと意外だったけど、『大歓迎よ』って返信した後……」

善子「通話しながら、ネットゲームでボコボコにしたわ」

花丸「血も涙もないずら」

善子「堕天使だもの」

花丸「そう」

善子「それで『次の勝負で勝った方が、適度に軽い要求をできる』って話になって」

花丸(適度に軽い要求って曖昧過ぎるずら)

花丸「それで、善子ちゃんが勝ったってこと?」

善子「そうよ! だから残ってる課題のうち……」

花丸「適度に軽い要求となると……3割辺り?」

善子「……い、いや、せめて4割……できれば5割くらい」

花丸「え~っ? 3割くらいだと思うけどなぁ、結構量多いし……」


288: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:25:48.00 ID:dWPliCK4.net

善子「大丈夫よ、いざとなったら壁ドンからの顎クイで」

花丸「壁……杭……?」

善子「……なんでもない」

花丸「じゃあ、りりー?って言うのは?」

善子「昨日やってたゲームで、梨子のキャラクター名がそれだったから。つい、ね」

花丸「そうなんだ」

「……」トコトコ

善子「……そうだ」

花丸「どうしたの?」

善子「ねえ、梨子ってさ。ゲーム、上手いと思う?」

花丸「えっ、何その質問……」

善子「いいから、さっさと答えなさい」


289: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:26:15.30 ID:dWPliCK4.net

花丸「梨子ちゃんには悪いけど……かなり、下手?」

善子「か、かなりって……まあ、正解なんだけど。かなり下手ね」

花丸「善子ちゃんが上手いにしても、梨子ちゃんはあんまりやらなそうだし……」

花丸「さっき、ボコボコにしたとも言ってたし」

善子「ええ。ただ……」

花丸「ただ?」

善子「昨日は、色々なゲームを梨子に勧めたんだけど……『音ゲー』だけはかなり上手かったのよ」

花丸「おと、げー?」

善子「リズムゲーム、音楽に合わせてボタンなりなんなりを押す奴ね」

花丸「ああ、アレ……」


290: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:26:41.01 ID:dWPliCK4.net

善子「最初は余裕で勝ってたのに、すぐ互角くらいになっちゃってさ」

善子「『他のゲームはダメダメなのに、なんでこれだけ?』って考えて、すぐ気づいた」

善子「……梨子は」

花丸「ピアノをやってたから?」

善子「そう。多分だけど、ね」

善子「……私だって、Aqoursに入ってからリズム感覚はだいぶ鍛えてるはずなのに。あの調子じゃ……」

花丸「あの調子じゃ?」

善子「……今日の夜には私より上手くなってて、逆に勝負吹っ掛けられるかも……」

花丸「自業自得ずら」

善子「うっ……そうだけど」


291: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:27:15.77 ID:dWPliCK4.net

花丸「……そうだ」

善子「何?」

花丸「果南ちゃんが、8月中に学校の図書室で借りた本は何冊でしょう?」

善子「0ね」

花丸「ぶっぶーずら」

善子「じゃあ1」

花丸「正解っ」

善子「1冊、ねぇ。偏見かもしれないけど、果南って本とか全く読まないと思ってたわ」

善子「特に、アンタが真っ先に勧めそうな日本文学なんて……私には難しいわね。果南にだって、合わなそうだけど」

花丸「うっ……た、確かに、10分くらいで返却しにきたけど……」

善子(10分って……)


292: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:28:06.12 ID:dWPliCK4.net

花丸「でも、ね」

善子「ん?」

花丸「『次はもう少し読みやすい本を借りるよ』って言ってくれた」ニコッ

善子「……そう、よかったじゃない」クスッ

「……」トコトコ

花丸「……」タッ…ピタッ

善子「……ずら丸?」

花丸「……心の、目で」


花丸「――……『心の目で見なければ、ものごとはよく見ることができない』」


善子「……はな……ま、る……」

花丸「『肝心なことは、いつも目には見えないんだ――』」

花丸「前に、梨子ちゃんと二人で図書室にいた時……好きな言葉だって教えてくれたずら」クスッ


293: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:28:36.37 ID:dWPliCK4.net

