おととい(こちら)の補足です。犯罪一般も少年犯罪も、国際的に低いうえに減っているのに、なぜ私たちは治安が悪いと思い込んでいるのか、今、著作にテレビに大忙しの池上彰さんのご意見を、『日本がもし100人の村だったら』(こちら)のあとがき対談から引用します。

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池上彰「今の日本の姿で、ひとつ特徴的なのは犯罪が少ない、治安がいいということです」

池田香代子「ところが『体感治安』は悪くなって。『最近、なんだか物騒ね』なんて会話が出ます。こうした漠然とした不安が私たちにあるのはなぜなのだろうと思うのです」

池上「メディアの責任が大きいと思います。テレビでは、昔に比べてニュースの時間が増えています。するとニュースをたくさん集めなければいけない。しかしニュース取材には、人手も時間もお金も、とってもかかるんです」

池田「ドラマよりかかると聞きました」

池上「そして記者は、それこそ這いずり回ってネタを捜さなければなりません。ところが、殺人事件なら、ネタは警察が発表してくれます。カメラマンを派遣すれば現場の映像がとれる、近所にマイクを向ければ『怖いですね』と言ってくれる。昔ならローカルニュースだった殺人事件が、今では全国ニュースです」

池田「しかもちょっとショッキングだと連日、ワイドショーで繰り返す。そこで水増しされて、殺人が多いように錯覚してしまいます」

池上「しかし実は例えば、あのころはよかったと言われる映画『ALWAYS 三丁目の夕日』のころ、昭和33年前後、殺人事件は、人口比で言えば現在の倍もあって、今のほうが犯罪が少ないんです……戦前の少年犯罪を調べた本が、2007年に出版されています。統計がないので、当時の新聞から少年犯罪をひたすら収集してまとめているのですが、たいへんな件数です。しかも小学生が同級生を殺したとか、親殺しとか、すごい事件があふれている。なぜあの時代、教育勅語と修身が必要だったかと考えるべきだということで、目からウロコが落ちる思いがしました」

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ほんとに目からウロコです。池上さんは、NHK地方局の社会部記者として出発しました。当時、頻発する少年犯罪に、池上さんたちは、「また子どもの事件? 名前も顔も出せないんだろ、ボツだ」と言っていたそうです。それが今や、必ずローカルニュースどころか、全国ニュースになります。神戸の児童連続殺傷事件以降のことだそうです。こうしたことが、犯罪は増えている、と私たちが思い込む原因なのだろうと思います。いつぞや、NHKの定時ニュースまでがトップで殺人事件を報じていて、あきれるやら嘆かわしいやらでした。

私は対談では、「漠然とした不安が私たちにあるのはなぜなのだろう」と発言していますが、私たちの不安にはれっきとした理由があります。将来の暮らしはどうなるのだろう、社会保障や健康保険は持続可能な制度なのだろうか、子どもが社会に出てもやっていけるだろうか……それを、犯罪の発生と短絡させて、本来の不安の理由から私たちの目を逸らせようとする力がはたらいているのではないか、そして、犯罪防止の名目で私たちの自由をせばめるような規制取り締まりを強めようとしているのではないか、そう勘ぐりたくなるような、犯罪報道が幅をきかせる昨今のニュースです。

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