原田和明さんは、メールマガジン「世界の環境ホットニュース[GEN]」をつうじて、これまで枯れ葉剤、水俣病、毒入りギョウザ、豚インフルエンザについて、徹底した情報収集と精緻な情報分析を続けてこられました。これらは、疾病というより、行政や法律、報道といった現代社会のさまざまなしくみのはたらきかたが絡みあった、複雑な社会問題なのだと教えられ、考えるヒントをいただいてきました。

その原田さんの、口蹄疫についての連載が始まりました。口蹄疫については、私も気になって、これまで2本の記事を書きました(『旦那様のお出ましーっ』 殺処分に思う」「口蹄疫は治るのに、『しめしがつかないから種牛も殺処分』の意味」)。原田さんの連載は、私のもやもやにストライク、です。最初に発生を見逃したとされる獣医の「不手際」も、メディアが指弾するようなことではなく、無理からぬことだったかもと、私は受けとめました。
 

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     世界の環境ホットニュース[GEN] 753号 10年05月21日
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         宮崎口蹄疫騒動を検証する(第1回)

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宮崎口蹄疫騒動を検証する               原田 和明

第1回 宮崎の家畜はなぜ殺される

宮崎県の口蹄疫騒ぎが一向におさまらない。殺処分の対象となる家畜は 5月25日までに約14万8千頭(全体の9割が豚)にのぼると伝えられています。現行の家畜伝染病予防法でもすぐに殺処分すべき県の種牛49頭について“助命”を訴えていた東国原 英夫・宮崎県 知事も、特措法成立を目前にした 5月27日夜、「当然、手順を追って やらねばならない」と述べ、殺処分にも 理解を示した(産経ニュース 2010.5.27 23:31)とのことです。ところで、宮崎の牛や豚はなぜかくも大量に殺されるのでしょうか?

私たちは連日聞かされる「強い感染力」という言葉にだまされていないでしょうか? 日経新聞(2010/5/23付)に次の記載があります。(以下引用)

口蹄疫はウイルスが感染して発症する。ウイルスのタイプから牛や豚などの偶蹄(ぐうてい)目の動物しか感染せず、人間や馬はかからない。ウイルスは口の中にある粘膜やひづめの間の皮膚などの細胞に感染して増えて細胞を壊し、水疱(すいほう)をつくる。人間でいえば口内炎のような軽い症状。そのままでも2〜3週間で症状は治まる。それでも感染した牛を殺処分するのは、病気になると食欲不振になり、家畜として満足な肉牛に育たないからだ。(引用終わり)

「人間でいえば口内炎のような軽い症状」で、感染した牛や豚ばかりでなく、同じ農家の農場で飼育されていたというだけでなく、そこから10km以内で飼育されていたというだけで、宮崎の牛や豚は感染していなくても皆殺しにされているというわけです。何かおかしくないですか?

いくら感染力が強くても、症状が軽いのであれば、口蹄疫に感染しても何も問題はないのではないか?と思えてなりません。「病気になると食欲不振になり、家畜として満足な肉牛に育たないからだ」というのは、どの期間をさしているのか不明ですが、病気の期間なら食欲不振なのはあたりまえです。治癒すれば食欲も回復するでしょう。それとも、一度発症すれば、障害食欲不振になるとでもいうのでしょうか? NHK 5月29日放送の「追跡!A to Z」(口てい疫“感染拡大”の衝撃)では、口蹄疫と判定された牛が殺処分の順番待ちの間に回復して?モリモリ飼料を食べている映像がありました。

同じようなことが90年前にもあったようです。(東大名誉教授・山内一也:霊長類フォーラム第116回「口蹄疫との共生」2001年4月24日=日本獣医学会ホームページより以下引用)

1920年代に起きた発生では、殺処分対象の動物数が多くなりすぎて、順番が回ってくる前に回復する動物が出始めて、農民は殺処分に疑問を持つようになりました。殺処分するか、それとも口蹄疫と共存するかという議論が起こり、議会での投票の結果、わずかの差で殺処分が勝ったと伝えられています。これが現在まで続いているわけです。

