先月、米韓合同演習中に沈没した韓国の軍艦「天安」について、おとといの20日、韓国の「軍民合同調査団」は北朝鮮のしわざと断定し、回収したスクリューやハングル文字の書かれた機雷の残骸などを公開しました(記事はこちら)。アメリカも強い調子で北朝鮮を非難し、鳩山首相はその日の夜、「もし韓国が国連安全保障理事会に決議を求めるということであれば、日本として先頭を切って走るべきだ」と息巻いて見せました。けれど、北朝鮮の船を対象とする「臨検特措法」が衆議院で可決された、これだけでも私はとんでもない、臨検とは戦争状態の時にすることだ、と思うのですが、それがやはり同じ20日だったとなると、これは国会日程のつごうであって偶然でしょうが、やはり穏やかではありません。

私は5月10日に、「天安」沈没は米原潜との同士討ちの可能性があるという、田中宇さんの説をご紹介しました(「
島陰に沈む米原潜」)。そのときは、正直言って半信半疑でしたし、今もそうです。アメリカの原子力潜水艦が合同演習中に1隻消えたなら、隠しおおせるものではないのではないか、と思っていたら、13日現在、合同演習から母港のパールハーバーに帰還していない米原潜がある、その艦名は「コロンビア」だ、と「日刊ゲンダイ」が伝えていました(デヴィ夫人のブログで読めます)。これはどう考えたらいいのでしょうか。

韓国内には、北関与説への疑惑が出ているそうです。いわく、調査団の結論では、小型潜水艦が「重さは1.7トンで、爆薬装薬が250キログラムに達する大型魚雷」を発射したとあるが、そんな大きな魚雷は小型潜水艦には搭載できない、とか、最新式のソナーを備えた韓国の軍艦がいるところに、ばかでかい音を出す北朝鮮の旧式の潜水艦が潜入し、水深の浅い海域で「天安」の真下に魚雷を撃ち込むなどまさに神業だ、とか。

北朝鮮には動機がない、という異論もあり、日本ではテレビに出ている軍事や北朝鮮の専門家が、北朝鮮はなにをするかわからない、あのくには異質で理解不能なのだ、と断定していました。誰かを、あるいはなんらかの集団を異質で理解不能と決めつけることは、戦争への「心の準備」そのものだというのに。調査団の発表後すぐに北朝鮮が、無関係との声明を出しても、あのくにはいつもそう言う、で終わりです。そして、北朝鮮が過去に関与した事件を振り返ってみせる……おなじみのパターンです。

「日刊ゲンダイ」にコメントしている河信基さんは、韓国のメディアを読み解くブログを主催しています。それによると、6月に統一地方選挙を控えた韓国では、この事件が政争の台風の目になっているそうです。接触にしろ同士討ちにしろ、米原潜による事故だったとすると、反米の気運が高まって、親米の李明博大統領に不利に働きます。ということは、北朝鮮のしわざなら大統領有利です。河さんのこの事故(事件)関係のブログ一覧は
こちらです。米兵の遺体を収容するスクープ映像が抹殺されたこと、「天安」と司令部の交信記録に空白部分があること、携帯で家族や友人と話をしていた乗組員の通話内容が非公開であること、検出された火薬やアルミ片は欧米のものだということ、そもそも「天安」が演習海域から200キロも離れた、いつも小競り合いの起きている北朝鮮に近い海域にいたということ、謎は尽きません。一読、ご自身で判断してみてください。

中国が冷静に構える(あるいは当惑のあまり静観を決めこんでいる)いっぽうで、韓国、アメリカ、日本は次々と手を打って、北関与を既成事実としようとしているように見えます。これはあぶないのではないでしょうか。こういう時は、「先頭切って」などと言うものではありません。また拉致問題解決が遠のいたと、胸もつぶれる思いのご家族もおられるのではないでしょうか。

日米安保利権勢力はこれ幸いと「北の脅威」を唱え、だから海兵隊は沖縄にいなければいけないんだ、という結論にもっていっています。強引で情緒的で、軍事的合理性などおかまいなしです。

とくに、中韓だけを訪問する予定だったのに、合同調査団の発表と合わせるかのように、急遽、日本にもほんの3時間あまり立ち寄ることにしたクリントン国務長官のふるまい、そして共同記者会見での「日米は共通の危機に直面している」として在日米軍基地の重要性を強調した発言は、日本に「辺野古現行案」を飲ませるうえでこれを好機ととらえた、悪く言えばすかさずつけ込んだことの、あからさますぎる証左でしょう。

そんななか、おとといの「報道ステーション」は、古館キャスターが沖縄の米軍基地を空からリポートし、これだけの基地が必要なのかと問いかけるという、目先の出来事にふりまわされない、冷静で秀抜な報道をしました。これは評価すべきだと思います。

けれど、マスメディア全体としては、いやな感じになってきました。北関与説の疑問点などを検討している節は見えません。生活者に軍事のことはわかりません。だから説明しなくていいのではありません。ましてや、ミスリードなどしたら、それこそ繰り返された「戦争への道」です。正確で的確な情報とその分析によってしろうとの疑問に答えること、それがメディアの役割であり、社会の合意形成には欠かせません。

ところで最近、ベテランのジャーナリストたちが北朝鮮を訪問しました。何人かの方がたがネットに記事を書いていますが(たとえば田端光永さん岩垂弘さん)、デノミの失敗と言われる割には、北朝鮮の経済状態は確実によくなっているそうです。そんな北朝鮮が今ほんとうにこんな軍事的冒険をする必要があるのか、軍民合同と言いながら軍が主導し、米原潜との事故説をとなえた委員が解任された調査団の結論をうのみにするのではなく、こちらも判断の材料にしてください。

こうなったら、国連は「さらなる北朝鮮制裁」など決議せずに、まずは中国のような北関与説に慎重な国も入れた国際調査団を組織するべきではないでしょうか。

(お読みくださってありがとうございます。米原潜「コロンビア」が未帰還というのは誤報でした。訂正を24日に「沖縄の黄色いメディア&米原潜『コロンビア』はうるま市で抗議を受けていた」に書きました。併せてお読みいただければ幸いです。いまだこの記事へのアクセスがあるので、念のため、書き添えました。5月26日)

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