この連休に、平野官房長官が沖縄を訪れました。平野サンは、普天間基地問題に年末から本腰を入れるようになったそうで、4日には、「首相は黙っていてください。この問題は私に任せてほしい」と鳩山首相に言ったそうです(NIKKEI NET)。鳩山さんも負けてはいません。「県民の思いを官房長官に十分理解してもらうことがスタートラインだ」と、平野サンを送り出しました。鳩山さんの言うとおりです。沖縄の人びとの思いを知れば、選択の幅はおのずと狭まってくるでしょう。

ところがどうして。沖縄で「県内移設反対」「騒音どうにかしろ」「危険や米兵犯罪どうにかしろ」の大合唱に迎えられても、平野サンはめげません。仲井真知事に、「決断をお願いするかも」と、どきっとするような発言をしました。これをとらえて
日経は、まるで平野サンが引導を渡しに行ったかのような書きっぷりです。讀賣は、どうせ辺野古なのさ、という落ちをつけています。

この平野サンの発言に、仲井真知事は、「『正直言って「あれっ?」っていう感じだ。(政府は)県外移設を検討していると思っていた』と首をひねった」そうです(1月11日付東京新聞)。そして、平野サンにたいして口を突いて出たのが、「恐ろしいですね」でした。わかります、その気持ち。人の痛みがわからない人は恐ろしい。

平野サンは、事前に外交評論家・岡本行夫サンのレクチャーを受けたそうです。岡本サンが、寺島実郎さんに代わるかたちで鳩山さんにすり寄っているらしいことが気になっていましたが、さっそく心配が現実になりました。岡本サンのレクチャーが、平野サンの耳栓の役割を果たしたのかもしれない、と思うからです。

上司である鳩山さんには「黙っていてください」と言い、沖縄の人びとのことばはただ聞いたふりをして、平野という人はいったい誰の意を体して動いているのでしょうか。鳩山さんと、沖縄をはじめとする主権者ではないことは、この際、はっきりしました。この人に米軍基地問題なんて任せられないことも。

岡本サンは、アメリカの利益になることしかしないことで、外務省の主流を歩いていた元外交官ですが、そのアメリカの、泣く子は黙らないけれど外務省や自民党などの対米追従派は黙る「アーミテージ・リポート」、日米「同盟」の進化を迫るその第二弾の共同執筆者、ジョーゼフ・ナイ・ハーバード大名誉教授が、
1月6日付のニューヨークタイムズ紙にごく短い一文を寄せています(「個別の問題より同盟が大事」)。記事からは、アメリカでは、「日本、なんか問題あるみたいだけど、なんなの?」という程度の認識しかなく、ナイさんに解説を頼んだ、という印象が伝わってきます。そこでナイさんが言っているのは、だいたいこんなことです。

東京では、日米関係の危機なんて言ってるけど、米軍基地の移転が、過去のこんがらがったいきさつもあって頓挫しているだけだ。

10年以上前、わたしも関わった日本政府との交渉で、とくに危険な普天間基地を人口の少ない地域とグワムに移すことになった。ここへ来て日本には、沖縄の米軍基地の県外・国外移設を公約に掲げた鳩山政権が誕生した。ペンタゴンは、10年以上も死に体になっている従来案に戻れと、鳩山政権をせっついているが、狙いはそこにもりこまれた海兵隊の維持と引っ越しの費用だ


注目はここからです。

日本の新政権にはガツンと言ってやればいいんだ、と考える人びとがワシントンにいる。だが、それはおバカなやり方だ。鳩山政権は、アメリカからの圧力と、アメリカに譲歩したら連立を離脱すると脅す左翼政党の板挟みになっている。ここはしんぼう強く、りこうに立ち回るべきだ。

普天間なんて、何の価値もないし(it is worth noting)、新政権はほかにも、対等の同盟関係とか、中国とのいい関係とか、東アジア共同体とか、わけのわからないことを言い出している。今年は日米安保50年だが、基地問題でごたごたするとムードが悪くなるし、在日米軍基地をもっと減らさなければならなくなるかもしれない。とにかく、台頭する中国と核をちらつかせる北朝鮮が存在するこの地域の安全保障のためには、日本という気前のいいホスト国の援助(generous host nation support)で米軍が居続けるのがいちばんだ。

日本は、自分で結論を出せない時、暗黙のうちに『外圧(gaiatsu)』をかけてほしがるが、今回はそうではない。アメリカが新政権を見くびって日本人を怒らせたら、普天間を獲得してもその見返りはあまりにも大きい


ナイさんは、あくまでもアメリカの国益に立って、「角を矯(た)めて牛を殺すな」と言っているわけです。普天間なんて、無価値なんだそうです。日本は太っ腹なんだそうです。従来案にこだわるのは、お金のためなんだそうです。でも、新政権に外圧は通じないこと、日本のわたしたちを怒らせたらたいへんだということも含めて、これらの元国防次官補の認識は、あながち的外れではないのではないでしょうか。

ナイさんが携わった交渉のカウンターパートナーが、当時外務省北米局にいた岡本サンでした。岡本サンは今回、沖縄の米軍基地交渉に長年関わった、誰よりもこの問題にくわしい専門家として、平野サンにレクチャーしたそうです。ナイさんが一基地の存続にこだわるなと言っているのに、岡本サンはその県内移設にこだわっているらしい。この、当時の交渉の実務担当者同士の微妙な食い違いは、注目に値します。つまり、普天間基地を県内でたらい回しし、沖縄に集中させるかたちでなんとしても米軍を置いておきたいのは、アメリカではなくむしろ日本の一部の人びとに他ならない、ということだからです。

仲井真さん、こんど平野サンに会ったら、「怖いですね」ではなく、「怖いですよ」と言ってください。「沖縄を怒らせたら怖いですよ」と。岡田外相は、きょうハワイでクリントン長官と会うことになっていますが、岡田さんもクリントンさんに言ってください、「新政権、なめたらかんがぁ」って。

(「かんがぁ」は中部地方のことば、「いかん」の「い」が発音されないのでこうなります。「だめよ」という意味です)
このエントリーをはてなブックマークに追加 Clip to Evernote