1951〜52年の大流行では殺処分の費用が30億円に達しました。これが議会で取り上げられ、チャーチル首相がフランスのようにワクチン接種を中心に防疫を行った国の場合よりも、はるかに低い金額であると弁明したと伝えられています。

1957年、国際獣疫事務所(OIE=家畜のWHO)は口蹄疫予防のための国際条約を作り、これをきっかけとして殺処分方式が国際的に定着してきたとみなせます。(引用終わり)

山内先生の説明では、殺処分にする科学的根拠は希薄だということがわかります。すると、口蹄疫陽性と判定された牛、豚は全体のほんの一部だけですから、本当にあのような皆殺しにする必要はあるのでしょうか?「法律でそう決まっているから」という答えもありましょう。ウィキペディア「口蹄疫」には、口蹄疫が恐れられる理由が次のように説明されています。(以下引用)

この病気は高い伝播性、罹患した動物の生産性の低下、幼獣での高い致死率という特徴を持つ。感染が確認された場合、他の家畜への感染拡大を防ぐため、罹患した患畜は発見され次第殺処分される。また他地域の家畜への伝播を防ぐため、地域・国単位で家畜の移動制限がかけられることから、広い範囲で畜産物の輸出ができなくなる。これらによる経済的被害が甚大なものとなるため、畜産関係者から非常に恐れられている病気である。(引用終わり)

畜産関係者にとって、口蹄疫という病気が怖いのではなく、(科学的根拠もないのに)口蹄疫を口実にして公権力から財産である家畜を皆殺しにされるなど生活を脅かされることが怖い、つまり、凶暴なのは口蹄疫ではなく、家畜伝染病予防法ということのようです。家畜伝染病予防法では次のように規定されています。(以下引用)

(と殺の義務)
第16条 次に掲げる家畜の所有者は、家畜防疫員の指示に従い、直ちに当該家畜を殺さなければならない。ただし、農林水産省令で定める場合には、この限りでない。

 1.牛疫、牛肺疫、口蹄疫又はアフリカ豚コレラの患畜
 2.牛疫、口蹄疫又はアフリカ豚コレラの疑似患畜

前項の家畜の所有者は、同項ただし書の場合を除き、同項の指示があるまでは、当該家畜を殺してはならない。家畜防疫員は、第1項ただし書の場合を除き、家畜伝染病のまん延を防止するため緊急の必要があるときは、同項の家畜について、同項の指示に代えて、自らこれを殺すことができる。(引用終わり)

要するに、殺処分の対象は「患畜」及び「疑似患畜」のみです。なぜ、今回は大量の殺処分となったのでしょうか? 新型インフルエンザ騒動では、関西大倉高校の生徒なら診察せずに新型インフルエンザと診断してよいという厚労省の通達がありましたが(GEN717)、今回、農水省でも「検査前に口蹄疫と断定」との事例が見つかりました。さらには、「検査せずに口蹄疫と判定」との事例は多数にのぼります。「検査前に口蹄疫と断定」は13例目です。(平成22年5月1日農林水産省プレスリリースより以下引用)

宮崎県児湯(こゆ)郡川南(かわみなみ)町(10例目の農場から北約200m)養豚経営 3,882頭(繁殖371頭、育成41頭、子豚897頭、種豚28頭、交雑種繁殖候補豚1,063頭、肥育豚1,482頭)

(1)4月30日(金曜日)朝、獣医師から、宮崎県に対し飼養豚の乳房の水泡及び蹄のびらんを確認したとの届出があったことから、同日宮崎県が当該農場に立入検査を実施し、検体を(独)農研機構動物衛生研究所に持ち込みました。

(2)本日、PCR 検査の結果、1頭で陽性を確認し、口蹄疫の疑似患畜と判断しました。

(3)なお、感染拡大防止のため、発生豚舎内の豚については 動物衛生研究所へ検体を送付した段階で、疑似患畜として殺処分しました。(引用終わり)