善子「……ふふっ、梨子もいいこと言うじゃない。さすが私のリトルデー」

花丸「そういうのいいずら」

善子「うるさいっ!」

善子「……でも、梨子のその言葉通りね」

花丸「……うん」

花丸「果南ちゃんが、また本を借りるって言ってくれたように……」

花丸「――……その人に抱くイメージとは違っても、マルたちが好きなものを理解しようとしてくれる……」

善子「……梨子も同じ、ね。大切なのは……目には見えないその気持ち、ってことでしょ?」

花丸「そういうこと」ニコッ


294: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:29:05.76 ID:dWPliCK4.net

善子「でも、それなら私たちも歩み寄らないとねっ」

善子「まず……ずら丸なら、果南と一緒にランニングかしら?」

花丸「10分くらいならいけると思う!」

善子(10分って……)

花丸「そういう善子ちゃんは、梨子ちゃんに対してどう歩み寄るの?」

善子「壁ドンと顎クイで……」

花丸「丼……食い……?」

善子「なんでもないわ……」

「……」トコトコ


295: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:29:31.19 ID:dWPliCK4.net

善子「……」ピタッ

花丸「……どうしたの?」タッ…

善子「……ううん。図書室にいる時は、窓から赤い夕焼けが見えたのに……もう、少し暗くなってるんだなって」

善子「それと、明々後日が夏休みの最後だってことも……また、思い出しちゃった」

花丸「……」

善子「……私たちが『Aqours』でいられる時間も、夏休みと同じで」


善子「――……いつまでも続く、わけじゃない……」


花丸「……っ」

花丸「……うん。マルも、わかってるよ」

善子「まっ、だから……歩み寄ることも含めて、後悔しないようにしないとね」

花丸「……ふふっ、そうだね」

善子「さっ、いきましょうか」

タッ…タッ、タッ…


296: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:30:30.57 ID:dWPliCK4.net

ウィーン…ピシャッ

鞠莉「ふ~っ……いい汗かいた♪ ちかっちは大丈夫?」

千歌「大丈夫ですよ。むしろ、鞠莉さんの方が投げ込んでましたし」

千歌「それと、次は絶対勝ちますからね!」

鞠莉(最初は私がボロ負けしてたのにこの調子……かわいいからいっか♪)

鞠莉「じゃあ、受付の方に話してくるわね」

千歌「はいっ」

タッ、タッ…

鞠莉(……踏み込めない、部分……)

鞠莉「小原鞠莉です、高海さんを……」

鞠莉(湿っぽい話って言ったのは、私の経験……果南やダイヤと、すれ違ったことだけど)

鞠莉「……はい、ありがとうございました」

鞠莉(それだけじゃない。曜の本音を聞き出した、あの時も……)

「……」タッ、タッ…

鞠莉「オッケー♪ 今日は派手にやったし、ゆっくり休まないとダメよ?」

千歌「はい……今日は、ありがとうございました。また、勝負してくださいね!」

鞠莉「もちろんっ」


297: 名無しで叶える物語(玉音放送) 2018/12/31(月) 14:31:07.90 ID:dWPliCK4.net

鞠莉「チャオ♪」

千歌「さようならっ」

ウイーン…ピシャッ

鞠莉(善子も、ルビィも……日付は違えど、私に同じようなメッセージを送ってきた。それが……)

鞠莉「……あっ」

鞠莉「夏の課題に全く手つけてない!?」

鞠莉(まぁ、理事長権限で♪)

鞠莉(……って、出来るわけないわね)

「……」タッ…

鞠莉「そっか。終わってない課題に焦る、ってことは――夏休みは、もう……」


鞠莉「――大事なことに気付くのは、意外とギリギリなタイミング……ね」フフッ


鞠莉「……とりあえず、手をつけられるところ……英語から片づけようかしら♪」

タッ、タッ…






曜「千歌ちゃんが記憶喪失になった……」【2/2】



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