検体を東京に送付した段階(当然、検査前)で、当該豚だけでなく、発生豚舎内の豚をすべて殺すとはなんという大胆さでしょうか? 家畜伝染病予防法では家畜防疫員が「殺すことができる」とされていますが、当該豚が検査の結果、もし「陰性」だったら補償問題になっていたでしょう。家畜防疫員は検体を送付した段階で、検査結果が「陽性」であることを知っていなければできない行為です。もちろん、家畜防疫員個人の判断とは考えにくい。農水省からの指示は当然あったでしょう。つまり、検査は形ばかりで、「陽性」とすることが農水省の中で事前に決まっていたと考えられます。

すると最初の発見も怪しくなってきます。まず、ホントに口蹄疫だったのか?という問題があります。朝日新聞(2010年5月19日 7時5分)に、最初の感染牛発見の経緯が紹介されています。(以下引用)

宮崎県で口蹄疫感染の疑われる牛が確認されるまで何があったのか。関係者の話から再現する。

宮崎県 都農(つの)町。3月下旬、ある農場で水牛が下痢になった。モッツァレラチーズを作るために飼われていた42頭のうちの1頭。往診した獣医師は、31日に県の宮崎家畜保健衛生所に届け出た。

県も 立ち入り検査したが、口蹄疫にみられる 口の中や蹄(ひづめ)の水疱(すいほう)、よだれがない。便なども検査したが、下痢の原因となる菌やウイルスが見つからず、結論が出ないまま下痢は治まった。これが最初の異変だった。

この農場から 南に 約 600メートル離れた別の農家で、次の異変が起きた。「口の中に軽い潰瘍(かいよう)のある牛がいる」。4月9日、衛生所に別の獣医師から連絡があった。2日前に往診したところ、1頭の牛が前夜から発熱し食欲がなく、口からわずかによだれがあったのだという。

県の口蹄疫防疫マニュアルでは「(口の中の)水疱は発病後 6〜8 時間以内に現れ、通常24時間以内に破裂する」と記載されている。

9日の往診で、口の中に直径3ミリほどの潰瘍は見つかった。しかし水疱ではなく、かさぶたのような状態。すでに発熱から4日がたつ。仮に口蹄疫なら、水疱や激しいよだれが見られるはずだ。獣医師から相談を受けた衛生所は農場内のすべての牛を調べたが、口蹄疫の可能性は低いと判断した。発熱は1日でおさまっていた。

口蹄疫ウイルスの潜伏期間は、牛の場合で約1週間。獣医師は12日まで毎日往診したが、異常のある牛は見つからなかった。獣医師は振り返る。「教科書通りの口蹄疫とは異なる初期症状。まったく想定しなかったわけではないが、この症状からは診断できなかった」

4月16日夕、別の2頭に同じような症状が見つかった。最初の牛の隣にいた牛で、何らかのウイルスによる感染と考えられた。この段階で最初の牛はほぼ完治していた。翌日、衛生所が改めて立ち入り検査し、感染症の鑑定を行ったが、19日までに出た結果は陰性だった。

ただ衛生所は19日、念のために検体を国の動物衛生研究所(動衛研)海外病研究施設(東京都小平市)に送った。このとき初めて、県は国と連絡を取った。20日早朝、口蹄疫の陽性反応が出た。(引用終わり)

この記事を見る限り、現場での観察は 2週間ほど毎日続けられており、その結果、水疱もなく、発熱は1日でおさまり、「最初の牛はほぼ完治」、「感染症の鑑定も陰性」ですから、「口蹄疫の可能性は非常に低い」と考えた宮崎県の獣医師、衛生所の対応、判断に問題はなかったように見えます。その判断をひっくり返したのが、国の動物衛生研究所(動衛研)での遺伝子検査だったということです。つまり、現地・宮崎での所見・鑑定と東京での遺伝子検査の結果が異なっていたというわけです。

通常このような場合、口蹄疫ウイルス以外のウイルスの誤認、あるいは検体の輸送から検査までの間での汚染、つまり検体容器や、動衛研の施設内でのウイルス付着の可能性などもないわけではありませんから、少なくとも動衛研では検体の再検査が行なわれていなければなりません。

あわせて、宮崎ではとりあえず当該家畜を隔離して経過観察するとともに、農場での感染拡大を確認するために、当該家畜に近接していた複数の家畜からの検体採取を行い、動衛研ではそれらの検査を行って、検査結果の検証が慎重に行なわれるのではないかと思われます。口蹄疫が確認された場合、マスコミから対応の遅れだの、情報隠しだのと批判されるかもしれませんが、矛盾する結果がある場合、検証は欠かせません。

しかし、農水省のプレスリリース(4月20日付)には、「本日 未明、宮崎県の農場の飼養牛について、動物衛生研究所で口蹄疫に関する PCR検査(遺伝子検査)を行ったところ、陽性が確認されました。この陽性が確認された牛については、専門家の意見を聞き、家畜伝染病予防法に基づく殺処分等の防疫措置の対象となる口蹄疫の疑似患畜と判断しました。」とあり、動衛研での再実験はおろか、宮崎での所見・鑑定結果との整合性を検証しようとした形跡はまったくみられません。どうも、最初の発見も、「PCR 検査で陽性」は最初から決まっていたシナリオとの疑いがありそうです。

「検査せずに口蹄疫と判定」は68例目など多数です。(農水省 5月11日プレスリリース「宮崎県における口蹄疫の疑い事例の68例目について」より以下引用)

「また、この農場の関連農場(この農場から北東約1.5km、肥育牛11 頭)において、この農場と同一の飼養管理者が飼養管理を行っていたことが確認されたことから、当該農場の飼養牛全頭を疑似患畜とみなし、殺処分を行います。」(引用終わり)

なんと、ここでは検査もせずに、「当該農場の飼養牛全頭を疑似患畜とみなし、殺処分」との決定がなされたことになります。この農場では 2頭の肥育牛が涎(よだれ)をたらしていたため、宮崎県が検体を採取、そのうち 1頭が(独)農研機構動物衛生研究所で陽性と判定されたというものです。つまり、もう1頭は検査の結果、患畜ではないことが証明されたにも関わらず、農水省によって「疑似患畜」とされてしまったというわけです。同じ農場で飼育されていた他の16頭や、同じ農家が経営していた別の農場の11頭は検査されないままに、農水省によって「疑似患畜」にされてしまいました。

こういう例はこれだけではありません。166例目(5月20日、西都市)でも、よだれをたらしていた飼養牛 3頭中、2頭が陽性でしたから、1頭は陰性と証明されているにも関わらず、農水省は陰性だったその1頭を含む200頭すべてを擬似患畜にしてしまいました。

この「擬似患畜」とは何でしょうか? 家畜伝染病予防法第二条(定義)に、「この法律において「患畜」とは、家畜伝染病(腐蛆病を除く。)にかかっている家畜をいい、「疑似患畜」とは、患畜である疑いがある家畜及び牛疫、牛肺疫、口蹄疫、狂犬病、鼻疽又はアフリカ豚コレラの病原体に触れたため、又は触れた疑いがあるため、患畜となるおそれがある家畜をいう。」とあります。農水省が「疑い」をもてばそれで黒と判定されてしまうということです。

このような拡大解釈も、一度 感染すれば 重症化あるいは死亡が免れない、人にも感染の可能性が高いというならわからないでもありません。しかし、牛や豚にとっても口内炎程度の軽い病気で、人に感染する可能性もないというなら、こんな大騒ぎする必要もないし、むやみやたらと「疑似患畜」を拡大解釈する必要もないでしょう。つまり、宮崎県で起きている口蹄疫騒動は、感染が拡大しているのではなく、農水省が検査結果を捏造したり、「疑似患畜」を水増しして感染拡大を演出している「疑い」があります。どうも、豚インフルエンザ騒動に続く、官製パニック第2弾であるかもしれません。

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